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第四章 (王城 過去編)

花村 柊   35−2

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「ブルーノさん?」

「ああ、失礼いたしました。あまりにもシュウさまがお可愛らしくて……」

「んっ? どういうこと?」

「シュウさまにお会いしてがっかりなどされるはずがございません。むしろ、お喜びになられると思いますよ」

喜ぶ? 
ぼくに会ったら喜んでくれるの?

「そうかな? なら、いいんだけど」

まぁ、ジュリアン王太子はお父さんに懐いてたっていってたし、ぼくも顔が似てるから嫌われるってことはないよね。

「ただ、シュウさま。ジュリアンさまとお二人だけにはならないようお気をつけくださいね」

「二人だけって……ああ、大丈夫。ぼくはジュリアン王太子をいじめたりしないよ?」

「いじめ……いえいえ、そうではなく――『シュウ、帰ったぞ』」

ブルーノさんがそう話をしている最中、部屋の扉がカチャリと開きフレッドが入ってきた。

「フレッド、お帰りなさい。今日もお疲れさま」

「ああ。ブルーノと話していたのか?」

「うん。ジュリアン王太子のことを教えてもらってたんだよ」

笑顔でそういうと、一瞬フレッドの目が鋭くなった気がした。
『んっ?』と思ったけれど、すぐににこやかな笑顔になったからぼくの見間違えなのかと思った。

「そうか。ブルーノ、シュウの相手をしていてくれてありがとう」

「いえ、こちらこそ楽しい時間を過ごさせていただきました」

ブルーノさんは頭を下げささっと部屋から出ていった。

フレッドはブルーノさんが出ていくとすぐに、ぼくの傍に駆け寄ってきて急にぼくを抱きかかえた。

「ちょ――っ、フレッド、ちょっとどうしたの?」

フレッドはぼくの言葉には答えず、そのままソファーに腰を下ろした。

「ねぇ、どうしたの?」

ぼくを膝に乗せぎゅっと抱きしめたまま、ぼくをじっと見つめて何も話そうとしないのが気になって声をかけてみると、
『はぁーーっ』と大きなため息を吐き、『シュウ……』と寂しげな声を上げた。

「どうしたの、フレッド。何かあった?」

「……ジュリアン王太子の話を聞いたのだろう?」

「ああ、うん。聞いたよ。アンドリューさまによく似ていて、お父さんにすごく懐いてくれてたって」

「それだけか?」

「それだけって? うん、それだけだよ」

他に何か聞いたっけ?

「……ジュリアン王太子が今回オランディアに帰国する理由を聞かなかったか?」

「ああ、なんだかフレッドとぼくたちに会いたいって言ってたって。お父さんたちと仲良くしてたのがジュリアン王太子の耳に入ってたとかなんとか言ってたような?」

そういうと、フレッドは抱きしめてくれていた腕をぎゅっと強めてぼくの首筋に顔を埋めてきた。

「んっ……っぁ」

スンスンと匂いを嗅ぎながら舌を這わされて身体がゾクゾクと震える。
チクッと痛みがあって、その痛みであの紅い花をつけられたのがわかった。

フレッドに紅い花をつけられるのは珍しいことではないけれど、Hをしている時でもないのに、紅い花だけつけられるのはあまりなかったような気がする。

どうしたんだろう……何か不安なことでもあるんだろうか?

こんな時はフレッドの気が済むまでさせておいた方がいいかも知れない。
ぼくはフレッドに紅い花をつけられるのは愛されてるって証が目に見えてわかるから好きだし。

そうだ、ぼくもフレッドにつけようかな。

「フレッド……ねぇ、こっち向いて」

そういうと、フレッドは首筋に薄めていた顔を上げてぼくの方を見た。

「シュウ……」

止めさせられると思ったんだろうか、フレッドの瞳が少し悲しげに見える。
ぼくはそんなフレッドに笑顔を見せながら手を伸ばしプツッとシャツのボタンを外した。
そして、ぼくの突然の行動に驚いているフレッドの首に腕を回し抱きついた。

フレッドがしていたように顔を埋めると、一日仕事をしていたフレッドから濃い匂いが漂ってくる。
ああ……フレッドがぼくのを嗅ぎたくなる気持ちがわかるかも。
ずっと嗅いでいたくなるな。

一番濃い匂いのする耳の後ろにぺろっと舌を這わせると、甘い味が口中に広がる。
唯一って全ての体液が甘く感じるんだよね。
でも濃厚なあの蜜・・・とは違う爽やかな甘さ。
匂いだけじゃなく、ずっと味わっていたくなるな。

「シュウ?」

フレッドの声をそのまま聞き流して、フレッドの首筋にチュッと吸い付いた。
初めてつけた時は吸い付くことを知らなくて全然つけられなかったけれど、ぼくにもようやく紅い花をつけることができた。

「ついたぁ」

フレッドの首筋についた紅い花に喜びを感じながら、『ねっ』とフレッドに微笑みかけるとフレッドは満面の笑みでぼくを抱きしめてきた。


「シュウ……ああ、なんて可愛いことをしてくれるんだ。私はもう嬉しすぎておかしくなってしまうぞ」

「ふふっ。ぼくも嬉しいよ。ねっ、もっといっぱいつけていい?」

「ああ、もうシュウは……」

フレッドはそのままぼくを寝室に連れて行って、ぼくたちはそのまま数時間愛を確かめ合った。
何度も抱き合い、甘い蜜を交換しあって、ぼくはフレッドと幸せで満ち足りた時間を過ごした。

大きなベッドで二人で裸のまま横たわったまま、甘い時間が流れる。
ふふっ。こんな時間もすごく楽しい。
今なら聞いても大丈夫かな?

ぼくはフレッドにつけた紅い花を撫でながら、

「ねぇ、フレッド。ぼく、何か不安にさせちゃった?」

と尋ねると、フレッドはぼくを抱きしめたままバッと抱き上がった。

「違う……私が勝手に心配になっただけなんだ」

「んっ? 何が心配だったの?」

確かあの時はジュリアン王太子の話をしてたんだよね。

「ジュリ――んんっ」

尋ねようとした瞬間、フレッドの唇に急に塞がれて口内をクチュクチュと蹂躙されていく。

「……んっ、んんっ……」

息苦しいくらいのキスを受けながら、ぼくが必死にフレッドに縋り付いていると長い長いキスがようやく離れていった。

「ふぅっ……んっ、ふ、れっど……」

「悪い、つい……」

フレッドの激しいキスに力が抜けて、フレッドの身体に身を委ねているとフレッドがさっとローブを纏わせてくれた。
そして、宝物を扱うように優しくぼくを抱きかかえ寝室を出た。

ぼくの身体に一切負担をかけないようにソファーにゆっくりと腰をおろし、ぼくをぎゅっと腕の中に閉じ込めて

「シュウ、私は二人の寝室で他の男の話をしたくなかったんだ」

と少し拗ねたような声でそう語った。

そうか。そうなんだ。
確かにあの寝室はぼくたちが愛し合う大切な場所。
いくら思い出したからと言って名前を出すべきじゃなかったんだ。

「フレッド、ごめんね」

「いや、私が狭量なだけだ」

お互いに何度か謝りあってそろそろフレッドの気持ちも落ち着いたかと思い、ぼくは気になっていたことを尋ねた。

「ねぇ、フレッドが心配に思っていること……教えて」

できるだけ優しくそう尋ねると、フレッドはようやく覚悟を決めたのかポツポツと話し始めた。
もちろん、ぼくをぎゅっと抱きしめたまま。

「今度帰国する予定になっているジュリアン王……いや、ジュリアン王太子だが、帰国の目的は……シュウなんだ」

「えっ? ぼく?」

「ああ。どうやら隣国リャバーヤでは、オランディアに突然絶世の美女が王城に現れたって大騒ぎになっていたようだ。
ジュリアン王太子はその美女が陛下の従兄弟である私の伴侶だと知ってどうしてもその美女に会いたいと陛下に泣きついたらしい。その代わり留学を半年延長して頑張るからと交渉して、陛下がとうとう折れたようだ」

『はぁーっ』と大きなため息を吐きながらがっかりした表情を見せるフレッドを見てぼくは驚いてしまった。

「絶世の美女ってそんな……」

国王になるための儀式は結構大変らしいと聞いていただけに、たった3日間オランディアに一時帰国するために半年留学を延長するなんて信じられない。
しかも、その理由がぼくに会うためだなんて……。

ぼくが絶世の美女?
多分……いや多分じゃないな。
絶対噂に尾ひれどころか背びれまでついてるよ、それ。

「じゃあ、大変な思いしてわざわざ帰ってくるのにジュリアン王太子はがっかりするんじゃない?」

「がっかりするわけないだろう!」

「――っ!」

フレッドの突然の大声にフレッドに抱きしめられたまま身体がビクッと震えてしまう。

「あっ、悪い。だが、シュウは自分がどれだけ美しいのかいい加減気づいてくれ」

「う、うん……そう、なのかな?」

「ああ。だから心配なんだよ。しかも、陛下から伺ったのだが、ジュリアン王太子は3年前にトーマ王妃が王城に現れた時、トーマ王妃に一目惚れをして大変だったようだ」

「大変って?」

「四六時中トーマ王妃の後をついて回っては、陛下と二人っきりになるのを阻止しようとしていたらしい。
二人が唯一だと知らせてもなかなか諦めようとしなかったようでな。
シュウはトーマ王妃に顔立ちがよく似ているだろう?
だからその時のことがまた繰り返されるのではないかと思って……。
しかも……我々の時代の話だが、ジュリアン王太子は見目麗しいとされていたから、私は彼にシュウを取られるのではないかと心配になって……怖かったのだ」

お父さんはジュリアン王太子がアンドリューさまやフレッドによく似てると言っていた。
そのジュリアン王太子がぼくたちがいた世界ではカッコいいと言われてたなら、髪色や瞳の色が濃かったってことなのかな。
だからってぼくが彼を好きになるとは思わないけど。
大体、ぼくはフレッドのものなのに……。
あれだけ誓い合ってるのにこんなことでまだ不安になる程、フレッドの心の傷は深いってことなんだろうか。
うーん、なんて言ったらフレッドは安心できるのかな?

せっかく無理をしてオランディアに帰ってくるジュリアン王太子には久しぶりの故郷を楽しんでもらいたいし、かといってフレッドを傷つけるようなことはしたくない。

「ねぇ、フレッド。ジュリアン王太子が本当にぼくに会うことを目的できたのかはまだわからないけど、もしそうだとしてもぼくはフレッドやお父さんたちと一緒にいる時しか会わないよ。だから、心配しないで。
ぼくたちはずっと一緒だって誓い合ったでしょう」

そう言ってぼくは、フレッドの指に光るお揃いの指輪と、フレッドの耳を彩るピアスをそっと撫でてみた。
すると、キラリと眩い光が灯ってぼくたちを包み込んだ。
ふわりと温かな光に包まれたと思ったら、それはフッと消えた。

「なんだったんだ、今のは?」

「ふふっ。多分ね、神さまがフレッドに『もっと自信を持ちなさい!』ってフレッドに発破をかけてくれてるんじゃないかな」

「神が?」

「うん。ぼくたちはこれまで二人でいろんなことを経験して、何度も愛を誓い合って、もうぼくたち二人以外愛しあえる存在はないって確信したでしょう。そんなぼくたちがたった3日会うだけのジュリアン王太子に引き離されちゃうなんてことあるわけないじゃない。だから心配しないで、余裕を持って迎えてあげようよ。故郷に帰れるって嬉しいことなんだからさ」

ぼくがそういうとフレッドは、『そうか、そうだな』と納得したように頷いた。

これで安心してジュリアン王太子を迎え入れられるねと思ったのも束の間、念の為と言って、それからジュリアン王太子がオランディアを離れるその時までぼくは毎日首筋の目立つ位置に紅い花をいくつも散らされることとなったのだった。




いつも読んでいただきありがとうございます。
こちらの作品のストックが全てなくなってしまいましたので、更新頻度が緩やかになります。
続きもどうぞお楽しみに♡
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