ひとりぼっちのぼくが異世界で公爵さまに溺愛されています

波木真帆

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第四章 (王城 過去編)

花村 柊   29−2※

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それからどれくらいベットで過ごしたんだろう……。
それはそれは濃密な時間を過ごし奥深くまでフレッドの愛を感じた。
フレッドは優しくするからと言っていた言葉通り、ぼくを宝物のように愛してくれた。
手加減もしてくれたんだろう、おかげでいつものように気を失うことなく、フレッドと事後の甘い時間を過ごすことができた。

「シュウ、水飲むか?」

「うん。欲しい。飲ませてくれる?」

「ああ。ちょっと待っていてくれ」

フレッドはベッドの隣にあるテーブルの上に常備されているレモン水を手に取ると、グラスに注ぎ入れた。
そして、ぼくを優しく抱き起こすと、フレッドは徐にグラスに口をつけた。

ふふっ。フレッドも喉乾いてたんだな。
でも、珍しい。
いつもはぼくに先に飲ませてくれるのに……。

なんて思っていると、突然フレッドからキスをされてしまった。
そしてゆっくりと口の中に爽やかなレモン水が注ぎ込まれた。
コクコクと飲み干して、『ぷはっ』と一息つくと、フレッドは嬉しそうにまなじりを下げた。

「もう一口飲むか?」

「う、うん。欲しい」

これって口移しだよね……。
初めての口移しはなんだかすっごく恥ずかしかったけど、でもいつもの水よりも何倍も美味しく感じられて、気づけばもう一口お代わりをお願いしてしまった。

フレッドは満足そうにグラスの水を口に含むと、満面の笑みを浮かべながらぼくの唇と重ね合わせた。
フレッドの口内で温められたレモン水が体内に染み渡っていく。
ああ……本当に美味しい。

唯一って本当に全てが相性いいんだな……。

「フレッド、ご馳走さま。いつもより美味しく感じたよ」

「ふふっ。そうか? ならば、私もいつもより美味しいレモン水を飲んでみたいものだな」

ニヤリと笑ってぼくを見つめている。

えっ? これって……ぼくからも口移しが欲しいって、こと……だよね?
ええーっ、すごくハードル高いんだけど!
どうしよう……。
でも、してもらったくせに、できないとかそんなのはおかしいよね。
よしっ!

「わ、わかった」

「えっ?」

驚いているフレッドを横目にぼくはフレッドの手からグラスをとって、自分の口に含ませた。
そして、フレッドを見上げて唇を重ね合わせると、フレッドの唇が小さく開いた。

そこからゆっくりとレモン水を流し込むと、フレッドは美味しそうにそれをコクコクと飲み干した。
口内が空になったところで突然フレッドの舌がぼくの中に入り込んできた。
あっという間に舌に絡みついてくる。
舌先を吸われたり口内を嬲られたり……甘い唾液に爽やかなレモンの味が相まって蕩けてしまいそうだ。

「……んっ……んん……っ」

深くて甘いキスにすっかり酔いしれていると、フレッドの唇がゆっくりと離れていった。
ああ……と思ったけれど、身体はもう満足しているようでそのままパタリとベッドに横たわってしまった。

「シュウ、悪い。つい、シュウが可愛くて止められなかった……」

焦ったようにぼくを抱きしめてくるフレッドの姿が可愛くて、
『大丈夫だよ』と答えるとフレッドは安心したように隣に横たわった。

「ねぇ、どれくらい時間経っちゃった?
お父さんたちのところに行きたいけど、今日行けるかな?」

「ああ。そうだな。3時間くらいか。
風呂に入ってスッキリしてから、ブルーノに声をかけてみよう」

そのまま抱きかかえられてバスルームにいった。
ここのお風呂はいつでも入れるようにお湯が張ってあるから本当に助かる。
熱めのお湯をかけられて頭と身体を優しく洗ってもらってから湯船に浸かると、
『ふぁーっ』と声が出た。

それをフレッドに笑われながら、しばらく湯船で温まっているとどんどん頭がスッキリしてきた。

「ねぇ、お父さんたちの部屋に行くとき、パールも一緒に連れて行っていい?」

「ああ。それはいいがどうしたんだ、急に」

「だって、お父さんに抱っこしてもらって絵を描くなら、お父さんたちに慣れておいてもらったほうがいいかと思って」

「そうだな。パールにもその時間は必要だろう」

あのふわふわで可愛いパールをお父さんが抱っこしたら可愛いだろうな……。
想像するだけでニヤけてくる。

急いでお風呂から出て着替えると、寝室のパールの寝床に向かった。

リンネルはこの時期ほとんど寝て過ごすから、ぼくたちがレナゼリシア領に出かけていた時もほとんどここから出ていなかったらしい。
リンネルは寿命が長いから、ひと月くらいの時間はあっという間なんだとか。
なんかそれもすごいよね。

「パール、ぼくだよ」

眠っているところ起こしたら悪いかな? と思いながら小声で名前を呼んでみると、パールはパチリと目を開けて
『キューン』とぼくに飛び込んできた。

「ふふっ。相変わらず可愛いなぁ」

『キューン』

「ねぇ、今からお父さんとこに一緒に会いに行ってくれる?」

『キュンキューン』

これは喜んでくれてるってことでいいのかな?
でも、ぼくの腕の中から離れようとしないし、連れて行ってもいいよね。
ああ、このふわふわの感触気持ちいいなぁ……。
きっとお父さんにも懐いてくれるよね?

「シュウさまっ! シュウさまはご無事ですか?」

フレッドが部屋の扉を開け、ブルーノさんを呼ぶと血相を変えてブルーノさんが部屋に飛び込んできた。

「ブルーノさん、どうしたの? 何かあったの?」

びっくりしてパールを寝室に置いてリビングにいるブルーノさんに駆け寄ると、

「えっ? いえ、その……お身体はお変わりございませんか?」

と神妙な表情で尋ねられた。

「えっ? うん。特に何もないよ。大丈夫。ありがとう」

笑顔でそう答えると、ブルーノさんは『はぁーーっ』と大きなため息を吐き、
『本当にようございました』とホッとした表情を見せていた。

何か心配なことでもあったのかな?

それが気になったけれど、ブルーノさんはすぐにフレッドと話をしに行ってしまって結局そのことを聞くことはできなかった。

まぁ、いいか。

僕は寝室に戻り、パールを抱き上げるとパールはまだ眠かったのかもぞもぞとぼくの服の中に潜り込んだ。
ふわふわした毛並みが身体に触れて少しくすぐったく思いながらフレッドの元へと戻った。

「お父さんたちのところへ行っていいのかな?」

「ああ。今から食事をするらしいから、我々の分も一緒に用意してくれるようだ」

「わぁ、良かった」

お父さんたちのいる『王と王妃の間』へ向かうと、ブルーノさんが扉を開けた瞬間、今度はお父さんが駆け寄ってきた。

「柊くん、大丈夫だった? どこか痛いところとか辛いところとかない?」

と、ぼくの身体を服の上から満遍なく調べている。

「どうしたの? お父さん、ぼくは大丈夫だよ」

「そう、良かったぁ」

ブルーノさんと同じように『はぁーーっ』と大きなため息を吐いた。

「ブルーノさんもそうだったけど、なんでそんなに心配してくれたの?」

「えっ? だって、あの時フレデリックさんものすごい怖い顔してたから
柊くんとんでもないことされてるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしてたんだよ。
部屋に確かめに行きたかったけど、部屋に近づけさせるなって命令してるって言うし……」

ああ……そういえば、そんなこと言ってたかも。
あの時、ものすごく目がギラギラしててぼくでも怖いと思ったんだよね。
話をした後は落ち着いてくれてたからすっかり忘れてた……。

「でも、なんともなくて良かった。
もっと長い時間部屋から出てこなかったら、アンディーに部屋を蹴破って入ってもらおうって話してたんだ」

「えっ……そ、それは……」

入ってこられなくて良かった。
さすがにお父さんには見られるの恥ずかしいもんね。

「ふふっ。冗談だよ。さすがにフレデリックさんが柊くんを傷つけるなんて思ってないけど、こんなに早く出てこられるとは思わなかった。思ってたより手加減してくれたんだね」

にこやかに笑うお父さんを見ながら、ぼくは部屋にこもって何をしていたのかが全部バレてたみたいでなんとなく恥ずかしい気持ちで居た堪れなかった。

「あれ? 柊くん、服に何か入れてる?」

お父さんの声に答えるようにぼくのお腹がもぞもぞと動き出した。

そうだ、先に出してやろう。

「うん。お父さんに慣れてほしいと思って連れてきたんだ」

「慣れる?」

「うんしょ。ほら、パールだよ」

服から取り出すと、パールは『ふわぁーーっ』と大きなあくびをして、大きな目をパチリと開けた。

「わぁーーっ、パールに会うのなんか久しぶりだね。ふふっ。相変わらずふわふわで可愛い」

「ふふっ。ほとんどずっと寝てたからね。でも、絵を描くときにお父さんがパールを抱っこするでしょう?
それまでに少し慣れておいた方がいいかと思って、今日連れてきたんだ」

「えっ、じゃあ抱っこしていいの?」

「もちろん!!」

お父さんが両手を差し出した中にぽふっとパールを乗せてあげると、パールはフンフンとお父さんの匂いを嗅いで静かに腕の中で丸まった。

「うわぁっ、可愛いっ! 柔らかい! ふわふわだぁ」

「良かった。お父さん、気に入られたみたい」

「本当? ふふっ。嬉しいな」

お父さんはゆっくりとパールの乗った手をゆっくりと顔に近づけ頬擦りすると、パールは小さくて可愛い舌を出してお父さんの頬をペロリと舐めた。

「ふふっ。くすぐったーい」

「ああっ、ぼくも最近舐められてないのにっ! お父さん、ずるーい」

「あれっ? 柊くんの嫉妬もらっちゃったぁ~」

「えっ? ふふっ。お父さんったら」

パールを真ん中に楽しい癒しの時間を過ごしていると、突然アンドリューさまとフレッドがぼくたちの前にやってきて、

「ほら、先に食事にしよう。パールはあっちに寝かせておいで」

「ほら、シュウ。トーマさまからパールを受け取るんだ。ほら、早く」

と勢いよく言われてしまった。

ぼくたちは言われるがまま急かされるように、ブルーノさんがダイニングテーブルの隣に用意してくれたスペースにパールを座らせた。


「わぁ~っ、可愛いっ!」

ぼくたちが食事をしている最中もお父さんはパールがモグモグ食べる様子に夢中になっている。
確かにパールがご飯食べている姿はすっごく可愛いんだよね。

「僕、昔から犬とか猫が好きで育てたかったんだ」

「へぇー、そうなんだ」

「でもね、祖父母が動物嫌いで家で動物を飼うことは禁止されてたんだよね」

そうだったんだ……。
禁止されるのって辛かっただろうな。

ぼくも捨てられている犬や猫を見つけるたびにずっと育ててみたいと思っていた。
いつも1人で寂しかったぼくの傍にいてくれる存在が欲しかったんだ。
でも、自分が生きることに精一杯で食べることにも必死なぼくに、可愛い子たちをぼくの寂しさを紛らわせるために付き合わせてはいけないって思ったんだ。

だからパールに出会った時、どうしても一緒に連れて行きたいって思った。
ひとりぼっちであの地下室にいたパールの姿に寂しかった頃の自分が重なって傍にいてあげたいって思った。

でも、パールと過ごすようになって傍にいてあげたいってパールを可愛がるというより、パールに癒されてる自分がいる。
本当にすごく幸せなんだ。

「だから、こうやってパールと一緒にご飯食べられるなんて嬉しいな」

「お父さんが怖がらないからパールもきっとお父さんと一緒にいられて喜んでると思うよ」

「ふふっ。そうかな?」

お父さんとパールの話で盛り上がれるのはすごく楽しくてついつい話が盛り上がってしまった。
その間、なぜかアンドリューさまとフレッドはただじっとぼくたちのやりとりを黙って聞いているだけで黙々と食事をしていたのがほんの少し気になった。

食事も終わり、その後もパールと遊んでいるとアンドリューさまが少し拗ねたような顔で近づいてきた。

「トーマ、今日私に何か渡してくれるのがあるのではないか?」

「ああっ! そうだっ! アンディー、ごめん。忘れてた!」

柊くんのこととか気になってたから……と理由をいうお父さんにアンドリューさまは
『私のことなどどうでも良いのだろう』とツンと顔を背けた。

うわっ、こんなこと思って良いのかわかんないけど……
アンドリューさま……可愛いっ。

いつも冷静で大人なアンドリューさまの思いがけない一面に触れて思わずキュンとしてしまった。

あっ、だめだ、だめだっ!
ぼくのせいでアンドリューさまが不機嫌になってしまっているというのに、そんなこと考えちゃって。

『ごめんなさい』と謝ろうとすると、スッとお父さんがアンドリューさまに近づき、耳元で何かを囁いていた。
すると、『本当か?』とアンドリューさまの嬉しそうな声が聞こえたと思ったら、あっという間にアンドリューさまは上機嫌になっていた。

お父さん、一体どんな魔法を使ったんだろう?
不思議だ……。

「トーマ、ならば改めて渡してくれぬか?」

「うん。ちょっと待ってね」

お父さんはポケットから丁寧にケースを取り出した。

「アンディー、開けてみて」

アンドリューさまは差し出されたケースをそれはそれは嬉しそうな表情でゆっくりと開け、
『おおっ』と感嘆の声を漏らした。


「トーマ、つけてもいいか?」

「うん。お願い」

アンドリューさまは超特急でブルーノさんを呼び、ピアスをつける準備を整えさせた。

「陛下。我々もここで拝見してよろしいのですか? お二人がよろしければ、一度部屋に戻りますが……」

「いや、其方たちに立会人になって欲しい。なぁ、トーマ」

「うん。嫌じゃなかったら、柊くんもフレデリックさんも見てて欲しいな」

にっこりと笑いかけられ、ぼくたちに断る気持ちなどさらさらなかった。

「喜んで。ねぇ、フレッド」

「はい。私のこの目でしかと焼き付けます」

「ありがとう」

嬉しそうなお父さんとアンドリューさまの表情にぼくは胸が熱くなった。

「さぁ、トーマ。痛くないから心を静かに……」

「うん。なんかドキドキしちゃうな」

『大丈夫だからな』ともう一度念を押して、アンドリューさまはお父さんの左の耳朶に注射器をあてがった。

ゆっくりと指が押されていくのが見えて、お父さんを見ると一瞬強張っていたけれどフッと笑顔になった。

「トーマ、どうだった?」

「ほんのちょっとチクッとしただけで全然痛くなかった」

その答えにアンドリューさまはほっと胸を撫で下ろしていた。
どんどんと耳朶に穴が開いていくのがよく見える。
ふぇーっ、本当にあんなんで穴が開くんだ。ほんと、不思議。

ある程度穴が開いたところで、アンドリューさまはケースから藍玉アクアマリンのピアスを取り出し、穴に差し込んだ。
すると、穴はどんどん差し込んだ棒の形に縮んでいく。
うわっ、ほんとにすごいなこのシステム。

あっという間にお父さんの耳に藍玉のピアスが取り付けられた。
これでお父さんのも二度と離れないんだよね。
ふふっ。お揃いだ。

「アンディー、どう?」

「ああ。よく似合ってる。実に感慨深いな」

アンドリューさまはお父さんの耳たぶに付いたピアスを愛おしそうに撫でると、

「トーマ、私のも付けてくれるか?」

と微笑みながらお父さんを見つめた。

「うん。任せて」

「頼む」

お父さんは注射器を手に取り、椅子に座ったアンドリューさまの左側に立ち、
『行くよ』と声をかけた。

アンドリューさまは信頼しきった表情でお父さんにされるがまま、嬉しそうに笑っていた。
お父さんは少し緊張しているみたいだったけど、耳たぶにゆっくりと注入していった。

『ふぅ』
ホッと一息ついて注射器を離したときにはもうすでにアンドリューさまの耳たぶに穴が開いていた。

「わぁっ、これ本当にすごいね!」

お父さんは穴が開いていくのを初めて間近で見て相当感動したようで、食い入るようにアンドリューさまの耳を眺めていた。

「と、トーマ。そろそろ石を付けて欲しいのだが……」

「ああ、ごめん、ごめん。つい、見入っちゃって……」

「トーマの顔がそんなに近くにあると口づけしたくなる」

「ふふっ。アンディーったら何言ってるの」

お父さんはアンドリューさまの冗談だと思っているみたいだけど、あれはきっと本気だったよ。うん。
きっとぼくたちがここにいなかったらきっとキスしちゃってそうだな……。
ほんと、お父さんのこと好きなんだよね、アンドリューさまって。ふふっ。

お父さんはテーブルの上に置かれたケースを大事そうに手に取り、中から黒金剛石ブラックダイヤモンドを取り出した。

そして、それをゆっくりとアンドリューさまの耳たぶの穴に差し込むと穴はじわじわと縮み始め、ピアスはアンドリューさまの耳に綺麗に取り付けられた。

「アンディー、綺麗に付けられたよ」

「トーマ、ありがとう。ああ……心の底から幸せだ」

「ふふっ。僕もだよ。これからいつでもここでアンディーが見守ってくれてるみたいですごく幸せ」

嬉しそうに見つめあうお父さんたちに、

「アンドリューさま、お父さん。おめでとう!
本当によく似合ってる」

と声をかけると、2人揃って『ありがとう』とキラキラと煌めくピアスにも負けない笑顔で返してくれた。

「指輪もしっかり頼んできたからね、出来上がりを楽しみにしてて! ねっ、柊くん」

「うん。レイモンドさんにしっかり頼んできたから! 出来上がりが楽しみだね」

お父さんと2人で顔を見合わせて笑い合っていると、アンドリューさまもフレッドも

「そうか、それは楽しみだな」

とにこやかに笑っていた。

「ねぇ、ねぇ。パールのことだけど、しばらくこっちで預かっちゃダメかな?」

「えっ?」

「だって、これから長い時間一緒にいるところを描いてもらうんだもん。
それまでにパールに少しでも僕たちのことを慣れてもらわないと!」

確かにそうかも。
パールがお父さんの腕に安心して抱かれている姿を肖像画に残したいもんね。

「アンドリューさまが大丈夫なら、ぼくはいいよ。
パールもお父さんのこと気に入っていたみたいだったし」

「わぁっ、柊くんありがとう。ねぇ、アンディー、だめ??」

『ぐぅっ』
アンドリューさまが少し苦しそうな声をあげていたから、隣にいるフレッドに

「アンドリューさま、大丈夫かな?
もしかして動物が苦手とかあったりしない??」

と小声で尋ねると、

「ふふっ。心配しないで大丈夫だ。あれはトーマさまにやられただけだ」

と不思議な答えが返ってきた。

「お父さんにやられたって?? どういうこと??」

「陛下はトーマさまを愛しているということさ」

「???」

よくわからないままにお父さんたちを見ると、アンドリューさまからO.Kの返事が出たらしくお父さんはアンドリューさまに抱きついて喜んでいた。

まぁ、とにかくパールは無事にお父さんたちと一緒に居られるみたいで良かった……のかな?

「シュウ……来週初めには全ての材料が揃うそうだ。
シュウの心が決まったら、我々の肖像画を描いてほしい」

真剣な表情でアンドリューさまから声をかけられた。
きっと、ぼくのことを心配してくれているのだろう。

でも、もうぼくは平気だ。
本当なら会えないはずのお父さんとこうやって同じ時を過ごせたのだから。

「はい。それじゃあ、毎日政務が終わったら少しずつ描いていきますね」

「それでいいのか?」

「はい。もちろんです。完成を楽しみにしていてください」

満面の笑みでそう答えると、『そうか……楽しみにしている』と少し震える声で返してくれた。
お父さんはその間ただじっとぼくを見つめていた。
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