ひとりぼっちのぼくが異世界で公爵さまに溺愛されています

波木真帆

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第四章 (王城 過去編)

花村 柊   24−1※

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うぅーん……あれ? フレッドがいない。
どこに行ったんだろう……。

あんなにフレッドに愛されて眠ったはずなのに、目を覚ました時にフレッドがいないとあのフレッドと離れた数時間のことを思い出して怖くなる。

周りを見回すとここは侯爵家のベッドに間違い無いからまた日本に戻っているということはないんだろうけど、フレッドがいないというだけでこんなに心細くなってしまう。

ぼくは心配になってローブを広げ、胸元にできたあの痣があるかを確かめてみると、たしかにそこには三日月の痣が残っていた。

ふぅ……大丈夫。ぼくはちゃんとこの世界にいる。

よし。少し落ち着こう。
ぼくは外の空気を吸おうとバルコニーにでてみることにした。
身体を起こすとなんとなくお尻に違和感がある。
この違和感、なんだかアレ・・に似てる。

でも、昨日は中にはフレッドの……を挿入いれてないはずなのに……。
おかしいな……。
フラフラする足に必死で力をこめて、気持ちを落ち着かせるためにバルコニーへと向かった。

鍵を開け、ガチャリと扉を開けると少し強い風がふわりとカーテンを持ち上げた。
慌てて扉を閉め外に出ると、真夜中なのにすごく明るい。
パッと空を見上げると、赤い月が煌々と輝いていた。

ああ、そういえば久しぶりにこの世界の月を見た気がする。

懐かしいな……。
確かあれはこの世界にきて初めての夜。

突然、この世界に来てどうしていいか分からなかったけれど、自分にできることを頑張ろうって赤い月に誓ったんだ。

あれから数ヶ月、ぼくの生活は驚くほど大きく変わってしまった。
それでもあの日、あの赤い月に誓った日よりぼくは幸せだと自信を持って言える。

ぼく、これからも頑張ります!
だから見守っていてください。

輝く月にもう一度誓いを立てていると、部屋の中で何か音がした。

あっ、フレッドが戻ってきたのかな?

慌ててバルコニーの扉を開け中に戻ると、焦った表情で寝室に立っているフレッドと目があった。

「あ、フレッド……おか」

お帰り……そう言い終わる前に突然目の前に飛び込んできたフレッドにぎゅっと抱きしめられた。

「シュウ、お前……私がどれだけ心配したと……」

フレッドの声が震えていて胸を締め付けられる。

「あっ、ご、ごめんなさい……。目を覚ましたらフレッドがいなくて、コホッ、それで……怖くてちょっと落ち着こうと思って……」

「そうか、それで外の空気を吸おうとでも思ったのか?」

「うん。心配かけてごめんなさい」

「いや、私が遅くなったのが悪いんだ。怖がらせて悪かった」

「ううん、ぼくが……」

「ふふっ」
「ははっ」

お互いに謝りあっているのがおかしくなって、ぼくたちは顔を見合わせて笑ってしまった。

「シュウが無事で良かった。あ、ブルーノに無事だと知らせなくては……」

フレッドはぼくにタオルケットをかけ、抱きかかえたまま部屋の外に出た。

「ブルーノ、ブルーノ」

フレッドの声にブルーノさんと騎士さんが走ってやってくる。

「シュウ、そのままでいろ」

顔を見せて安心させたほうが良いんじゃないの? と思ったけれど、そういえばウィッグをつけていない。
黒髪が見られると困るもんね。
タオルケットが落ちないように胸元に顔を擦り寄せ抱きつくと、いつものフレッドのあの安心する匂いが鼻腔をくすぐる。

はぁーっ、いい匂い。ほんと落ち着くなぁ……。

スンスンと匂いを嗅いでいる間にブルーノさんと騎士さんたちがやってきた。

「アルフレッドさま。シュウさまは……あっ」

「ああ、この通りここに居る。心配かけて申し訳ない」

「ご無事でようございました。シュウさまはもうおやすみでございますか?」

その声にぼくは声だけでもと思ったけれど、フレッドに押さえつけられるようにぎゅっと抱きしめられたからそのまま声もあげずに動きもせずに留まった。

「ああ、もうベッドに寝かせることにしよう。ブルーノも休んでくれ」

「はい。おやすみなさいませ」

扉をガチャリと閉めてから、フレッドは抱きしめていた腕の力を緩めた。

「シュウ、苦しくなかったか?」

「ううん。大丈夫だけど、ぼくが声出しちゃいけなかった?」

「そうじゃない、ただの私のわがままだ。
シュウの艶やかな声を誰にも聞かせたくなかっただけだ」

艶やかな声って……なんか恥ずかしい。
そういえば、寝る前のアレで声を出しすぎてちょっと声が掠れてる気がする。
フレッドはちゃんとそれに気づいてたんだ。なんかすごい。
それに……ふふっ。声を聞かせたくないなんて……フレッドの嫉妬がなんか可愛い。

「フレッド……寝室に連れてって」

「ああ。まだ朝まで時間がある。ゆっくり眠ろう」

ぼくを優しくベッドに寝かせると、フレッドもすぐ隣で横たわり腕枕をして抱きしめてくれた。

ああ、あったかい。
ぼくはこの温もりが欲しかったんだ。

「フレッド……大好き」

「ああ、私もシュウが大好きだよ。ひとりにして悪かったな」

「ううん。もう大丈夫だよ」

そうだ、さっきの違和感のこと……フレッドなら何かわかるかな?

「ねぇ、フレッド……」

「どうした?」

「あのね、あの……」

いざ言おうとするとなんとなく恥ずかしくて躊躇ってしまったけれど、フレッドはすごく気になっているみたい。

「どうした? やっぱり私がいない間に何かあったのか?」

「ううん。そうじゃなくて……あのね、ぼくのお尻……」

「シュウの、尻……?」

「うん。さっき立ち上がろうとした時になんとなく違和感があって、立ち上がれなかったんだ……。
もしかして……何か病気なのかな、ぼく……」

何もしていないのに急に力が入らないなんて、やっぱりぼくどこか悪いのかもしれない……そう告げると、フレッドは真っ青な顔でぼくを見つめていた。


「フレッド……ぼく、やっぱり病気なの?」

「い、いや違う!! あの、な……実は、その……」

なんだろう、すごく歯切れが悪い。
いつものフレッドと全然違う。どうしたんだろう?

「んっ? なぁに?」

「シュウが眠ってしまったから……その、我慢できなくて、こっそり挿入いれてしまったんだ。勝手に申し訳ない」

「挿入てって……えーっ! ほんとに?」

寝てる間でも挿入るんだ……。
フレッドのあんなに大きいのに……全然気づかなかった……。
痛かったらぼくもさすがに起きるよね?
ってことは、すごく優しくしてくれたのかな……。
でも、それって……。

「呆れたか?」

「ううん。そうじゃなくて……フレッドはちゃんと気持ちよかった?」

「えっ? ああ。もちろんだよ。シュウに挿入って気持ち良くないわけがないだろう?
でも、シュウが起きて反応を見せてくれる方がもっと気持ちがいいな、やっぱり」

ふふっ。そっか。ちゃんと気持ちよくなってくれたんだ。良かった。
でも反応があるほうが良いなんて……ぼくはフレッドの言葉を聞いてなんだかすごく嬉しかった。

「ふふっ。じゃあ、今度から勝手にしちゃうのはダメだよ。フレッドがしたかったらちゃんと起こしてね」

「シュウ、いいのか?」

「うん。ぼくだってフレッドが気持ちよくなってるの見たいもん」

「そうか……。わかった。シュウありがとう」

フレッドがほっぺたにキスをして抱きしめてくれた。

同じ頃、この屋敷の中で幸せなカップルが素敵な初夜を過ごしていたことも、
暗い地下牢でこれからの自分の境遇に愕然とした人がいたことも何も知らずに、ぼくはそのまま心地よい眠りにスーッと落ちていった。

昨夜ぼくが開けたカーテン、ちゃんと閉めたと思っていたけれどどうやら隙間が開いていたみたいだ。
そこから太陽の光が差し込んだようで、部屋がほんのりと明るくなったことに気づき目を覚ますと、ぼくは昨日寝た時のままフレッドに包まれていた。
胸元に顔を擦り寄せて思いっきり吸い込むと、抱きしめあって寝ていたからか、フレッドも汗をかいているみたいでいつもより濃い匂いがする。

うん。良い匂い。なんだかクセになっちゃうな。

何度もスンスンと嗅いでいると、だんだん興奮してきてしまった。

フレッドの匂いって、なんか身体がゾクゾクしちゃうんだよね。

どこが一番良い匂いがするかな……。
首筋?
胸元?
意外と脇とか?

ぼくはフレッドが寝てるのをいいことにスンスンとイヌのように嗅ぎ回っていると、ひときわ良い匂いを発している場所を見つけた。

ここ……。
ローブを持ち上げ、山のようになっている場所は……フレッドの大きなモノが収まっているところだ。

ぼくだって男だから、朝は勃っちゃうことくらい知っているけれど、朝からこんなに大きくなっちゃうの?

ぼくはあまりにも大きなモノに驚いて、見てみたい衝動に駆られた。
そっとフレッドを見ると、スヤスヤと眠っている。
きっと夜中まで起きていたし疲れているんだろう。

見るくらいならバレないよね?

ぼくはそっとローブの裾を開き、盛り上がっている下着にゆっくりと触れてみた。
下着越しにも感じるほど熱く昂っている。

顔を近づけてクンクンと嗅いでみると、やっぱりここが一番良い匂いがする。

なんとも言えない甘い香りとフレッドの体臭が混ざり合って芳しい香りだ。

ぼくはフレッドが起きないか表情を見ながら、ゆっくりと下着の前を寛げた。

ピョコンと飛び出したフレッドのモノはあのとき・・・・のように高くそそりたっていて、ぼくは思わず『わぁっ、スゴい!』と感嘆の声を上げてしまった。

先端にはほんの少し蜜で潤んでいて、どうやらここから匂いを発しているみたいだ。

見るだけだったのに、昨日フレッドの蜜を舐められなかったせいか、どうしても我慢できなくなって吸い寄せられるように先端をペロっと舌先で拭った。

舌先の敏感な場所からぶわっとフレッドの蜜の味が口中に広がっていく。

ああ、もうダメだ……コレ、我慢できない。

ぼくは未だ天を向いてそそり立っているフレッドの大きなモノをパクリと口に咥えた。

大きすぎるフレッドのモノは先端のカサの部分しか入りきらなかったけれど、口を窄ませ一生懸命動かすと頬の内側をゴリゴリと掠めてすごく気持ちがいい。

ちゅぷっちゅぷっちゅぱ

夢中になって動かしていると、

「……シュウ、朝から可愛いイタズラだな」

と頭上から声がした。

ビックリして口に咥えたまま、上を見るとフレッドと目があった。
その瞬間、口の中のフレッドの昂りがピクンと震えより一層大きさを増した。

「ふぇ……っ、おおひくおおきくなった……」

「シュウ……咥えながら喋らないでくれ。我慢できなくなる」

フレッドが焦っているのが面白くて、フレッドを見ながら顔を動かし続けていると、

中に少しずつ蜜が溢れてきて、ぼくの唾液と混ざり合いグチュグチュといやらしい音が響いた。

「……ああっ、あっ……シュウ……」

フレッドが身体を起こし、ぼくの耳の横を両手で押さえた瞬間、口の中に甘い甘い蜜が噴き出した。

ああ、ぼく……これが欲しかったんだ。

次々と流れ込んでくる甘い蜜をゆっくりと味わいながら飲み干した。

ちゅぽんと口からフレッドのモノを抜くとまだフレッドのモノは高くそそり立っていたけれど、フレッドはそれを気にすることもなくぼくを抱きしめ、唇を軽くちゅっと重ね合わせた。

あっ、そういえばキスするの忘れてたな……。

「朝からシュウの悪戯で目覚めるとはな」

「だって良い匂いがして我慢できなかったんだもん……」

「勝手にしないで起こしてって言ってなかったか?」

「あっ……そうだった、ごめんなさい……」

『ははっ』
『ふふっ』

ぼくたちは顔を見合わせて笑った。
朝からこうやって笑えるなんて本当に幸せだ。

意外と寝てる間のイタズラもクセになっちゃうかもね。
フレッドがしちゃった気持ちもわかったかも。
ふふっ。楽しかったな。

軽くシャワーを浴び、身体を清めてからフレッドが選んでくれた服に着替えて準備を整えた。

今日の視察はお酒造りで有名な町への視察なのでいつものような可愛らしい格好だ。

「フレッド、どう?」

「ああ、今日のシュウも可愛いな。よく似合ってる」

だんだんと女の子の格好が板についてきた気がする。
元に戻って男の姿の方に違和感感じるようになったらどうしよう……。

でも、まぁフレッドが喜んでくれるならいいか。

ブルーノさんに案内されて、ダイニングルームへ行くと今日も侯爵さまが既に待っていた。

「おはよう。早いんだな」

フレッドの声に慌てて立ち上がろうとして
『イタタッ、あっ……失礼致しました。サンチェス公爵さま、おはようございます』と腰をさすりながらゆっくりと立ち上がった。

「侯爵さま、おはようございます。腰……辛そうですけど、大丈夫ですか?」

「あっ、いえ……奥方さま、おはようございます。お気遣いいただきましてありがとうございます。
その、少し痛めてしまっただけで特に問題はございません」

顔を真っ赤にして慌てたように取り繕う姿に不思議に思ったけれど、フレッドは『クックッ』と笑っている。

「なぁに? 何か知ってるの?」

「いや、なんでもないよ。さぁ、席に座ろう」

フレッドに腰に手を回され、席へと案内してもらって席に着くと、斜め向かいに座っている侯爵さまの椅子にクッションが置かれていることに気づいた。

ああ、そんなに痛みがあるんだ。
もしかしてギックリ腰とか?
そっか、昨日張り切ってリンゴや梨やレモンを侯爵さま自らいっぱい運んでいたしな。
侯爵さまも大変だ……。

アンドリューさまとお父さんが来て、朝食が始まった。

食事が一段落したところで、侯爵さまがゆっくりと口を開いた。

「お食事中にこのようなお話で申し訳ございません。我が娘、パメラでございますが体調が思わしくなく、田舎で療養させることとなり、すでに屋敷を発っております。陛下、王妃さま、公爵さま、奥方さまにご挨拶もできないまま、このようなことになってしまい申し訳ございません」

パメラさん、そんなに悪かったんだ……。
侯爵さまの顔色が見ているこっちが可哀想に思うくらい悪くて心配になってしまった。

「パメラさん、早く良くなると良いですね」

というと、

「本当に。今度お見舞いの品でもお送りいたしますね」

お父さんも侯爵さまに微笑みかける。

「なんというお優しいお言葉。誠に痛み入ります。パメラにも王妃さまと奥方さまのお気持ちが届き、少しでも良くなることを私も願っております」

侯爵さまの目にはうっすらと涙が滲んでいるように見えた。
パメラさん、空気の綺麗な田舎で本当に早く良くなると良いな。


その日の視察は驚くほど順調に進んだ。
フルーツ酒の開発には蒸留酒【イシュトゥン】の蔵元さん、杜氏とうじさん、そして蔵人くらびとさんたちもものすごく乗り気で、すぐにでも話が聞きたいとなったみたいだ。
やはり、蔵元としても新商品には興味があるのだろう。
フルーツ酒ならぼくみたいにお酒が苦手な人も飲めるだろうし、需要はあるよね。

お父さんが既にフルーツ酒の作り方をアンドリューさまに伝えていたらしく、アンドリューさまと侯爵さま、そして蔵元さん、杜氏さんとで話し合いをすることになった。
フレッドが話し合いに参加して未来の知識について口を滑らせたらいけないとアンドリューさまからあらかじめ言われていたみたいで、今回はフレッドは同席しないことにしたんだって。
みんなで協力してうまく行くと良いなぁ。

昨日、馬車に積み込んでいた果樹園のリンゴと梨を騎士さんたちが酒蔵へと運んでくれて、酒蔵が一気に果樹園の甘い香りでいっぱいになった。
それだけでなんとなくウキウキしてくる。

アンドリューさまたちが話し合いしている間、どうするのかなと思っていたらお父さんが

「ねぇ、アンディーたちが話し合いしている間、僕たちは町を散策していようか」

と提案してくれた。

「うん。行きたい!! フレッドも一緒に行こう!」

というわけで、お父さんとぼくとフレッドの散策に、もちろん今回もアンドリューさまの指示でヒューバートさんが警護についてきてくれることになった。

「柊ちゃん、あっちにいつも行くパン屋さんがあるんだよ」

「わぁ、楽しみ」

「シュウ、そんなに慌てるな。転ぶぞ」

フレッドとお父さんに挟まれ、後ろをヒューバートさんが見守ってくれて、誰が一番偉いのかわからなくなるほどの警護を受けながら、ぼくは町を歩いた。

ここ、『イシューリニア』という町は元々小麦の産地らしい。
【イシュトゥン】という蒸留酒が生まれたのもそのためだろう。

その小麦を使ったパン屋さんがこの町には多く点在している。
どのお店もそれぞれに独自のパンを作っているらしく、硬さや甘みなんかもこだわりがあるらしい。
お父さんはその中でも日本で食べていたようなふわふわで柔らかいパンが好みのようで、今日連れて行ってくれるパン屋さんもそういうタイプのお店みたい。

いつもは騒ぎになると大変だからとアンドリューさまと変装してこっそり訪れるらしいけど、今日は王族の紋章が施された服を着ていてどこからどうみても王妃さまの姿だから、歩いているだけで周りがざわついてきた。

「ヒューバート。ここは私が見ておくから、先に店に話をつけに行ってきてくれ」

「はっ。すぐに行って参ります」

フレッドが一緒だからヒューバートさんもぼくたちのそばを離れても心配ないらしい。
お父さんと2人っきりだとこうはいかないもんね。
ああ、パン屋さん楽しみだな。

煙突からもくもくと煙が上がっている煉瓦造りのパン屋さんは、お洒落な中に可愛らしい装飾が施されていてお父さんにぴったりな雰囲気だ。

入り口でヒューバートさんと店員さんだろうか、店の扉を開けぼくたちが来るのを待っているのが見える。

「こんにちは。お邪魔します」

「お、王妃さま。私どもの店にお立ち寄りいただけるなんて光栄です。
お連れさまもお越しいただきありがとうございます」

「ふふっ。実は以前こっそり陛下と一緒にきたことがあるんですよ。とても美味しかったから大切な人たちを連れてきました」

「えっ? 国王さまも! そんな……なんて嬉しいお言葉を……王妃さま、ありがとうございます」

店員さんは涙を浮かべて喜んでいる。
そりゃあそうだよね。アンドリューさまが来ていたなんて意外な事実を知って、お父さんが美味しいって言ってくれて、しかもまた食べにきてくれるなんてとんでもないことばかりの連続で嬉しい以外の言葉が出るわけない。

「さぁ、これ以上騒ぎになるといけないから先に中に案内してもらおうか」

「あ、ああっ……こんな店先に王妃さま方をお止めして失礼いたしました。
こちらへどうぞ」

お父さんがここの店先にいるのを町の人が見て、店の外が本当にざわざわとしてきている。
やっぱり今日の服だとすぐに王妃さまだと気付かれちゃうんだな。
それにいち早く気づいたフレッドのおかげで、ぼくたちは中に案内してもらった。

店内の食事スペースはどうやら貸切にしてもらったようで、ぼくたちの他にお客さんは誰もいない。
お客さんには申し訳ないけど、騒ぎになる方が大変だもんね。

店内で一番明るい4人席に案内された瞬間、フレッドとお父さんが席を見てパッと見つめ合った。
表情は2人ともすごくにこやかなのに、なんとなく睨み合っているように見えるのはぼくの勘違いだろうか?

フレッドもお父さんも全然動かないし、一体どうしたんだろう?

と思っていると、お父さんに手を取られて
『柊ちゃん、座ろう』と隣同士の席に座った。

フレッドはぼくたちが座るのを見て、静かにぼくの目の前の席に座った。

お父さんは嬉しそうに『ふふっ』と笑いながら、
ぼくたちの後ろに立っていた店員さんに
『お品書きいただけますか?』と声をかけた。

「い、今すぐお持ちいたします」

と駆け出したと思ったら、すぐに戻ってきてお父さんにお品書きを手渡した。

「柊ちゃん、何にする?」

「トーマさまにお任せして良いですか?」

「ふふっ。じゃあ、適当に頼んじゃうね」

お父さんはお品書きを指さしながら、いろんな種類のパンと紅茶を頼んでいた。

頼んだものが来るまでの間、席から見える外を眺めていると、たくさんの人がお父さんの姿を見るために集まっているのが見える。

「トーマさま、やっぱりすごい人気ですね」

「そもそもここの町に来ることが久しぶりだからね。町の中を通るのはともかく、こういうわかりやすい格好でお店に入ったことはなかったから珍しいんじゃないかな」

「そっか。ねぇ、外に手を振って見せてよ」

そうお願いすると、お父さんは『えーっ』と少し照れながらも外に集まっている人たちに向けて笑顔で手を振って見せた。
『きゃーっ!!』と中まで聞こえるような嬉しそうな声が響いてきて驚いた。
すごい、本当にアイドルみたい。

「なんか恥ずかしいな……。アンディーが一緒だと別に気にならないんだけど」

「ふふっ。照れてるトーマさま、可愛い」

「もうからかわないでよ! 恥ずかしいな……」

ぼくたちが顔を近づけて話していると、
『きゃーっ、きゃーっ』と外の黄色い声が一段と大きくなった。
あれ、さっきよりも増えてる気がする。

「何? どうしたの?」

「シュウとトーマ王妃が話している姿は絵になるからな。
シュウ、お前……自分が美しい女性だって自覚はあるか?」

フレッドが呆れたようにそう教えてくれた。

「えーっ? そうかな? トーマさまもそう思う?」

「ふふっ。そうだね。柊ちゃんは僕が知る限り一番綺麗な女性だよ」

お父さんがぼくの髪をそっと撫でると、
『きゃーっ、王妃さまー!!』とまた黄色い声が上がる。
外からだというのにあまりにも大きな声が聞こえてビクッと驚いてしまうほどだ。

「トーマ王妃、そんなことをしていては若い娘と浮気をされていると誤解されますよ」

フレッドが諌めると、『あっ、それは困るな』と慌ててぼくの髪から手を離した。
確かに変な噂が立っちゃうと困るよね。
アンドリューさまに誤解されて、お父さんたちが喧嘩することになっちゃったら嫌だし……。

「はぁーっ。ですから、私が隣に座った方が……」

「だって……アルフレッドさんはいつも隣に座ってるんだから、たまには貸してくれても良いでしょう」

「その格好ですから、必要以上にくっつかない方が宜しいと思いますよ」

「仕方ないな……わかったよ。そうする。あーあ、変装してくればよかったかな」

お父さんはちょっと残念そうな顔をしながら、さっきよりぼくから少し席を離した。
さっきお父さんに撫でられたのが嬉しかったから、席が離れてなんとなくぼくも寂しい気がしたけれど、
フレッドは『うん、うん』と満足げな表情をしている。

お父さんとフレッドのその対比がなんだか面白くて、ぼくはじっくりと2人の様子を見続けていた。
なんだろう、この2人ってなんとなく似た者同士な感じがするなぁ。
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