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第四章 (王城 過去編)
花村 柊 23−1
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珍しくパチっと目を覚ました。
ふぅー、何だかよく寝た気がする。
ぐっすり熟睡したからか頭もスッキリしているし、とっても気分がいい。
昨日、何があったんだっけ?
と考えたところで、ぼくの背中からお腹に回り込んでいる腕がキュッとぼくを抱きしめてきて、その瞬間昨夜の出来事を思い出した。
フレッドの触れるところ全てが気持ちよくておかしくなりそうだった。
いや、実際におかしかったのかもしれない。
それでもフレッドがずっと優しくて嬉しそうだったのは覚えてる。
だから、良かったんだ……きっと。
ぼくはモゾモゾと身体を翻し、フレッドに向き合うとフレッドは昨夜と同じ幸せそうな顔でぼくを抱きしめていた。
「フレッド、フレッド」
フレッドに早く見つめられたくなって、声をかけたけれどフレッドが目を覚ます様子がない。
いろいろ後片付けもさせちゃったしあんまりよく寝ていないのかもしれないと思ったけれど、1人で起きているのが寂しくてもう一度『フレッド、起きて』と声をかけ、唇におはようのキスをしてみた。
ちゅっと小さな音が響いて口を離すと、フレッドはゆっくりと目を開けてくれた。
フレッドの淡い水色の瞳にぼくが映っているのが嬉しくてたまらない。
「フレッド、おはよう」
「ああ、おはよう。シュウからの口付けで目を覚ますなんて今日は幸せな一日になりそうだな」
まるで童話のお姫さまみたいなことを言うフレッドが可愛くて、フレッドの頬にもう一度キスをおくった。
「なんだ? 今日はやけに積極的だな。昨夜はあんなにされるがままだったのに」
フレッドの指先がぼくの首筋から襟足へとツーっと滑っていくだけで、身体が昨夜のことを思い出してゾクリと疼いてしまう。
「……やぁ、ん……っ」
我慢できなくてフレッドの胸元に顔を擦り寄せると、
「シュウ……」
と蕩けるように甘い声が耳元に囁かれ、その声にふっと顔を上げるとフレッドの唇が重なり合った。
舌をほんの少し開けると、待ってましたと言わんばかりにフレッドの肉厚で柔らかな舌が滑り込んできた。
ぎゅっと抱きしめられフレッドの温もりを感じながら、ぼくは深くて甘いキスに酔いしれていた。
「シュウ、名残惜しいがそろそろ準備をしようか」
その声に我にかえり、目を開けてフレッドを見つめるとフレッドの瞳がぼくを愛しい、このままずっと一緒に微睡んでいたいと訴えかけているようで、本当に名残惜しいと思ってくれていることが嬉しかった。
「うん。また夜に続きをしてね」
「シュウ……可愛いことを言っているとベッドから出られなくなってしまうぞ」
フレッドはニヤリと笑って、『さぁ、準備をしよう』とぼくをベッドから抱き上げ寝室を出た。
「あれ?」
ぼくたちの部屋ここだったっけ?
似てるけど、家具の配置や広さが違うような……?
「どうした?」
キョロキョロと部屋を見回していると、フレッドが不思議そうに尋ねてきた。
えっ? フレッドは何にも思っていないってことはぼくの勘違いかな?
でも、やっぱり違う気がするんだけど……。
「なんか部屋の感じが違うような気がして……」
「ああ、そうか!」
フレッドは、ははっと笑って、
「ごめん、ごめん。昨日あの部屋にネズミが出るというのでな、部屋を交換したんだ」
と教えてくれた。
そっか、ネズミ。
こんな綺麗なお屋敷にもネズミっているんだな。
ちょっと見てみたい気もするけど。
でも、部屋を走り回っているのを想像すると……ちょっと怖いかも……ね。
うん。変更してもらえてよかったかも。
「ブルーノに服といつもの鬘を用意してもらうから、シュウは先に顔を洗っておいで」
そうだ、ブルーノさんはともかく、何かの拍子に黒髪をみられたら大変なことになっちゃうし、男だってバレてもいけないしね。
ぼくはフレッドがブルーノさんを呼んでいる間、洗面所に籠って顔を洗っていた。
部屋に戻ると、今日の服とウィッグが用意されていてそれを寝室に運び着替えを終わらせた。
今日はなんとなく動きやすそうな格好だ。
視察で外に出るからかな。
ふふっ。レナゼリシアの町はどんな感じだろう?
楽しみだな。
朝食の支度ができていると言われ案内された先は大きめのダイニングルーム。
手前の席に侯爵さまが1人座っていて、アンドリューさまとお父さんはまだみたいだ。
「レナゼリシア侯爵、おはよう」
「おはようございます。サンチェス公爵さま。奥方さま。昨夜はよくお休みになれましたか?」
フレッドの声に素早く席を立ちにこやかな笑顔で朝の挨拶を返してくれた。
緊張した顔をしていた昨日と違ってなんだか憑き物でも落ちたようなすっきりとした表情をしている。
侯爵さま……何かいいことでもあったんだろうか?
「ええ。おかげさまでぐっすり眠れました。お部屋を交換していただいたそうでありがとうございました」
簡単に部屋を交換するといっても準備も大変だっただろうし、手間もかかっただろう。
ちゃんとお礼は言っとかないとね! と思って言ったんだけど、ぼくがお礼を言った瞬間、
「ゴホッ、ゴホッ」
と侯爵さまが大きく咳き込んだ。
「えっ? だ、大丈夫ですか?」
駆け寄ろうとすると、フレッドがぼくの手を取って引き留めた。
「フレッド……」
「シュウ、気にしないでいい。侯爵は大丈夫だ」
「でも……」
気になって侯爵さまを見やると、侯爵さまの傍にはヴォルフさんが寄り添っていてそっとグラスに入った水を手渡していた。
お互いを見つめ合うその2人の表情がすごく柔らかくて優しい感じがして、なんとなくほっとした気分になった。
もしかして……侯爵さまとヴォルフさんって……?
でも、侯爵さまには今は奥さんもいないって言ってたし、傍で支えてくれる人がいるって言うのは心強いものだもんね。
ぼくもフレッドが傍にいてくれるから頑張れてると思うし。
そう思ってフレッドに目を向けると、フレッドはぼくをじっと見つめていた。
「なっ、言った通りだろう?」
「ふふっ。そうだね。大丈夫そう」
顔を見合わせて笑っていると、
「ああっ、奥方さま。失礼いたしました。
ヴォルフ、公爵さまと奥方さまを席にご案内してくれ」
と焦った様子でぼくたちを席へと案内するように指示してくれた。
席につき、侯爵さまとしばらく談笑しているとアンドリューさまとお父さんがダイニングルームにやってきた。
ぼくたちは急いで席を立ち、お父さんたちが席に案内され座るのを待ってから、ぼくたちはまた席についた。
「待たせたな」
「いいえ。とんでもないことでございます。
それでは食事にいたしましょう」
侯爵さまの言葉にヴォルフさんと数人の侍従さんが手際よく食事を運んでくる。
テーブルにアンドリューさまとお父さん、フレッドとぼく、そして侯爵さまの料理が並べられていく。
あれ? そういえばパメラさんはどうしたんだろう?
昨日、夜会だったから疲れているとは思うけど、アンドリューさまやお父さんも一緒の朝食に寝坊して顔を出さないって言うのはさすがにおかしいよね?
「ねぇ、フレッド」
「シュウ、どうした?」
「パメラさんは一緒に食事をしないの?」
ぼくの質問にアンドリューさまとフレッド、侯爵さま、そして料理を並べていたヴォルフさんが一斉に
『ゴホッ、ゴホッ』と咽せ返る。
えっ? なに?
ぼく、何か悪いこと言っちゃった?
目の前に座るお父さんも
『えっ? なに?』と状況が理解できていないようで、2人でみんなの様子を不思議そうに見てしまった。
「ねぇ、アンディー。大丈夫? どうしたの? 何かあった?」
「フレッドも大丈夫?」
ぼくがフレッドの背中を摩っていると、
「トーマ、大丈夫だ。パメラ嬢は体調を悪くして部屋で臥せっているらしい。侯爵、そうだったな?」
とアンドリューさまが侯爵さまに声をかけた。
侯爵さまは一瞬間を開けて、
「……は、はい。申し訳ございません。少し体調を崩したようでございまして……」
と頭を下げていた。
そっか。きっとアンドリューさまやお父さんと会って緊張しちゃったんだね。
パメラさん、なんか怖そうとか思ってたけど、結構繊細な人だったんだな。
あっ、そうだ!
「あとでお見舞いとか行ってもいいのかな?」
「いや、パメラ嬢も妙齢の女性だ。
臥せっているところを見られたくは無いだろう。
なぁ、侯爵。」
フレッドに止められて気づいた。たしかにそうかも。
お化粧もしていないし、寝巻き姿なんて見られたくないよね。
こっちから言えばたとえ嫌だと思っても断れないだろうしな。
「はい。パメラには奥方さまのお優しい御心遣いだけ伝えておきます。ありがとうございます」
「さぁ、食事を始めよう」
話題を変えるようにアンドリューさまの声かけで朝食が始まった。
焼き立てのふかふかパンにふわふわのオムレツと彩り豊かなフルーツたち。
特に王都では見なかったようなフルーツがいっぱい並んでいてぼくは思わず
『わぁっ、美味しそう』と声をあげてしまった。
みんなの視線が突き刺さるのを感じて、公爵夫人としてみっともないことしちゃってフレッドに恥を書かせてしまったかと思い、
「あっ……ごめんなさい。美味しそうで、つい……」
と急いで謝ると、侯爵さまは慌てたように
「いいえ、これらの食材は全て我が領地で栽培、生産したものでございます。それを奥方さまにお気に召していただけて感激こそすれ、謝っていただくことなどございません」
と頭を下げながら言ってくれた。
「ふふっ。柊ちゃんはフルーツが大好きだもんね。私もレナゼリシアで採れるフルーツは美味しいから大好き」
「王妃さまにそう仰って頂けて、領民たちも喜んでいることだと思います。
本日、そのフルーツ栽培農家にご案内いたしますのでぜひ貴重なご意見をお聞かせくださいませ。」
お父さんの言葉に侯爵さまは目を輝かせて嬉しそうに顔を綻ばせていた。
それからは和やかな雰囲気の中、食事が終わってぼくたちは視察のために玄関へと向かった。
玄関前にはぼくたちが王都から乗ってきた馬車が2台並んで出発の時を待っていた。
先頭の馬車にアンドリューさまとお父さん、そしてレナゼリシア侯爵が一緒に乗り、ぼくとフレッドは2人で後ろの馬車に乗ることになっている。
それに加えて、先頭の従者さんの隣にはヴォルフさんが、そしてぼくたちの馬車の従者さんの隣にはブルーノさんが乗っている。
周りにはもちろんヒューバートさんを始め、騎士さんたちが騎馬して周りを囲んでいて、警護も万全だ。
お父さんたちの乗った馬車がゆっくりと動き出すのを確認して、ぼくたちの馬車もゆっくりと出発した。
カッポカッポと石畳に蹄の音が響くのに合わせて、馬車の窓から心地よい風が入ってくる。
同じような街並みなのに入ってくる風の匂いはこっちの方がどこか澄んでいる気がする。
やっぱり王都よりは田舎な分、空気も綺麗なのかもしれない。
「シュウ、気持ちよさそうだな」
窓から入ってくる風を感じていると、不意にフレッドにそう言われた。
「ふふっ。うん。なんか風が美味しい感じがする」
「風が美味しい? 面白いことを言うな。どれ、私にも感じさせてくれないか?」
フレッドは風を浴びているぼくを後ろから抱きしめ、
「ああ、いい匂いがするな。本当に美味しそうで食べたくなる」
とぼくの首筋に顔を埋めスンスンと匂いを嗅いでいる。
「……ひゃ……ぁん……、フレ……ッド……、そこ、は……」
フレッドの吐息が首筋にかかってくすぐったいのに気持ちよくて、やめて欲しいのにもっとしてほしくて、おかしくなってしまいそうだ。
「ふふっ。ごめん、ごめん。続きは夜だったな」
フレッドの悪戯のせいでぼくの気持ちは昂ってしまっていたけれど、窓の外を走る騎士さんたちの姿に思いっきり恥ずかしくなってきて、
「もう! 悪戯しちゃダメだよ!」
とフレッドに怒ったのだけれど、フレッドには何も響いていなかったようで
『わかったよ』という言葉を言いながらも顔はとても嬉しそうだった。
だから、ちょっとだけフレッドを懲らしめてやりたい気になって、
「フレッドが反省してないみたいだから、帰りは侯爵さまと2人で馬車に乗ろうかな。
フレッドはお父さんたちと一緒に乗ったらいいよ」
フイっと顔を背けて拗ねて見せると、急にフレッドが焦り出した。
「シュウ……怒ったのか? シュウが他の者と一緒に乗るだなんて嫌だ。許してくれ! 頼む!」
その焦った様子がなんとも可愛くて、可哀想になってきてぼくはすぐに
「ふふっ。冗談だよ」
と言ってあげると、フレッドは
『はぁーーーっ』と大きな溜息を吐いて、
「驚かせないでくれ。シュウに嫌われたら私は生きていけないのだぞ」
とぼくを膝の上に乗せて包み込むように抱きしめた。
「ふふっ。フレッド……可愛い」
「可愛い……か。ふぅ……私はいつでもシュウの前では格好良くいたいのだがな……」
「ぼくはどっちのフレッドも好きだよ」
ぼくは顔を上げてフレッドの頬にキスをした。
思いがけないキスにフレッドは
「シュウが好きだと言って口付けをしてくれるならば、可愛くてもいいな」
と嬉しそうに笑っていた。
そうこうしている間に、馬車は目的地へと辿り着いた。
石畳の道はぼくたちが戯れている間に通り過ぎてしまっていたようで、目の前には木々が立ち並んでいる。どうやら果樹園のようだ。
風に乗って微かに甘い香りが漂っている。
扉が開きブルーノさんが、
「アルフレッドさま、シュウさま。こちらの靴にお召し替えくださいませ」
と作業用の靴を差し出してきた。
見た感じ、格好良いブーツのようだ。
慣れない靴に手間取っていると、一足早く履き終わったフレッドが
「私が履かせてやろう」
とぼくの前で膝を折り片膝をついた。
わぁ……その姿、なんて格好良いんだろう……。
ときめいてドキドキしているぼくの足を持ってフレッドは器用に履かせていく。
「シュウの足は小さくて可愛らしいな。
本当にどこもかしこも愛おしい」
フレッドの大きな手に包まれたぼくの足に温もりが伝わってくる。
ぼくは微動だにせずただ履かせてくれるフレッドだけを見つめていた。
「さぁ、出来たぞ」
その声にハッとして足元を見ると、綺麗に履けている。
「ありがとう、フレッド」
「いや、シュウに靴を履かせられるなんて私にとってはご褒美にしかならないからな」
んっ? 前にも聞いたことあるような……?
そうだ! 前にみかん摘みをさせてもらった時、泥だらけになった足を拭いてもらったときもそう言ってた……。
もしかして……フレッドはぼくの足が好きなのかな?
フレッドにエスコートしてもらいながら馬車を降りると、すぐに果樹園の方に案内された。
リンゴや梨がたわわに実っていて、なんとも壮観だ。
「昨年はあまり実をつけなかったのですが、今年は天候に恵まれましてこの通り豊作となりました。
こちらにある分はまだ硬いうちに収穫して、王都やその周辺の領地に卸し、あちらに生っているものは熟してから領地内で食しております」
なるほど。結構な量を作れるからこの領地の重要な財源になっているんだな。
せっかくたくさん生ったときに腐らせたりしたらもったいないから果物として食べる以外にももっとバリエーションが増えればその分需要は増えそうだよね。
「陛下。王妃さま。あの……えっと、リンゴを、召し上がり……ませんか?」
ぼくたちの元に小学校低学年くらいの男の子が木の器に剥いたリンゴをたくさん乗せてトコトコとやってきた。
その足取りがなんだか危なっかしくて大丈夫かなと気になっていたけれど、やっぱり大きな器を持っていたせいで足元が見えなかったのか土の盛り上がったところで、『わぁっ』と転びそうになってしまった。
ぼくが『あっ』と思った瞬間、隣にいたフレッドがさっと男の子が持っていた器を取り転けそうになっていた男の子ももう片方の手で支えた。
その早技に驚くやら、感動するやらでぼくは目を丸くしてしまった。
「大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございました」
男の子は茫然としながらもフレッドにちゃんとお礼を言っていた。
『ちゃんとお礼が言えて偉いぞ』
とフレッドが優しい顔で男の子の頭をぽんぽんと撫でて褒めてやると、男の子は得意げに笑っていた。
ぼくはフレッドの優しい一面が見れてすごく嬉しくて辺りには和やかな雰囲気になったと思っていたのに突然、
「公爵さま。うちの倅が申し訳ございません」
あの子の父親だろうか、青褪めた顔でフレッドの前に滑り込み正座して謝罪する声が聞こえた。
「この子は手伝いをしただけだろう。何も悪いことはしていないのだから謝る必要などないぞ」
「ですが、その、お召し物が……」
服?
その人の言葉にフレッドを見ると、抱き留めた時に男の子の靴が当たったのか、ズボンにべったりと泥がついてしまっていた。
フレッドはそれを一瞥すると『ふっ』と笑い、
「服など汚れるためにあるのだ。そもそも果樹園に視察に来る時点で汚れなど気にするわけがなかろう。
其方たちは私に謝罪することよりも、まずは息子を褒めてやれ」
すぐそばにいる男の子に笑顔を向けもう一度頭を撫でてから父親にそう言っていた。
彼はフレッドの言葉に少し涙ぐんだ様子でフレッドの前にまだ座り込んでいたけれど、
『お父さん』と男の子が抱きつくと嬉しそうに『偉かったな』と褒めてあげていて、果樹園に和やかな雰囲気が戻った。
「さぁ、これは皆でいただこう」
アンドリューさまがフレッドが持っていた木の器からリンゴを一つ手にとってお父さんに
『トーマ、口を開けてくれ』と食べさせてあげていた。
フレッドはそれを見て、同じようにリンゴを一つ手にとって、
『シュウ、ほら……食べてみてくれ』
と差し出してくる。
みんなから見られているようで恥ずかしかったけれど、ここでは普通のことだってお父さんも言ってたし大丈夫と言い聞かせて、フレッドが差し出すリンゴをアーンと口を開けて食べてみた。
「甘い!」
「美味しい!!」
お父さんと僕の声が重なり合ったのがなんだか面白くて、お互い顔を見合わせて「ふふっ」と笑ってしまった。
「私にも食べさせてくれないか?」
「私にも頼む」
今度はアンドリューさまとフレッドの声が重なり合う。
お父さんとぼくは2人の必死な様子が可愛く思えて、
「ふふっ。アーンして」
と言って食べさせてあげると、フレッドは満面の笑みで『美味しいな』と言ってくれた。
アンドリューさまも同じような様子を見せ、周りにいた侯爵さまを始め、領民さんたちも微笑ましそうにその光景を見つめていた。
「陛下と王妃さま、そして公爵さまと奥方さまの仲睦まじいご様子を目の前で拝見でき、私は光栄でございます」
しみじみと侯爵さまに言われて少し恥ずかしかったけれど、侯爵さまや領民さんたちにとっては国王と王妃が仲が良いというのは嬉しいことだろう。
ふぅー、何だかよく寝た気がする。
ぐっすり熟睡したからか頭もスッキリしているし、とっても気分がいい。
昨日、何があったんだっけ?
と考えたところで、ぼくの背中からお腹に回り込んでいる腕がキュッとぼくを抱きしめてきて、その瞬間昨夜の出来事を思い出した。
フレッドの触れるところ全てが気持ちよくておかしくなりそうだった。
いや、実際におかしかったのかもしれない。
それでもフレッドがずっと優しくて嬉しそうだったのは覚えてる。
だから、良かったんだ……きっと。
ぼくはモゾモゾと身体を翻し、フレッドに向き合うとフレッドは昨夜と同じ幸せそうな顔でぼくを抱きしめていた。
「フレッド、フレッド」
フレッドに早く見つめられたくなって、声をかけたけれどフレッドが目を覚ます様子がない。
いろいろ後片付けもさせちゃったしあんまりよく寝ていないのかもしれないと思ったけれど、1人で起きているのが寂しくてもう一度『フレッド、起きて』と声をかけ、唇におはようのキスをしてみた。
ちゅっと小さな音が響いて口を離すと、フレッドはゆっくりと目を開けてくれた。
フレッドの淡い水色の瞳にぼくが映っているのが嬉しくてたまらない。
「フレッド、おはよう」
「ああ、おはよう。シュウからの口付けで目を覚ますなんて今日は幸せな一日になりそうだな」
まるで童話のお姫さまみたいなことを言うフレッドが可愛くて、フレッドの頬にもう一度キスをおくった。
「なんだ? 今日はやけに積極的だな。昨夜はあんなにされるがままだったのに」
フレッドの指先がぼくの首筋から襟足へとツーっと滑っていくだけで、身体が昨夜のことを思い出してゾクリと疼いてしまう。
「……やぁ、ん……っ」
我慢できなくてフレッドの胸元に顔を擦り寄せると、
「シュウ……」
と蕩けるように甘い声が耳元に囁かれ、その声にふっと顔を上げるとフレッドの唇が重なり合った。
舌をほんの少し開けると、待ってましたと言わんばかりにフレッドの肉厚で柔らかな舌が滑り込んできた。
ぎゅっと抱きしめられフレッドの温もりを感じながら、ぼくは深くて甘いキスに酔いしれていた。
「シュウ、名残惜しいがそろそろ準備をしようか」
その声に我にかえり、目を開けてフレッドを見つめるとフレッドの瞳がぼくを愛しい、このままずっと一緒に微睡んでいたいと訴えかけているようで、本当に名残惜しいと思ってくれていることが嬉しかった。
「うん。また夜に続きをしてね」
「シュウ……可愛いことを言っているとベッドから出られなくなってしまうぞ」
フレッドはニヤリと笑って、『さぁ、準備をしよう』とぼくをベッドから抱き上げ寝室を出た。
「あれ?」
ぼくたちの部屋ここだったっけ?
似てるけど、家具の配置や広さが違うような……?
「どうした?」
キョロキョロと部屋を見回していると、フレッドが不思議そうに尋ねてきた。
えっ? フレッドは何にも思っていないってことはぼくの勘違いかな?
でも、やっぱり違う気がするんだけど……。
「なんか部屋の感じが違うような気がして……」
「ああ、そうか!」
フレッドは、ははっと笑って、
「ごめん、ごめん。昨日あの部屋にネズミが出るというのでな、部屋を交換したんだ」
と教えてくれた。
そっか、ネズミ。
こんな綺麗なお屋敷にもネズミっているんだな。
ちょっと見てみたい気もするけど。
でも、部屋を走り回っているのを想像すると……ちょっと怖いかも……ね。
うん。変更してもらえてよかったかも。
「ブルーノに服といつもの鬘を用意してもらうから、シュウは先に顔を洗っておいで」
そうだ、ブルーノさんはともかく、何かの拍子に黒髪をみられたら大変なことになっちゃうし、男だってバレてもいけないしね。
ぼくはフレッドがブルーノさんを呼んでいる間、洗面所に籠って顔を洗っていた。
部屋に戻ると、今日の服とウィッグが用意されていてそれを寝室に運び着替えを終わらせた。
今日はなんとなく動きやすそうな格好だ。
視察で外に出るからかな。
ふふっ。レナゼリシアの町はどんな感じだろう?
楽しみだな。
朝食の支度ができていると言われ案内された先は大きめのダイニングルーム。
手前の席に侯爵さまが1人座っていて、アンドリューさまとお父さんはまだみたいだ。
「レナゼリシア侯爵、おはよう」
「おはようございます。サンチェス公爵さま。奥方さま。昨夜はよくお休みになれましたか?」
フレッドの声に素早く席を立ちにこやかな笑顔で朝の挨拶を返してくれた。
緊張した顔をしていた昨日と違ってなんだか憑き物でも落ちたようなすっきりとした表情をしている。
侯爵さま……何かいいことでもあったんだろうか?
「ええ。おかげさまでぐっすり眠れました。お部屋を交換していただいたそうでありがとうございました」
簡単に部屋を交換するといっても準備も大変だっただろうし、手間もかかっただろう。
ちゃんとお礼は言っとかないとね! と思って言ったんだけど、ぼくがお礼を言った瞬間、
「ゴホッ、ゴホッ」
と侯爵さまが大きく咳き込んだ。
「えっ? だ、大丈夫ですか?」
駆け寄ろうとすると、フレッドがぼくの手を取って引き留めた。
「フレッド……」
「シュウ、気にしないでいい。侯爵は大丈夫だ」
「でも……」
気になって侯爵さまを見やると、侯爵さまの傍にはヴォルフさんが寄り添っていてそっとグラスに入った水を手渡していた。
お互いを見つめ合うその2人の表情がすごく柔らかくて優しい感じがして、なんとなくほっとした気分になった。
もしかして……侯爵さまとヴォルフさんって……?
でも、侯爵さまには今は奥さんもいないって言ってたし、傍で支えてくれる人がいるって言うのは心強いものだもんね。
ぼくもフレッドが傍にいてくれるから頑張れてると思うし。
そう思ってフレッドに目を向けると、フレッドはぼくをじっと見つめていた。
「なっ、言った通りだろう?」
「ふふっ。そうだね。大丈夫そう」
顔を見合わせて笑っていると、
「ああっ、奥方さま。失礼いたしました。
ヴォルフ、公爵さまと奥方さまを席にご案内してくれ」
と焦った様子でぼくたちを席へと案内するように指示してくれた。
席につき、侯爵さまとしばらく談笑しているとアンドリューさまとお父さんがダイニングルームにやってきた。
ぼくたちは急いで席を立ち、お父さんたちが席に案内され座るのを待ってから、ぼくたちはまた席についた。
「待たせたな」
「いいえ。とんでもないことでございます。
それでは食事にいたしましょう」
侯爵さまの言葉にヴォルフさんと数人の侍従さんが手際よく食事を運んでくる。
テーブルにアンドリューさまとお父さん、フレッドとぼく、そして侯爵さまの料理が並べられていく。
あれ? そういえばパメラさんはどうしたんだろう?
昨日、夜会だったから疲れているとは思うけど、アンドリューさまやお父さんも一緒の朝食に寝坊して顔を出さないって言うのはさすがにおかしいよね?
「ねぇ、フレッド」
「シュウ、どうした?」
「パメラさんは一緒に食事をしないの?」
ぼくの質問にアンドリューさまとフレッド、侯爵さま、そして料理を並べていたヴォルフさんが一斉に
『ゴホッ、ゴホッ』と咽せ返る。
えっ? なに?
ぼく、何か悪いこと言っちゃった?
目の前に座るお父さんも
『えっ? なに?』と状況が理解できていないようで、2人でみんなの様子を不思議そうに見てしまった。
「ねぇ、アンディー。大丈夫? どうしたの? 何かあった?」
「フレッドも大丈夫?」
ぼくがフレッドの背中を摩っていると、
「トーマ、大丈夫だ。パメラ嬢は体調を悪くして部屋で臥せっているらしい。侯爵、そうだったな?」
とアンドリューさまが侯爵さまに声をかけた。
侯爵さまは一瞬間を開けて、
「……は、はい。申し訳ございません。少し体調を崩したようでございまして……」
と頭を下げていた。
そっか。きっとアンドリューさまやお父さんと会って緊張しちゃったんだね。
パメラさん、なんか怖そうとか思ってたけど、結構繊細な人だったんだな。
あっ、そうだ!
「あとでお見舞いとか行ってもいいのかな?」
「いや、パメラ嬢も妙齢の女性だ。
臥せっているところを見られたくは無いだろう。
なぁ、侯爵。」
フレッドに止められて気づいた。たしかにそうかも。
お化粧もしていないし、寝巻き姿なんて見られたくないよね。
こっちから言えばたとえ嫌だと思っても断れないだろうしな。
「はい。パメラには奥方さまのお優しい御心遣いだけ伝えておきます。ありがとうございます」
「さぁ、食事を始めよう」
話題を変えるようにアンドリューさまの声かけで朝食が始まった。
焼き立てのふかふかパンにふわふわのオムレツと彩り豊かなフルーツたち。
特に王都では見なかったようなフルーツがいっぱい並んでいてぼくは思わず
『わぁっ、美味しそう』と声をあげてしまった。
みんなの視線が突き刺さるのを感じて、公爵夫人としてみっともないことしちゃってフレッドに恥を書かせてしまったかと思い、
「あっ……ごめんなさい。美味しそうで、つい……」
と急いで謝ると、侯爵さまは慌てたように
「いいえ、これらの食材は全て我が領地で栽培、生産したものでございます。それを奥方さまにお気に召していただけて感激こそすれ、謝っていただくことなどございません」
と頭を下げながら言ってくれた。
「ふふっ。柊ちゃんはフルーツが大好きだもんね。私もレナゼリシアで採れるフルーツは美味しいから大好き」
「王妃さまにそう仰って頂けて、領民たちも喜んでいることだと思います。
本日、そのフルーツ栽培農家にご案内いたしますのでぜひ貴重なご意見をお聞かせくださいませ。」
お父さんの言葉に侯爵さまは目を輝かせて嬉しそうに顔を綻ばせていた。
それからは和やかな雰囲気の中、食事が終わってぼくたちは視察のために玄関へと向かった。
玄関前にはぼくたちが王都から乗ってきた馬車が2台並んで出発の時を待っていた。
先頭の馬車にアンドリューさまとお父さん、そしてレナゼリシア侯爵が一緒に乗り、ぼくとフレッドは2人で後ろの馬車に乗ることになっている。
それに加えて、先頭の従者さんの隣にはヴォルフさんが、そしてぼくたちの馬車の従者さんの隣にはブルーノさんが乗っている。
周りにはもちろんヒューバートさんを始め、騎士さんたちが騎馬して周りを囲んでいて、警護も万全だ。
お父さんたちの乗った馬車がゆっくりと動き出すのを確認して、ぼくたちの馬車もゆっくりと出発した。
カッポカッポと石畳に蹄の音が響くのに合わせて、馬車の窓から心地よい風が入ってくる。
同じような街並みなのに入ってくる風の匂いはこっちの方がどこか澄んでいる気がする。
やっぱり王都よりは田舎な分、空気も綺麗なのかもしれない。
「シュウ、気持ちよさそうだな」
窓から入ってくる風を感じていると、不意にフレッドにそう言われた。
「ふふっ。うん。なんか風が美味しい感じがする」
「風が美味しい? 面白いことを言うな。どれ、私にも感じさせてくれないか?」
フレッドは風を浴びているぼくを後ろから抱きしめ、
「ああ、いい匂いがするな。本当に美味しそうで食べたくなる」
とぼくの首筋に顔を埋めスンスンと匂いを嗅いでいる。
「……ひゃ……ぁん……、フレ……ッド……、そこ、は……」
フレッドの吐息が首筋にかかってくすぐったいのに気持ちよくて、やめて欲しいのにもっとしてほしくて、おかしくなってしまいそうだ。
「ふふっ。ごめん、ごめん。続きは夜だったな」
フレッドの悪戯のせいでぼくの気持ちは昂ってしまっていたけれど、窓の外を走る騎士さんたちの姿に思いっきり恥ずかしくなってきて、
「もう! 悪戯しちゃダメだよ!」
とフレッドに怒ったのだけれど、フレッドには何も響いていなかったようで
『わかったよ』という言葉を言いながらも顔はとても嬉しそうだった。
だから、ちょっとだけフレッドを懲らしめてやりたい気になって、
「フレッドが反省してないみたいだから、帰りは侯爵さまと2人で馬車に乗ろうかな。
フレッドはお父さんたちと一緒に乗ったらいいよ」
フイっと顔を背けて拗ねて見せると、急にフレッドが焦り出した。
「シュウ……怒ったのか? シュウが他の者と一緒に乗るだなんて嫌だ。許してくれ! 頼む!」
その焦った様子がなんとも可愛くて、可哀想になってきてぼくはすぐに
「ふふっ。冗談だよ」
と言ってあげると、フレッドは
『はぁーーーっ』と大きな溜息を吐いて、
「驚かせないでくれ。シュウに嫌われたら私は生きていけないのだぞ」
とぼくを膝の上に乗せて包み込むように抱きしめた。
「ふふっ。フレッド……可愛い」
「可愛い……か。ふぅ……私はいつでもシュウの前では格好良くいたいのだがな……」
「ぼくはどっちのフレッドも好きだよ」
ぼくは顔を上げてフレッドの頬にキスをした。
思いがけないキスにフレッドは
「シュウが好きだと言って口付けをしてくれるならば、可愛くてもいいな」
と嬉しそうに笑っていた。
そうこうしている間に、馬車は目的地へと辿り着いた。
石畳の道はぼくたちが戯れている間に通り過ぎてしまっていたようで、目の前には木々が立ち並んでいる。どうやら果樹園のようだ。
風に乗って微かに甘い香りが漂っている。
扉が開きブルーノさんが、
「アルフレッドさま、シュウさま。こちらの靴にお召し替えくださいませ」
と作業用の靴を差し出してきた。
見た感じ、格好良いブーツのようだ。
慣れない靴に手間取っていると、一足早く履き終わったフレッドが
「私が履かせてやろう」
とぼくの前で膝を折り片膝をついた。
わぁ……その姿、なんて格好良いんだろう……。
ときめいてドキドキしているぼくの足を持ってフレッドは器用に履かせていく。
「シュウの足は小さくて可愛らしいな。
本当にどこもかしこも愛おしい」
フレッドの大きな手に包まれたぼくの足に温もりが伝わってくる。
ぼくは微動だにせずただ履かせてくれるフレッドだけを見つめていた。
「さぁ、出来たぞ」
その声にハッとして足元を見ると、綺麗に履けている。
「ありがとう、フレッド」
「いや、シュウに靴を履かせられるなんて私にとってはご褒美にしかならないからな」
んっ? 前にも聞いたことあるような……?
そうだ! 前にみかん摘みをさせてもらった時、泥だらけになった足を拭いてもらったときもそう言ってた……。
もしかして……フレッドはぼくの足が好きなのかな?
フレッドにエスコートしてもらいながら馬車を降りると、すぐに果樹園の方に案内された。
リンゴや梨がたわわに実っていて、なんとも壮観だ。
「昨年はあまり実をつけなかったのですが、今年は天候に恵まれましてこの通り豊作となりました。
こちらにある分はまだ硬いうちに収穫して、王都やその周辺の領地に卸し、あちらに生っているものは熟してから領地内で食しております」
なるほど。結構な量を作れるからこの領地の重要な財源になっているんだな。
せっかくたくさん生ったときに腐らせたりしたらもったいないから果物として食べる以外にももっとバリエーションが増えればその分需要は増えそうだよね。
「陛下。王妃さま。あの……えっと、リンゴを、召し上がり……ませんか?」
ぼくたちの元に小学校低学年くらいの男の子が木の器に剥いたリンゴをたくさん乗せてトコトコとやってきた。
その足取りがなんだか危なっかしくて大丈夫かなと気になっていたけれど、やっぱり大きな器を持っていたせいで足元が見えなかったのか土の盛り上がったところで、『わぁっ』と転びそうになってしまった。
ぼくが『あっ』と思った瞬間、隣にいたフレッドがさっと男の子が持っていた器を取り転けそうになっていた男の子ももう片方の手で支えた。
その早技に驚くやら、感動するやらでぼくは目を丸くしてしまった。
「大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございました」
男の子は茫然としながらもフレッドにちゃんとお礼を言っていた。
『ちゃんとお礼が言えて偉いぞ』
とフレッドが優しい顔で男の子の頭をぽんぽんと撫でて褒めてやると、男の子は得意げに笑っていた。
ぼくはフレッドの優しい一面が見れてすごく嬉しくて辺りには和やかな雰囲気になったと思っていたのに突然、
「公爵さま。うちの倅が申し訳ございません」
あの子の父親だろうか、青褪めた顔でフレッドの前に滑り込み正座して謝罪する声が聞こえた。
「この子は手伝いをしただけだろう。何も悪いことはしていないのだから謝る必要などないぞ」
「ですが、その、お召し物が……」
服?
その人の言葉にフレッドを見ると、抱き留めた時に男の子の靴が当たったのか、ズボンにべったりと泥がついてしまっていた。
フレッドはそれを一瞥すると『ふっ』と笑い、
「服など汚れるためにあるのだ。そもそも果樹園に視察に来る時点で汚れなど気にするわけがなかろう。
其方たちは私に謝罪することよりも、まずは息子を褒めてやれ」
すぐそばにいる男の子に笑顔を向けもう一度頭を撫でてから父親にそう言っていた。
彼はフレッドの言葉に少し涙ぐんだ様子でフレッドの前にまだ座り込んでいたけれど、
『お父さん』と男の子が抱きつくと嬉しそうに『偉かったな』と褒めてあげていて、果樹園に和やかな雰囲気が戻った。
「さぁ、これは皆でいただこう」
アンドリューさまがフレッドが持っていた木の器からリンゴを一つ手にとってお父さんに
『トーマ、口を開けてくれ』と食べさせてあげていた。
フレッドはそれを見て、同じようにリンゴを一つ手にとって、
『シュウ、ほら……食べてみてくれ』
と差し出してくる。
みんなから見られているようで恥ずかしかったけれど、ここでは普通のことだってお父さんも言ってたし大丈夫と言い聞かせて、フレッドが差し出すリンゴをアーンと口を開けて食べてみた。
「甘い!」
「美味しい!!」
お父さんと僕の声が重なり合ったのがなんだか面白くて、お互い顔を見合わせて「ふふっ」と笑ってしまった。
「私にも食べさせてくれないか?」
「私にも頼む」
今度はアンドリューさまとフレッドの声が重なり合う。
お父さんとぼくは2人の必死な様子が可愛く思えて、
「ふふっ。アーンして」
と言って食べさせてあげると、フレッドは満面の笑みで『美味しいな』と言ってくれた。
アンドリューさまも同じような様子を見せ、周りにいた侯爵さまを始め、領民さんたちも微笑ましそうにその光景を見つめていた。
「陛下と王妃さま、そして公爵さまと奥方さまの仲睦まじいご様子を目の前で拝見でき、私は光栄でございます」
しみじみと侯爵さまに言われて少し恥ずかしかったけれど、侯爵さまや領民さんたちにとっては国王と王妃が仲が良いというのは嬉しいことだろう。
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