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第四章 (王城 過去編)
花村 柊 26−1※
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「お父さん、アンドリューさま。お帰りなさい!」
笑顔で迎えようと思っていたのに、お父さんのにこやかな顔を見ると急に涙が出そうになってしまった。
ぼくは泣きそうになるのを必死に抑えながら、笑顔を浮かべお父さんを迎えた。
『神の泉』で誓い合ってきっと神の祝福を受けて幸せの絶頂にいるだろう2人に泣き顔なんか見せてはいけない。
「柊くん? どうかした?」
お父さんはぼくの顔を一目見ていつもと様子がおかしいことに気づいたらしい。
必死で抑えてたのに……やっぱりお父さんを騙すことなんてできないんだな……。
「あの、ね……」
何から話せばいいんだろう。
お父さんたちの話も聞きたいのに……。
泣かずに笑顔で……ってずっと思ってたのに、お父さんの顔を見たら一気に感情が溢れてどんどん目が潤んできてしまう。
「シュウ」
フレッドがさっとぼくの傍に来て、そっと抱きしめながら
「申し訳ありません、トーマ王妃。シュウは少し疲れているようです。
お話は明日でもよろしいでしょうか?」
と頼んでくれた。
「う、うん。いいけど……柊くん、大丈夫?」
心配そうに声をかけてくれるお父さんにぼくは頷くことしかできなかった。
「もう夜も遅いし、今から話し始めたら寝る時間がなくなってしまう。
明日、トーマはシュウと馬車に乗るといい。そこでなら、ゆっくり落ち着いて話せるだろう?
私もフレデリックとゆっくり話もしたいしな」
アンドリューさまがそう提案してくれて、お父さんも『そうだね』と納得したようだ。
ここでお開きになり、お父さんたちは『お休み。ゆっくり休んでね』と部屋に帰っていった。
しんと静まり返った部屋で、
「シュウ、寝室に行こう」
とフレッドに手を引かれ、ベッドに横になった。
何も言わずにぎゅっと抱きしめてくれるフレッドの胸元にすり寄って気持ちを落ち着かせようとした。
「シュウ……トーマ王妃の顔を見て心が揺れたか?」
「えっ?」
思いがけない言葉にパッと顔を上げると、フレッドが少し寂しげな表情でぼくを見ていた。
「元の世界に帰りたくなくなったか?」
「ううん。違う。そうじゃないよ」
「いや、シュウがそう思ってしまっても仕方がないと思ってる。
肉親との別れはそう簡単に割り切れるものではないからな」
そうか。フレッドもご両親は亡くなってるんだ……。
会いたくても会えないのはぼくだけじゃない。
それなのに、ぼくは会えないはずの人に会うことができて、楽しい思い出まで作れたんだから幸せだと思わなきゃ。
「フレッド……ごめんね。さっきはなんだか感情が昂っちゃって。
でもね、さっき決めたことに迷いなんか何もないよ。明日はちゃんとお父さんに話ができるから!」
「そうか。だが、シュウ……くれぐれも無理はするなよ」
「うん。ありがとう」
ぎゅっとしがみつくとフレッドの温もりと共に良い香りがふわりと漂ってきた。
「ああ……フレッドの匂い、やっぱり好きだ……」
「えっ……?」
戸惑ったような声を出したフレッドをそっちのけに、ぼくはさらに擦り寄って濃い匂いに包まれながら眠りについた。
『ううーん』
ふわぁ、よく寝た。夢も見ないほどぐっすり眠って身体がスッキリしてる。
視線を感じて見上げるとフレッドがぼくを見つめていた。
「フレッド、おはよっ」
熟睡してパッチリした目でフレッドを見つめると、フレッドは心なしか疲れているように見える。
「……ああ、おはよう」
「あれ、フレッド……どうしたの? よく眠れなかった?」
「いや、大丈夫だ」
笑顔を見せるフレッドになんだか違和感を感じながらも、朝の挨拶をしようと抱きついてキスしようとフレッドを見上げたまま目を瞑った。
すると、フレッドはくっついていた身体をさっと離し、ぼくの唇に『ちゅっ』と軽いキスをしてくれた。
あれっ? いつもならもっとぎゅっと強く抱きしめてくれるのに……。
朝のキスはいつももっと深くしてくれるのに……。
なんで? 寂しいよ……。
「なんかいつもと違う……。フレッド、どうしたの?」
ぼくは離れて行ったフレッドに縋り付くようにぎゅっと抱きつくと、ぼくの太ももの辺りに何か棒のような固い感触があった。
「あれ? フレッド、何か持ってる?」
「えっ? あっ、ちょっ……」
ぼくはフレッドが返事をする前に布団の中に手を入れ、その感触があった辺りをゴソゴソと探していると、ガッチガチの何かが手のひらが触れた。
「あっ、これこれ! なんだろう? ねぇ?」
そう言ってそれを人差し指でツンツンと触れながらフレッドを見上げると、フレッドは真っ赤な顔をしてぼくから目を逸らしている。
???
一体、何?
ぼくは気になって気になって、布団を捲るとぼくの人差し指が触れていたのは…………
フレッドのアレだった!!!
ローブを着ていてもわかるほどにギューンと勃ち上がったそれに、ぼくはカァーっと顔が赤くなるのを感じながらも、同時にこんなに苦しそうなくらいガッチガチになっているフレッドのモノが可哀想になってきて、思わず、指先でツツーッと撫でてしまった。
「――っ! シュウ!」
真っ赤な顔でビクンと身体を震わせながら一生懸命耐えているフレッドの姿がなんだか面白くなってしまって、
「ふふっ。こんなに固くなって可哀想だから、ぼくが助けてあげるよ」
とフレッドのローブを捲ると、フレッドのモノはその瞬間を待ち侘びていたようにピョコンと飛び出してきた。
それがまるで生き物のように思えて可愛くてたまらなく感じた。
そぉっと優しく丁寧に両手でそれを包み込み、上下に扱きながらパクリと咥えると、
「ああぁーーーっ、シュウ! そ、そんなことをされては……」
何度か顔を動かしただけで、フレッドは
『ああっ、も、もう……だ、だめっ……だ……っ』
と悔しそうな声を上げながら、ぼくの口内に甘い甘い蜜を思いっきり放った。
普段より一層甘い気がする蜜を、舌の上でじっくりと味わってからコクンと飲み干した。
蜜が喉を通っていくのを感じながら、フレッドを見るとフレッドはなぜか恥ずかしそうにぼくを見ていた。
「美味しい蜜、ありがとう。ご馳走さま」
笑顔でそういうと、フレッドは小さな声でボソボソと呟いた。
「――――――じゃ、ないんだ」
「えっ? 何?」
「だから! いつもはこんなに早いわけじゃないんだ!」
「早いって……何が?」
フレッドの声に驚きながらもそう尋ねると、フレッドは真っ赤な顔で『はぁっ』とため息をつきながら、
「実を言うと、昨夜、シュウが可愛いことを言ったまま、すぐに眠ってしまったから……ずっとコレが昂ってしまって、あまり眠れなかったんだ。寝ている間にそっと離れて、その……じ、自分で処理しようと思ったのだが、シュウが離してくれなかったから朝までずっと昂ったままで……。そんな状態でシュウに触れられたから、それで我慢できずに、あんなに早く……。
シュウに堪え性のないやつだと思われたのではないかと……」
最後の方はボソボソとかなり小さい声になっていたけれど、ちゃんと聞こえた。
つまり……昨日から我慢しすぎて早くイッてしまったのが恥ずかしいってこと?
ふふっ。フレッドったら。
なんでこんなに可愛いんだろう。
きっと、この前勝手にやらないで起こしてくれれば良かったのにってぼくが言ったのを守ってくれたんだろう。
そのせいでこんなに顔を真っ赤にして……ああ、もうフレッドが愛おしくてたまらない。
「フレッド、ぼく……ちゃんとわかってるから。ぼくを起こさないように我慢してくれたんだよね。
ほんと、大好きだよ」
フレッドはホッとした表情を見せながら、
「シュウが子猫のように抱きついてくるから、理性を保つのが大変だったぞ」
と少し拗ねながら抱きついてきた。
「今日の夜は寝ないようにするからね」
笑ってそう言うと、フレッドの淡い水色の瞳がギラリと光った気がした。
もしかして……ぼく、余計なこと言っちゃったのかな……。
フレッドはさっきまでの疲れたような表情から一転、ウキウキとした様子で今日の支度を始めた。
ぼくが顔を洗っている間に自分の着替えをすませ、ぼくの着替えまで選んでくれていた。
あまりの変わりように驚きながらも、まぁ、いいかと思い、ぼくも急いで出かける支度をしてフレッドと2人で朝食をとった。
宿の玄関についた時には、もうすでに馬車が準備されていて、あとはお父さんたちがくるのを待つばかり。
まだかなーっ、なんて思っていると、後ろから『柊ちゃん!』と軽やかな声が聞こえた。
パッと振り向いてお父さんを見ると、
「うん。いい顔してる! 今日は元気そうだね!」
と笑顔で言ってくれた。
「心配かけてごめんなさい」
「ふふっ。いいって。話はゆっくり聞くからね。あっ、アルフレッドさん、おはよう」
「陛下。トーマ王妃。おはようございます」
フレッドがお辞儀をすると、お父さんは『うん、うん』と頷きながら、
「今日はアンディーをよろしくね」
とウィンクしてみせた。
「トーマ! そのようなことを妄りにするでない!」
焦ったようにお父さんを嗜めるアンドリューさまの姿が可愛くて、思わず『ふふっ』と笑ってしまった。
ぼくの笑い声にお父さんも一緒になって笑っていた。
「はーい。ごめんなさい。じゃあ、柊ちゃん。行こっか」
お見送りに出てきてくれていた宿の人たちにお礼を言ってから、ぼくたちは2人で馬車に乗り込んだ。
アンドリューさまとフレッドの乗った馬車が出発してから、ぼくたちの馬車はゆっくりと動き始める。
少しずつ少しずつ速度を上げていく馬車の音を聞きながら、ぼくは向かい合わせに座るお父さんを見つめた。
「お父さん……今日は隣に座ってもいいかな?」
「うん。僕もそう言おうと思ってた。こっちにおいで」
お父さんが席の隣をぽんぽんと叩いたので、いそいそと隣に座ると、
『ふふっ』どちらからともなく、笑いが溢れた。
「柊くんも話があるんだよね。どっちから話そうか?」
「ぼく……お父さんの話から聞きたいな」
そう見つめると、お父さんは『わかった』と言って、昨日の『神の泉』での出来事を話し始めた。
「森に入ってかなり歩き回ったんだけど、なかなか辿り着けなくてね。
もう少し探したら諦めようって話してたら……これ! 突然これが光って道を教えてくれたんだよ」
お父さんは得意げな表情で胸元に下げていたネックレスをぼくにみせてくれた。
「ネックレスが光った? そっか、じゃあ……あれは見間違いじゃなかったんだ!」
「えっ? 見間違いって?」
ぼくは出発の朝、お父さんのネックレスに触れた時に一瞬光が見えたような気がしたことを話すと、お父さんは納得したように頷いた。
「そうか、やっぱり柊くんは神さまに愛されてるんだね。柊くんのおかげで僕たちは『神の泉』に辿り着けたんだよ」
「神さまに愛されてる? ぼくが……?」
「うん。これから大事なことを話すからよく聞いててね」
お父さんは真剣な表情で、昨日の不思議な体験を教えてくれた。
「アンディーと誓い合ったあと、光に包まれて気がついたら辺り一面真っ白い場所にいたんだ」
「それって、もしかして……」
「そう。多分、あそこは天国だったんじゃないかな。僕ね、神さまとお話ししたんだよ」
サラリと話してくれている内容があまりにも凄すぎて頭がパンクしてしまいそうだ。
お父さんが神さまとお話し?
それって凄すぎない??
「神さまって、えっと……?」
「全世界の神さまだって言ってた。フィリオンサーラっていう神さまがね、今まで僕たちに起こった出来事を話してくれたんだよ」
お父さんが本当はアンドリューさまの唯一としてこの世界に生まれるはずだったこと。
この世界の神、フォルティアーナの手違いであっちの世界に行ってしまい、神さまがずっとお父さんの行方を探していたこと。
お父さんが事故に遭いそうになったところを見つけて急いでここに飛ばしたこと。
生まれるはずのないぼくが生まれたことを神さまが心配してずっと見守っていてくれたこと。
そして、未来のオランディアで傷つき苦しんでいるフレッドを助けるためにぼくをフレッドの元に行かせたこと。
お父さんの口から出てくる話がどれも驚きの連続で、ぼくは相槌すら挟むこともできずにただじっと話を聞き続けていた。
「柊くん、驚いたよね。僕も話を聞いて驚きすぎるくらい驚いたけど、納得できるところもあって……なるほどねって思っちゃった」
「納得できること?」
ぼくの聞き返したことにお父さんは少し遠い目をしながら、ゆっくりと口を開いた。
「うん。僕はさ、弟をものすごく可愛がってたし、大好きだったんだ。
でもなぜか弟は小さい頃からずっと僕のことを目の敵にしてて、
『兄さんがいなければいいのに。なんでいるの?』ってしょっちゅう文句言ってたんだ。
僕は長男に生まれちゃったから跡を継ぐのは仕方ないと思って運命を受け入れていたけれど、あの子はずっと当主になりたがってたんだよね。僕がいなければ、あの子は何の苦労もなくとも当主として跡を継げたはずだったのに。
せめて順番が違ったらね……なんて心の中でずっと思ってた。
でも、僕が間違われずにこの世界に生まれていたら、弟は長男として生を受けていたはずなんだ」
「あっ……」
「そう。きっと、弟は頭のどこかで自分が長男だったはずなのにってわかっていたのかもしれないね。
それを僕の存在が邪魔をしてたんだから、そりゃあ憎みもすると思う」
そっか。弟さんの話聞いた時は、お父さんの婚約者取ったりしてひどい人だと思ったけれど、そんな事情があったなら、弟さんも被害者だったんだなって思う。
神さまの手違いでお父さんもだけど、弟さんもきっと苦しい思いをしたんだな。
「僕、昨日神さまからフォルティアーナのしてしまったことを許して欲しいって言われて、
『僕は今幸せだから大丈夫』って答えたんだ。
確かに辛いこともあったけど、今はこの世界に戻してもらえて、最初の決まり通り、アンディーと出会って幸せになったから神さまの手違いだって許そうって思えた。
でもね……一晩じっくりと神さまの話を考えてたら、許すって答えていいのは僕じゃない気がしてきたんだ」
お父さんの気持ちが痛いようにわかる。
今、自分が幸せに過ごしている分、余計に弟さんへの申し訳ない気持ちでいっぱいになってるんだろうな。
ぼくは何も言葉にできずにただ頷くことしかできなかった。
「あの子が一番の被害者だったかもしれないな。間違われた僕よりもずっと……。
1人で辛い思いをしたんだろうな」
悲しげな表情をしながら、遠くを見つめるお父さんの視線の先には、遠い日本にいる弟さんの顔があるんだろう。
「せめて、僕がいなくなってからは幸せに過ごしてくれてたらいいな……」
ぽつりと呟いたその言葉に弟さんへの想いが込められている気がした。
「大丈夫。きっと、幸せに過ごしてるよ」
「うん。そうだね」
お父さんはほんのり涙を滲ませたまま、綺麗な笑顔を見せてくれた。
笑顔で迎えようと思っていたのに、お父さんのにこやかな顔を見ると急に涙が出そうになってしまった。
ぼくは泣きそうになるのを必死に抑えながら、笑顔を浮かべお父さんを迎えた。
『神の泉』で誓い合ってきっと神の祝福を受けて幸せの絶頂にいるだろう2人に泣き顔なんか見せてはいけない。
「柊くん? どうかした?」
お父さんはぼくの顔を一目見ていつもと様子がおかしいことに気づいたらしい。
必死で抑えてたのに……やっぱりお父さんを騙すことなんてできないんだな……。
「あの、ね……」
何から話せばいいんだろう。
お父さんたちの話も聞きたいのに……。
泣かずに笑顔で……ってずっと思ってたのに、お父さんの顔を見たら一気に感情が溢れてどんどん目が潤んできてしまう。
「シュウ」
フレッドがさっとぼくの傍に来て、そっと抱きしめながら
「申し訳ありません、トーマ王妃。シュウは少し疲れているようです。
お話は明日でもよろしいでしょうか?」
と頼んでくれた。
「う、うん。いいけど……柊くん、大丈夫?」
心配そうに声をかけてくれるお父さんにぼくは頷くことしかできなかった。
「もう夜も遅いし、今から話し始めたら寝る時間がなくなってしまう。
明日、トーマはシュウと馬車に乗るといい。そこでなら、ゆっくり落ち着いて話せるだろう?
私もフレデリックとゆっくり話もしたいしな」
アンドリューさまがそう提案してくれて、お父さんも『そうだね』と納得したようだ。
ここでお開きになり、お父さんたちは『お休み。ゆっくり休んでね』と部屋に帰っていった。
しんと静まり返った部屋で、
「シュウ、寝室に行こう」
とフレッドに手を引かれ、ベッドに横になった。
何も言わずにぎゅっと抱きしめてくれるフレッドの胸元にすり寄って気持ちを落ち着かせようとした。
「シュウ……トーマ王妃の顔を見て心が揺れたか?」
「えっ?」
思いがけない言葉にパッと顔を上げると、フレッドが少し寂しげな表情でぼくを見ていた。
「元の世界に帰りたくなくなったか?」
「ううん。違う。そうじゃないよ」
「いや、シュウがそう思ってしまっても仕方がないと思ってる。
肉親との別れはそう簡単に割り切れるものではないからな」
そうか。フレッドもご両親は亡くなってるんだ……。
会いたくても会えないのはぼくだけじゃない。
それなのに、ぼくは会えないはずの人に会うことができて、楽しい思い出まで作れたんだから幸せだと思わなきゃ。
「フレッド……ごめんね。さっきはなんだか感情が昂っちゃって。
でもね、さっき決めたことに迷いなんか何もないよ。明日はちゃんとお父さんに話ができるから!」
「そうか。だが、シュウ……くれぐれも無理はするなよ」
「うん。ありがとう」
ぎゅっとしがみつくとフレッドの温もりと共に良い香りがふわりと漂ってきた。
「ああ……フレッドの匂い、やっぱり好きだ……」
「えっ……?」
戸惑ったような声を出したフレッドをそっちのけに、ぼくはさらに擦り寄って濃い匂いに包まれながら眠りについた。
『ううーん』
ふわぁ、よく寝た。夢も見ないほどぐっすり眠って身体がスッキリしてる。
視線を感じて見上げるとフレッドがぼくを見つめていた。
「フレッド、おはよっ」
熟睡してパッチリした目でフレッドを見つめると、フレッドは心なしか疲れているように見える。
「……ああ、おはよう」
「あれ、フレッド……どうしたの? よく眠れなかった?」
「いや、大丈夫だ」
笑顔を見せるフレッドになんだか違和感を感じながらも、朝の挨拶をしようと抱きついてキスしようとフレッドを見上げたまま目を瞑った。
すると、フレッドはくっついていた身体をさっと離し、ぼくの唇に『ちゅっ』と軽いキスをしてくれた。
あれっ? いつもならもっとぎゅっと強く抱きしめてくれるのに……。
朝のキスはいつももっと深くしてくれるのに……。
なんで? 寂しいよ……。
「なんかいつもと違う……。フレッド、どうしたの?」
ぼくは離れて行ったフレッドに縋り付くようにぎゅっと抱きつくと、ぼくの太ももの辺りに何か棒のような固い感触があった。
「あれ? フレッド、何か持ってる?」
「えっ? あっ、ちょっ……」
ぼくはフレッドが返事をする前に布団の中に手を入れ、その感触があった辺りをゴソゴソと探していると、ガッチガチの何かが手のひらが触れた。
「あっ、これこれ! なんだろう? ねぇ?」
そう言ってそれを人差し指でツンツンと触れながらフレッドを見上げると、フレッドは真っ赤な顔をしてぼくから目を逸らしている。
???
一体、何?
ぼくは気になって気になって、布団を捲るとぼくの人差し指が触れていたのは…………
フレッドのアレだった!!!
ローブを着ていてもわかるほどにギューンと勃ち上がったそれに、ぼくはカァーっと顔が赤くなるのを感じながらも、同時にこんなに苦しそうなくらいガッチガチになっているフレッドのモノが可哀想になってきて、思わず、指先でツツーッと撫でてしまった。
「――っ! シュウ!」
真っ赤な顔でビクンと身体を震わせながら一生懸命耐えているフレッドの姿がなんだか面白くなってしまって、
「ふふっ。こんなに固くなって可哀想だから、ぼくが助けてあげるよ」
とフレッドのローブを捲ると、フレッドのモノはその瞬間を待ち侘びていたようにピョコンと飛び出してきた。
それがまるで生き物のように思えて可愛くてたまらなく感じた。
そぉっと優しく丁寧に両手でそれを包み込み、上下に扱きながらパクリと咥えると、
「ああぁーーーっ、シュウ! そ、そんなことをされては……」
何度か顔を動かしただけで、フレッドは
『ああっ、も、もう……だ、だめっ……だ……っ』
と悔しそうな声を上げながら、ぼくの口内に甘い甘い蜜を思いっきり放った。
普段より一層甘い気がする蜜を、舌の上でじっくりと味わってからコクンと飲み干した。
蜜が喉を通っていくのを感じながら、フレッドを見るとフレッドはなぜか恥ずかしそうにぼくを見ていた。
「美味しい蜜、ありがとう。ご馳走さま」
笑顔でそういうと、フレッドは小さな声でボソボソと呟いた。
「――――――じゃ、ないんだ」
「えっ? 何?」
「だから! いつもはこんなに早いわけじゃないんだ!」
「早いって……何が?」
フレッドの声に驚きながらもそう尋ねると、フレッドは真っ赤な顔で『はぁっ』とため息をつきながら、
「実を言うと、昨夜、シュウが可愛いことを言ったまま、すぐに眠ってしまったから……ずっとコレが昂ってしまって、あまり眠れなかったんだ。寝ている間にそっと離れて、その……じ、自分で処理しようと思ったのだが、シュウが離してくれなかったから朝までずっと昂ったままで……。そんな状態でシュウに触れられたから、それで我慢できずに、あんなに早く……。
シュウに堪え性のないやつだと思われたのではないかと……」
最後の方はボソボソとかなり小さい声になっていたけれど、ちゃんと聞こえた。
つまり……昨日から我慢しすぎて早くイッてしまったのが恥ずかしいってこと?
ふふっ。フレッドったら。
なんでこんなに可愛いんだろう。
きっと、この前勝手にやらないで起こしてくれれば良かったのにってぼくが言ったのを守ってくれたんだろう。
そのせいでこんなに顔を真っ赤にして……ああ、もうフレッドが愛おしくてたまらない。
「フレッド、ぼく……ちゃんとわかってるから。ぼくを起こさないように我慢してくれたんだよね。
ほんと、大好きだよ」
フレッドはホッとした表情を見せながら、
「シュウが子猫のように抱きついてくるから、理性を保つのが大変だったぞ」
と少し拗ねながら抱きついてきた。
「今日の夜は寝ないようにするからね」
笑ってそう言うと、フレッドの淡い水色の瞳がギラリと光った気がした。
もしかして……ぼく、余計なこと言っちゃったのかな……。
フレッドはさっきまでの疲れたような表情から一転、ウキウキとした様子で今日の支度を始めた。
ぼくが顔を洗っている間に自分の着替えをすませ、ぼくの着替えまで選んでくれていた。
あまりの変わりように驚きながらも、まぁ、いいかと思い、ぼくも急いで出かける支度をしてフレッドと2人で朝食をとった。
宿の玄関についた時には、もうすでに馬車が準備されていて、あとはお父さんたちがくるのを待つばかり。
まだかなーっ、なんて思っていると、後ろから『柊ちゃん!』と軽やかな声が聞こえた。
パッと振り向いてお父さんを見ると、
「うん。いい顔してる! 今日は元気そうだね!」
と笑顔で言ってくれた。
「心配かけてごめんなさい」
「ふふっ。いいって。話はゆっくり聞くからね。あっ、アルフレッドさん、おはよう」
「陛下。トーマ王妃。おはようございます」
フレッドがお辞儀をすると、お父さんは『うん、うん』と頷きながら、
「今日はアンディーをよろしくね」
とウィンクしてみせた。
「トーマ! そのようなことを妄りにするでない!」
焦ったようにお父さんを嗜めるアンドリューさまの姿が可愛くて、思わず『ふふっ』と笑ってしまった。
ぼくの笑い声にお父さんも一緒になって笑っていた。
「はーい。ごめんなさい。じゃあ、柊ちゃん。行こっか」
お見送りに出てきてくれていた宿の人たちにお礼を言ってから、ぼくたちは2人で馬車に乗り込んだ。
アンドリューさまとフレッドの乗った馬車が出発してから、ぼくたちの馬車はゆっくりと動き始める。
少しずつ少しずつ速度を上げていく馬車の音を聞きながら、ぼくは向かい合わせに座るお父さんを見つめた。
「お父さん……今日は隣に座ってもいいかな?」
「うん。僕もそう言おうと思ってた。こっちにおいで」
お父さんが席の隣をぽんぽんと叩いたので、いそいそと隣に座ると、
『ふふっ』どちらからともなく、笑いが溢れた。
「柊くんも話があるんだよね。どっちから話そうか?」
「ぼく……お父さんの話から聞きたいな」
そう見つめると、お父さんは『わかった』と言って、昨日の『神の泉』での出来事を話し始めた。
「森に入ってかなり歩き回ったんだけど、なかなか辿り着けなくてね。
もう少し探したら諦めようって話してたら……これ! 突然これが光って道を教えてくれたんだよ」
お父さんは得意げな表情で胸元に下げていたネックレスをぼくにみせてくれた。
「ネックレスが光った? そっか、じゃあ……あれは見間違いじゃなかったんだ!」
「えっ? 見間違いって?」
ぼくは出発の朝、お父さんのネックレスに触れた時に一瞬光が見えたような気がしたことを話すと、お父さんは納得したように頷いた。
「そうか、やっぱり柊くんは神さまに愛されてるんだね。柊くんのおかげで僕たちは『神の泉』に辿り着けたんだよ」
「神さまに愛されてる? ぼくが……?」
「うん。これから大事なことを話すからよく聞いててね」
お父さんは真剣な表情で、昨日の不思議な体験を教えてくれた。
「アンディーと誓い合ったあと、光に包まれて気がついたら辺り一面真っ白い場所にいたんだ」
「それって、もしかして……」
「そう。多分、あそこは天国だったんじゃないかな。僕ね、神さまとお話ししたんだよ」
サラリと話してくれている内容があまりにも凄すぎて頭がパンクしてしまいそうだ。
お父さんが神さまとお話し?
それって凄すぎない??
「神さまって、えっと……?」
「全世界の神さまだって言ってた。フィリオンサーラっていう神さまがね、今まで僕たちに起こった出来事を話してくれたんだよ」
お父さんが本当はアンドリューさまの唯一としてこの世界に生まれるはずだったこと。
この世界の神、フォルティアーナの手違いであっちの世界に行ってしまい、神さまがずっとお父さんの行方を探していたこと。
お父さんが事故に遭いそうになったところを見つけて急いでここに飛ばしたこと。
生まれるはずのないぼくが生まれたことを神さまが心配してずっと見守っていてくれたこと。
そして、未来のオランディアで傷つき苦しんでいるフレッドを助けるためにぼくをフレッドの元に行かせたこと。
お父さんの口から出てくる話がどれも驚きの連続で、ぼくは相槌すら挟むこともできずにただじっと話を聞き続けていた。
「柊くん、驚いたよね。僕も話を聞いて驚きすぎるくらい驚いたけど、納得できるところもあって……なるほどねって思っちゃった」
「納得できること?」
ぼくの聞き返したことにお父さんは少し遠い目をしながら、ゆっくりと口を開いた。
「うん。僕はさ、弟をものすごく可愛がってたし、大好きだったんだ。
でもなぜか弟は小さい頃からずっと僕のことを目の敵にしてて、
『兄さんがいなければいいのに。なんでいるの?』ってしょっちゅう文句言ってたんだ。
僕は長男に生まれちゃったから跡を継ぐのは仕方ないと思って運命を受け入れていたけれど、あの子はずっと当主になりたがってたんだよね。僕がいなければ、あの子は何の苦労もなくとも当主として跡を継げたはずだったのに。
せめて順番が違ったらね……なんて心の中でずっと思ってた。
でも、僕が間違われずにこの世界に生まれていたら、弟は長男として生を受けていたはずなんだ」
「あっ……」
「そう。きっと、弟は頭のどこかで自分が長男だったはずなのにってわかっていたのかもしれないね。
それを僕の存在が邪魔をしてたんだから、そりゃあ憎みもすると思う」
そっか。弟さんの話聞いた時は、お父さんの婚約者取ったりしてひどい人だと思ったけれど、そんな事情があったなら、弟さんも被害者だったんだなって思う。
神さまの手違いでお父さんもだけど、弟さんもきっと苦しい思いをしたんだな。
「僕、昨日神さまからフォルティアーナのしてしまったことを許して欲しいって言われて、
『僕は今幸せだから大丈夫』って答えたんだ。
確かに辛いこともあったけど、今はこの世界に戻してもらえて、最初の決まり通り、アンディーと出会って幸せになったから神さまの手違いだって許そうって思えた。
でもね……一晩じっくりと神さまの話を考えてたら、許すって答えていいのは僕じゃない気がしてきたんだ」
お父さんの気持ちが痛いようにわかる。
今、自分が幸せに過ごしている分、余計に弟さんへの申し訳ない気持ちでいっぱいになってるんだろうな。
ぼくは何も言葉にできずにただ頷くことしかできなかった。
「あの子が一番の被害者だったかもしれないな。間違われた僕よりもずっと……。
1人で辛い思いをしたんだろうな」
悲しげな表情をしながら、遠くを見つめるお父さんの視線の先には、遠い日本にいる弟さんの顔があるんだろう。
「せめて、僕がいなくなってからは幸せに過ごしてくれてたらいいな……」
ぽつりと呟いたその言葉に弟さんへの想いが込められている気がした。
「大丈夫。きっと、幸せに過ごしてるよ」
「うん。そうだね」
お父さんはほんのり涙を滲ませたまま、綺麗な笑顔を見せてくれた。
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