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第四章 (王城 過去編)

フレッド   13−1

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隙間のないほどにぎゅっと抱きしめると、
シュウの目がゆっくりと開いた。

「シュウ! 目が覚めたんだな。良かった! 身体に痛いところはないか?」

私のその言葉にシュウの瞳が恐怖に満ちて
風呂に浸かって身体が温まっているはずなのに、シュウの表情はどんどん青褪めていく。
まずい、私の不用意な発言で恐怖が甦ったのではないか?

そう思った瞬間、腕の中のシュウが手足をばたつかせ恐怖に顔を引き攣らせ『怖い! 助けて!』と暴れ出した。

大柄な男に腕を掴まれ押さえつけられ、失神してしまうほどの恐怖を味わったのだ。
シュウのこの反応も当然だ。

私はなんとかシュウの心を落ち着けようとシュウをぎゅっと抱きしめ傍についているからと声をかけた。
シュウが目覚めたのが風呂で良かった。
何の隔たりもなく触れた肌からはシュウの速い心音が伝わってくる。
私は自分の穏やかな心音がシュウに届くように、より一層ピタリと身体を密着させ、シュウの耳元で
『大丈夫、大丈夫』と囁き続けた。

すると、シュウの速かった心音が少しずつ落ち着いていくのが感じられた。
良かった。私の声はシュウに届いたようだ。

「怖い思いをしたな。でも、シュウは今、私の腕の中にいる。もう大丈夫だ。心配するな」

「……うん、ほんとに怖かった……フレッド以外の人に触れられることがあんなに気持ち悪いなんて……」

そうか……シュウは私以外の人間に触られるだけでここまで嫌悪感と恐怖を感じるのか。
そんなシュウが私には何の抵抗もなく触れさせてくれるなんて……心にじわりと温かいものが広がっていく。
ああ、シュウが辛い思いをしたというのに喜ぶなんて私はなんて酷い男なんだろう。

「大丈夫だ。もう二度と誰にも触らせたりしない。私がシュウを守る」

そういうとシュウは私の胸に顔を埋め、必死で声を押し殺して泣いている。
我慢などしなくていいんだ。
もっと感情をむき出しにすれば良い。
私はシュウの胸の内が知りたいのだ。

「いいんだ、もっと泣け。我慢しなくて良い。シュウの辛い気持ちをもっと吐き出してくれ」

私のその言葉にシュウは一気に感情を爆発させた。

「……ゔっ、う……っ、怖かった……アンが、殴られて、それで……動かなくなって……、両手、を掴まれて……ボタンを外されて……あの、男の舌が……ぼくの、く……くびに……やだ……っ! いやだ……っ!!」

シュウの上に跨っていたあの男、サンディーと言ったか。
あいつ、シュウの服を脱がそうとしただけでなく、首筋に舌を這わせた?
私のシュウに汚らしい舌を這わせたというのか?
もうあいつらに遠慮などいらんな。

シュウは自分が汚いと言いながらあの男の舌が触れたであろう場所を必死に擦り続け、柔らかな肌が赤く腫れていく。
もうこれ以上、あの男のせいでシュウの肌が、心が傷ついていくのを見たくない。

私は必死に首筋を擦り続けるシュウの手をそっと握った。

「シュウは穢れてなどいない。私があいつらのことなど忘れさせてやる」

シュウの記憶に私以外の男の感触など残ってたまるか。

顔を近づけると、首筋からシュウの匂いが強く感じられる。
シュウの匂いに包まれながら赤く腫れた箇所に唇を当てると、シュウの身体が少し強張った気がした。

怖がらなくていい。
私を感じていれば良い。

そう念じながら、首筋に何度も口付けを送る。

シュウに愛の言葉を囁き、シュウの首筋に紅い花を散らした。
これで誰が見てもシュウが私のものだとわかるだろう。
赤く腫れた肌の中央に私の付けた紅い花が咲いているのを見るだけでほくそ笑んでしまう。

私はシュウを抱き抱えたまま湯船を出て鏡の前へとやってきた。

見てごらんと先ほど私がつけた印をシュウに見せる。

「シュウが私のものだという証だ。これを見るたびに私のことを思い出すだろう?」

シュウは細くて長い綺麗な指で私のつけた印に触れている。
恥ずかしがり屋のシュウのことだから、私が勝手に印をつけたことを咎めるかもしれないとそんな思いが一瞬よぎったが、シュウは紅い印に何度も触れ嬉しくてたまらないといった表情を見せてくれた。

「フレッド、ありがとう」

それどころか御礼まで言ってくれるなんて、私はどこまで幸せ者なのだろう。

「シュウが喜んでくれたなら嬉しいよ」

「でも……これ、消えちゃうかな?」

「消える前にまたつけてやるさ。何度でも」

そうだ!
何度でもつけてやる。
シュウが私のものだという証を……
いつまでも永遠につけ続けてやる。

「ぼくも……フレッドがぼくのものだって、いう証をつけたいん、だけど……だ、めかな……?」

今、シュウは何といったのだ?
フレッドがぼくのものだって証をつけたい?!
ダメな訳がないだろう!!
嬉しすぎておかしくなりそうだ。

満面の笑みを浮かべ、証をつけてくれとシュウに首を差し出すと、シュウは嬉しそうに私の首筋に『ちゅっ』と可愛らしい音を立てて優しく口付けをした。

「あれ? ついてない……」

シュウはただ口付けをすればつくと思っていたのか、何度も何度も繰り返し口付けをしてくれるが、当然ながら私の首に紅い花が咲くことはない。

『なんで??』と本気で分からないらしいシュウが可愛くて愛おしくてたまらない。
なんでこんなに純粋な子がここまで誰の毒牙にもかからずに生きてこられたか心配になってしまうほどだ。

必死に笑い声を押さえたが、どうにも我慢できず声が漏れてしまった。

「ふふっ。シュウは何でこんなに可愛いんだろうな」

「フレッド、理由がわかるの?」

「ああ。口付けをした時に吸い付いてみるといい。私がつけたとき、少しチクッとしなかったか?」

「あっ、そういえば……。なら、フレッドも痛いかな? ぼくが上手くできなかったら痛い思いさせちゃうかも……」

また、この子は可愛いことをいう。
シュウが証をくれるための痛みなどあってないようなものだ。

「シュウが感じさせてくれる痛みならどうってことないよ。逆に嬉しいぐらいだ」

シュウは顔を綻ばせながら、もう一度私の首筋に柔らかな唇をあてて、ちゅっと吸い付いた。
その時のチクリと感じる痛みが、私がシュウのものなのだと証明してくれているようで嬉しい。

私の首筋に紅い花が咲いて『できた!』と大喜びするシュウを見ながら、私も鏡で確認すると私がシュウにつけたのと同じ場所に小さな印がちょこんとついていた。

これがシュウの独占欲の証なのか……と思うと、嬉しくて私は何度も何度もその紅い花に触れていた。

「はっ、くちゅん」

浴室にシュウの可愛らしいクシャミの音が響いた。
こんな濡れたままで居らせるなんて、私は何をやっているんだ!
身体に傷を負っているというのに、風邪まで引かせるわけにはいかない。

私は急いでシュウを脱衣所へと連れて行き、用意してあった大きなタオルでシュウの身体を包み込んだ。
さすが王家のものだけあって吸水力もよく肌心地も良い。

暖かな夜着ローブに着替えさせ、『少し寝るか? それとも食事にするか?』と問いかけると、シュウのお腹から
『くぅぅーーっ』と可愛らしい音が響いた。

シュウは慌ててお腹を押さえたけれど、可愛らしい音はもう私の中で録音済みだ。

「ふふっ。可愛い音が聞こえたな。ブルーノに頼んで食事を用意してもらおう。シュウの夜着ローブ姿はブルーノには見せられないから部屋着に着替えよう」

腕も怪我をしていることだし、動きやすい方がいいだろう。
少しゆったり目の服を出してやり、シュウが着替えている間にブルーノを呼び出した。

普段でも素早くやってくるブルーノだが、今日はいつにも増して素早い。
よほどシュウのことが気になっていたと見える。

「シュウが目を覚ました。軽くでいいから、食事を用意してもらえるか?」

シュウが目を覚ましたことを安堵しているブルーノの目にうっすらの涙が見える。
2人が部屋から居なくなったことに責任を感じていたようだったからな。
シュウが目覚めて、本当に嬉しいのだろう。

その時、カチャリと音がしたかと思うと、着替えを終えたらしいシュウが寝室から出てきた。

「ブルーノさん、心配かけてごめんなさい」

ブルーノに詫びを言うために急いで出てきたのか。
本当に心根の優しい子だ。

「いいえ、お詫びなどとんでもないことでございます。今、こうしてシュウさまの元気なお姿を拝見できましただけでわたくしは嬉しゅうございます。すぐにお食事を用意いたしますので、しばらくお待ちくださいね」

ブルーノはそう言うと、笑顔で部屋を出ていった。

私はシュウに少し話がしたいと声をかけた。

まだ恐怖が残っているだろうシュウに話を聞くことは酷なことだとは思うけれど、アンドリュー王は詳細を聞きたがるだろうし、何よりもシュウがあいつらにやられたことの全てを把握しておかなければ気が済まない。

私が何を聞きたいのか理解しているシュウが小さく頷いたので、ゆっくり話せるようにと寝室へと連れていった。

そして、ベッドに腰を下ろしシュウを膝に座らせ腕の中に包み込んだ。

「シュウ。まだ怖いようなら無理しなくていいが……あの男たちについて聞いてもいいか?」

シュウは大丈夫と言いながら私の胸元に顔を擦り寄せ寄りかかって来た。
胸にかかるシュウの重みが、すごく心地良い。

「城下に着いた後、何があったか聞いてもいいか?」

その問いにシュウはあの時のことを振り返った。
露店で売っている肉を食べていたら、急にハンカチを差し出してきた男がいた。
ハンカチをを使うことを拒んだら次は一緒にお茶を飲めと言って腕を掴んできたと。

うん、全てあの店主の言っていた通りだな。
あの店主には何か褒美を取らせた方がいいだろう。
シュウとトーマ王妃のことを気にしていたからな、
元気な姿を見せてやるのが一番の褒美かもしれない。

「それがその腕の痕か?」

シュウの白い肌に未だくっきりと残る指の痕が私の怒りを増していく。

「うん、そうだよ。すごく強くてぼくが痛がってたから、冬馬さんがお茶に付き合うから手を離せって言ったらぼくの腕を離してくれたんだけど、今度は冬馬さんの手を握って引っ張って行ったんだ」

そうか、トーマ王妃はシュウを守るために仕方なく誘いに乗ったのだな。
今でさえ、こんなにも指の痕が残っているのだから、その時に離してもらえてなかったら腕の筋を痛めていたかもしれない。

シュウに話すの続きを促すと、
手を引っ張って連れて行かれた先はあの古い家だった。
中で珍しい紅茶を一緒に飲んでくれたらそれでいいと言われ、奥から出てきた男が紅茶を運んできたのだという。
それを早く飲めと急かされすごく怪しく感じたらしい。

珍しい紅茶?
それを飲むように急かされたとな?
まさか……あれが入っていたのか?
いや、まだそうと決まったわけではない。

それにシュウは私が来た時、眠ってはいなかった。
すぐに倒れたのは薬を飲まされたわけではなく、緊張の糸が切れたのかもしれない。
だが、トーマ王妃は?

「飲んだのか?」

そう聞くと、シュウはカップを持ち上げた時に変な匂いがしたと言い出した。

「変な臭い? どんな感じだった?!」

私が急に大声をあげたので、シュウは身体をビクリと震わせた。
驚かせるつもりはなかったのに申し訳ない。

「ああ、悪かった。ちょっと気になって……」

「ううん、大丈夫。何かツーンと鼻につく刺激物みたいな臭いがしたんだ」

ツーンと鼻につく刺激物のような臭い……やはりな。
これではっきりした。

あいつら、あの事件の犯人でもあったのか……。
だとしたら、最初に渡してきたハンカチも怪しくなってきたな。これはアンドリュー王に報告だな

ぶつぶつと呟きながら考え込んでしまっていた。
まずい、知らぬ間に口に出していなかったか?

「それでどうした?」

「うん、なんか嫌な予感がして冬馬さんが飲もうとしてたカップを叩き落としたんだ。そしたら、男が怒って胸倉掴んで押し倒されて、冬馬さんが必死に男の腕を引き離そうとしたら、殴られて……床に倒れたんだ」

そうか。元々シュウは味覚や嗅覚に優れていた。
ましてや、毎日のようにマクベスの入れたこの時代の茶葉よりも美味しい紅茶を飲んでいたのだ。
あの臭いに気づかないわけがない。

『プラバニウム』も『デュルエラ』もこの時代なら高級品だ。
薬が混入していることに気づかれた上、シュウに叩き落とされたから怒って胸倉を掴んで押し倒したのか。
しかも、トーマ王妃まで殴るとは。

もうあいつらは生きる価値などないな。
しかし、死んで償う意味もない。
生きながらにして死んだような罰を与えねばな。

「トーマ王妃はそのあとどうなったかわかるか?」

私がそう尋ねると、シュウは私の服の裾を力いっぱい握り、必死に恐怖と戦いながら話を続けてくれた。

「男が奥にいた男を呼んで、そいつヤらせてやるって、俺はこっちを可愛がってやるからって……」

奥にいた男……紅茶を運び、トーマ王妃に触れたのが恐らく伯爵家のアランだな。
シュウの腕を掴み、胸倉を掴んで押し倒し、挙句の果てにトーマ王妃を殴りつけたのが侯爵家のサンディーというわけだな。

「両手を上にあげられて男に掴まれて、上に乗っかられてたから動くこともできなくて……ボタンを外されて男の顔が近づいてきて、嫌で嫌でたまらなくて必死でフレッドの名前を叫んだんだ!」

私はあの古びた家からシュウの悲鳴が聞こえた時、
生きた心地がしなかった。
それでも、最後まで希望を捨てずに私の名を必死に呼んでくれたことに感謝した。

「そうか。よくあらがってくれたな。
辛かったのに話してくれてありがとう。
シュウを助けられて良かった。
実はな、シュウとトーマ王妃の危険をこれが教えてくれたんだ」

シュウに見せてやろうと思って上着に入れておいた小さな巾着袋を取り出し、中身を手のひらに乗せてみせた。

「あ……っ、これ……」

「そう、神の泉で頂いた黒金剛石ブラックダイヤモンド藍玉アクアマリン
この黒金剛石が光を放って、シュウの危険を知らせてくれたんだ」

この石がいち早く光を放って知らせてくれたから、シュウたちの危険を察知することができたんだ。

「それから、パールがシュウ達が通ったあの隠し通路も教えてくれたんだ。それから、あの古びた家もな」

そう、パールがあの時隠し通路の存在を、そして、連れ去られた場所を教えてくれなければ、あの時機に2人を見つけ出すことはできなかっただろう。
そうしたら2人はもっと酷い目に遭っていたかもしれない。
本当にパール様様だ。

「シュウは私だけでなく、神にも愛され護られている。だから、心配しなくて良い」

恐怖に怯えていたシュウの頭を優しく撫でると、ふわりとした笑顔を向けてくれた。

「この宝石は早く守護石にしてお互いに身につけた方が良いな。陛下に腕の良い宝石彫刻師を紹介して頂こう」

そうだ! 私の耳に黒金剛石をつけていれば、いつどんな時でもシュウの危険を察知できる。
そして、私の瞳の色をシュウにつけさせておけば、あいつらみたいな変な虫が近寄ってくることも少なくなるだろう。
本当に早く身につけさせなければな。

部屋の扉をノックする音が聞こえた。
多分ブルーノだろう。
食事の支度ができたのかもしれない。

私は今日ばかりはシュウを手放す気になれず、『今日は私の傍から離れないでくれ』と頼み、シュウを抱き抱えたままブルーノを迎えた。

ブルーノはそんな私たちを見ても驚く様子もなく、むしろ柔かに話を続けた。

「アンドリューさまとトーマさまがご一緒に食事をとの仰せですので、【王と王妃の間】にお食事の支度を致しました。どうぞこちらへ」

トーマ王妃も目を覚ましたのか。
相当頬が腫れ上がっていたが、大丈夫なのだろうか?
本当ならばそんな姿を見せたくないのだろうが、シュウと会って話したいことがあるのかもしれないな。

ブルーノの案内で部屋に行き扉越しに声をかけた。

『入れ』というアンドリュー王の声に扉を開けると
トーマ王妃もまたアンドリュー王に抱き抱えられていた。
なるほど、ブルーノが私たちをみて驚かなかったはずだ。


シュウが心配そうにトーマ王妃に大丈夫かと尋ねると、トーマ王妃は氷を入れた袋で冷やしながらそれでも柔かに答えた。

「見た目は派手だけど、痛みはそんなにないから心配しなくて良いよ、……っ」

やはり口を開くと痛みがあるのだろう。
アンドリュー王も心配そうだ。

「トーマ、無理して話さなくとも良い。とりあえず、2人とも席へつけ」


アンドリュー王に促され、テーブル席へと着く。
やはりというか、当然というか
シュウもトーマ王妃も私たちの膝の上だ。
当たり前だろう、あんな辛い思いをした2人を椅子になど座らせるはずがない。

ブルーノは食事を並べ、部屋から出て行った。


トーマ王妃は殴られた痛みで食事ができないようだ。
それなのに私たちを呼んだのはやはりシュウがどうなったのか気になったのだろうな……。

シュウはそんなトーマ王妃を見て自分のせいでごめんなさいと深々と謝罪した。

何を言うんだ!
シュウは自分のせいでトーマ王妃が殴られてしまったと責任を感じているようだが、そんなことはないのだぞ!
そう言ってやろうと思ったら、

「何言ってるの! ――っ。イタタ……っ」

トーマ王妃が大声を出してシュウを諌めた。
そして、アンドリュー王もまたシュウに優しい言葉をかけた。

「トーマはあまり喋るなと言っただろう。
其方そなたもあまり気に病むでない。
トーマに聞いた、其方……出された紅茶を飲まぬようにしてくれたのであろう?」

アンドリュー王もトーマ王妃に話を聞いてあのことに気づいたのだろうか?

「陛下、その紅茶ですが、おそらくあれかと……シュウが例の臭いを感じたと申しております」

「やはりな。トーマから話を聞いて私もそうだと思っておった。ならば、尚更其方は気にしなくとも良い。あれをトーマが飲んでいたらと思うだけで頭がおかしくなりそうになる」

もし、ひと口でも含んでいたら、トーマ王妃は今頃まだ目覚めていないだろう。
あの被害者たちと同じ目に遭っていたら……と考えるだけで気が狂いそうになるな、たしかに。

「あの紅茶はなんだったの?」

トーマ王妃の言葉にアンドリュー王はどうするべきかと目で訴えてきたが、やはり2人にも真実を告げておくべきだろう。
アンドリュー王も同じ気持ちだったのか、静かに口を開いた。

「……実は、最近城下で若い女性を狙った強姦事件が多発しておってな、それにあの紅茶が使われていたようだ」

強姦事件と聞いて、シュウの身体が震えた。
それはそうだろう、触れられるだけでもあんなに恐怖を感じていたのに、自分が強姦されるところだったと教えられれば誰だってそうなる。

私はシュウの気持ちが落ち着くように背中を優しく摩った。

「怯えさせてしまって申し訳ない。だが、其方があの紅茶に気づいてくれたおかげで、トーマはこうして私の腕の中に戻ってきた。礼をいう」

「ほんとだよ。柊くんが気づかなかったら、僕きっと飲んでたよ。あんな奴らに好き勝手されることを思えば、殴られるぐらい大したことないよ!」

いやいや、トーマ王妃。
アンドリュー王は殴られるぐらいとはちっとも思っていないですよ。
今までほんの少しの傷さえもつけぬよう慈しんできたと言っていたのだから、貴方にこんな傷をつけたあいつらにもう未来はない。
まぁ、そんなことをシュウとトーマ王妃ふたりに伝える気などさらさらないのだが……。

「それに、其方が助けたのはトーマだけではない」

「えっ?」

彼奴あやつらは此度こたびのことがなければ、あの紅茶を使ってこれから先もずっと女性たちに乱暴を働いたことだろう。其方のおかげで新たな被害者を作らずに済んだのだ」

それはその通りだ。
恐らくシュウ以外にあの紅茶に気づく者はいないだろう。
シュウとトーマ王妃を狙わなければあいつらはこれから先も捕まることなく事件を起こしていたに違いない。

シュウは嬉しそうにトーマ王妃とよかったと小さく微笑みあった。
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