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第四章 (王城 過去編)

閑話  ヒューバート <手合わせの後>

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歴史に残るような陛下との素晴らしい手合わせを終えられたのも束の間、アルフレッドさまは伴侶であるシュウさまを若い騎士たちから隠すように腕に抱き、余韻に浸る間も無く急いで部屋に戻られた。

「ふふっ。あれほど強いアルフレッドでも、シュウにはめっぽう弱いようだな」

「当たり前だよ。あんなに可愛らしいことを目の前で言われたらアルフレッドさんも我慢できるわけないよ。
あーあ、柊ちゃんきっとこれから大変な事になるだろうなぁ……」

「まぁ、シュウもようやく体調も回復したことだし、アルフレッドはこれまでずっと我慢していただろうしな。
それも仕方がなかろう」

シュウさまを想い遠い目をされるトーマ王妃と、アルフレッドさまに同情するような陛下の表情を目の当たりにして、私はアルフレッドさまとシュウさまのよからぬ妄想が頭をよぎらぬように必死に心を無にした。

邪念を振り払うように周りの新人騎士に目を向ければ、今の陛下とトーマ王妃のお言葉が耳に入った者たちが、腰をくの字に折り曲げ、苦しそうにしている。

あいつらーーっ! あの美しいシュウさまの淫らなお姿でも想像しているのではないだろうな?

私と違って血気盛んな若い騎士たちだ。
仕方ないとは思いつつもそんな想像をしていることが露呈し、もしアルフレッドさまにでも知られたら……。
シュウさまを溺愛されているアルフレッドさまのことだ、先ほどの腕立て伏せなどでは到底お許しにはならないだろう。
ああ、想像するのも恐ろしい。

せめて陛下とトーマ王妃に見つからぬうちに早くソレ・・を隠してくれないか。

新人騎士たちの様子にどうなることかと緊張していると、突然陛下からお声をかけられた。

「時にヒューバート、我々がここに到着したときに騎士たちが皆揃って腕立て伏せをしていたのには何か理由があるのか?」

「はっ。その……」

やはりお気づきになられたか……。
陛下に嘘をつくわけにもいかないが、正直にいえば騎士たちに罰が下るかもしれない。
今の状態とも相まって知られたらどのようなことになってしまうか……。
私は騎士団長としてどうするべきだろうか。

一瞬言葉に詰まり、陛下になんと言葉を返すべきかと悩んでいると、トーマ王妃が助け舟を出してくださったのだ。

「アンディー、僕たちが突然訓練場に来たから騒ぎになってしまっただけだよ」

「うん? それはどういうことだ?」

「訓練をしている騎士たちのところに、僕たちが突然無断でやってきたせいで騎士たちが可愛らしい柊ちゃんを見て、少し集中が途切れてしまったんだよ。
彼らはまだ新人だし、その制御ができなかったの。
それで僕たちに向かって少し声を上げてしまったのを落ち着かせるためにヒューバートが腕立て伏せを命じたんだよ。
だから僕たちが何かされたわけでもないよ。ねっ、ヒューバート」

トーマ王妃とシュウさまに触れようとした騎士がいた事には触れずにそう言って私に助け舟を出してくださったトーマ王妃に感謝しながら、私はその言葉に乗っかった。

「はっ。その通りでございます。皆を静かにさせるために私が腕立て伏せを命じました」

陛下はじっと私の目を見て、『そうか、わかった』とおっしゃった後、
周りにいる騎士たち全員に聞こえる声で、

「其方たちは厳しい訓練を受け、王城騎士として選ばれた者たちだ。
周囲の余計な雑念にはとらわれず、これからもさらに厳しい訓練を続け、ここにいるヒューバートと超えることを目標に頑張ってもらいたい。
其方たちが私やトーマの護衛についてくれる日を楽しみにしている。
今日は久方ぶりに汗を流すことができた。礼をいう」

と言ってくださったのだ。

新人騎士たちは陛下から直々に声をかけられ感動に身を震わせている。
きっと彼らは今日の日のことを一生忘れることはないだろう。

陛下とアルフレッドさまの素晴らしい手合わせも、そして、トーマ王妃とシュウさまの麗しい笑顔も全て一生の心の糧として過ごしていくに違いない。

「トーマ、我々もそろそろ戻ろう」

「うん。みんな、今日は邪魔をしてしまってごめんね。これからも訓練頑張ってね」

トーマ王妃が周りにいる騎士たち全員に向かって極上の笑顔を振りまいていく。
騎士たちは皆トーマ王妃のその麗しい笑顔を目に焼き付けるように誰も瞬き一つしない。

その様子にお気づきになった陛下はトーマ王妃を隠すようにご自分の上着を羽織らせ、急いで訓練場を出ていかれた。

お美しい伴侶を見られたくないというお気持ちはどうやらアルフレッドさまだけではないようだ。
火が消えたように静まり返った訓練場には騎士たちから漏れ出るため息の音だけが鳴り響いていた。

はぁ……私も伴侶が欲しくなってきた。
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