上 下
112 / 259
第四章 (王城 過去編)

花村 柊   27−2※

しおりを挟む
お互いに髪と身体を洗い終え、フレッドに横抱きで抱えられながら湯船に浸かった。

お湯に浸かった瞬間、『あぁーーっ』と声を出してしまうのは仕方ない。
きっと日本人のDNAに組み込まれているんだと思っていると、フレッドがぼくの声を聞いて笑っていた。

「ふふっ。久しぶりにシュウのその声を聞いたな。その声を聞くと王城ここに戻ってきたと実感した」

「だって、気持ち良いとつい出ちゃうんだもん。仕方ないんだよ」

「んっ? 私より湯船のほうが気持ち良いのか? なんだか妬けるな」

「ふふっ。お風呂に妬くなんて」

「シュウが私以外に目を向けるのはなんでも嫉妬してしまうのだ。私の狭量さに呆れたか?」

「ううん。嬉しい」

ぼくはフレッドの首に抱きつくと、フレッドもまたぎゅっと抱きしめ返してくれた。

2人で抱き合っていると、お尻の下にフレッドの硬いものが当たって身体がぞくりと震えた。
コレ、欲しいけど……今からお父さんたちに会いに行くんだよね……。

「ふぅ……っん」

ダメだと思いつつも、この硬い感触が欲しくてついお尻を擦り付けてしまう。

「シュウ、これが欲しいのか?」

「……うん。でも……ダメだよね?」

「なぜだ? 私もシュウが欲しいのに……」

「だって……お父さんたちが、待ってる……」

だから必死で我慢しようとしているのに、フレッドの硬いモノに擦られたら我慢できなくなっちゃう。

「大丈夫だ。陛下たちも久々の水入らずを楽しんでいるさ」

「あっ……んっ、で、も……」

「いいから。私に集中してくれ」

フレッドはぼくを向かい合わせに膝に座らせ、指でぼくのお尻をトントンとノックし始めた。

「ひゃぁ……んっ」

少しとろみのあるお湯のせいか、フレッドの指が簡単にスルンと入ってきた。
お湯の中なのに、ぼくの耳にはグチュグチュと自分のいやらしい音が入ってくる。

簡単にほぐれてしまったぼくの中をフレッドのゴツゴツとした長い指が気持ちいいところを擦っていくけれど、その度にお腹の奥がジュクジュクと疼いてたまらない。

「ああ……っ、も、っと……おく……ほしっ……」

「シュウ、ああ……なんて淫らで可愛いんだろう」

フレッドはぼくの中を蕩かしていた指をゆっくり引き抜くと、自分の大きく昂ったモノを擦り付けた。

「コレが欲しいだろう?」

ぼくはもう頷くことしかできなかった。

「ふふっ。挿入いれてやるからな」

フレッドの膝に乗せられたまま、お尻を持ち上げられフレッドのモノがググッと挿入りこんでくる。

「ああっ……あっ、んんっ……はぁんっ……あ゛あっ!」

心地よい圧迫感に気持ちよくなりすぎて、フレッドの胸元に倒れ込んだ瞬間、フレッドの大きな昂りがぼくの奥にグリュっと音を立てて挿入りこんできた。

何? この感覚。
なんだか挿入っちゃいけないところに挿入りこんでしまったみたい。
怖いっ、怖いっ。

「ああっ……やっ、こわい……」

「――くっ! 大丈夫だ、私に捕まっていろ」

フレッドはぼくを抱きかかえたまま、浴槽の中に立ち上がった。
プランと宙に浮き上がる感覚にぼくはフレッドの首に手を回しぎゅっとしがみついた。
ガツガツと腰を動かすフレッドの動きに合わせて、パチュンパチュンとぼくのお尻にフレッドの腰が激しく当たる音が聞こえる。

「っふあ……っ、あっ、あっ……んんっ、ん……」

いつもより奥まで挿入りこんでいるフレッドのモノで中をゴリゴリと擦られて訳がわからなくなるほど気持ちがいい。

「……あっ、ああっ……イッちゃうっ!」

ぼくのモノから噴き出した蜜がぼくたちのお腹を汚し、浴室に甘ったるいぼくの蜜の香りが充満すると
フレッドは『ああ……シュウの蜜の香りは最高だな』と嬉しそうな声をあげながら、ぼくの最奥にビュルビュルと熱い蜜を吐き出した。
お腹の中がフレッドの蜜で温かくなるのを感じながら、ぼくは幸せな気分に包まれていた。

まだ硬さの残るフレッドのモノがゆっくりとぼくの体内から引き抜かれ、コポッという音と共にフレッドの蜜がぼくの後孔から滴り落ちてくる。

「ああ……もったいない……」

思わず口から漏れ出た言葉にフレッドは愛おしそうにぼくを抱きしめながら、
『愛してるよ』とぼくの耳元で囁いた。

その後、フレッドはぼくを抱きかかえたまま、自分とぼくの身体をサッと洗い流し着替えさせてくれた。

身も心もほかほかでぼくはベッドに座らされて、ブルーノさんが用意しておいてくれたらしいレモン水を飲んでホッと一息ついた。

多分手加減をしてくれたんだろう。
フレッドと愛し合った後はいつもそのまま眠ってしまうけれど、今日は程よいくらいの疲れで心地良いくらいだ。

「もう少し落ち着いてから陛下たちの元へ行こう」

「えっ? 別にぼくは今からでもいいよ」

「いや。シュウから情事後の甘やかな香りが漂いすぎている。こんな艶やかな姿、例えトーマ王妃であっても見せたくない」

甘やかな香り? 艶やかな姿? 自分じゃよくわからないけど、フレッドがいうならそうしよう。

「ねぇ、お父さんの言ってた大事な話ってなんだと思う?」

「うーん。難しい質問だな。だが、お二人の考えだから、我々にとって悪いことではないだろう」

「うん。そうだよね」

もしかしての話に怯えるより、今の幸せな時間を楽しんでいよう。
フレッドやお父さん、アンドリューさまや他にもたくさんの人に愛されてぼくは幸せなんだから。


それからしばらくフレッドとの時間を過ごして、ブルーノさんに声をかけた。

フレッドがアンドリューさまとお父さんの様子を尋ねると、今は部屋のリビングでおしゃべりをしているとのことでぼくたちはブルーノさんに案内されてお父さんたちのいる[王と王妃の間]へ向かった。

扉を叩き、中に入るとお父さんが駆け寄ってきた。

「ゆっくり休めた? 長旅、お疲れさま」

にっこりと笑顔を向けてくれたお父さんには、まさかフレッドとお風呂場で×××してましたなんて言えるはずもなく、ほんのり顔を赤らめてしまったけれど、お父さんはそれに気づかなかったのか、特に何も言わなかった。

「さぁ、こっちに座って」

リビングのソファーのお父さんが座っていたであろう隣の場所を案内されそれに腰掛けると、
アンドリューさまとフレッドは向かいに横並びで腰を下ろした。

この場所でいいのかな? と思いながらも、お父さんの隣が居心地が良くてそのまま座らせてもらうことにした。

ブルーノさんはテーブルに紅茶と焼き菓子を並べると
『ごゆっくりお過ごしください』と言って部屋を出た。

「これ、僕たちが王都を出てから流行り出したお店の焼き菓子なんだって。柊くん、食べてみて」

差し出された焼き菓子を受け取ろうとしたら、『あーん』と言われ、思わず条件反射的に口を開けると、お父さんがそっと食べさせてくれた。

サクっとしてほろほろと溶けていくそのお菓子がすごく美味しくて、
『うわっ、これ、美味しいっ!』と笑顔になった。

「でしょう!」

と得意げな様子のお父さんを見て、さらに笑顔が溢れた。

ああ、いいなぁ。こんな時間。本当に幸せだ。

「ウォッホン。そろそろ話を始めてもいいか?」

アンドリューさまのその声に驚いて、顔を前に向けると、フレッドとアンドリューさまが面白くなさそうな顔をしながらぼくたちを見つめていた。

あっ、もしかして……

「ごめんなさい。アンドリューさまもフレッドもこれどうぞ」

焼き菓子をお父さんと独占しちゃってたことに気づき、慌てて2人の前にお皿を動かすと、

「「はぁーーっ」」

2人して呆れたように大きなため息を吐いた。

えっ? なにっ?
意味がわからなくてお父さんの方を見ると、お父さんもまた僕を見て笑っていた。

「ぼく、何かおかしなことしちゃった?」

「ううん。いいの。柊くんはずっとこのままでいてね」

とぎゅっとぼくを抱きしめてくれた。

「トーマ王妃っ!」

少し焦ったようなフレッドの言葉に『はーい』と声をあげお父さんはパッとぼくから離れていった。

「シュウ、この菓子は私たちはいい。其方とトーマで食べなさい」

アンドリューさまの優しい声にホッとしながら、『はい。ありがとうございます』とお礼を言った。

「ところで、この前少しトーマが話をしていたが、其方たちに一つ提案があるのだ」

アンドリューさまのその言葉を合図に今までほのぼのムードだった部屋が少し緊張感に包まれた。
そして、ぼくとフレッドはアンドリューさまの続く言葉を待った。

「そんなに緊張せずとも良い。これは私とトーマが勝手に考えたことで、其方たちに絶対にしろと強制するつもりはない。ただ、これで其方たちの住む未来が変わる可能性があるのならば、やってみてもいいのではないかと思っただけだ」

「ぼくたちの未来が……?」

「それはどういうことでしょう?」

ぼくとフレッドはアンドリューさまの言っている意味が理解できずにお互いに顔を見合わせた。

「『神の泉』に行った時に、私とトーマは神と対話をした。そのときに言われたのだ。
私がトーマを溺愛しすぎたが故に偏った愛がさも事実であるかのように後世に伝えられ、未来の美醜感覚が変わってしまったのだと……。私が黒目黒髪のトーマを心から愛し、それを公言したために、黒い色が神に愛された尊き存在であり、それと対照的に白に近い色は嫌悪な存在であると湾曲して後世に伝わってしまったのだろう。だとすれば……未来のオランディアを正せるのは私しかいない。だから、私は考えた。白色が忌むべき存在として伝わらなければいいと」

「ど、どうなさるおつもりなのですか?」

「シュウが我々の肖像画を描くのだろう?」

突然肖像画の話になって驚いたけれど、

「えっ? あ、はい。これから描かせていただく予定です」

と答えると、アンドリューさまは先ほどより少し柔らかい表情で口を開いた。

「ならば、我々の肖像画に其方のリンネルも一緒に描いてくれぬか?」

「パ、パールを??」

思いがけないアンドリューさまの言葉にびっくりして大声をあげてしまった。

「ああ。トーマが白いリンネルを慈愛に満ちた表情で抱きしめている絵を描いてほしいのだ。
神に愛されたトーマが白いリンネルを大切に可愛がっていたと後世に伝われば、白色が忌むべき存在になどなりはしないだろう?」

「なるほど。確かにそうかもしれません。たとえ、もし変わらなかったとしても私の傍にはシュウがいてくれます。
ですが、もしこれで未来の美醜感覚が変わるのなら、私と同じように苦しんできた民たちが救われることでしょう。
これは試してみる価値は十二分にあります」

フレッドはアンドリューさまの提案に目を輝かせて賛成した。

これを受け入れて絵を描いてももしかしたら未来の力が強すぎて変わらないかもしれない。
それでも何もしないよりはやったほうがいいに決まってるんだ。
未来のオランディアでフレッドまでとは言わないけれど、白に近い色を持って生まれたがためにみんなに嫌悪されて辛い人生を送っていた人たちがいる。
その人たちにとってはこれが奇跡の第一歩になるのかもしれない。

でも、ぼくには一つ心配なことが残っていた。


「あの、ちょっと……気になる、ことがあるんですけど……」

「うん? なんだ? 申してみよ」

「あの……もし、これで未来の美醜感覚が今の時代と同じになってしまったら……その」

ぼくはこれを言って良いのかどうか分からなくなって、フレッドに視線を移した。
でも、フレッドにしてみれば、美醜感覚が今の時代のままでいてくれることを望んでいるのだから、ぼくからこんなことを聞かされるのは嫌かもしれない。

どうしよう、どうしよう……。

「シュウ? どうした?」

フレッドとアンドリューさまが心配してくれるけど、話さない方がいいのかもしれない。
やっぱりなんでもないと言ってしまおうか。

「なんでも……」
「柊くん、ちょっとあっちで2人で話をしよう」

言いかけたぼくを遮るようにお父さんがぼくの腕を取って立ち上がらせた。

「アンディー、フレデリックさん。ちょっと柊くん、借りるね」

優しい口調だったけど、2人に口出させないようなそんな威圧感を漂わせながら、お父さんはぼくを自分の部屋へと連れていった。

部屋に入った瞬間、気が抜けて『はぁーーっ』と大きなため息を吐いてしまった。
それを見たお父さんは『柊くん、ちょっとこっちに座って』と自分が腰掛けたベッドの隣をトントンと指し示した。

おずおずと隣に座ったぼくをぎゅっと抱きしめ

「柊くんは自分1人で抱え込みすぎだよ。少しは僕を頼ってよ」

と言って背中を優しく叩いてくれた。

ああ。お父さんにはぼくの気になることが伝わったんだな……。
なにも言わなくても伝わるってなんて嬉しいんだろう。

「うん。ありがとう……お父さん」

「ふふっ。これでも僕は柊くんのたった1人の父親だからね」

「うん……うん」

ぼくは嬉しくて涙が止まらなかった。

お父さんはぼくの涙が落ち着くまでずっと手を握りながら、今回の旅行の楽しかった思い出を子守唄のように語ってくれていた。

「お父さん、ありがとう。ぼくの気になること……聞いてくれる?」

「うん。もちろんだよ」

僕を包み込むひまわりのようなお父さんの優しい笑顔がぼくに勇気をくれた。

「あのね、もしぼくがお父さんたちとパールを一緒に肖像画に描くことで、これから先の未来が変わっていくとしたら、フレッドはどうなるの? フレッドみたいな格好良い人なら、ぼくと出会う前に婚約者がいたり、もうすでに結婚して子どもがいるなんて未来に変わっているかもしれないよ。ぼくたちが未来に帰ったら……フレッドの傍らに奥さんがいたりしたら……ぼくはどうしたらいい?」

フレッドにもう愛すべき家族がいたら?
ぼくはその人たちからフレッドを奪うことなんてできないよ。
それを想像するだけで胸が痛くなって、自然と涙が溢れてきてしまう。

「泣いちゃってごめんなさい」

「ううん。柊くん……辛いこと想像させてごめんね」

お父さんがぽんぽんと頭を撫でてくれる。
その優しさに触れてさらに涙が出てしまう。

「ふっ、うっ、うっ……ぐすっ」

「柊くん、大丈夫……大丈夫だからね」

お父さんの大丈夫と言う言葉がぼくの心を温めていく。
ようやく泣き止んだぼくに

「実はね、アンディーもそれを心配してたんだ」

と話してくれた。

「えっ? アンドリューさまも?」

「うん。でね、あの考えを思いついてすぐにフレデリックさんに尋ねたみたい」

――もし、未来が其方にとって居心地の良い世界になっていたとしても、シュウだけに変わらぬ愛を捧げてくれるか?

アンドリューさまがそんなことを……。

「アンディーはね、あの考えを思いついて一番に心配したのが柊くんのことだったみたい。
ふふっ。アンディーにとっても柊くんは大切な息子になってるんだね、もう。
だから、心配しないで聞いてみたらいいよ。きっと何か考えてくれてるはずだよ」

「うん。ありがとう……お父さん」

「じゃあ、アンディーとフレデリックさんのところに行こうか」

お父さんに手を引かれ部屋を出ると、リビングにいた2人の視線が一気に突き刺さった。

「シュウ……大丈夫か?」

少し緊張した様子でぼくを見つめるフレッドに『もう大丈夫だよ』と笑顔を見せると、ホッとしたように微笑んだ。
そしてぼくの隣に駆け寄り、ぼくを抱きしめてくれた。

ぼくはフレッドの温もりに安心しながら、お父さんに言われた通り、気になっていたことをアンドリューさまに尋ねてみた。

アンドリューさまはなんて言葉を返すだろう……。
ドキドキして、フレッドの手を握る力が強くなってしまう。

「シュウ……其方が心配するのは当然だ。私の配慮が足りず申し訳なかった」

深々と頭を下げるアンドリューさまにぼくは慌てて声をかけた。

「アンドリューさまっ! 顔を上げてください。ぼくこそ、アンドリューさまがこんなこと考えないわけがないのにひとりで勝手に心配になってしまって……」

「いいや。未来を変えるとはそれくらい心配になるものだ。
シュウ、そしてフレデリック。よく聞いてくれ。私は未来のオランディアに向けて予言めいたものを残そうと思っているのだ。それできっと、フレデリックのことは問題なくなるはずだ」

予言めいたもの?
それはぼくたちに関することを後世に伝え、残しておくということなんだろうか?

まだよく分からないけれど、アンドリューさまもお父さんも自信に満ちた表情をしているところを見ると、きっとうまくいきそうな気がする。

「フレデリックはこれから先の世がどのような世界に変わっていたとしても、生涯シュウだけを愛すると誓った。
フレデリック、そうだったな?」

フレッドがそんなことをアンドリューさまに?

フレッドはアンドリューさまを見つめながら、

「はい。陛下に申し上げたことに嘘偽りは一切ありません。私はシュウだけを生涯愛し続けます」

と宣言し、一点の曇りもないまっすぐな瞳でぼくに目をやった。

「シュウ……信じてくれるか?」

「うん。フレッド……ぼくもフレッドだけだ。フレッドを生涯愛し続けるよ」

涙をボロボロ流しながら、フレッドに抱きついた。

「フレデリックにシュウ以外と結婚する意思がないと確認した上で私は未来のオランディアを正すことを決めたのだ。フレデリックがもし住みよくなった未来のオランディアで女性との交わりを期待しているのであればやめようと思ってな」

「そ、そんな……」

「ははっ。まぁ、それは私の杞憂だったようだ。フレデリックは一瞬の迷いもみせなんだからな」

アンドリューさまの言葉、ひとつひとつに反応し、青ざめたりホッとしたりするフレッドが面白くてぼくはつい笑ってしまった。

「まぁ、何を書くかは其方たちにいうわけにはいかないが、未来のフレデリックに家族がいるということは心配せずとも良い」

「はい。ありがとうございます」

安心していたらいいんだ。
ぼくはアンドリューさまとお父さんの絵を描くことに専念しよう。
未来のオランディアの人たちに素晴らしい王さまと王妃さまがいたことを伝えていけるように……。

「ブルーノに肖像画を描くための道具を用意させるから、それが揃ったら少しずつ始めてくれ」

「わかりました。ありがとうございます」

「うむ。あまり根を詰めないように身体を労わりながら、励んでくれ」

アンドリューさまの優しい言葉に感謝して、肖像画の話はここで一旦終わった。

「そういえば、指輪の話も進めないとね」

お父さんがそういうと、アンドリューさまは少し苦々しそうな顔をして

「そうだな。だが、視察から帰ってきたばかりですぐにはレイモンドのところにいく時間が取れそうにない。
それをどうするか……」

と顎に手を当てて悩み出した。

「ふふっ。大丈夫。僕と柊くんとで行ってくるよ!」

「なっ――! トーマ! それは……」

アンドリューさまが焦った表情で止めようとしているのは、あの事件のせいもあるだろう。

「大丈夫だよ。僕は明日公務はないから時間はあるし。
それに今度は変装して出かけたりしないし、ちゃんとヒューバートか他の騎士に護衛をお願いしてついて行ってもらうから。ねっ、柊くん」

「うん。それなら心配なさそうだね」

ぼくはお父さんと一緒にいけるなら大賛成だ!
だけど、アンドリューさまの表情は曇っている。

「だが……なぁ、フレデリック。其方はどう思う?」

「えっ? 私もちょっと……」

フレッドは突然話を振られて焦っていたけど、どうやらアンドリューさまと同じ意見のようだ。
まぁ、確かにあんなことがあったし、心配させちゃうのはわかるけどね。
騎士さんが護衛でついてきてくれるなら問題なさそうだけど……。
お父さん、どうするんだろう?

「トーマ、やっぱり次の機会に私と……」

「えーっ、アンディーは僕と早くお揃いのピアスも指輪もつけたくないの?」

「ぐっ――! そ、それは……」

「ねぇ、僕……早くアンディーの瞳のピアスつけたいよ。だめ??」

「うぅ……っ!」

お父さんがアンドリューさまの手を両手で握りながら、そう頼み込むと

「はぁーっ。いいだろう。だが、くれぐれも気をつけるように! いいな、トーマ」

とがっくりと肩を落としながらも最後には許してくれた。

「うわぁっ! ありがとう、アンディー!」

お父さんはよほど嬉しかったのか、アンドリューさまに抱きついて頬にキスをしていた。
ふふっ。こういう無邪気なところがお父さんは可愛いんだよね。

でも、お父さんと城下に行けるんだ!
嬉しいな。
レイモンドさんに会うのも久しぶりだし、なんか楽しくなりそう。

「じゃあ、柊くん。明日、朝食食べたらすぐに行こうね」

「はーい」

ぼくはウキウキ気分でフレッドと共に部屋へと戻った。

部屋についてすぐにフレッドに後ろから抱きしめられてびっくりしてしまった。

「わっ、フレッドどうしたの?」

「私は心配なんだ。いくら護衛がつくと言っても、シュウが可愛すぎるから……」

ぼくは胸元にあるフレッドの手を握りながら、

「ふふっ。フレッド……大丈夫だよ。お父さんから離れないようにするし、終わったらすぐに帰ってくるから」

と宥めるように言うと、フレッドはようやく安心したのか『わかった』と言ってくれたが、

「絶対にトーマ王妃と護衛から離れるな。シュウ、約束だぞ」

と約束させられてしまった。
そんなに信用ないのかな……と思いつつも、フレッドの心配してくれる気持ちが嬉しくて、
ぼくは『はーい』と元気に答えた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

支配者達の遊戯

BL / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:863

生産チートの流され魔王ののんびり流されライフ

BL / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:1,885

片翅の蝶は千夜の褥に舞う

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:176

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,927pt お気に入り:532

剣豪令嬢と家出王子の逃避行

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:71

結婚三年目、妊娠したのは私ではありませんでした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,106pt お気に入り:1,161

処理中です...