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第四章 (王城 過去編)

花村 柊   27−1※

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ひと月近くに及んだレナゼリシア領への視察旅行も明日終わりを告げる。
こんなにも長い間、フレッドやお父さんたちといろんな体験ができると楽しみにしていたけれど、終わりが近づくとあっという間だった気がする。

旅行初日には急に元の世界に戻されて、途轍もない絶望と孤独を味わった。
ずっと1人でいたあの時に戻っただけなのに、フレッドの愛を知ってから戻されたあの世界は絶望以上の何ものでもなかった。
元の世界での自分をかなぐり捨ててでもフレッドの元に戻りたい……その一心で自分の胸に包丁を突き立てた。
後でフレッドやお父さんに散々怒られてしまったけれど、それでもあの判断は正しかったと思っている。

フレッドの元に戻れた時、孤独で張り裂けそうだった心がみるみるうちに温められていく……そんなこれ以上ない幸せを味わったんだ。
あの時、ぼくの居場所はフレッドの隣だけなんだ、そう思った。
あの時の恐怖はもう二度と味わいたくはないけれど、フレッドの隣にいられることがぼくにとっての最大の幸せなんだってわかったことはよかったと思う。

レナゼリシア侯爵家での数日は楽しかった。
フレッドと一緒に初めて夜会に参加して、緊張したけれどフレッドのリードに助けられてみんなの前でダンスを踊ることもできた。
いつでもフレッドが傍にいてくれてるって実感できて嬉しかったな……。

あっ、そういえば……結局パメラさんとは初日しか会うことはできなかったけれど、病気は良くなったかなぁ。
田舎で静養するって言っていたから、今頃はきっと元気になったんだろうな。
もう会うことは難しいだろうけど、これから発展していくレナゼリシア領を侯爵さまとヴォルフさんとパメラさんとで頑張って盛り立てて行ってほしいなって思う。

試作品で作ったフルーツワインやフルーツ酢もお父さんたちと一緒に味わえないのは寂しいけれど、いつかぼくたちの時代に戻った時にぜひレナゼリシアのフルーツワインやフルーツ酢を味わってみたい。
きっとあの日お父さんと果樹園を歩いた日のことを思い出すはずだ。

お父さんとアンドリューさまが『神の泉』で神さまと直接お話ししたのもすごいことだったな。
あの時神さまから授かった金剛石で指輪を作るのが待ち遠しくてたまらない。

あの後にあったアンドリューさまとお父さんの喧嘩もびっくりしたな。
今思えば、あれは結局痴話喧嘩だったんだな。
まぁ、そうだよね。
あんなにアンドリューさま大好きなお父さんが他の人を好きになるなんて考えられないもん。

ふふっ。アンドリューさまもお父さんもお互い好きすぎて周りが見えてないんだもんな。


「シュウ、どうした? 何を考えている?」

ぼくが馬車の外を流れる景色を見つめながら、この旅での出来事を思い出していたから心配してフレッドが声をかけてくれたみたいだ。

「ううん。この旅行、色々あったけどすごくいい思い出になったなって思い返してただけ」

「そうか。私もシュウと素晴らしい体験ができて楽しかったよ。だが……」

「んっ?」

「あの時の恐怖だけはもう二度と体験したくはないがな」

フレッドの指がぼくの左胸のあたりをスッとなぞる。
あの三日月の痕に触れられて身体がゾクリと震えた。

「……ひゃ……っ、さ、触らないで……」

「なぜだ? これはシュウが私の元へ戻ろうとしてくれた痕だろう。言うなれば、これは私への愛の証だな」

ニヤリと意味ありげな笑みを見せてきた。
これはフレッドがぼくに何か悪戯をしようとしてる顔だ。

フレッドの指がぼくの服の中に侵入してこようとしているのに気づいて、

「だ、だめ! 外にいる騎士さんたちに見られちゃうっ!」

と慌ててその侵入を阻んでいると、フレッドは『確かにそれはだめだな』とぼくの服の中から指を出した。

わかってくれてよかったとホッと胸を撫で下ろしていると、フレッドは馬車の窓の外を並走する騎士さんたちに

「もう少し離れていろ。決して中を覗くな」

と凄みのある声で命令していた。

えっ? と思った時には、もう騎士さんたちはぼくの視界からは消えてしまっていた。

「シュウ、これで良いだろう?」

振り向いたフレッドは満面の笑みを浮かべていたけれど、ぼくは恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなかった。

ぼくがあまりの恥ずかしさに何も言えずにいると、フレッドがぼくを抱きしめてきた。

「シュウ、どうしたんだ?」

「もうっ、フレッドったら! そんな命令したら、今からこの馬車の中で何かやりますって宣言してるみたいじゃない!」

「? しないのか?」

服の上から腰の辺りを優しく撫でられて、『んっ……』と声が出てしまう。

「シュウ、だめか?」

耳元でフレッドの甘い声で囁かれると、ダメだって言えなくなっちゃうじゃない。

「で、でも……」

「シュウ……」

そんな縋るような瞳でフレッドにじっと見つめられたら、もう抗うことなんてできなかった。

ゆっくり目を閉じると、それが合図のようにフレッドの唇が重なってきて下唇を軽く噛まれる。
その刺激に『んっ』と声を上げた瞬間、フレッドの舌がぼくの口内に滑り込んできた。
その柔らかで肉厚な舌がぼくの口内を縦横無尽に動きまくり、グチュグチュと音を立てながら舌を絡めてくる。
時々フレッドの甘い蜜のような唾液が流れてくるのを、ぼくは無意識のままにコクリと飲み干す。
フレッドはそれを蕩けるような笑顔で見つめながら、優しくぼくの頭を撫でていく。

ああ……なんて幸せなんだろう。

キスをしながらフレッドの大きな手で髪を撫でられ、首筋に触れられると、身体がぞくりと震えてしまう。

「フ、フレッド……もっと、さわって……」

もうぼくは馬車の中だとか、そんなことは考えられなくなってしまっていた。

「ふふっ。可愛いな、シュウは」

フレッドは僕を向かい合わせに膝に座らせると、胸元のボタンを開け指を差し入れてそっと胸の先に触れてきた。
指先が掠めただけで身体にビクッと電流が走ったような刺激がくる。

「もうこんなに尖らせてるのか、シュウはいつからこんなにいやらしい身体になったのだ?」

そう言いながらぼくの胸の先を爪先でカリカリと引っ掻いてくる。

「ひゃぁ……っ、だ、め……っ」

「じゃあ、こっちにするか」

フレッドは服のボタンをさらに開け、ぼくの胸を曝け出した。
弄られてぷくりと大きくなった胸の先が空気に晒されて、ゾクゾクしてしまう。

フレッドはぷくりと膨らんだぼくの胸の尖りを目を細めて嬉しそうに見つめた後で、大きな口を開けパクリと口に含んだ。

「……んぅ……ああっ……」

軽く噛まれながら舌先で胸の尖りをコロコロと転がされるのが気持ち良すぎて、

「……んっ……ふぅ……」

我慢できない声が漏れ出てしまう。

「私しか聞かないのだから、もっと声を聞かせてくれ」

「んんっ……あっ……、やぁ……っ」

「ああ……可愛い」

激しくなる舌の動きに声をあげるとフレッドは嬉しそうに笑って、片方の胸の先に吸い付きながら、もう片方の胸を揉み始めた。

「ふぁあ……んっ……ああっ、ああっ……だ、だめ……っ」

フレッドの手の動きが気持ち良すぎて身体が熱くなってきた。
これ以上胸に刺激を与えられたら疼いておかしくなってしまいそう。

「そこばっかっ……ああっ……んっ」

「どうした? ここ以外もして欲しいのか?」

ここ以外って……もしかして?

ぼーっとした頭で考えている間に、フレッドの長い腕がぼくのスカートの裾を捲り上げていく。

「やぁ……っ、そこ、だ……めっ……」

「どうしてダメなんだ?」

だって……だって……。
フレッドに尋ねられても答えられるわけがない。
胸への刺激だけでもう溢れちゃってるだなんて……。

ぼくは恥ずかしくて何も言えずにいる間に、フレッドの手がするりと僕の下着の中に潜り込んできた。

「ああっ……やぁっ……」

気づかれる前に身を捩ろうとしたけれど、フレッドの指が先にぼくのモノに触れてクチュリと甘い水音が耳に入った。

「もうこんなに濡らしてたのか」

「んんっ、ご……ごめんなさい」

「ふふっ。どうして謝るんだ? 私はシュウが感じてくれて嬉しいのに」

「んんっ、だっ……て……あっ……ぼく、ばっかり、んっ……はずかしっ……い」

一生懸命答えているのに、フレッドの指がぼくの敏感な先端をクリクリと撫で回すからうまく答えられない。
馬車の走る音がうるさいはずなのに、ぼくのモノから聞こえる水音だけは鮮明に耳に入ってくるし、もう恥ずかしすぎてどうしていいかわからない。

フレッドはぼくの言葉に綺麗な瞳を細めながら、

「そうか。シュウは私と一緒がいいのか」

というと、ぼくの下着に差しこんでいた手を引き抜き、さっと自分の前を寛げた。
そして驚くほどに昂ったフレッドのモノを手早く取り出し、ぼくの下着を下げささやかなぼくのモノを重ね合わせて一緒に握り擦り合わせてくる。

「シュウ……これでいいだろう?」

「やぁ……っ、んんっ……フレ、ッドの……固くて熱い……」

「――っ!」

「なっ、な、に……お、っきぃ……」

急にフレッドのモノがビクンと大きくなって驚いてフレッドを見ると、

「シュウ、これ以上煽るな。我慢できなくなる」

と言いながら、手の動きを早めていく。

ヌチュヌチュ、クチュクチュ……

フレッドの動きに合わせてぼくから溢れた蜜とフレッドの甘い蜜が混ざり合ったいやらしい水音が聞こえる。
その音が耳に入ってくるだけでどんどん興奮が増していく。

「……ひゃあ……んんっ、あっ……あっ……だ、めっ……イっちゃ……うぅ……」

「いいよ。一緒にイこう」

「はあ……あんっ……あっ、あっ……んんっー!」

「くっ……!」

フレッドの激しい刺激にぼくは我慢できずにビュルビュルと蜜を吐き出すと、一歩遅れてフレッドも甘い蜜をビュクビュクと吐き出した。

とてつもない快感が全身を巡っていて、ぼくが目を瞑ってはぁはぁと荒い息を上げている間に、フレッドはどこから用意したのかわからない濡れタオルで蜜で汚れたぼくの身体を綺麗に拭いてくれた。
やっと息が落ち着いてぼくが目を開けると、フレッドは嬉しそうな顔でぼくを見つめていた。

「続きは宿でな」

そう言って、ぼくの頬にキスをしてくれた。
その後すぐに休憩地に着いたけれど、ぼくはさっきの快感ですっかり腰砕けになってしまっていて、フレッドは嬉しそうにぼくを抱きかかえて馬車を降りてくれた。

パッと前の馬車を見ると、なぜかお父さんもアンドリューさまに抱きかかえられながら降りてきた。
お父さんの顔が赤かったからなんとなく同じ状況だったのかなと察してしまって、お父さんと目が合うと2人してなんとなく恥ずかしい気分になってしまった。

ゔーっ、やっぱり馬車の中で……え、えっちなことするのはやっぱり照れちゃうな……。

休憩地でフレッドとアンドリューさまは紅茶を、ぼくとお父さんは紅茶と焼き菓子を食べながら、おしゃべりに夢中になっていた。

「ここのお菓子おいしいでしょ? 本当はね、行くとき連れて行くはずだったんだけど柊ちゃんが大変なあとだったから行くのやめたんだ。あの時はどうなることかと心配したけど、こうやって無事に食べに来られて本当に嬉しい」

「わぁ、そうだったんだ! よかった、ぼくもこんなに美味しいお菓子食べられずにいたら絶対後悔してたっ!
トーマさま、連れてきてくれてありがとう」

そういえば、お城にいた頃はあまり部屋から出ることもなかったし、部屋の中ではいつもお父さんと呼んでいてそれが癖になっちゃってたけど、この旅行で『トーマさま』と呼ぶようになって最初はなかなか慣れなかったんだよね。
お父さんは『柊くん』と『柊ちゃん』を巧みに使い分けててすごいなって思う。
ぼくはひと月近く経って、だいぶ間違えずに『トーマさま』って呼べるようになったなぁ。
お城に帰ってからも部屋の中以外は『トーマさま』って呼ぶようにしないとね。

このまま行けば明日の昼には王都に到着するらしい。
ほんと、この旅行中は夢みたいな時間だったな。

「なんか、帰ると思ったらホッとするけど、仕事がいっぱい溜まってると思うと憂鬱になっちゃうな……」

「ふふっ。確かにそうかも。アンドリューさまもトーマさまも忙しいだろうから、空いた時間にちょこちょこ描き始めるね」

「うん。柊ちゃんならいつでも僕たちの部屋に来て描いてくれて良いからね。こう考えたら、他の絵師さんじゃなくてよかったかも」

城についたら早速肖像画を描き始めるんだ。
結構大きなサイズだし、そんなにすぐには出来上がらないだろうからまだお父さんと一緒にいられる。
元の世界でフレッドの帰りを待っている人がいるからわざと遅くしたりはしないけれど、ぼくしか描けないようなアンドリューさまとお父さんの素顔を描けたら良いなと思っている。

「そういえば、大事なことを話しておくのを忘れてた」

「大事なことって?」

「うん。あのね……アンディー、絵を描き始める前に柊くんとアルフレッドさんにはあのことを話しておいた方がいいんじゃない?」

「ああ、そうだな。ただ、ここでは他人に聞かれる恐れもあるから、城に帰ってから私たちの部屋で話すことにしよう。
あの部屋なら誰に聞かれることもない」

「そうだね、わかった。ごめんね、柊ちゃん……思わせぶりなこと言っちゃって」

「ううん。それは大丈夫だけど……なんの話かすごく気になるね」

「ふふっ。でも悪い話ではないよ。それは安心して」

正直なところ、ものすごく気になっていたけれど、これ以上追及したところでアンドリューさまの決めたことに逆らうなんてお父さんがするはずもないし、お父さんが安心してって言ってくれてるならそれを信じよう。
アンドリューさまとお父さんがぼくたちに悪いことが起こるようなことするはずないもんね。

ドキドキするけど、話してくれるのを大人しく待っていよう。


その日の夜、最後の宿に着いて4人での食事を終えおしゃべりを楽しみ、ぼくたちはそれぞれ部屋に入った。

「シュウ。寝室に行こうか」

フレッドに手を引かれ、寝室のベッドに潜り込む。
フレッドはそっとぼくを抱き寄せ、

「この旅行はどうだった?」

と優しい声で尋ねてきた。

「毎日がすごく楽しかったよ。夜会でフレッドとダンスを踊れたのも楽しかったし、レナゼリシアの特産物をお父さんたちと考えるのも楽しかった。それにね、お父さんたちが『神の泉』で神さまに会って聞いてきたっていうお話がすごく心に残った」

「私も陛下からお聞きしたが、シュウにとっては辛い話だったんじゃないか?」

「ううん。そんなことないよ。本当なら生まれるはずのなかったぼくがあっちの世界で大変だったけど、生きていけたのは神さまが見守ってくれていたからだって思えたし、お父さんが神さまの間違えであっちの世界に行ってなかったら、最初からこの世界にいてアンドリューさまと知り合っていたんだよね。そうしたらぼくは決して生まれることはなかったんだからフレッドと会えなかったし……こうやってフレッドの温もりも匂いも知らずに、どこか全然知らない世界でぼくじゃない誰かに生まれていたのかもしれないと思ったら、お父さんには悪いけどあっちの世界にいてくれてよかったって思っちゃった」

「そうか……。そうだな。私たちがこうやって出会えて、そしてこの時代で同じ時間を過ごせるのもよく考えたら幸せなことなのだな。シュウ……この旅行はすごく有意義なものになったな」

「うん。もう心残りはないよ。お城に帰ったら一生懸命心を込めて肖像画を描くね。フレッドも手伝ってくれるんだよね?」

「ああ。任せてくれ! シュウの邪魔にはならないように頑張るよ」

『ふふっ』
『ははっ』

ぼくたちは笑顔と充足感に包まれながら、旅行最後の夜を抱き合って眠った。


城下町に入り、お父さんたちの乗る馬車にはたくさんの人たちの視線が注がれている。

「わぁ~っ! アンドリュー陛下。トーマ王妃。お帰りなさい!」

歓迎ムードたっぷりに沿道にもたくさんの人々が溢れてあちらこちらから声をかけられている。

ひと月近くも王都を離れていたんだもんね。
そりゃあこれくらいの騒ぎになっちゃうよね。

驚くほどのすごい人気に改めてアンドリューさまとお父さんの人気の高さを思い知った。

「本当にすごいね、お父さんたち」

「ああ。今朝のうちに早馬を飛ばしていたから余計だろうな。民たちも楽しみにしていたことだろう」

馬車はゆっくりとした速度を保ったまま、王城へと入っていった。

玄関には宰相のカーティスさんを始め、お城で働くたくさんの人たちが並んで待っている。

こんな光景も久しぶりだなと思いながら、ぼくは馬車の扉が開かれるのを待った。

まず、お父さんたちの馬車の扉が開かれた。
さすがに今日は抱きかかえられて降りてはいないみたいだ。

お父さんが降りたのを確認して、ぼくたちの扉が開かれ、先に降りたフレッドに手を引かれながらぼくもゆっくりと馬車を降りた。

目の前に立つ騎士さんたちに『お帰りなさいませ』と声をかけられ、
『ただいま帰りました』と笑顔を向けると、みんなの顔がパーっと赤くなっていく。

あれ、どうしたんだろう?
ぼく、何か変なことしちゃったかな?

フレッドに小首を傾げてみせると、『大丈夫だ、問題ない』と言ってぼくの腰に手を回してさっと騎士さんたちから遠ざけた。
後ろを振り返ってみると、さっき顔を赤くしていた人たちが今度は青褪めた顔をしている。
一体何だったんだろう?

少し気になったけれど、お父さんたちがもうお城の中に進んでいっているので、急いでついていった。

「カーティス、留守中何か問題はなかったか?」

「いいえ。お陰様で問題はございませんでした。
あっ、そういえば、ブランシェット侯爵よりこちらの手紙をお預かりしております」

「そうか。わかった」

ブランシェット侯爵って、どこかで聞いた覚えがあるような……ないような……。
うーん、ブランシェット侯爵……。

ああっ、思い出した!

ぼくたちに贈り物を送ってくれたけれど、赤ちゃんがいる人と中身を間違えちゃった人だよね。
そうだ、そうだ。思い出した。
お父さんたちのところにメロンみたいに美味しいワインをくれた人だ。

あのワイン美味しかったんだよね。
酔っ払ってフレッドに怒られて、お父さんとアンドリューさまにも迷惑かけちゃったやつ……。

なんかそんなに前の出来事じゃないけど、懐かしく感じる。

アンドリューさまは手渡されたブランシェット侯爵さまからのお手紙をそっと懐に入れた。
部屋へと向かう道すがら、お父さんも一緒にカーティスさまから報告を聞き、急ぎでない話は明日からの政務でということで話はまとまった。

長旅から帰ってきたばかりなのに、すぐに仕事の話か。
大変だな、アンドリューさまもお父さんも。

僕たちは一度部屋に戻って着替えて少し休んでからお父さんたちの部屋に向かうことにした。
明日からまた忙しくなるんだから、お父さんたちも少しは休まないとね。

ひと月近くも空けていたけれど、きっと毎日掃除をしてくれていたんだろう。
埃ひとつなく、空気も澱んでいない。

一緒に部屋に入って荷物を運んでくれているブルーノさんに

「部屋を綺麗にしていてくれたメイドさんたちにお礼が言いたんだけど……」

というと、

「シュウさまの嬉しいお言葉、このブルーノが責任持ってお伝えさせていただきます」

と嬉しそうに笑っていた。

フレッドを見ると、『うん』と頷いていたから、それでいいんだろうと思って
『お願いします』と言っておいた。

「フレデリックさま、シュウさま。長旅でお疲れでしょう。お風呂をお入れいたしましょうか?」

「ああ。そうだな。久々に湯船に浸かるのもいい。頼む」

「はい。畏まりました」

そういうとブルーノさんは寝室の奥にあるバスルームに入っていった。

「フレッド、ぼくお風呂に入りたかったから嬉しい」

「そうだろう。私もシュウと入りたかったからな。シュウも同じで嬉しいよ」

ここのお風呂はお父さん用に作られているから1人でも平気なんだけど、フレッドが喜んでいるからまぁいいか。
ぼくも1人で入るのはちょっと寂しいし。

「お風呂の準備が整いましてございます」

「ああ。ありがとう。じゃあ、シュウ、行こうか」

『はーい』と手を差し出したけれど、フレッドは軽々とぼくを抱きかかえてバスルームへと連れていった。
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