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第四章 (王城 過去編)

閑話 パメラ  <破滅への道>後編※

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ゾーイに連れられて使用人の住む離れに連れて行かれる途中、パリッとした服装の男性が中庭を歩いているのを見かけた。

あれ? この人誰だったっけ? 見たことがあるような……。

「旦那さま。こんなところでどうかされましたか?」

旦那さま? あ、そうか。ヴォルフのお父さんだ! 
ヴォルフのお父さんが私を助け出しに来てくれたんだわ!!

「フェザーストン伯爵。お久しぶりです。パメラです!! ヴォルフから話を聞いて助けに来てくれたのでしょう?」

急いで伯爵のそばに笑顔を向けて駆け寄ると、

「ゾーイ、なんだこいつは?」

と眉を顰めて冷ややかな視線を向けられた。

「だ、旦那さま。申し訳ございません。本日、引き取った例の子でございます。まだ礼儀を弁えていないようでして……」

「ああ、こいつが王族に手を出した馬鹿な奴か。ゾーイ、今日は許すが、もう二度と私の前に姿を見せることがないように! いいな?」

「は、はい。申し訳ございません。ほら、パメラ、行くわよ!」

「痛っ、やめて! 痛っ!」

ピシッピシッと何度も鞭で引っ叩かれながらその場から引き摺られ連れて行かれた。
離れの一番奥の小さな部屋に放り込まれて、

「あなたのせいで私まで旦那さまにお叱りを受けたわ。罰として、明日の朝食は抜きよ! 明日起きたら、すぐに厩舎に行って、馬たちに餌をやること。いいわね! それが終わったら、洗濯と野菜の泥を洗ってもらいますからね」

ゾーイは言いたいだけ言うと、ピシャンと扉を閉め鍵をかけて出ていった。
鞭で打たれた場所がひどく痛む。
ここはトイレはかろうじてついているものの檻のような形をしていて外から鍵までかけられてしまった。
これで明日開けてもらうまで外に出ることもできない。
この家に来たらまた元の生活ができると思っていたのに……。
なんでこんなことになってしまったの?
どうして……どうして……。

私は初めての仕事にクタクタになってしまって、部屋の中央に倒れ込んで眠ってしまった。

「パメラ! パメラ! いつまで寝ているの!」

大声で叩き起こされたが、まだ外は夜も明けていない。
薄暗い明るさの中で目を開けると目の前にゾーイが立っていた。

「ほら、すぐに厩舎に行きなさい!」

有無を言わさず厩舎に行かされ、馬房にいるたくさんの馬たちの前に餌を運ぶ。
馬たちに頭を小突かれ、咽せ返るような獣臭に耐えながら必死に運び終えた時にはもうすっかり夜が明けて明るくなっていた。

「明日からはもっと早く終わらせろよ!」

ファジルに文句を言われながら、とぼとぼと勝手口から屋敷へと戻ると、もうすでに他の使用人たちは食事を終えていた。

私の分の食事を用意してもらうのを待っていると、ゾーイがやってきて
『あなた、食事抜きだと言ったのを忘れたの?』
と言って、そのまま屋敷の裏手にある井戸へと連れて行かれた。

そこには大量のシーツが山のように積み上げられていて、

「さぁ、お昼までにこの洗濯を終わらせるのよ!」

とまた無理難題を押し付けられる。

「洗濯なんてしたことないのにできるわけがないでしょう!!!」

そう文句を言うと、また鞭が飛んできた。
何か文句を言うたびに鞭で打たれて、だんだんと手や足の感覚がなくなってきた。

仕方なく、教えられた通り井戸の水を汲み洗濯物を足で踏んで汚れを落とした。
全ての洗濯物が終わった時にはもうすでにお昼はとっくに過ぎていた。

「終わったわよ! さっさと食事の用意をしてよ!」

ゾーイにそう叫んだけれど、

「昼食の時間に間に合わない人には食事は用意できない決まりになっています。夕食まで我慢することね」

と嘲笑うように言われた。

朝だって食べてないのに酷すぎるわ!
こんなところ、もう1分だっていたくない!

そう思ったけれどがむしゃらに出ていっても捕まるのがオチね。
逃げ出す機会を窺わなきゃ!
そうよ、私は賢いんだから。

すると、他のメイドがゾーイに話しかけにきた。

「えっ? なんですって? すぐに行きます!」

慌てた様子で『早く裏口に野菜をとりに行ってちょうだい。裏口、わかるわね?』
と叫んでから、慌ただしく屋敷の中へと走っていった。

何があったのかしら?
ふふっ。でも私に威張り散らしているあいつが焦ってるの見るのは楽しいわ。

脱出の方法を考えながら、言われた通り泥だらけの野菜をとりに裏口に向かっていると、何人かのメイドがかたまって何かを話しているのが聞こえた。

なんの話をしているのかしら?

扉の影に隠れてこっそり彼女たちの話を聞いていると、とんでもない情報が耳に飛び込んできた。

「ねぇ、ねぇ聞いた? この町に国王さまご夫妻が来られてるんだって!」

「えっ? なんで、こんな田舎町に?」

「なんかね、国王さまがお話ししていらっしゃるのをチラッと聞いた人の話だと、何かを探しに来たんだとか、会いに来たんだとかおっしゃってたみたいよ」

「えーっ、意味深ね。ふふっ」

メイドたちはそんなことを話しながら屋敷の奥へと戻っていったけれど、私は今の話が耳から離れなかった。

探しにきた……会いに来た……ってそれ、私のことでしょう?

陛下はやっぱり私のことを好いていらっしゃったのね。
だから、こんな田舎まで私を追いかけて来られたんだわ!!!

待っていてください!
すぐに貴方の元へ参りますわ!!!

私はもう陛下のことしか考えられず、裏口から一目散に外に飛び出し町を目指して必死に走った。
朝も昼も食べてないから速く走れないけど、陛下が待っているのなら私頑張るわ!

馬車で着くならこの辺りよね?

陛下はどこにいらっしゃるのかしら?

あっ!! 見つけた!!

あそこに止まっている馬車、王家の紋章が入っているわ!
うん。間違いなく陛下の馬車よ!!

陛下がどこにいるのか御者に聞きたいけど、伯爵家に連れ戻されたら困るし……。
うーん、どうしよう。

あ、そうだ。
この辺にいる人ならきっと陛下がどこにいったのかわかるはず。

「ちょっと。陛下はどこにいらっしゃるか教えなさい!」

近くを通っていた男を捕まえて尋ねると、男は私を頭からつま先までじっくりと見て

「お前みたいな汚い使用人が陛下に何の用があるというんだ?」

と冷笑を浮かべた。

「陛下はね、私を探しにいらっしゃったのよ! いいから教えなさい!」

「はぁっ? 頭おかしいのか? お前なんかを探しにくるわけがないだろう? 陛下はもうとっくにこの町を発たれたよ」

「えっ? じゃあ、あの馬車はなんなの? 私に嘘ついて騙そうなんてそうはいかないんだから!」

私が指差した方向にあった馬車を見て、男は

「ふっ。あれは陛下じゃない。同行された方の馬車だよ」

と笑いながら教えられた。

同行された方? そうか、公爵さまだわ!!
公爵さまが私を助け出しに来てくださったのよ!!

あんな酷い目に合わせたのを心苦しく思っていたんだわ。
酷い仕打ちをされて傷ついていたけれど、ここまで助けに来てくださったのなら許してあげても良いわね。

「その人はどこにいるの?」

「はぁっ?」

「だから! その同行された方はどこにいらっしゃるの?」

「そのお方なら、あっちの森の方に……」

その男が指差した瞬間、私はその方向に向かって駆け出していた。


なんでこんな田舎町の森になんか行ってるのよ!
ああ、もしかしたら私がそこにいるとでも思ったのかしら?

待っててね、公爵さま。
すぐに私が行ってあげますからね。

そう思ってたのに……はぁ、はぁ。意外と遠いじゃない。何よ。
もう町からかなり離れてるじゃない。

あ、もしかして森ってここ?

緑に囲まれた場所を突っ切っていくとそこに小さな川が現れた。

どこにいるのよ、公爵さまは。

あらっ?
あっちの岩場にいるのは公爵さまじゃない?
こんなところで水遊びなんて子どもみたい!

ふふっ。私が一緒に遊んであげますよ。
遠回りするのは面倒だから水を掻き分けて早くお傍に行って差し上げますわ。

バシャバシャバシャ

私がたてた水音が聞こえたのか公爵さまがパッと私の方を振り向いた。
ああ、やっぱり私のことをすぐに見つけてくれるのね。

と思っていたら、公爵さまの影に隠れて見えていなかったけど、あの女が一緒にこっちを向いているのが見えた。

あの女!!!!

一瞬にしてあの女に対する憎しみが燃え上がった。
今、私がこんな目に遭っているのは全てあの女のせい!
あの女さえいなければ!

地下牢に入れられた日から今日までの酷い日々を一気に思い出して恨みが募っていく。

のこのこ私の前に現れて! もう絶対に許さない!

「あんたのせいで!!! あんたのせいで、私がどんな目にあったと思ってるの?!」

気づけばあの女に対して怒鳴りつけていた。

一度くらい殴ってやらなきゃ気が済まないのよ。
ふふっ。苦痛に歪む顔を見るのが楽しみだわ。

もうすぐあの女を岩から引き摺り落としてやる。
誰が公爵さまにふさわしい女かわからせてやるんだから!

もう少し、もう少しよ。


『グェッ!』 バシャーーーン!!

突然背中を強い力で押されてそのまま水の中に押し倒された!
一体どうなってるの?

『ヴヴゥーッ!』 バシャバシャバシャ!

水の中で何本もの手が私を羽交い締めにして腕を縛り上げていく。


苦しくてぷはぁっと顔を上げたら、口の中に何かを突っ込まれて声を出すこともできない。

『ウーッ、ウーッ!』 バシャバシャ!!

言葉にならない声をあげもがいたけれど、男たちの力が強すぎてなんともならない。
足をバタつかせて男たちを蹴散らしてやろうと思ったけれど、簡単に足も縛り上げられ文字通り手も足も出ない状態にさせられてしまった。

公爵さま、助けて……ならず者が!

一生懸命叫んでみたって公爵さまに届かない。
それどころか、冷たい目を向けられて

「さっさと連れて行け!」

という怒鳴り声が聞こえた。

公爵さまの腕の中にはあの女が大切そうに抱きしめられていて、公爵さまは愛おしそうな眼差しを向けていた。
私に向ける目とは明らかに違う。
公爵さまは私にあんな眼差しを向けてくれたことは、一度もなかったわ。

公爵さまは本当に私のことにはなんの興味もないのね……。
なら、今まで私がしてきたことはなんだったの?
馬鹿だわ……私。
陛下に愛されてると思って、公爵さまに愛されてると思って、そのためにいろいろやってきたのにそれが全て間違いだったなんて。

その事実に私は全身の力が抜け抵抗することも忘れて、そのまま男たちの手によって森の外へと運ばれた。
ポーンと荷台に放り込まれ男たちに囲まれて初めて、その男たちが騎士たちだと気づいた。
騎士たちに連れられ行き着いた先は、さっきまでいたフェザーストン伯爵家。

せっかく逃げ出したのに、またここであの仕事をさせられるのか……。
もうでも、私は他に行くところがない。
公爵さまに愛されていないのが真実だとしたら、侯爵家から除籍されてお父さまに捨てられたのも真実だってことなのよね。
見せかけの罰だと思っていたけれど、それが間違っていたのならここで下働きを続けるしかないんだわ。

あら? 荷台から降ろされる気配がない。
どういうことなのかしら?

ヴォルフのお父さんとゾーイが騎士たちに呼ばれたようで慌てふためいた様子で玄関から出てきた。

「こ、この者が何かしでかしたのですか?」

「ああ。先ほど、公爵さまに襲いかかったのだ」

「な、なんということを! ならば、この者は?」

「レナゼリシア侯爵さまのご指示通り、あそこへ連れていく。我々はその報告に来た」

あそこ・・・へ……。はぁ、本当に馬鹿な女でしたのね」

「先を急ぐのでな、失礼する」

本当に報告だけだったようで騎士たちは私を荷台に乗せたまま、また荷馬車を走らせた。
あそこ・・・ってどこなの?
今度はどこに連れて行かれるの?

それから何日荷台に乗り続けていただろう。
もう10日近く乗っている気がする。

私は後ろ手に手を縛られ、逃げ出せないように足も鎖で繋がれ、さらに目隠しをされているのでどこに連れて行かれているのかすら全くわからない。

ようやく荷馬車が止まり、久しぶりに荷台から降ろされた。

そして、重い鎖を引き摺りながら騎士たちに引っ張られ、階段を降りていくと何となく不穏な空気を感じた。

なに……ここ?
ここには足を踏み入れては行けない気がする。

「やめて! 止まって! 行きたくない!! 私、下働きを頑張るからフェザーストン伯爵家に帰らせて!!!」

そう叫んだけれど、

「ははっ。今頃気づいたってもう遅いんだよ」

と騎士たちの歩は止まることなく私を引っ張り続ける。
必死にその場に留まろうとしたけれど強い力に抵抗ことなどできずにそのまま連れて行かれた。

「ようこそ。パメラ嬢」

ねっとりとした薄気味悪い声が耳に入ってきた。
聞いたことがある気がするけれど、誰だか全くわからない。

「誰? 誰なの?」

「ふふっ。それは知らなくて良いことだ。
お前には死ぬ前に一仕事してもらわねばならん。1日でも長く生きて仕事をしてくれよ」

騎士たちに荷物のように抱えられ、放り込まれたのは何かの檻の中。

「イタッ!!」

また地下牢に戻ったってこと?
それにしても仕事って何よ?

「なにっ? この地下牢……何かいる」

はぁっ、はぁっ、はぁっ。

どれだけいるのかわからないほどの人間の息遣いが聞こえる。
何? ここは一体なんなの?

「お前たちのおもちゃだ。壊れるまで好きにしろ! ほら、これは足の鎖の鍵だ!」

チャリーンと鍵が落ちる音が聞こえた瞬間、いろんなところから手が伸びてきた。

「いやっ! やめて!! 触らないで!!!」

私の叫びなど誰も聞かずボロボロのメイド服がたくさんの手で剥ぎ取られていく。
必死に身を捩って逃げようとしたとき、誰かの手が目隠しに当たってパラリと目隠しが外れた。

そこにいたのはボロボロの囚人服を身に纏った数十人もの気味の悪い男たち。

そいつらが涎を垂らしながら私に群がっている。

「あ、あんたたち、なによーーっ! なんなの?」

『ふひゃひゃひゃっ。女なんか久しぶりだ』
『こんな若い子が来てくれるなんてな!』
『ほら、さっさとそこ代われよ!!!』
『なんだと! 俺様からだろ!!!』
『ほら、俺のデカイの入れてやるぞ』

「うぐっ!」

あっという間に真っ裸にされ、口には男の汚いモノが突っ込まれた。

「グェッ、グェーッ」

『はぁーっ、最高だな』
男は腰を振りながら、喉の奥の奥まで突っ込んでくる。

『こっちは俺からだな』

「アガーーーッ」

何も解されることもなく一気に奥まで貫かれた。

『おっ、こいつ処女だったぜ。血流してやがる。俺が初めての人だって忘れんなよ。ハハッ』

グチュグチュといういやらしい水音に混じってチュクチュクと血が流れる音が聞こえる。
どれくらい裂けたのかわからないが、入れ替わり立ち替わり口の中にも下にも何本も何本も突き立てられた。
数十時間犯され続け、私は身体中、男たちの出した青臭い白濁まみれになって部屋に残された。

や、やっと……終わった、の?

私は指一本も動かせないほど疲れ果て、部屋の真ん中で裸のまま横たわっていると、

「良い姿だな」

と頭上から声が聞こえた。

なけなしの力を振り絞って顔を動かしてその男を見ると……あ、あの人は……ぶ、ブランシェット侯爵?

「あ、あ……」

尋ねたいのに声を出すこともできない。
すると、ブランシェット侯爵から話をし始めた。

「ほぉ、お前もさすが元侯爵令嬢。私の顔を覚えていたのか。まぁいい。お前はとんでもない方達を怒らせたものだな。
これから先、死ぬまでここから出られないお前に教えてやろう。ここはな、罪を犯した者たちの収容所だ。
と言っても、お前と違って国のための労働作業をやれば外に出られる者たちだ。
お前はな、そいつらをきちんと労働させるために連れてこられた餌なんだよ。
あいつらもいいおもちゃが出来てこれから仕事に精が出ることだろう。
明日は今日よりももっとたくさんの男たちを相手にしてもらうからな。せいぜい頑張ってくれ」

今日よりも、もっと……たくさん……?

う、うそでしょう……?

私は男たちの相手をし続けながら生きていくというの?

そんなの嫌だ! いっそのこと、私を殺してよ!

そう叫びたいのに、声も出せないし、身体もピクリとも動かない。

ブランシェット侯爵は私にボロ布を一枚放り投げ、地下室の階段をコツコツと上がっていく。

「さて、いつまで持つか見ものだな」

そんな声が耳に入ってきたけれど、私はもう何も聞く気にもなれず自分に残った力を振り絞って、自分で思いっきり舌を噛みちぎった。

言葉にならない壮絶な痛みが襲ってきて、血がどくどくと流れ出ているのを感じる。
横たわったまま、自分の血溜まりを見ながら私は馬鹿な人生を思い出していた。
私はいつからこうなってしまったんだろう。
幸せになりたいと思っただけだったのに。
心から愛されたいと思っただけだったのに。

地下のこんな場所で男たちに陵辱されて、裸で血まみれになって捨てられて……私の人生って一体なんだったのかしら。

もし、生まれ変われるなら今度はあの女のように、たったひとりの男性からあんなふうに愛されたい。
誰かの腕の中に包まれながら息を引き取るそのときまで……。
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