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第四章 (王城 過去編)

花村 柊   13−1

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温かい。

ぼくを包み込んでくれているこの温もり。

ああ、なんて安心するんだろう。
このまま離れたくない。

でも、目が開いていく……。

ゆっくりと開いたぼくの瞳に飛び込んできたのは、あの淡い水色の瞳をしたフレッドの綺麗な顔だった。

「……フ、レッド……あ、れ?……」

「シュウ! 目が覚めたんだな。良かった!
身体に痛いところはないか?」

「えっ?」

その言葉にぼくはさっきまでの出来事を思い出していた。腕を掴まれたこと、胸倉を掴まれ押し倒されたこと、アンが殴られ失神したこと……、そして、あの男の顔が、おぞましい舌がぼくの首筋に……

「ひぃ……っ! イヤだ! 怖い、怖い! 助けて!」

あの時の恐怖が一瞬にして脳裏に甦ってきて、ぼくは恐ろしくて堪らなくなった。
バシャバシャとお湯の中で暴れて溺れてしまいそうなほどだ。

「シュウ、大丈夫だ。大丈夫。私が傍についているから」

フレッドは急に暴れ出したぼくを、慌てることもなくぎゅっと抱きしめ、
耳元でずっと『大丈夫、大丈夫』と囁いてくれた。

その優しい声にぼくは自分の気持ちがスーッと落ち着いていくのが分かった。

「怖い思いをしたな。でも、シュウは今、私の腕の中にいる。もう大丈夫だ。心配するな」

フレッドの優しい言葉がぼくの心に染み渡っていく。

「……うん、ほんとに怖かった……フレッド以外の人に触れられることがあんなに気持ち悪いなんて……」

「大丈夫だ。もう二度と誰にも触らせたりしない。私がシュウを守る」

「……フレッド……ありがとう」

ぼくはフレッドに縋り付いて、ポロポロと涙を流した。

「いいんだ、もっと泣け。我慢しなくて良い。シュウの辛い気持ちをもっと吐き出してくれ」

「……ゔっ、う……っ、怖かった……アンが、殴られて、それで……動かなくなって……、両手、を掴まれて……ボタンを外されて……あの、男の舌が……ぼくの、く……くびに……やだ……っ! いやだ……っ!!」

ぼくは話をしているうちにまた、あの男の興奮した息遣いと近づいてくる舌を思い出し、自分の首が穢れてしまった気がして何度も手で擦った。

「汚い!! ぼくは汚い!!」

フレッドは、必死に擦るぼくの手をそっと握って

「大丈夫だ、シュウは穢れてなどいない。
私があいつらのことなど忘れさせてやる」

擦りすぎて赤く腫れたぼくの首筋に顔を近づけた。

一瞬ビクッと身体が強張ったけれど、フレッドの唇が首筋に当たった瞬間、なんとも言えない安心感がぼくを包みこんだ。

「シュウ……愛してる。シュウは私だけのものだ」

その時、チクリと首筋に痛みを感じたがぼくは充足感でいっぱいだった。

フレッドは唇を離し、ゆっくりと立ち上がるとぼくを抱き抱えたまま湯船を出て鏡の前へとやってきた。

「ほら、シュウ。見てごらん」

そういって写し出されたぼくの首筋には、
擦りすぎて赤く腫れた場所にポツリと咲いた紅い花があった。

「これ……?」

「シュウが私のものだという証だ。これを見るたびに私のことを思い出すだろう?」

指でその紅い痕に触れるだけで、フレッドの吐息や唇の温かさがふわりと甦ってくる。

ずっとフレッドに守られている気がして、ぼくは嬉しくなった。

「うん。フレッド、ありがとう」

「シュウが喜んでくれたなら嬉しいよ」

「でも……これ、消えちゃうかな?」

できればずっとついてて欲しい。
離れている間もフレッドを感じられる気がする。

「消える前にまたつけてやるさ。何度でも」

満面の笑みでフレッドはそう言ってくれた。

「ねぇ、フレッド……」

「どうした?」

心配そうにぼくの顔を見つめるフレッドに勇気を振り絞って言ってみた。

「ぼくも……フレッドがぼくのものだって、いう証をつけたいん、だけど……だ、めかな……?」

フレッドは一瞬目を見開いて驚いた顔を見せたが、
すぐに笑顔になって、

「つけてくれ! シュウのものだという証を!」

と嬉しそうに首を差し出してきたので、
ぼくはフレッドの首筋にちゅっとキスをした。

「あれ? ついてない……」

そこにはなんの痕も見当たらない。
なんで??

ぼくは何度もフレッドの首筋にちゅっ、ちゅっとキスをしたけれど、何度見てもフレッドの首筋には何の痕もつかなかった。

「えー、なんで??」

ぼくが不思議に思っていると、
フレッドがクスクス笑っている。

「ふふっ。シュウは何でこんなに可愛いんだろうな」

「フレッド、理由がわかるの?」

「ああ。口付けをした時に吸い付いてみるといい。私がつけたとき、少しチクッとしなかったか?」

「あっ、そういえば……。なら、フレッドも痛いかな? ぼくが上手くできなかったら痛い思いさせちゃうかも……」

「シュウが感じさせてくれる痛みならどうってことないよ。逆に嬉しいぐらいだ」

フレッドがそう優しく言ってくれるから、ぼくはもう一度フレッドの首筋に唇をあてて、ちゅっと吸い付いた。

パッと唇を離すと、そこには小さいけれど紅い花が咲いていた。

「わぁ! できた!」

フレッドは鏡でぼくのつけた紅い花を見ながら

「うまくできたな。これで私はシュウのものだと一目でわかるな」

と嬉しそうに何度も指でなぞっていた。

「はっ、くちゅん」

「ああ、悪かった。風邪をひくといけないからそろそろ出ようか」

ぼくのくしゃみにフレッドは慌てて脱衣所へ行き、大きなバスタオルを巻いて身体を拭いてくれた。
そしてぼくもフレッドもあっと言う間に用意してあった夜着ローブに着替え終わった。

「シュウ、どうする? 疲れたなら少し寝るか? それとも食事にするか?」

そう聞かれて、答えを言う前にぼくのお腹から
『くぅぅーーっ』と音が鳴った。

慌ててお腹を押さえたけれど、フレッドには聞かれてしまったようだ。

「ふふっ。可愛い音が聞こえたな。ブルーノに頼んで食事を用意してもらおう。シュウの夜着ローブ姿はブルーノには見せられないから部屋着に着替えよう」

そう言ってフレッドはクローゼットから比較的部屋着っぽい服を取り出した。

ぼくから見れば十分お出かけ着だけど……。

ぼくが寝室で着替えている間にフレッドはブルーノさんを呼び出していた。

「フレデリックさま。お呼びでございますか?」

「シュウが目を覚ました。軽くでいいから、食事を用意してもらえるか?」

「シュウさまがお目覚めになられたのですね!
それはようございました」

ブルーノさんの声が少し震えているように聞こえる。ぼくたちが勝手に外にでたりしたから、きっと心配してただろう。
迷惑かけちゃって申し訳なかったな。

ぼくは寝室から出て、ブルーノさんの元へと向かった。

「ブルーノさん、心配かけてごめんなさい」

「いいえ、お詫びなどとんでもないことでございます。今、こうしてシュウさまの元気なお姿を拝見できましただけでわたくしは嬉しゅうございます。すぐにお食事を用意いたしますので、しばらくお待ちくださいね」

ブルーノさんは柔かにそういうと、部屋を出て行った。

「シュウ、食事の支度ができるまで少し話せるか?」

フレッドにそう言われて、ゆっくりと話せるようにとぼくたちは寝室へと戻った。

ベッドに腰掛けたフレッドの膝に座らされ、ぎゅっと抱きしめられながら、

「シュウ。まだ怖いようなら無理しなくていいが……あの男たちについて聞いてもいいか?」

心配そうに問いかけてきた。

「うん。大丈夫だよ。フレッドがいてくれるから……」

フレッドの胸元に顔を擦り寄せ肩に頭をもたれかけた。

「城下に着いた後、何があったか聞いてもいいか?」

「うん。露天で売ってるお肉が美味しいって冬馬さんに勧められて一緒に食べてたら、急にハンカチを差し出してきた人がいてね、ハンカチを使えって押し付けてきて断ったら今度は一緒にお茶を飲めってしつこくて腕を掴んできたんだ」

「それがその腕の痕か?」

ぼくの腕をゆっくり摩るフレッドの顔が少し怒っているように見える。
そうか、フレッドに気づかれちゃったんだ。
お風呂に入ったんだもん、当然だよね。

「うん、そうだよ。すごく強くてぼくが痛がってたから、冬馬さんがお茶に付き合うから手を離せって言ったらぼくの腕を離してくれたんだけど、今度は冬馬さんの手を握って引っ張って行ったんだ」

「なるほど。それで?」

「良いカフェがあるからって連れて行かれたんだけど、フレッドも見たようにぼくには古びたただの家にしか見えなかった。中に入ったら、珍しい紅茶を一緒に飲んでくれたらそれでいいって、奥から出て来た男が紅茶を運んで来て、すごく急かすように飲め、飲めって言われて、すごく怪しかったんだ」

自分はカップに手もつけずにぼくたちが飲むのを待ち構えているみたいに何度も何度も勧めてたっけ。

「飲んだのか?」

「ううん。カップを持ち上げたら変な臭いがして……」

「変な臭い? どんな感じだった?!」

フレッドが急に大声を上げて身体がビクリとしてしまった。

「ああ、悪かった。ちょっと気になって……」

「ううん、大丈夫。何かツーンと鼻につく刺激物みたいな臭いがしたんだ」

『あいつら、あの事件の犯人でもあったのか……。
だとしたら、最初に渡してきたハンカチも怪しくなってきたな。これは陛下に報告だな』

フレッドが顎に手を当て考え込んだ様子でよくは聞こえないけれど何かをぶつぶつと呟いている。
あの変な臭いのする紅茶にやはり何か入ってたんだろうか?

「それでどうした?」

「うん、なんか嫌な予感がして冬馬さんが飲もうとしてたカップを叩き落としたんだ。そしたら、男が怒って胸倉掴んできて押し倒されて、冬馬さんが必死に男の腕を引き離そうとしたら、殴られて……床に倒れたんだ」

「トーマ王妃はそのあとどうなったかわかるか?」

「男が奥にいた男を呼んで、そいつヤらせてやるって、俺はこっちを可愛がってやるからって……」

思い出すだけで身体が震える。
でも、状況説明は大事なことだ。
冬馬さんは倒れていたし、何も覚えていないだろう。
ぼくがちゃんと説明しないと!

ぼくはフレッドの服をぎゅっと掴んで必死に話を続けた。

「両手を上にあげられて男に掴まれて、上に乗っかられてたから動くこともできなくて……ボタンを外されて男の顔が近づいてきて、嫌で嫌でたまらなくて必死でフレッドの名前を叫んだんだ!」

あの時、あの男に押さえつけられながらフレッドの姿を見つけた時、本当に夢かと思った。
フレッドの顔が見られて嬉しかったんだ。

「そうか。よくあらがってくれたな。
辛かったのに話してくれてありがとう。
シュウを助けられて良かった。
実はな、シュウとトーマ王妃の危険をこれが教えてくれたんだ」

そう言ってフレッドは服のポケットから小さな巾着袋を取り出し、中身を出して見せてくれた。

「あ……っ、これ……」

「そう、神の泉で頂いた黒金剛石ブラックダイヤモンド藍玉アクアマリン
この黒金剛石が光を放って、シュウの危険を知らせてくれたんだ」

「これが……」

そうか、これは本当に神さまの石だったんだ!
光って知らせてくれるなんて、あの時と同じだな。

「それから、パールがシュウ達が通ったあの隠し通路も教えてくれたんだ。それから、あの古びた家もな」

「パールが……」

横を見ると、パールが寝床でぼくのハンカチに包まってスウスウと眠っている。
ぼくたちのために頑張ってくれたんだね、パールありがとう。


「シュウは私だけでなく、神にも愛され護られている。だから、心配しなくて良い」

フレッドの大きな手で優しく頭を撫でてくれるのが心地良い。ぼくはこの優しくて大きな手にずっと守られてるんだな。

「この宝石は早く守護石にしてお互いに身につけた方が良いな。陛下に腕の良い宝石彫刻師を紹介して頂こう」

「うん、そうだね」

ぼくの耳にフレッドの石をつけるんだ!
もし、フレッドに何かあったら今度はぼくが助けに行こう!

そう話していると部屋の扉がノックされる音が聞こえた。

「食事の支度が出来たのかもしれないな。行こうか」

「うん」

ぼくは立ち上がろうとしたけれど、フレッドが
『今日は私の傍から離れないでくれ』と抱き抱えたまま離そうとしないので、そのままでいることにした。

いつものように部屋で食事をすると思っていたけれど、

「アンドリューさまとトーマさまがご一緒に食事をとの仰せですので、【王と王妃の間】にお食事の支度を致しました。どうぞこちらへ」

ブルーノさんに連れられて、冬馬さんたちと食事を取ることになった。
冬馬さん、会えるのは嬉しいけれど思いっきり殴られてたから食事できるのかな……。心配だ。

「フレデリックさまとシュウさまをお連れ致しました」

「入れ」

アンドリュー王の声が聞こえ、扉を開けると
そこにはぼくと同じようにアンドリュー王に抱き抱えられた冬馬さんの姿があった。
ぼくと目が合うと、『やっぱりね』と恥ずかしそうに笑っていた。

「冬馬さん、大丈夫ですか?」

氷を入れた袋で冷やしてはいるが、まだ赤く腫れ上がったままで見ているだけで痛々しい。

「見た目は派手だけど、痛みはそんなにないから心配しなくて良いよ、……っ」

喋ると痛みがあるんだろう、頬を押さえて痛そうだ。

「トーマ、無理して話さなくとも良い。
とりあえず、2人とも席へつけ」


アンドリュー王に促され、テーブル席へと着く。
と言っても、ぼくも冬馬さんも椅子に下ろされるのではなく、抱き抱えられたままだ。

ブルーノさんは食事を並べると、
『失礼致します』といって部屋から出て行った。

見ると、冬馬さんの前にはスープだけが置かれている。
ぼくの視線に気づいたんだろう。

「口をあんまり開けられなくて……」

腫れた頬を氷袋で冷やしながらも、ぼくを心配させないようになのかにっこりと笑ってみせる冬馬さんがなんだかとてもいじらしくて涙が出そうになった。

「ごめんなさい、ぼくのせいで……」

冬馬さんは胸倉を掴まれて押し倒されたぼくを助けようとして殴られたんだ。
あんなに腫れ上がってどんなに痛いことか……。

「何言ってるの! ――っ。イタタ……っ」

アンドリュー王は大声を出して痛がる冬馬さんを優しく抱きしめた。

「トーマはあまり喋るなと言っただろう。
其方そなたもあまり気に病むでない。
トーマに聞いた、其方……出された紅茶を飲まぬようにしてくれたのであろう?」

「は、はい」

「陛下、その紅茶ですが、おそらくあれかと……シュウが例の臭いを感じたと申しております」

「やはりな。トーマから話を聞いて私もそうだと思っておった。ならば、尚更其方は気にしなくとも良い。あれをトーマが飲んでいたらと思うだけで頭がおかしくなりそうになる」

やっぱり紅茶に何か入ってたんだ。
例の臭いってあのツーンとした臭いのことだよね。

「あの紅茶はなんだったの?」

頬が痛まないように小声でそっと尋ねる冬馬さんに、
アンドリュー王とフレッドは一瞬目を合わせて考えた様子だったけれど、互いに頷きアンドリュー王がゆっくりと口を開いた。

「……実は、最近城下で若い女性を狙った強姦事件が多発しておってな、それにあの紅茶が使われていたようだ」

「えっ?」

ご、強姦……って、無理やり……あの、するってことだよね?
ぼくたちにそれを飲ませようとしたってことは……ぼくたちも…………

想像しただけで身体がブルリと震えて、思わずフレッドにしがみついた。

「シュウ、大丈夫だ。私がついているから」

そう言ってフレッドは背中を優しく摩りながら、耳元で囁いてくれた。

「怯えさせてしまって申し訳ない。だが、其方があの紅茶に気づいてくれたおかげで、トーマはこうして私の腕の中に戻ってきた。礼をいう」

「ほんとだよ。柊くんが気づかなかったら、僕きっと飲んでたよ。あんな奴らに好き勝手されることを思えば、殴られるぐらい大したことないよ!」

痛みがあるだろうに、ぼくに笑顔を向けてくれて冬馬さんって本当に良い人だな。

「それに、其方が助けたのはトーマだけではない」

「えっ?」

彼奴あやつらは此度こたびのことがなければ、あの紅茶を使ってこれから先もずっと女性たちに乱暴を働いたことだろう。其方のおかげで新たな被害者を作らずに済んだのだ」

そうか、そうだよね。
ぼくたちの無謀な行動も少しは他の人の役に立ったんだ。

「……うん、良かった……」

少し気持ちが楽になって冬馬さんを笑顔で見つめると、冬馬さんも微笑んでくれた。

「なれど! もう2人で勝手に城下など出歩くことは許さぬぞ。トーマも其方も少しは己の魅力というものを自覚せねばいかん」

「その通りでございます。
トーマ王妃! 2人してあんな美しい女性に変装などされたら、目を惹かぬはずがございません。ましてや、平民の服をお召しになられては彼奴あやつらでなくとも、すぐに声をかけられます。
シュウも! お前はすぐに人を虜にしてしまうのだから、気をつけないといけないぞ」

アンドリュー王とフレッドに今までにないほどの物凄い勢いで叱られ、
ぼくたちは2人揃って
『……はい、ごめんなさい……』と謝ることしか出来なかった。

「よし。ならば、冷めないうちに食事にしよう」

アンドリュー王がにっこりと笑ってそう言ってくれたおかげで食卓が和やかな雰囲気に戻った。


食事を終え、ブルーノさんが食後の紅茶と焼き菓子を持ってきてくれたのを食べながら、談笑していると、

「あっ、そうだ!」

と冬馬さんが何かを思い出したように声を上げた。

アンドリュー王の耳元で何かを囁き、アンドリュー王は『ああ』と頷いた。

「フレデリック、実は其方らに頼みたいことがあるのだ」

「私たちに……でございますか?」

冬馬さんたちがぼくたちにお願いだなんて、一体なんだろう?

「ああ、こんなことを頼むのは心苦しいのだが……
明日フレデリックの伴侶を私に貸してはくれまいか?」

「……はっ?……どういうことでございますか?」

フレッドはアンドリュー王からの思いもかけない要請に顔を顰めている。

「もう! アンディー……っ、イタタッ……!
そんな言い方じゃ彼が勘違いしちゃうでしょう!」

冬馬さんは痛がりながらもアンドリュー王を諫めている。

「ごめんね、違うんだよ。実は明日、城下にある孤児院を慰問することになってるんだけど、こんな顔を子どもたちに見せる訳にいかないから、柊くんに僕の代わりに行ってもらえないかなって」

「ええっ?! ぼくが冬馬さんの代わりに?
そんな無理だよ!」

「大丈夫だよ。子どもたちと少しの間一緒に遊んで貰えたらいいんだ。子どもたちは僕たちが慰問に行くのを楽しみにしているから、キャンセルして悲しませたくないんだ。ねっ、お願い! この通り!」

両手を顔の前で合わせて一生懸命お願いしてくる冬馬さんの姿に、ぼくは断る選択肢は思い浮かばなかった。

本当は冬馬さんが行きたかったんだろうな……。
怪我をして行きたくてもいけないんだから、冬馬さんたちにはすごくお世話になってるしこんな時くらい2人の役に立たないといけないよね。

「シュウ、どうする?」

フレッドが心配そうに声をかけてくる。

「お役に立てるかはわからないけど、ぼくでよければ喜んでお受けします」

「良かったぁー! ありがとう」

ぼくの返事にアンドリュー王も冬馬さんもほっと胸を撫で下ろしたようだ。

「フレッド、良いよね?」

フレッドは一瞬目を泳がせ、何かを考えていたように見えたけれど

「……ああ、頑張っておいで」

と背中を押してくれた。
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