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第四章 (王城 過去編)

フレッド   23−1※

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捕えられた時のパメラの格好は酷かった。
胸を強調するあの服はほんの少しでも触れれば中身が見えてしまう。
商売女娼婦の着るような服を着て、あれが曲がりなりにも侯爵令嬢とはなんとも恐ろしいことだ。
シュウと出会う前の……そう、皆に嫌悪されていた時の私なら食指が動かんともわからんが、シュウという最高の伴侶を手にした今、あんな女に一切の興味もない。
私はもはやシュウ以外では男として機能を果たすこともできない。
簡単に言えばシュウ以外で勃つことなど有り得ないのだ。

ヒューバートの話ではベッドに潜り込んで抱きついてきたと言うのだから、本当に部屋を変わっておいてよかったと安堵した。
あんなのに抱きつかれたらその場で吐いてしまったかもしれない。

その嫌な思いを払拭したくてシュウの温もりを感じながら眠りについたが、あの忌まわしい光景は強烈だったようでパメラが裸で迫ってくるという恐ろしい夢を見て飛び起きてしまった。

脂汗をかきながら飛び起きた私の目の前には、すやすやと可愛らしい寝顔を見せながら私の方に手を伸ばしているシュウの姿があった。
その手にそっと触れると、シュウは私の指をきゅっと掴んで幸せそうな笑顔を見せたのだ。
その笑顔にさっきまでの恐ろしい気持ちがスーッと晴れていくのを感じた。
ああ、あれが夢で良かったんだ。
そう、シュウが私の傍にいる今の状況が夢でなくて本当に良かった。

私はシュウを腕の中に包み込み、シュウのスウスウという穏やかな寝息を子守唄にもう一度眠りについたのだった。


んんっ? 何かもぞもぞと動いているな。
ああ、シュウが目覚めたのか?
ふふっ。私の寝顔を見つめるものなど、この世界にシュウしかいないな。

シュウが私を起こそうと名前を呼ぶ。
確かにシュウから『フレッド』と声をかけられるのは嬉しい。
父上も亡くなった今、私を『フレッド』と呼ぶのはもうシュウしかいないのだから。
この愛称をシュウに呼ばれるのは嬉しいことだが、寝起きなのだから違う起こし方がいいと望んでしまうのは私のわがままだろうか……。

もう少し待ってみたらシュウからの口づけをもらえるかもしれない。
そんな期待に胸を膨らませていると、シュウはもう一度、穏やかな優しい声で
『フレッド、起きて』と声をかけてから、私の唇に小さくて柔らかなシュウの唇を当ててくれた。

唇が重なり合い、ちゅっと可愛い音が聞こえた。
しかし、起きていたのをシュウに知られてはいけない。
嬉しさで顔が綻びそうになるのを必死に堪えながら、さも今目覚めたかのようにゆっくりと目を開けた。

起きて一番に目に映るのが私を見つめるシュウの美しい漆黒の瞳とは……本当に幸せだな。

その思いを素直にシュウに伝えると、シュウは笑って今度は頬に口づけをしてくれた。
そんな積極的なシュウが可愛くて、揶揄いたくなった。

シュウの首筋に指を当て、あの五芒星へとなぞってやるとシュウの身体がビクッと震えた。

「……やぁ、ん……っ」

シュウは可愛い声をあげ、私の胸元へとすり寄ってくる。
なんて可愛いんだろう。

『シュウ』と声をかけると、少し潤んだ瞳で私を見上げるその顔があまりにも艶っぽくてシュウの唇を奪った。
下唇を啄むとシュウの舌がほんの少し開いた。
私の舌が入ってくるのを待ち侘びているんだと思うだけで嬉しかった。
喜び勇んで舌を差し込むとシュウの方から舌を絡めてきてくれるのも嬉しくて、私はシュウをぎゅっと抱きしめながら舌先に吸い付いた。
シュウは気持ちよさそうに『……んっ、ふぅ……』と声をあげ、より一層深い口づけを求めてくれた。

ああ、このままシュウを押し倒して甘い交わりができたらどんなに幸せだろう……。
しかし、そろそろ準備をしなければ朝食に間に合わないだろう。
視察の予定が立て込んでいる中、遅れるわけにはいかない。

後ろ髪を引かれる思いでシュウの甘やかな唇をそっと離し、『そろそろ準備を』と声をかけると、

「うん。また夜に続きをしてね」

と可愛く微笑む。

ああ、なんて罪作りな子なんだろう。
このままベッドにいたら、本当に離れられなくなってしまう。

私は急いでシュウを抱き上げ寝室を出た。


「あれぇ?」

寝室を出るとすぐにシュウの素っ頓狂な声が聞こえた。
初めて聞く声に驚いて、『どうした?』と声をかけると、シュウはキョロキョロと辺りを見回していた。
そして、『部屋が違う気がする』と言ってきたのだ。

そうだ。
あの時……広間からシュウを連れ出した時、シュウの顔には私のジャケットをかけていた。
あれは艶っぽいシュウの顔を見られないためであったが、部屋を交換したことをシュウに知られることなく連れ込むためでもあった。

あの時に違う部屋に入ったことをシュウに気づかれれば、部屋を交換した理由を言わなくてはいけなかっただろう。
あの時はまだあの女が忍び込んでくるかどうか確証はなかったし、入ってくるかもわからない女のためにシュウに嫌な思いなどさせたくなかった。
だから、ああやってシュウを広間から連れ出せたおかげで、全てにおいてうまくことが運んだのだ。

しかし、シュウにしてみれば自分が知らない間に部屋が変わっていればおかしいと思うに決まっている。

「昨日あの部屋にネズミ・・・が出るというのでな、部屋を交換したんだ」

そう教えてやると、シュウは納得しているようだった。
嘘は言っていない。
とんでもない凶悪ネズミだったがな。

『ネズミってすばしっこいから捕まえるのは大変だもんね』
シュウはそう言っていたが、ふふっ。大丈夫。
大きな大きなネズミ・・・だったが、ちゃんと捕まえたよ。
今頃は地下牢で自分のやったことを悔いてるはずだ。

いや、あのネズミ・・・・・はそんなに賢くはないか。
もしかしたら地下牢で1人、よからぬことを考えているかもしれぬな。
地下牢とはいえ、私たちと同じ屋敷にいるというのは環境上良くないだろう。
早く、この屋敷から追い出さねばシュウとトーマ王妃に危害を加えるようなことがあってはいかんからな。

そもそも勘当と告げただけではなんの効力もない。
侯爵家から除籍しなければ意味がないのだ。
本来ならば除籍させ平民とさせるにはアンドリュー王の署名が必要で普段は除籍までに時間がかかるものだ。
しかし、ちょうどと言っていいのかどうかわからぬが、同じ屋敷にアンドリュー王がいるのだからすぐにでも除籍処分は可能だろう。

問題はそのあとだ。
平民落ちしたあと、どこにやるかを考えておかねばならない。
そのまま町に放り出せば、ろくな事にならないのは目に見えている。
サンディーとアランの家族のように鉱山で強制労働でもさせるか、それとも平民専用の娼館にでも入れるか。
どちらにしてもしっかりとあの女を監視してくれるところにやらなければな。

「ブルーノに服といつものかずらを用意してもらうから、シュウは先に顔を洗っておいで」

シュウが洗面所に行ったのを確認して、部屋の扉を開けブルーノを呼んだ。

「ブルーノ、シュウの服とかずらを用意してくれ。それから、昨夜の件はシュウには何も悟られぬようにな」

「はい。心得ております」

昨夜は部屋を交換したものの、服を移動させるまでの時間がなかったと聞いていた。
だからシュウが顔を洗っている間に寝室に服を運ばせておいた。
その中から、今日の視察のため動きやすい服を私が選んで鬘と一緒に準備しておくとシュウは嬉しそうに着替えに行った。

「フレッド、どう、似合う?」

着替えを終えて寝室から出てきたシュウがクルクルと楽しそうに笑って見せてくる。
シュウのこういうところが可愛いんだよな。

「ああ、よく似合うよ。ただ……」

「んっ?」

「服よりもシュウの方がずっと可愛いよ」

そういうとシュウは『ふふっ』と嬉しそうに笑った。

「アルフレッドさま、シュウさま。朝食の用意が整いましてございます。ダイニングルームへご案内いたします」

ブルーノに案内され、入ったダイニングルームには侯爵だけが座っていた。
アンドリュー王とトーマ王妃はまだのようだ。

侯爵に挨拶の声をかけると、侯爵は幸せそうな表情で返した。
ここにきた時からずっとあった眉間の皺も無くなっているし、昨夜までの憂い顔はどこに行ったのだろうかと思うほど穏やかというより、艶々と輝いている気がする。
それほどあの女の存在が侯爵にとっては悩みの種だったのだろうな。

「お部屋を交換していただいたそうでありがとうございました」

シュウが侯爵にお礼を言った途端、

「ゴホッ、ゴホッ」

侯爵が大きく咳き込んだ。
そんなにあからさまな態度を出してはシュウに気づかれてしまうだろうに……。
侯爵に口止めをしておくのを忘れていたのか?

「えっ? だ、大丈夫ですか?」

咄嗟に駆け寄ろうとするシュウの手を握り、引き止めるとシュウは不思議そうな顔で私を見たが、
『侯爵は大丈夫だから心配しないでいい』
そう言ってやるとシュウは本当にいいの? という表情で侯爵を見やった。

そして、しばらく侯爵の様子を見つめているとシュウの顔がふっと綻ぶのがわかった。
おっ? もしや侯爵とヴォルフの関係に気づいたか?
まぁそこまではっきりとしたことはわかっていないとしても、侯爵とヴォルフの醸し出す、お互いを思い合う気持ちには気づいたのだろう。

やはりアンドリュー王の采配は正しかった。
きっとヴォルフが侯爵を支えてこの領地は今よりもずっと繁栄していくことだろう。

「なっ、言った通りだろう?」

「ふふっ。そうだね。大丈夫そう」

シュウと2人顔を見合わせて笑っていると、侯爵はそれに気づいたようで慌ててヴォルフに席へと案内するように言い、私たちは席へと座って侯爵と談笑しながらアンドリュー王とトーマ王妃が来るのを待つ事にした。

「今日の奥方さまのお召し物はまたお美しいですな」

「ふふっ。ありがとうございます。フレッドが、いえ、公爵が選んでくださったのですよ」

「それはそれは。仲睦まじいことでよろしゅうございます」

シュウは侯爵からそう言われて嬉しそうに笑っているが、昔から男が伴侶の服を選ぶというのはそれを脱がせたいという心の現れだと言われている。
私も多分に漏れずその通りなのだが、侯爵には気づかれたのだろうな。
まぁ、脱がせたい気持ちはあるがそれ以上にシュウが身につけるものを私以外のものが選ぶことが許せないのだ。
シュウはいつまでも私が選んだものだけを身につけてくれたらいい。

そんな話をしていると、アンドリュー王とトーマ王妃がダイニングルームにやってきた。
挨拶を交わし、皆で席に着くとヴォルフを始め数人の侍従が料理を運んできた。

昨夜の夜会でも思ったが、ここの使用人の手際はなかなかいい。
筆頭執事であるヴォルフの教育が行き届いているのだろうな。
このヴォルフが公私ともに侯爵の右腕となるのはこの侯爵家にとっても良い判断だったに違いない。

幸せそうに目で合図をし合う侯爵とヴォルフの様子を温かい目で見守っていると、突然シュウから爆弾発言が飛び出した。

「パメラさんは一緒に食事をしないの?」

シュウの言葉に私とアンドリュー王、侯爵、そしてヴォルフが一斉に
『ゴホッ、ゴホッ』と咽せ返った。

急に咳き込んだ私たちを見て驚いた様子のシュウとトーマ王妃になんて伝えるべきかと我々3人の視線がアンドリュー王に注がれる。

シュウが心配そうに私の背中を優しくさすってくれている最中さなか

「パメラ嬢は体調を悪くして部屋で臥せっているらしい。侯爵、そうだったな?」

とアンドリュー王が侯爵に目配せをしながら声をかけた。

侯爵は突然の声かけ驚きつつも、
『少し体調を崩したようでございまして……』と話を合わせることに成功した。

これならば、シュウもトーマ王妃も納得するはずだ。
少なからずあの女にはシュウもトーマ王妃も嫌な思いをしているはずだから、会わずに済んで安堵しているかもしれない。
そう思ったのも束の間、シュウは

「あとでお見舞いとか行ってもいいのかな?」

と言い出した。

しまった! シュウが心優しい子だということを失念していた。
自分がたとえ嫌な思いをさせられた相手だとしても相手の具合が悪いとなれば苦しい思いをしている人がいるのなら見舞ってあげたい……そう思いやる子なのだ。

シュウのその優しい想いは汲んでやりたいが、あの女のこととなれば話は別だ。

『臥せっているところを見られたくないだろうからやめておこう』

そう声をかけると、シュウはすぐに納得したようだった。
我ながら良い理由を思いついたものだ。

まぁ、嘘ではないからな。
流石にあの女も汚い地下牢でボロボロになった姿をシュウには見られたくないだろう。
なんていったって、シュウは女神のごとく美しいのだから自分の惨めさが余計思い知らされて嫌になるだろうな。
何されるか分からないから、会わせる気などはさらさらないが。

目の前に美味しそうな料理が並べられ、ようやく朝食が始まった。
全てこの領地で取れたものか。
侯爵にしてみれば、アンドリュー王に誇示する絶好の機会だからな。

「わぁっ、美味しそう」

シュウの素直な賞賛の声がダイニングルームに響き渡る。
その可愛らしい声を私は微笑ましく思った。
侯爵はもちろん、部屋にいたもの皆が私と同じように思ったに違いない。

しかし、シュウは皆から与えられる視線の意味を勘違いしたのか、『ごめんなさい』と謝っていた。
私が違うと言うよりも先に、侯爵が慌てたように
『美味しそうといってもらえて感激だ』というと、シュウはにこりと笑顔を浮かべた。

「ふふっ。柊ちゃんはフルーツが大好きだもんね。私もレナゼリシアで採れるフルーツは美味しいから大好き」

シュウだけでなく、トーマ王妃にまで領地で採れるフルーツが美味しくて好きだと言われた侯爵はこの世の幸せを全て手に入れたような表情を浮かべ、嬉しそうだった。

食事を終え、一度部屋に戻った時に

「シュウ、さっき朝食を見て美味しそうと声をあげただろう。あれは領主にしてみれば、この上ない賛辞だぞ。
私の伴侶として素晴らしい言葉だったぞ。だから恥じることなど何もない」

とシュウを抱きしめながら言うと、シュウはようやく心から安堵した表情を浮かべ、
『よかった』と小さく呟いた。
きっとずっと気にしていたに違いない。
やはりあの場ですぐに訂正してやればよかった。
今度からはすぐに言葉にする事にしよう。

シュウと共に玄関へと向かうと、すでに馬車が用意されていた。
侯爵家での馬車ではなく、王室の馬車が用意されていたのは視察場所まで小一時間ほどかかるからだろう。
あの改良した座席なら視察場所までの道のりも楽に行けるはずだ。

侯爵をどちらの馬車に乗せるのかと思ったが、我々が新婚だと伝えているからだろうか。
侯爵はアンドリュー王とトーマ王妃の馬車に同乗する事になった。

侯爵は緊張して大変だろうが、私としては良かった。
周りを騎士たちに囲まれているとはいえ、馬車の中だけでもシュウと2人っきりでいたいからな。ふふっ。

我々を乗せ、馬車はゆっくりと動き出した。
馬車の窓から入る風を受け、シュウの金色のかずらがサラサラと靡いて私の腕をくすぐる。

気持ちよさそうな表情をしているシュウに声をかけると、『風が美味しい』と可愛らしいことを言う。

その言葉にふと思いつき、
『私にも感じさせてくれ』といって、シュウを後ろから抱きしめた。

シュウの首筋に顔を埋め、泡の匂いとも違うシュウの甘やかな良い匂いを嗅いでいると、愚息がどんどん昂ってくるのがわかった。
しかも、私に匂いを嗅がれて感じたのか

「……ひゃ……ぁん……、フレ……ッド……、そこ、は……」

艶やかな声をあげる。

こんな甘い声を耳元で聞かされたら、このまま座席に押し倒してしまいたくなるが、周りには若い騎士たちがいる。

覗き込んだりはしないだろうが、シュウの声を聞かせるわけにはいかない。
愚息を必死に抑えながら、
『ごめん、続きは夜にな』と声をかけると、
シュウは

「もう! 悪戯しちゃダメだよ!」

とぷくりと頬を膨らませながら可愛い声で私を叱る。
ああ、シュウに叱られるというのはなぜこんなに嬉しいのだろう。
『わかったよ』と言いながら、シュウにもっと叱られたいと思ってしまった。

すると、シュウはツンと顔を背け、

「フレッドが反省してないみたいだから、帰りは侯爵さまと2人で馬車に乗ろうかな。
フレッドはお父さんたちと一緒に乗ったらいいよ」

と言い出した。

シュウに可愛く叱られたいと思っただけなのに。
本当なら押し倒したいところを必死に耐えたというのに。
なぜこんなことになってしまったのだろう……。

「シュウ……怒ったのか? シュウが他の者と一緒に乗るだなんて嫌だ。許してくれ! 頼む!」

シュウを抱きしめながら必死に謝ると、

「ふふっ。冗談だよ」

と天使のように輝く笑顔を見せてくれた。

シュウの怒りが本当でなかったことを胸を撫で下ろしながらも、シュウに顔を背けられたのを思い出すだけで恐ろしくなる。

シュウを膝の上に乗せぎゅっと抱きしめながら、『シュウに嫌われたら私は生きていけない』と思いを伝えると、シュウに可愛いと言われてしまった。

愛しい人には『可愛い』よりは『格好良い』と言われたい。男ならばそういうものだろう。
しかし、シュウに好きだと言われて口づけをしてもらえるならば、『可愛い』という言葉くらい受け入れてやるさ。

ああ、なんて幸せなのだろう。

シュウを腕の中に閉じ込め、柔らかな肌と温もりを感じながら抱きしめているうちに今日の視察場所へと辿り着いた。

扉が開けられ、ブルーノが顔を見せるが私はシュウを抱きしめたままだ。
シュウはそれをブルーノに見られて少し恥ずかしそうにしていたが、ブルーノはもう見慣れた様子で、
今日の視察用の靴を差し出してきた。

前回王都で馬車の試乗をした時に、予定外のみかん摘みをしてシュウの靴がドロドロになったことがあったが、もしあの時ブルーノも同行していたら、準備の良いブルーノのことだ。
きっと今回のようにさっと靴を差し出したことだろうな。

そんなことを思いながら、さっと視察用の靴に履き替えシュウを見ると靴の履き方が分からないようだった。
そういえばこの形の靴は履かせたことがなかったな。
おそらくシュウの世界にはないものなのだろう。

私はシュウの前に跪き、靴を履かせてあげることにした。
可愛らしいシュウの足を持ち上げると、私の手にすっぽりと収まるほど小さい。
しかも滑らかで柔らかな白肌がなんとも気持ちがいい。

可愛らしい指先を覆い隠す靴を履かせながら、あの指を舐め回したらシュウはどんな反応をするだろうかと妄想するだけで愚息はまた勢いを増していく。
そんなふしだらな妄想していることをシュウに悟られぬよう、冷静な顔を見せつつシュウの足を堪能しながら靴を履かせた。

お礼をいってくれたシュウに、

「いや、シュウに靴を履かせられるなんて私にとってはご褒美にしかならないからな」

そういうと、シュウはハッとした表情を見せたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
何か気になることでもあっただろうか?

シュウに尋ねようと思ったが、ふと外を見るともうアンドリュー王とトーマ王妃が降りている。
待たせるわけにはいかないとシュウの手を取り、急いで馬車を降りた。
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