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第四章 (王城 過去編)
花村 柊 20−2
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あれ? ここはどこだろう?
心地よかったはずの風が冷たくて目を覚ますと、ぼくはすっかり日も落ちてしまった暗いベンチに寝転んでいた。
頭がぼうっとして何も考えられない状況の中、吹きさらしの風がこれでもかと身体に浴びせられる。
ううっ、さむっ。
ぼくは突き刺さるような寒さに身体を震わせた。
あれ? なんで?
フレッドと馬車に乗っていたはずなのに、なんでこんなところに?
フレッドはどこに行ってしまったの?
周りをキョロキョロと見回してもフレッドの姿はどこにも見えず、足元に草がボーボーに生い茂っていて、周りには三日月に照らされた大きな木がこのベンチに寄り添うように一本だけ立っていた。
ここが見覚えがある場所だと思った瞬間、ふっと記憶が甦ってきた。
あれ、ここ……ぼくがバイトに行く前によく来ていた公園じゃない?
あの頃の夢を見ているんだ、そう思いたかったけれど凍てつくような寒さがこれを夢ではないと訴えかけてくる。
まさか……日本に戻ってきてしまったの?
フレッドもお父さんもいないこの日本に?
ぼく一人で?
初めての家族旅行に浮かれて幸せに満ち足りていたはずの心にぽっかりと大きな穴が空いている。
そんな感覚がした。
唯一の存在であるはずのフレッドは今どこにいるのだろう。
自分が今置かれている状況を考えるよりもぼくはフレッドのことしか考えられなかった。
あっと思い出し、左耳に手をやるとそこにはなんの感触もなかった。
あのピアスは一度つけたら二度と外すことはできない、そう言っていたはずなのに。
穴が空いていた痕跡はどこにもなく、ツルツルとした耳たぶの感触にふっと現実に引き戻された気がした。
昔の想い出を夢見てるんではなくて、フレッドと過ごした今までのことが夢だった?
ぼくがこのベンチで眠ってしまった間に悲しみのままに作り出した夢だったの?
見ると、服も見覚えがある。
あの時着ていた服だ。
そうか……あれは、夢だったんだ。
あんなに全身でぼくのことを愛してくれる人なんて……この世にいるはずがないんだ。
目を閉じれば、フレッドの綺麗な瞳も優しい笑顔も抱擁もキスも全部思い出せるのに……あれは全部夢だったんだ。
胸に溢れかえる絶望感で涙さえ出なかった。
否が応でもフレッドのことを思い出してしまうこの場所にいるのは辛すぎる。
何をする気も起こらず、ぼくは鉛のようになった身体を引きずりながら自分の家があったはずのアパートへ帰った。
もしかしてなかったりして……と密かに思っていたアパートはちゃんと存在した。
それはこっちが現実でフレッドのことが夢だったという証拠だ。
目の前にある古びたアパートの1階の端の部屋。
そこがぼくとお母さんが住んでいたはずの家。
ポケットを弄って出てきた鍵を見て、はぁーーっとため息がでた。
段々とこれが現実なのだと理解し始めた途端、押し寄せてきたのは途轍もない不安だけだった。
仕事もなくなってしまったこれからの生活が不安でたまらない。
何不自由のない生活をしていた夢の中のぼくはいつも笑顔だった。
フレッドに守られて幸せに暮らしていたのに……。
これからは誰の温もりを感じる事もなくたった一人で孤独と戦いながら、またその日生きることに必死な生活に戻るのかと思ったら溜め息しか出なかった。
ぼくはゆっくりと鍵を挿し込んだ。
けれど、鍵は回らなかった。
えっ? なんで?
ここがぼくの家だったはずなのに……。
こっちが夢なの?
どうなってるの?
何がなんだかわからなくて呆然としていると
「そこで何してるんだい?」
と声をかけられた。
その声に驚いて振り返ると、そこには見覚えのある大家さんの姿があった。
「あっ、大家、さん?」
「あっ! あんたはもしかしたら花村さんとこの……?」
「はい。柊です。あの、家に入ろうと思ったら鍵が合わなくて……」
そういうと、大家さんは
「あんた、どこにいってたの? 急に帰って来なくなったから心配してたんだよ」
と涙目で駆け寄ってきた。
「えっ? えっ?」
いつも厳しいことばかり言われていた大家さんからこんなに優しい声をかけられたことに驚いて焦ってしまう。
けれど、大家さんはぼくの様子などお構いなしで喋り続けた。
「あんた、あのコンビニで泥棒の疑いかけられたんだってね。
あそこの店主がカメラ調べたらあんたじゃないバイトの子が盗んでたのがわかったって、慌てて謝りにきてたよ。
申し訳ないことをしたって、仕事に来たら給料渡すからって言ってたよ。
でも、あんたいつまで経っても帰って来ないし、清掃の方も無断欠勤してるっていうし。
真面目なあんたが連絡もなくそんなことをするから、疑われたのがショックでもしかしたらどっかで死んでるんじゃないかってみんな心配してたんだよ。
あんたが戻ってくることがあったら清掃会社の方もコンビニの方もあんたにもう一度働いてほしいって言ってたよ。
あんたの人徳かねぇ。生きてて本当に良かったよ。
あと、この部屋はね、あんたの荷物が勝手に盗られないようにと思って部屋の鍵を変えておいたんだ。
戻ってきてくれたってことはまたここに住んでくれるんだろう?
あんたはこんな古いアパートでも綺麗に使ってくれるし、いい店子なんだから戻ってきてくれてよかったよ」
ぼくが知らなかった事実がたくさん出てきて、頭がパンクしてしまいそうだった。
でも、ぼくの疑いは晴れてたんだ。
それだけはなんとなくホッとした。
とりあえず、あれからどれくらい経ったのかわからないけれど、住む場所も仕事も確保できたのはよかった。
大家さんはぼくに矢継ぎ早にいろいろ話すだけ話して、『ほら、これ』と新しい鍵を渡して帰っていった。
ぼくはその鍵を手に久しぶりの自宅へと足を踏み入れると、締め切っていた部屋の臭いがした。
カチッと電気のボタンを押したけれど、部屋は暗いままだった。
そうか、お金払う前だったもんね。
給料も貰っていないままだったから、当然電気も水道もガスも払っているはずもなく本当に寝ることしかできない部屋の真ん中で力なく座り込んだ。
またここに戻ってくるなんて……。
夢の中とはいえ、愛する人と一緒に暮らす温もりを知ったぼくにはあまりにも辛すぎる。
ここでまたひとりの生活が始まるんだと思ったら、涙が込み上げてきた。
夢と気づいた時には悲しすぎて涙も出なかったけれど、暗い部屋の中で一人ポツンといると途轍もない寂しさでたまらなくなってくる。
こっちに戻っても仕事はないし、家賃払えないから家も追い出される……誰も助けてくれないなんて思っていたのが嘘のように手を差し伸べてくれる人がいた。
家があって仕事があって……昔のぼくから見ればそれはとんでもなく嬉しいことだ。たったひとりで生きてきたぼくには助けてくれる人なんて誰も居なかったから……。
でも、ぼくは夢の中で幸せを知ってしまったんだ。
夢の中のぼくは本当に幸せだった。
なんで夢から覚めてしまったんだろう。
いや、なんであんなに幸せな夢を見てしまったんだろう。
あんな幸せを知らなければ、この孤独に塗れた生活だって我慢して過ごせたのに。
自分の疑いも晴れて、働く場所も住む場所も心配は無くなったというのに、今のぼくはちっとも幸せじゃない。
ぼくの幸せにはフレッドが必要なのに……。
フレッドに逢いたい。
フレッドに抱きしめて欲しい。
フレッドがそばにいてくれなきゃ、ぼくは生きている意味なんてないのに……。
フレッドに会うにはどうしたらいいの?
ぼくは必死に考えた。
そうか。
眠ればまた夢でフレッドに会えるかもしれない。
今度は一生起きることなく、眠ればいいんだ。
フレッドのいない世界に未練なんて何もないんだから。
ぼくはすくっと立ち上がり、真っ暗な中台所に向かって歩き出した。
そして、引き出しの中から一本しかない包丁を取り出すと、窓の外から入り込んできた月の光に包丁が反射してキラリと光った。
このまま、深い眠りにつかせて……。
もう一度フレッドに会わせて、あの幸せな夢を見させて……そう願いながら、ぼくは自分の胸を目掛けて思いっきり包丁を突き立てた。
痛みなど感じる事もなく、ただフレッドにもう一度逢いたい……その一心だった。
「……ウ! シュウ! シュウ!!」
夢の中でずっと聞いていたフレッドの声が聞こえる。
もしかしてあの夢に戻って来れたんだろうか?
「シュウ! 聞こえるか?」
うううっ、痛い! 声が胸に響く。胸が痛くてたまらない。
突き刺すような胸の痛みに我慢できずに目を開けると、そこにはずっと逢いたかったフレッドの顔があった。
夢の中のフレッドとは少し違う……いつも綺麗な髪型は少し乱れていて、綺麗な瞳が涙に濡れている。
でも、フレッドだ……ずっと逢いたかったあのフレッドだ。
よかった、また逢えた。
ぼくはあの夢に戻って来れたんだ。
「……フ、レッ……ド」
声にならない声でフレッドを呼ぶと、フレッドは青褪めた顔をしてぼくを優しく抱きしめてくれた。
「シュウ! ああ、シュウ! お前は私を置いてどこかに行こうとしていなかったか?」
「……な、んで……?」
「シュウが眠り始めたら、急に私のピアスが光り出したんだ。驚いて膝に寝かせていたシュウを見たらシュウのピアスも光り始めて……身体がどんどん冷たくなっていくし、動かしても全然目を覚さないし、このままシュウが死んでしまうんじゃないかって心配した」
一体どういうことだろう。
あれは……あの日本での出来事は夢だったの?
でも、あまりにもリアルだった。
あれはどこからが夢でどれが現実だったんだろう?
あの体験が夢だったのか現実だったのかぼくには何もわからない。
でも、これだけは自信持って言える。
「フレッド……心配かけてごめん。でも、ぼく、一生フレッドから離れないよ。ぼく、元の世界で命を絶ってここに戻ってきたんだ。だから……もう帰る場所はフレッドのところだけだよ」
「命を絶ってって……どういうことなんだ?」
青褪めたままのフレッドにぼくはさっきまでの出来事を全て話した。
フレッドはじっと話を聞いていたけれど、ぼくが包丁を突き立てた話をすると途端に表情を変えた。
「自分で自分を刺すなんて……無謀なことを」
「でも、そのおかげでここに戻って来れたんだよ。ねぇ、これは夢じゃないよね? そうだよね?」
ぼくは夢中でフレッドに縋りついた。
この温もり、この匂い、ああ……フレッドがぼくの目の前にいる。
「ああ、シュウがここにいるのは夢じゃない。もう絶対に離さないよ」
フレッドが抱きついているぼくをさらに強くぎゅっと抱きしめると、ズキっと胸に痛みが走った。
「ゔっ……っ」
思わず、左胸の上を拳で押さえつけるとフレッドが目敏く気づいた。
「どうした? そこが痛いのか? ちょっと見せてみろ」
「あっ、ちょっと……」
抵抗する間もなく上着を開かされ、2人でその場所を覗き込むとそこに三日月の形をした赤い痣ができていた。
「これ……」
「昨日まではなかった痣だな。シュウ、もしかしてここに突き刺したのか?」
「うん。でもなんで月の形?」
「月には魔力が宿るという。もしかしたら、その刃に魔力が注ぎ込まれたんじゃ……?」
魔力……? そういえば、あの時暗闇の中で包丁が月の光に照らされて光ってたっけ。
「月、特に三日月は古来から願いを叶える月と言われていてな。
だからシュウが私に逢いたいって願ったことを叶えてくれたのかもしれないな」
そうなんだ……。
そういえば、三日月を見た覚えがうっすらとあるような……。
これがぼくをフレッドの元に送り届けてくれたんだ。
「でも、もう2度と自分で命を絶つような真似はしてはいけないぞ!」
「うん。フレッドと離れるのはもう絶対に嫌だもん」
もう一度フレッドに抱きつこうとして、ここが馬車の中でないことに気づいた。
「あっ、そういえば……ここはどこなの?」
「ここは今日泊まる予定だった宿泊所だ。シュウの様子がおかしくなってからすぐに陛下とトーマ王妃にお知らせしたんだ。ここについてすぐに医者にも見せたが理由はわからぬが衰弱していて心臓の音も弱いと言われ、シュウのことを心配しておられた。そうだ! お二人を呼んでくるか?」
「うん。でも……」
「どうした?」
「フレッドと少しでも離れるのは嫌だ……」
もうあっちに戻ることはないと分かっていても、あの時ひとりぼっちになった時の孤独を思い出すと怖くて怖くてたまらない。
震える身体でフレッドに力の限り抱きしめた。
「シュウ……。大丈夫だ。1人にはしないよ」
フレッドはぼくを毛布で包み、抱きしめながら扉へと向かった。
そして、扉の向こうで待機していたブルーノさんを呼びつけた。
「ブルーノ! ブルーノ! シュウが目覚めた! すぐに陛下とトーマ王妃に知らせてくれ!」
『かしこまりました!!!』という声を背にブルーノさんはぼくの姿を見る事もなく、お父さんたちの部屋へと走っていった。
「柊くん!」
「シュウ!」
バタバタと走ってくる音が聞こえたと思ったら、部屋をノックすることもなく扉が開かれた。
「お、父さん……アンドリュー、さま」
ずっと泣いていたんだろうか……真っ赤に腫れた眼で駆け寄ってきたお父さんを見ると、ぼくも涙が溢れてしまった。
「ああ、良かった!! 心配したんだよ!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
抱きしめてくれているフレッドごと抱きしめてくれるお父さんの力強さに、お父さんの愛を感じながらぼくはただ謝罪の言葉を繰り返した。
ぼくを抱きしめているお父さんをまたアンドリューさまが抱きしめて……広い部屋の中でぼくたち4人がくっついて抱きしめ合ってる不思議な状態が数分続いて、フレッドが『そろそろ一旦離れましょう』と声をかけた。
その言葉にようやく動いて4人でソファーに腰を下ろした。
「シュウ、どうする? 私から話すか?」
「ううん、ぼくから話すよ」
ぼくたちのただならぬ様子に気づいたのか、お父さんもアンドリューさまも言葉を発することなくじっとぼくを見つめていた。
「馬車で眠って……気がついたら、あのベンチに横たわってたんだ――」
それからぼくはその後の出来事を詳しく話した。
お父さんはひとつひとつの出来事に
『うん、うん』と相槌を打って聞いていたけれど、
最後にぼくが自分で自分の胸を突き刺した時には『ええっ!!』と驚きの声をあげていた。
「そんな無茶なことをして! 戻って来られたから良かったけれど、そのまま死んじゃってたら僕たちにも会えなかったんだよ!」
とすごく怒られたけれど、アンドリューさまは
『ふむ』と考え込んでいた。
「陛下、何かお気づきのことでも?」
「うむ、いや……シュウはもしかしたら今までは中途半端な状態でここにいたのかもしれん」
「中途半端……ですか?」
「ああ。トーマはここに来る時に何か大きな乗り物にぶつかりそうになったと言っていただろう?
あの時トーマは一度死んでしまったのではないだろうか?
そして、そのまま肉体と魂をもったまま、この世界へとやってきた」
フレッドはアンドリューさまの言葉に大きく頷いている。
なるほど……。じゃあ、ぼくは一体どういうこと?
「シュウは肉体だけがここにやってきて、魂はあちらともなくこちらともなくフラフラとしていたのかもしれぬな。
もしかして眠りにつく前にあちらのことを強く考えなかったか?」
「えっ? あ、そういえば、お父さんに懐かしい食事を食べさせてあげたいなって思いました。お米を食べさせてあげたかったなって……」
「其方の魂がそれをあちらの世界への未練だと思って、いっときあちらへ強く呼び寄せてしまったのかもしれぬ」
「なるほど、それがあっちで死んじゃったから肉体のあるこっちに戻って来れたってこと?」
「うーん、まぁ、全て憶測だがな」
アンドリューさまとお父さんの会話を聞いていて、なんとなく合点がいった気がした。
「あっちで心配していたことが全部良い方向に進んでたんだ。仕事も疑いは晴れていたし、給料も返してもらえて無断欠勤も怒られなかった。家賃も滞納してたはずなのに、部屋を残しておいてくれて……一番怒ってると思った大家さんもすごく優しくてびっくりしちゃうくらい……。あれってもしかしたら、そうだったらいいのにって思っていたぼくの願望の現れだったのかな?」
「それはあるかもしれぬな。シュウがあちらの世界に未練があったなら、きっとそのまま引きずられていたことだろう。あちらの世界での憂いを全部無くすことでシュウがそこに留まる選択をしたかもしれぬからな。しかし、それ以上にフレデリックへの深い未練と想いがこちらの世界へと舞い戻らせたのだろうな」
フレッドへの深い未練と想い……。
確かにフレッドと出会っていなければ、あっちに戻っていたかもしれないな。
フレッドを知ってしまった今では、離れたいなんて考えつきもしないけれど。
「ぼく、あっちにいた時、フレッドのことしか考えてなかった。フレッドに逢いたい、フレッドに抱きしめてほしいってそればっかり考えてた。だから、深く眠ればフレッドの夢が見れるかと思って……痣ができちゃったけど、ぼく後悔してないよ。こっちに戻れて本当に良かった」
「ああ、わかってるよ。命を賭けて私のところに戻って来てくれてありがとう」
涙をポロポロ溢しながら必死にそう伝えると、ぎゅっと力強く抱きしめてくれた。
「でも、本当に良かったね。アンディーの推測が正しいなら、何かのきっかけでいつでもあっちに戻ってしまったかもしれないってことだよね。もう柊くんは向こうで死んじゃったわけだから、もう二度と離れ離れにはならないってことだよ」
そうだ……。
ずっといつか日本に戻っちゃうかもなんて心配しなくていいんだ。
そうか……それは本当に嬉しい。
「良かったぁ……」
心からの安堵が漏れた。
「ということは、トーマもあちらではやはり死んでいたということだろうな。私もいつか来た時と同じように、いつかトーマがいなくなるのではと心配していたがその心配が無くなったと思うと嬉しい」
「アンディー……。僕も嬉しいよ」
お父さんたちもまた2人で強く抱きしめ合っていて、お互いの愛を再確認したことだろう。
それにしても旅行初日からとんでもない体験をしてしまったけれど、ようやく幸せな時間が戻ってきて本当に良かった。
心地よかったはずの風が冷たくて目を覚ますと、ぼくはすっかり日も落ちてしまった暗いベンチに寝転んでいた。
頭がぼうっとして何も考えられない状況の中、吹きさらしの風がこれでもかと身体に浴びせられる。
ううっ、さむっ。
ぼくは突き刺さるような寒さに身体を震わせた。
あれ? なんで?
フレッドと馬車に乗っていたはずなのに、なんでこんなところに?
フレッドはどこに行ってしまったの?
周りをキョロキョロと見回してもフレッドの姿はどこにも見えず、足元に草がボーボーに生い茂っていて、周りには三日月に照らされた大きな木がこのベンチに寄り添うように一本だけ立っていた。
ここが見覚えがある場所だと思った瞬間、ふっと記憶が甦ってきた。
あれ、ここ……ぼくがバイトに行く前によく来ていた公園じゃない?
あの頃の夢を見ているんだ、そう思いたかったけれど凍てつくような寒さがこれを夢ではないと訴えかけてくる。
まさか……日本に戻ってきてしまったの?
フレッドもお父さんもいないこの日本に?
ぼく一人で?
初めての家族旅行に浮かれて幸せに満ち足りていたはずの心にぽっかりと大きな穴が空いている。
そんな感覚がした。
唯一の存在であるはずのフレッドは今どこにいるのだろう。
自分が今置かれている状況を考えるよりもぼくはフレッドのことしか考えられなかった。
あっと思い出し、左耳に手をやるとそこにはなんの感触もなかった。
あのピアスは一度つけたら二度と外すことはできない、そう言っていたはずなのに。
穴が空いていた痕跡はどこにもなく、ツルツルとした耳たぶの感触にふっと現実に引き戻された気がした。
昔の想い出を夢見てるんではなくて、フレッドと過ごした今までのことが夢だった?
ぼくがこのベンチで眠ってしまった間に悲しみのままに作り出した夢だったの?
見ると、服も見覚えがある。
あの時着ていた服だ。
そうか……あれは、夢だったんだ。
あんなに全身でぼくのことを愛してくれる人なんて……この世にいるはずがないんだ。
目を閉じれば、フレッドの綺麗な瞳も優しい笑顔も抱擁もキスも全部思い出せるのに……あれは全部夢だったんだ。
胸に溢れかえる絶望感で涙さえ出なかった。
否が応でもフレッドのことを思い出してしまうこの場所にいるのは辛すぎる。
何をする気も起こらず、ぼくは鉛のようになった身体を引きずりながら自分の家があったはずのアパートへ帰った。
もしかしてなかったりして……と密かに思っていたアパートはちゃんと存在した。
それはこっちが現実でフレッドのことが夢だったという証拠だ。
目の前にある古びたアパートの1階の端の部屋。
そこがぼくとお母さんが住んでいたはずの家。
ポケットを弄って出てきた鍵を見て、はぁーーっとため息がでた。
段々とこれが現実なのだと理解し始めた途端、押し寄せてきたのは途轍もない不安だけだった。
仕事もなくなってしまったこれからの生活が不安でたまらない。
何不自由のない生活をしていた夢の中のぼくはいつも笑顔だった。
フレッドに守られて幸せに暮らしていたのに……。
これからは誰の温もりを感じる事もなくたった一人で孤独と戦いながら、またその日生きることに必死な生活に戻るのかと思ったら溜め息しか出なかった。
ぼくはゆっくりと鍵を挿し込んだ。
けれど、鍵は回らなかった。
えっ? なんで?
ここがぼくの家だったはずなのに……。
こっちが夢なの?
どうなってるの?
何がなんだかわからなくて呆然としていると
「そこで何してるんだい?」
と声をかけられた。
その声に驚いて振り返ると、そこには見覚えのある大家さんの姿があった。
「あっ、大家、さん?」
「あっ! あんたはもしかしたら花村さんとこの……?」
「はい。柊です。あの、家に入ろうと思ったら鍵が合わなくて……」
そういうと、大家さんは
「あんた、どこにいってたの? 急に帰って来なくなったから心配してたんだよ」
と涙目で駆け寄ってきた。
「えっ? えっ?」
いつも厳しいことばかり言われていた大家さんからこんなに優しい声をかけられたことに驚いて焦ってしまう。
けれど、大家さんはぼくの様子などお構いなしで喋り続けた。
「あんた、あのコンビニで泥棒の疑いかけられたんだってね。
あそこの店主がカメラ調べたらあんたじゃないバイトの子が盗んでたのがわかったって、慌てて謝りにきてたよ。
申し訳ないことをしたって、仕事に来たら給料渡すからって言ってたよ。
でも、あんたいつまで経っても帰って来ないし、清掃の方も無断欠勤してるっていうし。
真面目なあんたが連絡もなくそんなことをするから、疑われたのがショックでもしかしたらどっかで死んでるんじゃないかってみんな心配してたんだよ。
あんたが戻ってくることがあったら清掃会社の方もコンビニの方もあんたにもう一度働いてほしいって言ってたよ。
あんたの人徳かねぇ。生きてて本当に良かったよ。
あと、この部屋はね、あんたの荷物が勝手に盗られないようにと思って部屋の鍵を変えておいたんだ。
戻ってきてくれたってことはまたここに住んでくれるんだろう?
あんたはこんな古いアパートでも綺麗に使ってくれるし、いい店子なんだから戻ってきてくれてよかったよ」
ぼくが知らなかった事実がたくさん出てきて、頭がパンクしてしまいそうだった。
でも、ぼくの疑いは晴れてたんだ。
それだけはなんとなくホッとした。
とりあえず、あれからどれくらい経ったのかわからないけれど、住む場所も仕事も確保できたのはよかった。
大家さんはぼくに矢継ぎ早にいろいろ話すだけ話して、『ほら、これ』と新しい鍵を渡して帰っていった。
ぼくはその鍵を手に久しぶりの自宅へと足を踏み入れると、締め切っていた部屋の臭いがした。
カチッと電気のボタンを押したけれど、部屋は暗いままだった。
そうか、お金払う前だったもんね。
給料も貰っていないままだったから、当然電気も水道もガスも払っているはずもなく本当に寝ることしかできない部屋の真ん中で力なく座り込んだ。
またここに戻ってくるなんて……。
夢の中とはいえ、愛する人と一緒に暮らす温もりを知ったぼくにはあまりにも辛すぎる。
ここでまたひとりの生活が始まるんだと思ったら、涙が込み上げてきた。
夢と気づいた時には悲しすぎて涙も出なかったけれど、暗い部屋の中で一人ポツンといると途轍もない寂しさでたまらなくなってくる。
こっちに戻っても仕事はないし、家賃払えないから家も追い出される……誰も助けてくれないなんて思っていたのが嘘のように手を差し伸べてくれる人がいた。
家があって仕事があって……昔のぼくから見ればそれはとんでもなく嬉しいことだ。たったひとりで生きてきたぼくには助けてくれる人なんて誰も居なかったから……。
でも、ぼくは夢の中で幸せを知ってしまったんだ。
夢の中のぼくは本当に幸せだった。
なんで夢から覚めてしまったんだろう。
いや、なんであんなに幸せな夢を見てしまったんだろう。
あんな幸せを知らなければ、この孤独に塗れた生活だって我慢して過ごせたのに。
自分の疑いも晴れて、働く場所も住む場所も心配は無くなったというのに、今のぼくはちっとも幸せじゃない。
ぼくの幸せにはフレッドが必要なのに……。
フレッドに逢いたい。
フレッドに抱きしめて欲しい。
フレッドがそばにいてくれなきゃ、ぼくは生きている意味なんてないのに……。
フレッドに会うにはどうしたらいいの?
ぼくは必死に考えた。
そうか。
眠ればまた夢でフレッドに会えるかもしれない。
今度は一生起きることなく、眠ればいいんだ。
フレッドのいない世界に未練なんて何もないんだから。
ぼくはすくっと立ち上がり、真っ暗な中台所に向かって歩き出した。
そして、引き出しの中から一本しかない包丁を取り出すと、窓の外から入り込んできた月の光に包丁が反射してキラリと光った。
このまま、深い眠りにつかせて……。
もう一度フレッドに会わせて、あの幸せな夢を見させて……そう願いながら、ぼくは自分の胸を目掛けて思いっきり包丁を突き立てた。
痛みなど感じる事もなく、ただフレッドにもう一度逢いたい……その一心だった。
「……ウ! シュウ! シュウ!!」
夢の中でずっと聞いていたフレッドの声が聞こえる。
もしかしてあの夢に戻って来れたんだろうか?
「シュウ! 聞こえるか?」
うううっ、痛い! 声が胸に響く。胸が痛くてたまらない。
突き刺すような胸の痛みに我慢できずに目を開けると、そこにはずっと逢いたかったフレッドの顔があった。
夢の中のフレッドとは少し違う……いつも綺麗な髪型は少し乱れていて、綺麗な瞳が涙に濡れている。
でも、フレッドだ……ずっと逢いたかったあのフレッドだ。
よかった、また逢えた。
ぼくはあの夢に戻って来れたんだ。
「……フ、レッ……ド」
声にならない声でフレッドを呼ぶと、フレッドは青褪めた顔をしてぼくを優しく抱きしめてくれた。
「シュウ! ああ、シュウ! お前は私を置いてどこかに行こうとしていなかったか?」
「……な、んで……?」
「シュウが眠り始めたら、急に私のピアスが光り出したんだ。驚いて膝に寝かせていたシュウを見たらシュウのピアスも光り始めて……身体がどんどん冷たくなっていくし、動かしても全然目を覚さないし、このままシュウが死んでしまうんじゃないかって心配した」
一体どういうことだろう。
あれは……あの日本での出来事は夢だったの?
でも、あまりにもリアルだった。
あれはどこからが夢でどれが現実だったんだろう?
あの体験が夢だったのか現実だったのかぼくには何もわからない。
でも、これだけは自信持って言える。
「フレッド……心配かけてごめん。でも、ぼく、一生フレッドから離れないよ。ぼく、元の世界で命を絶ってここに戻ってきたんだ。だから……もう帰る場所はフレッドのところだけだよ」
「命を絶ってって……どういうことなんだ?」
青褪めたままのフレッドにぼくはさっきまでの出来事を全て話した。
フレッドはじっと話を聞いていたけれど、ぼくが包丁を突き立てた話をすると途端に表情を変えた。
「自分で自分を刺すなんて……無謀なことを」
「でも、そのおかげでここに戻って来れたんだよ。ねぇ、これは夢じゃないよね? そうだよね?」
ぼくは夢中でフレッドに縋りついた。
この温もり、この匂い、ああ……フレッドがぼくの目の前にいる。
「ああ、シュウがここにいるのは夢じゃない。もう絶対に離さないよ」
フレッドが抱きついているぼくをさらに強くぎゅっと抱きしめると、ズキっと胸に痛みが走った。
「ゔっ……っ」
思わず、左胸の上を拳で押さえつけるとフレッドが目敏く気づいた。
「どうした? そこが痛いのか? ちょっと見せてみろ」
「あっ、ちょっと……」
抵抗する間もなく上着を開かされ、2人でその場所を覗き込むとそこに三日月の形をした赤い痣ができていた。
「これ……」
「昨日まではなかった痣だな。シュウ、もしかしてここに突き刺したのか?」
「うん。でもなんで月の形?」
「月には魔力が宿るという。もしかしたら、その刃に魔力が注ぎ込まれたんじゃ……?」
魔力……? そういえば、あの時暗闇の中で包丁が月の光に照らされて光ってたっけ。
「月、特に三日月は古来から願いを叶える月と言われていてな。
だからシュウが私に逢いたいって願ったことを叶えてくれたのかもしれないな」
そうなんだ……。
そういえば、三日月を見た覚えがうっすらとあるような……。
これがぼくをフレッドの元に送り届けてくれたんだ。
「でも、もう2度と自分で命を絶つような真似はしてはいけないぞ!」
「うん。フレッドと離れるのはもう絶対に嫌だもん」
もう一度フレッドに抱きつこうとして、ここが馬車の中でないことに気づいた。
「あっ、そういえば……ここはどこなの?」
「ここは今日泊まる予定だった宿泊所だ。シュウの様子がおかしくなってからすぐに陛下とトーマ王妃にお知らせしたんだ。ここについてすぐに医者にも見せたが理由はわからぬが衰弱していて心臓の音も弱いと言われ、シュウのことを心配しておられた。そうだ! お二人を呼んでくるか?」
「うん。でも……」
「どうした?」
「フレッドと少しでも離れるのは嫌だ……」
もうあっちに戻ることはないと分かっていても、あの時ひとりぼっちになった時の孤独を思い出すと怖くて怖くてたまらない。
震える身体でフレッドに力の限り抱きしめた。
「シュウ……。大丈夫だ。1人にはしないよ」
フレッドはぼくを毛布で包み、抱きしめながら扉へと向かった。
そして、扉の向こうで待機していたブルーノさんを呼びつけた。
「ブルーノ! ブルーノ! シュウが目覚めた! すぐに陛下とトーマ王妃に知らせてくれ!」
『かしこまりました!!!』という声を背にブルーノさんはぼくの姿を見る事もなく、お父さんたちの部屋へと走っていった。
「柊くん!」
「シュウ!」
バタバタと走ってくる音が聞こえたと思ったら、部屋をノックすることもなく扉が開かれた。
「お、父さん……アンドリュー、さま」
ずっと泣いていたんだろうか……真っ赤に腫れた眼で駆け寄ってきたお父さんを見ると、ぼくも涙が溢れてしまった。
「ああ、良かった!! 心配したんだよ!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
抱きしめてくれているフレッドごと抱きしめてくれるお父さんの力強さに、お父さんの愛を感じながらぼくはただ謝罪の言葉を繰り返した。
ぼくを抱きしめているお父さんをまたアンドリューさまが抱きしめて……広い部屋の中でぼくたち4人がくっついて抱きしめ合ってる不思議な状態が数分続いて、フレッドが『そろそろ一旦離れましょう』と声をかけた。
その言葉にようやく動いて4人でソファーに腰を下ろした。
「シュウ、どうする? 私から話すか?」
「ううん、ぼくから話すよ」
ぼくたちのただならぬ様子に気づいたのか、お父さんもアンドリューさまも言葉を発することなくじっとぼくを見つめていた。
「馬車で眠って……気がついたら、あのベンチに横たわってたんだ――」
それからぼくはその後の出来事を詳しく話した。
お父さんはひとつひとつの出来事に
『うん、うん』と相槌を打って聞いていたけれど、
最後にぼくが自分で自分の胸を突き刺した時には『ええっ!!』と驚きの声をあげていた。
「そんな無茶なことをして! 戻って来られたから良かったけれど、そのまま死んじゃってたら僕たちにも会えなかったんだよ!」
とすごく怒られたけれど、アンドリューさまは
『ふむ』と考え込んでいた。
「陛下、何かお気づきのことでも?」
「うむ、いや……シュウはもしかしたら今までは中途半端な状態でここにいたのかもしれん」
「中途半端……ですか?」
「ああ。トーマはここに来る時に何か大きな乗り物にぶつかりそうになったと言っていただろう?
あの時トーマは一度死んでしまったのではないだろうか?
そして、そのまま肉体と魂をもったまま、この世界へとやってきた」
フレッドはアンドリューさまの言葉に大きく頷いている。
なるほど……。じゃあ、ぼくは一体どういうこと?
「シュウは肉体だけがここにやってきて、魂はあちらともなくこちらともなくフラフラとしていたのかもしれぬな。
もしかして眠りにつく前にあちらのことを強く考えなかったか?」
「えっ? あ、そういえば、お父さんに懐かしい食事を食べさせてあげたいなって思いました。お米を食べさせてあげたかったなって……」
「其方の魂がそれをあちらの世界への未練だと思って、いっときあちらへ強く呼び寄せてしまったのかもしれぬ」
「なるほど、それがあっちで死んじゃったから肉体のあるこっちに戻って来れたってこと?」
「うーん、まぁ、全て憶測だがな」
アンドリューさまとお父さんの会話を聞いていて、なんとなく合点がいった気がした。
「あっちで心配していたことが全部良い方向に進んでたんだ。仕事も疑いは晴れていたし、給料も返してもらえて無断欠勤も怒られなかった。家賃も滞納してたはずなのに、部屋を残しておいてくれて……一番怒ってると思った大家さんもすごく優しくてびっくりしちゃうくらい……。あれってもしかしたら、そうだったらいいのにって思っていたぼくの願望の現れだったのかな?」
「それはあるかもしれぬな。シュウがあちらの世界に未練があったなら、きっとそのまま引きずられていたことだろう。あちらの世界での憂いを全部無くすことでシュウがそこに留まる選択をしたかもしれぬからな。しかし、それ以上にフレデリックへの深い未練と想いがこちらの世界へと舞い戻らせたのだろうな」
フレッドへの深い未練と想い……。
確かにフレッドと出会っていなければ、あっちに戻っていたかもしれないな。
フレッドを知ってしまった今では、離れたいなんて考えつきもしないけれど。
「ぼく、あっちにいた時、フレッドのことしか考えてなかった。フレッドに逢いたい、フレッドに抱きしめてほしいってそればっかり考えてた。だから、深く眠ればフレッドの夢が見れるかと思って……痣ができちゃったけど、ぼく後悔してないよ。こっちに戻れて本当に良かった」
「ああ、わかってるよ。命を賭けて私のところに戻って来てくれてありがとう」
涙をポロポロ溢しながら必死にそう伝えると、ぎゅっと力強く抱きしめてくれた。
「でも、本当に良かったね。アンディーの推測が正しいなら、何かのきっかけでいつでもあっちに戻ってしまったかもしれないってことだよね。もう柊くんは向こうで死んじゃったわけだから、もう二度と離れ離れにはならないってことだよ」
そうだ……。
ずっといつか日本に戻っちゃうかもなんて心配しなくていいんだ。
そうか……それは本当に嬉しい。
「良かったぁ……」
心からの安堵が漏れた。
「ということは、トーマもあちらではやはり死んでいたということだろうな。私もいつか来た時と同じように、いつかトーマがいなくなるのではと心配していたがその心配が無くなったと思うと嬉しい」
「アンディー……。僕も嬉しいよ」
お父さんたちもまた2人で強く抱きしめ合っていて、お互いの愛を再確認したことだろう。
それにしても旅行初日からとんでもない体験をしてしまったけれど、ようやく幸せな時間が戻ってきて本当に良かった。
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