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第三章 (王都への旅〜王城編)

フレッド   9−3※

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馬車が動き出し、さっきの続きを……と思っていると、シュウはパールを胸に抱きながら目がトロンとして眠そうになっている。

いつもの私ならこのまま寝かせてやっただろう。
しかし、私の中の獣の部分がシュウを欲しているのだ。
私はすぐに襲い掛かりたい必死に衝動を抑えた。

まずは、我が物顔でシュウの胸に抱かれているパールを引き離そう。

パールの目を見つめて低い声で『あの籠に入っていろ』と指示をすると、
パールは仕方ないとでも言うように『クゥンクゥン』と返事をし、シュウの腕の中からスポッと抜け出て、籠へと入っていった。

シュウを座席に座らせ、パールの元へいき
『シュウの情事の声も姿も誰にも聞かれないように監視しておくんだ』と小声で指示をすると
パールは顔を下げ、『キュン』と返してきた。
パールはシュウの守護だけあって、シュウのことには信頼できるから安心だ。

小窓を叩き、ルドガーに
『どんなことがあっても馬車を止めるな。馬車を覗き込むような不届者がいれば、その場で処分しろ、理由はいらない』と指示をしその籠を手渡した。

シュウの艶めかしいあの情交の姿を見るのは永遠に私だけだ。
それを奪うものは何人たりとも許さない。
シュウは私の唯一なのだから当然だろう。



パールをルドガーに渡し、ようやく車内が2人だけの空間になった。
あまりにやけた顔をシュウにみせたくないのだが、喜びがつい表情に出てしまう。

シュウを私の膝に向かい合わせに座らせると、サラッと青い髪が揺れた。
シュウの柔らかな髪に触れたい……。

ふたりきりで馬車に乗っている間だけシュウのかずらを外したいというと、シュウはすぐに私の意図を感じ取り、鬘の髪留めを外しはじめた。

外しながら、先ほどのパールとの会話が何かと聞かれ、私は咄嗟にリンネルは暗い場所を好むからあんまり明るい場所にいすぎて疲れてたみたいだったから、少し休ませようと思ってルドガーに渡したと答えると、シュウはすぐに納得してくれた。

私があのようなことを頼んだとは言えないな……。
シュウが納得してくれて良かった。

シュウが鬘を外し終え、こちらを振り向くとシュウの綺麗な髪が馬車の中に入って来る風にふわりと揺れた。

シュウは青い髪も似合うがやはりいつものシュウの髪がよく似合う。
それにサラサラとして、私の手に馴染んでいる。

そういうと、シュウはかずらをつけずにいるからもっと撫でていてと言ってくれた。

そんなシュウの可愛いおねだりに顔が綻んだ。
私が撫でると、シュウがうっとりとした表情をみせる。

まずい! シュウの髪を撫でているだけで興奮が高まってきた。

「なぁ、シュウ……さっきの続きをしても良いだろうか?」

「さっきの続きって……えっ? あれ?」

そうだ! あれだ!

しかし、シュウはルドガーたちに見られはしないかと気にしているようだ。

「馬車の中の声は外には漏れないし、中も見えないから。シュウ……良いだろう? 口付けだけで、他には何もしないから……良いだろう?」

そう食い気味に詰めよるとシュウはようやく『うん』と頷いてくれた。
その瞬間、私はシュウを座席に押し倒した。

私を見つめるシュウの目が少し怯えた感じから、だんだんと頬に赤みが差してきて、シュウも何かを期待しているようにさえ見える。

ああ、好きだ……。

シュウの弾力のある頬に触れるとピクっと震えた。感じてくれている、そう思うだけで私の心は高鳴った。
ゆっくり頬から首筋を撫でていると、シュウが急に撫でていた私の手をとって、自分の唇に当て、指先に口付けをしてきた。

その小悪魔のように妖艶な仕草に私の身体が震える。
シュウが私を求めてくれたことが嬉しくて、口角が上がってしまう。
私はシュウに掴まれた手を自分の唇に当て、シュウに見せつけるように指先に口付けをおくった。

「シュウから強請られたら、口付け以外もしていいか?」

シュウが私を求めているのはわかってる。
それでもシュウが欲しがってくれているという意思が欲しかった。
ただの私の我が儘にシュウは柔かな笑顔で
『うん』と頷いてくれた。

それを見たらもうおしまいだった。
私の小さな理性なんて吹き飛んでしまった。

シュウの形の良い唇に自分のそれを重ね合わせる。動かないように頭を支え、何度も何度も下唇を啄んでいると苦しかったのか、シュウの口が小さく開いた。
それに気づいた瞬間、私は舌を挿し入れていた。

深く入り込みたくて、舌を絡め合っているとシュウが私の首を腕を回しピッタリとくっついてくれた。

はぁ……。温かい。心地いい。

隙間なくくっついた身体にシュウの温もりと早鐘のように鳴る心臓の音が響く。

シュウが甘い声をあげる。
ああ、なんて可愛いんだ。
口付けだけで感じてくれているのだと思うと、
もっともっと感じさせたい衝動に駆られた。

シュウの甘い唾液を味わいながら、上着の釦を外していく。
中の服を脱がせるとシュウの綺麗な鎖骨が現れた。その下には真っ赤に熟れた果実のような蕾が見える。

ああ、そこに舌を這わせて、もっと喘がせたい。
シュウが早く先を望んでくれたら……。

そんな期待を胸にシュウを見ると、
頬は上気し、身体をぷるぷると震わせている。
これはもうお強請りだろ……。

そう判断した私は、ぷっくりと膨らんだ胸の尖りを指先でそっと弄った。

「あ……ぁん、やぁ……っ」

ああ、可愛い。その声をもっと聞かせて欲しい。

興奮が抑えられずに、シュウの赤く熟れた胸の尖りを舌でぺろっと舐めてみた。

シュウの淫らな声が私の心を鷲掴みにして離さない。

「ああ、シュウ……かわいい。
もっと、声を聞かせて……」

「は……ぁ、ん、もっ……と……」

ああ、かわいがってやるぞ。

片手で胸の尖りを弄りながら、もう片方の胸の尖りに吸い付いたり、甘く噛んだり、舐め尽くしたり……思う存分可愛がってやると、シュウはその度に甘い声をあげ身悶える。

ふと下を見ると、シュウのモノは口付けと胸への刺激だけですっかり昂ってしまっているようだ。

ここも可愛がってあげないとな。

ズボンの釦を外し、きつくなっている下着もさっと寛げると、中から可愛いシュウのモノがピョコンと顔を出した。

先端にほんの少し蜜を出し、私の視線に感じているのかどんどん大きくなっていく。
根元に漆黒の下生えをうっすらと纏ったピンクの果実があまりにも美味しそうで、パクッと大きな口で包み込んだ。

その途端、甘い蜜の味が口の中に広がる。
ああ、この味だ。
根元をはむはむと甘噛みすると、先端から甘い蜜が溢れる。
その溢れた蜜を舐め取ろうと、先端に舌を突き入れ中で待ち構えている蜜たちを抉り取っていくと、シュウの腰がぶるぶると痙攣するように蠢く。

「あぁ……っ、ん、あ……っ、あ」

シュウの甘い蜜と私の唾液を混ぜ合わせるように顔を動かすと、じゅぷじゅぷと淫らな音が車内に響く。その度にシュウの喘ぐ声も大きくなっていく。

「……ん……っ、ああっ、フレ……ッド、きもちい、い……っ」

舐め上げながらシュウを見ると、恍惚とした表情で手が宙を彷徨っている。
ちゅっと先端に強く吸い付いた瞬間、彷徨っていた手が私の髪に触れた。
身体を震わせ快感を感じながら、無意識なのだろうか、シュウの指は私の髪をゆっくりと撫でていく。
もっとシュウの細い綺麗な指で触れて、撫でて欲しくて、シュウに快感を与え続けた。
その瞬間、

「ああ……っ、ああ……っ、イっ、ちゃう……イク、ぅ…………」


という可愛い声と共に、
『ビュク、ビュク、ビュル』
私の口の中に甘い蜜が弾け飛んできた。

一滴たりとも無駄にはしない、これは全て私のものだ!

ちゅーちゅーと奥の奥まで舌先で吸い取って、ゴクリと飲み込むと、身体中に力が漲っていく感じがした。

これが唯一の力だな……。

「フ……レッド、だ、いすき……」

強すぎる快感に疲れてしまったのか、シュウはその言葉を残して眠ってしまった。

上も下もはだけ私の唾液に濡れたシュウのその寝姿が、実に官能的で私の昂ったモノが痛いほどに隆起してしまっている。

これを何とかしないとな……。

本当ならばシュウに手助けして欲しいところだが、疲れて眠ったシュウを無理やり起こす訳にもいかない。

シュウ……申し訳ない。
そう心の中で謝りながら、私は自分の前を寛げ猛りきったモノを出し、シュウの寝姿を見ながら先ほどの痴態を思い出し扱いた。

うっ……っ、う……っ、シュウ

『ああ……っ、イっ、ちゃう……イク、ぅ……』

シュウの喘ぎが頭の中で何度も再生され、私は白濁を飛ばした。

『ふぅ』と思ったのも束の間、私から噴き出したものが、シュウの身体にかかってしまっている。
慌てて拭き取ろうとしたが、唇にまで飛んだものをシュウが眠りながら無意識に舌を動かして舐め取ろうとしている姿に理性を失い、白濁に濡れた自分の昂りをシュウの口元へと近づけた。

すると、シュウは意識のないままに、口を開け私のモノに一心不乱に吸い付いてきた。
その刺激に私の愚息は急速に勢いを取り戻し、シュウの口いっぱいに昂った。
シュウは苦しそうにしながらも吸い付くことをやめず、あまりの気持ちよさに私はあっという間に2度目の精を放った。

眠っているのに口に放ってしまった私の精を嬉しそうに飲み干し、私のモノをちゅぱちゅぱと赤子が乳を飲むように舐めとる姿に、眠っている相手に酷いことをしていると思いつつも私は心の中で狂喜していたのだった。

「……ウ、シュウ……」

ルドガーに温かく濡らしたタオルを用意させ、
シュウの身体を綺麗に清め服を元通りに着せた。
私の膝に頭を乗せて寝かせて、そろそろ数時間。

もう少し寝かせてやりたいが、そろそろ宿場町に着く頃だ。
可哀想だと思いながら、シュウに声を掛けた。

「シュウ……そろそろ起きれるか?」

慣れない馬車の旅に加え、私が無理をさせたせいだな。
なかなかシュウの目が覚めない。


「……やぁ……っ、ちゅーしてくれないと起きれない……」

「えっ??」

今のはシュウのお強請りか?
ちゅーは口付けのことだったな……。
私からの口付けがないと起きられないとな?

「ちゅー、しないと……起きない、よ……」

ああ、何という可愛らしいお強請りだろうか。
それならば叶えてあげないとな。

シュウが可愛く突き出した唇にそっと自分のそれを重ねてやると、シュウは私の下唇をはむはむと甘噛みしてきた。

ゔぅーっ、可愛い、可愛すぎるぞ!
もう我慢できない!

私はシュウの口腔内に舌を挿し入れた。
するとシュウの目が開き、至近距離で目が合った。

ああ、綺麗な瞳だ。
その瞳に私だけが映っている。
それが嬉しくて口付けたまま、見続けているとパッとシュウが唇を離した。

「なんだ、もう終わりなのか? せっかくシュウからのおねだりだったのに、もったいなかったな」

何が起こったんだ? という表情で私を見つめるシュウが可愛くて自然に笑みが溢れた。

「ふふっ。おはよう。目が覚めて良かった。悪い、シュウが可愛くてつい止められなくて……。ベッドでなかったから、どこか身体が痛いところはないか?」

シュウは眠る前の私との情交を思い出したのか、顔を真っ赤にして頬を両手で覆った。

シュウのあのような姿はもう何度も見ているというのに、いつまでも初心で愛らしいな。ふふっ。

『そろそろ今日の宿に着くからかずらをつけてもらえるか?』というと、シュウは手慣れた手つきで青い鬘を髪留めでとめていく。この髪も似合ってはいるけれど、しばらくの間、あの美しい髪は見られないな……。私がお願いしたとは言え、何とも言えない感情が押し寄せてくる。

「ごめんね、ぼく寝ちゃってたんだね。1人にしちゃってつまらなかったでしょ?」

シュウが眠ってしまった後で、あんなことをしてしまったのは秘密にしておかねばな……。
シュウ……本当に申し訳ない……。

「いいや、シュウの寝顔を見ていたら、時間なんてあっという間だったよ。あんな幸せな時間を与えてもらえた上に、あんなにかわいいおねだりまでされて逆に御礼が言いたいくらいだ」

「もう! さっきのは忘れてよー!」

シュウが頬をぷくりと膨らませる。
可愛すぎるその仕草に『はっはっ』と笑ってしまった。

それにしてもシュウはなぜこんなに可愛いのだろう……永遠の謎だな。



そろそろ今日の宿に到着する。
ここは私が王都に行く時は必ず泊まる定宿で、泊まるときには必ず貸切にしてもらっている。
他の者と会わずに済むからシュウも少しは寛げると思うが……どうだろうか?

シュウは部屋に入ると、辺りをキョロキョロと見回してふわっと顔を綻ばせたので、おそらく気に入ってくれたのだろう。ああ、良かった。

ずっと籠の中にいたパールには、ご褒美としてシュウの使っていたタオルを渡してやった。
それを寝床に敷くと嬉しそうに飛び乗り、大人しく眠り始めた。

食事を済ませた後、シュウにここの部屋には大きな岩風呂があると教えてやると、目を輝かせて早く入ろうと私を誘ってきた。
ここの風呂は屋敷ほど深くはないのだが、シュウは風呂は私と入るものだと思い込んでいるので、必ず私を誘ってくれる。
それは嬉しい誤算だ。
おかげで、お互いに身体を洗いあって2人でくっついて風呂に入るという幸せな時間を過ごした。


大きなベッドに横たわらせると、すぐに瞼が落ちそうになっている。

「……フレ、ッドのちかいの……ことばも、きけて……うれしかった……」

そう話すと、シュウはスースーと寝息をたてて深い眠りに入った。
私はシュウが眠ったのを確認して、そっと部屋を出た。

シュウを1人にするのは気がかりではあるが、やらなければいけないことがある。
後ろ髪を引かれつつも、何かがあればパールがいるから大丈夫だろうと少し安堵しながら、部屋の前で警備をしていたルーカスと共に宿の中にある防音の応接室へ向かった。

部屋の中には青褪め項垂れたルドガー、ラルク、ヨハンの姿があった。

「お前たち、なぜここに呼ばれたかわかっているな」

私が低い声で問いかけると、揃って膝を折り畳んで、土下座の格好で床に顔を擦り付けるように伏せた。

「だ、旦那さま、申し訳ございません。
どうか、どうかお許しください」

ヨハンは身体を震えさせ半ばパニックになりながら、謝罪の言葉を繰り返した。

ルドガーとラルクはヨハンを制し落ち着かせてから、

「旦那さまの唯一で有らせられますシュウさまにあろうことか性的な反応を起こしてしまい、お詫びのしようもございません。
シュウさまのお声もお顔も私どもの記憶から全て抹消致しました。もう二度とあのようなことは起こさないとお約束致します」

と言い、揃って3人で頭を下げた。


私としても、3人の気持ちも分からんではないのだ。
あのこの世のものとは思えないほどの美しさを持つシュウが無自覚にあんな言葉を発すれば、男ならすぐに反応してしまうのも仕方ないと言える。
その点、ルーカスは警備隊長だけあって精神面も優れている。そう、ルーカスが凄いのだ!


まぁ、ここで3人を処分してこの先の旅に支障がでても困る。
しかし、何の罰も与えないのはシュウの伴侶として許せないという気持ちもある。
また、シュウの可愛らしさはとどまることをしらないから、あいつらが約束したとは言え、いつなんときまた同じようなことが起こらんとも限らない。

うーん、どうするべきか……。

悩んでいると、じっと様子を見ていたルーカスが口を開いた。

「旦那さま。罰としてしばらくの間、こちらを3人に着けさせるというのはいかがでしょう?」

ルーカスが持ってきていた鞄から取り出した物を見て、

「あっ! そ、それは……」

より一層青褪めた顔でラルクが声をあげた。
ラルクはこれが何か知っているのか?

「なんだ、これは?」

「はい。これは貞操帯でございます。警備に着く際に、警備対象によからぬことをしでかさないように支給されることがございます。今回の旅でシュウさまに言い寄ってくる輩を取り押さえた時の為にと、念のため用意しておりました。これを3人にしばらくの間装着させておけば、シュウさまによからぬ反応など起こさないようになるのではと……」

ほう、貞操帯とな。これは面白い。いいな。

「これを着けるならお前たちの罰はこれで終わりにしよう。お前たち、どうする?」

3人は顔を見合わせてほんの少し悩む素振りをみせたものの、すぐに

「はい。旦那さまの仰る通りに致します」

と答えた。

その場で3人に貞操帯を装着させ、鍵はルーカスに預けることにした。

「よし。これで、今日のことは終わりだ。明日からまた頑張ってくれ。お前たちの働きぶりによっては早めに外してやることも考えてやろう」

「はい。旦那さま。ありがとうございます」

3人の言葉を背に私はシュウの待つ部屋へと帰った。


王都まであと半分の距離までやってきた。
まだあいつらには貞操帯をつけさせているが、最初の頃は辛そうにしていたシュウの無自覚な煽りにもだいぶ免疫がついてきたようで、ルーカスのように動じなくなってきた。
そろそろ外してやっても良いかもしれないな。


今日はこの旅で必ず連れて行こうと思っていた湖を通る。
天候も良いし、申し分ない。

馬車が湖畔に着き、シュウを抱き抱えて外に出た。
ここは今日は私たち以外は立ち入れないようにしている。
だから、シュウは鬘をつけていない。
漆黒の髪が太陽の光に照らされ、輝きを放っている。

ああ……、なんて美しいんだ。



シュウに湖の周りを散策し用途誘うとすぐにルーカスがアンジーを連れてきた。
アンジーはシュウの顔を見て大きく尻尾を振り、高い声で嘶いた。

その声に驚いたのかビクリと身体を震わせたシュウが可愛らしい。
耳元で、『あれは喜んでいる時の行動なんだよ』と教えてやると、
『そうなんだ、ぼくも嬉しい』と言って、アンジーに近づいていった。

シュウが顔を撫でながら『今日はよろしく』と声をかけると、アンジーは事もあろうに長い舌でシュウの綺麗な指をペロペロと舐め始めた。

私は急いでくすぐったがっているシュウの指を引き離すと『シュウは私のものだから勝手に舐めることは許さないぞ』とアンジーを叱り飛ばした。

私の真剣な様子にアンジーも慄いたのか、反省した様子を見せたのでまぁ許してやるが、次はないぞ!


私が叱ったので、少し機嫌が悪くなっていたアンジーだったが、ルドガーが大好物の 甘蕉バナナを食べさせてやると途端に機嫌を直した。


私が先に馬に乗り、シュウの手を引いて乗せた。
シュウは羽のように軽いから乗せるのも楽なものだ。

横抱きに座らせようと思ったが、馬に乗っている気分を味わうなら跨がせたほうがいいだろうと思い、跨らせたがシュウは緊張しているようだ、少し身体が震えている。

私に寄りかかるようにと声をかけ、後ろから包み込むように抱きしめてやると、シュウからふっと力が抜けていくのがわかった。

「ルーカス行くぞ!」

と声をかけ、アンジーを走らせる。
シュウが少し慣れてきたのを見計らって、『少し足を速めるぞ』と声をかけ、手綱を操ると、アンジーはパカラッパカラッと気持ちよさそうに駆け出した。

「うわぁ、風が気持ちいい。景色が流れていくよ」

シュウは馬に乗るのはあの時が初めてだと言っていた。こうやって外を走るのも初めてなのだろう。
シュウの初めての体験を一緒に体験出来た……それだけで私は嬉しい。


私はアンジーを森の中へと進めていった。

この先にシュウを連れて行きたい場所があるのだ。
私にここに連れて行くような人が出来るとはな……。
それがシュウであることに神に感謝しなければ。



「えっ? なに、ここ……なんでここだけ?」

森の中に急にぽかんと何もない場所が現れた事にシュウは驚いている。

シュウの驚く顔を好ましく思いながら、アンジーの手綱を引き止まらせた。

ここから先は馬では行けないからとシュウを降ろすためアンジーの背中の上でシュウを横抱きに抱え直し、そのまま地面へと飛び降りた。
シュウが首に手を回してくれるのが可愛い。

「ルーカス、あっちで待っていてくれ」

「はい。旦那さま」

ルーカスにアンジーの手綱を渡し、少し離れた木に繋いだのを確認してから、シュウの手を取り、森の奥へと進んでいった。
細い道を進んでいった突き当たりには綺麗な湧き水がサラサラと流れ入る小さな泉が現れた。

ここが神の泉か……。
話には聞いていたが、実際に目にするのは初めてだ。
なんとも言えぬ気を発しているな、あの泉は。

「フレッド、ここは?」

「ここは神の泉だ。ここで神への誓いの言葉を述べ、神に認められた者には神からの祝福が届くという伝説がある」

「神さまからの祝福……」

「ああ、実際に神から祝福が届いたものに会ったことはないがな。
これがただの迷信であったとしても、ここが我々オランディア国民にとっては特別な場所なのだ。
私はシュウへの生涯変わらぬ愛を神の御前で誓いたくてシュウをここに連れてきたんだ。聞いてくれるか?」

そう問いかけると、シュウは『お願いします』と答えてくれた。

私は乗馬用の手袋を外し、大きく深呼吸をした。
そして、ゆっくりと片膝をついて右手を胸に当て、左手をシュウに差し出した。

ここでは自分の心に忠実に、真実のみを口にしなければいけない。
そう、嘘偽りのないシュウへの想いを言葉にするのだ。


「オランディア王国 唯一神 フォルティアーナよ。

私 フレデリック・ルイス・サヴァンスタックは、ハナムラ・シュウを伴侶とし、自分の命を賭して護り、慈しみ、尊い、生涯変わらぬ愛を……今、ここに誓う」

私の言葉を噛み締めるように聞いてくれた後、シュウは私の差し出した手を取ってくれた。

「ありがとう、フレッド。
ねぇ、ぼくもここで誓っていいかな?」

「シュウが誓ってくれるならば、これ以上に幸せなことはないが……でも、良いのか?」

シュウはこの泉で自分の心と違うことを話ではならないという決まりを知らない。
シュウが私に気を遣って私が喜ぶと思って心にもないことを口にしてしまったら……?

そんな心配をよそにシュウは私ににっこりと笑顔を向けてくれた。

シュウを信じられなくてどうするんだ!
シュウが心にもないことなんて言うはずがないだろう!
いい加減信じろよ!

私の頭の中で自分自身に強く詰られた。
そうだ! シュウの心をきちんと聞くんだ!

そう心に決めた時、シュウが徐に誓いのポーズを取りはじめた。

シュウの片膝が地面につくと同時に私は立ち上がった。

シュウはよほど緊張しているようだ。呼吸が早い。
『ふー』と大きく深呼吸をして上を向いたシュウの目が私のそれと合った瞬間、シュウの呼吸が落ち着いた気がして私は嬉しかった。

シュウは右手を胸に当て、左手を私に差し出し、ゆっくりと口を開いた。

「オランディア王国 唯一神 フォルティアーナよ。

ぼく、ハナムラ・シュウはこの国の人間ではありません。だから、神さまに誓いを立てることは本来ならば許されないことなのかもしれません。
それでも、ぼくは神さまに誓いたい。

もしかしたら、神さまのお陰でフレッドに会えたのかもしれないのだから。

愛を知らずに生きてきたぼくにフレッドという素晴らしい人を与えてくれてありがとうございます。

フレッドと出会って、人を愛し、人に愛される喜びを知りました。

ぼくもこの命を賭して、フレッドを護ります。
そして、生涯フレッドだけを愛し続けることを……
神さまとフレッドに誓います」

シュウの心からの言葉が、地面に雨が沁み込むように私の心にじわじわと沁みていく。
誰からも愛されず、愛することもないと諦めていたのは私も同じだ。
だからこそ、フォルティアーナが私たちを引き合わせてくれたのだ。

ああ、偉大なる唯一神 フォルティアーナ

シュウをこの国に遣わせてくれて本当にありがとうございます。

「シュウ……ありがとう」

シュウの言葉に涙が止まらないまま、私はシュウの左手を取った。
その瞬間、目が眩むほどの光が空から泉へと注がれていく。

「うわぁーーっ、眩しい!!」

目を開けていられないほどの眩しさに驚きながら、私はシュウをぎゅっと抱きしめた。

シュウがどこかへ連れ去られたりしないように祈りながら、目を瞑りただぎゅっと抱きしめ続けた。

しばらく経って恐る恐る目を開けると、眩しい光は跡形も無く、元の緑に囲まれた泉の前に佇んでいた。

驚きのままにシュウに視線を落とすと、シュウの後ろにある泉の中の一部がやんわりと光っているように見えた。

「フレッド、どうしたの?」

「シュウ……ほら、あれを見てごらん」

シュウが振り返って見てもまだ、月の光のようにやんわりと光を放っている。
その光は私だけでなく、シュウにもそれは見えているようだ。

『ちょっと見てくる』と声をかけ靴と靴下を脱ぎ捨て裸足になって泉の中に足を踏み入れる。
一瞬ピリっとした刺激があったが気にせずザブザブとその光の元へ歩を進めた。
泉の中心で光を放つものを手の中に掴み取り、
シュウの元へと戻った。

シュウは持っていたハンカチで急いで腕を拭いてくれた。
その自然な行動が嬉しいのだ。

シュウにお礼を言い、私はゆっくりと手を広げ掴んだものをシュウの目の前で見せた。
手の中にある石を摘みあげ、太陽の光に照らしてみると、どの角度からも信じられないほどの輝きを放った。

「いや、宝石のようだな。黒い方は黒金剛石ブラックダイヤモンド、そして水色の方は恐らく、藍玉アクアマリンだろう」

「宝石……。なんでこんなところに?」

こんなところで宝石が出るという話は聞いたことがない。
そもそも黒金剛石と藍玉は一緒にはでないものだ。
それにこの美しい輝きは尋常でない。
そうか……!

「シュウ、もしかしたらこれが……神からの祝福じゃないだろうか?」

「ええっ?」

そうだ! 神からの祝福だ!
きっとシュウは故郷に戻ることはないだろう。
シュウはおそらくフォルティアーナに呼ばれてここにきたのだと思う。
そう、私と出会うために……。
ならば、私がこの世界でシュウを誰よりも幸せにするんだ!

シュウは私の手の中にある石を見つめながら、口を開いた。

「これ、ぼくたちの瞳の色みたいだね」

「ああ、そういえばそうだな」

「これを指輪がピアスにしてお互いに肌身離さず付けようよ」

「それは良い考えだな! シュウはどちらが良い?」

「ぼくの住んでいたところでは、結婚したらにお互い左手の薬指に指輪をつけるんだけど、ピアスも素敵だよね。うーん、どうしようかな。悩んじゃうな……」

「そうだな。シュウにはどちらも似合いそうだ」

「フレッドにもどちらも似合うから、悩んじゃうな」

嬉しい悩みに、2人で顔を見合わせて笑った。


「そろそろ戻るか」

「またいつかフレッドとここに来たいな」

「ああ、そうだな。フォルティアーナからいただいた宝石を身につけて、私たちが幸せでいることを報告しにくるとしよう」

「うん。楽しみだね」

柔かに笑うシュウに私は必ず約束は守るよと心の中で呟いた。
きっとこの呟きはフォルティアーナにも届いたことだろう。


もと来た道を戻り、アンジーから下りた場所でルーカスを探したが、馬を繋ぎ横に立っていたルーカスはどこにも見えなかった。

『ルーカス!』と少し大きめに声を出すと、離れた場所からバタバタと駆け寄る音が聞こえた。
警備場所を離れるとはルーカスらしくない、どうしたんだ?

私たちの姿を見てどこにも傷がないかを確認すると、ルーカスはフラフラと地面に崩れ落ちた。

「どうしたんだ、ルーカス! 大丈夫か?」

何事にも動じないはずのルーカスにしてはおかしい。一体どうしたというのか?

「も、申し訳ございません。おふたりが神の泉へと行かれましてから、5時間ほどの時間が経っておりまして……」

「なっ? 5時間?」

「本当にご無事でようございました」

あの泉に居たのはせいぜい小一時間のはず……。
あの場所は何か別の時間が流れているのか?
なんとも貴重な体験をしたものだ。

ザァーーッ

急に森の中を風が通り抜けていった。
なんだろう……心が浄化されていくような不思議な風。

シュウは何かを感じたのだろう。
私には何か不思議な風が通ったとしか思えなかったが……多分きっとフォルティアーナ神に愛されし者シュウにしかわからないことなのだろう。
それならば追及しないでおこう。
気づかないフリをしておくのがいい。

ここは神の領域なのだから……。



シュウはまだ立ち上がれないでいるルーカスに近づき、『心配かけてごめんなさい』と謝っていた。

それがルーカスお前の仕事だろうと言えばそうなのだが、自分の入れない森の奥に主人とその伴侶が5時間もの間、共に出てこないという異常事態はルーカスにどれだけの心労を与えたことだろう。
気づけば私もルーカスに『心配かけたな』と声をかけていた。

少し涙ぐんだ声でルーカスが『本当にご無事で何よりでございました』と答えていたのが私の胸に残っていた。

アンジーに乗り、湖畔へと戻ると私たちの姿を見てみんな泣き崩れた。
ああ、この者たちにも心配をかけてしまったのだな……。申し訳ない。


初めて馬で遠出をして、とんでもない体験までしてしまったシュウはアンジーから下ろすと少し身体がふらついていた。

シュウを抱き抱えて馬車へと乗り込み、そっと座席に座らせると、座席の上に置いておいた籠からパールが飛び出てきた。

本当にコイツはシュウの気配をすぐに感じるのだな。

シュウの胸に抱かれて幸せそうな顔をしているのが手に取るようにわかる。

「ああ、パールも心配してくれてたの? ありがとう。ねぇ、聞いて! 今日ね、すごいことがあったんだよ」

シュウの言葉にパールは長い耳をピコピコと動かし、『キュンキューン』と高い声を上げた。

そして、先ほどまでシュウの胸に抱かれて喜んでいたはずのパールがなぜか私の胸元にいる。
今までこんなことはなかったはずなのにどういうことだ?

私が驚いている間にパールの鼻先が私の上着の中へと侵入してくる。
『クゥンクン』とそんな声を出されても私はシュウ以外にそんなところを舐められても嬉しくはないぞ。

はっ! もしかして……。

「ちょ、ちょっと待て!」

必死で鼻先を擦り付け長い舌で舐めてくるパールを制しながら、もう片方の手で上着の内側のポケットに仕舞ったシュウのハンカチを取り出した。

「これか?」

『キュンキュン』

一瞬シュウのハンカチに反応したのかという思いがよぎったが、おそらく反応したのはこれだろう。

ハンカチを広げて見せると、パールはすぐにおとなしくなった。

「やっぱり綺麗だね」

「ああ、この国でも宝石は採れるが、ここまで輝く物は見たことがない。やはりこれは、肌身離さず身につける守護石にした方がいいな」

「うん。そうだね。だったら、やっぱりピアスが良いかな。顔に近いし目立つもんね」

私は黒い石を摘み上げ、シュウの耳元にあてがった。
ああ、漆黒の髪、漆黒の瞳に黒金剛石が映えてなんとも美しい。
シュウの肌が白いから余計映えるな。

「違うよ、フレッド」

「えっ?」

「ぼくはこっちだよ」

というと、シュウは藍玉を摘み上げ耳にあてがった。シュウの耳元で私の瞳の色が光輝く。
その姿にドキドキしてしまう。
私は冷静を装ってシュウに黒金剛石を差し出した。

「黒はシュウの色だろう。とてもよく似合っている」

しかし、シュウは首を横に振って

「ううん、お互いの色を身につけたいんだよ。だから、ぼくがこっちで、フレッドはぼくの色ね!」

と譲らない。

いやいや、百歩譲ってシュウが淡い水色はともかく、私が黒を身に纏うなど許されるのか……?

「しかし、私が黒をつけるのは…………」

あまりにも勇気がいることだ。
ああ……どうしたらいいんだ、私は。

すると、シュウは煮え切らない私の態度に焦れたのか

「そっか……。フレッドはぼくの色を身につけるのがイヤなんだ……。ぼくのことが嫌いになっちゃったんだ……。うぅ……っ、うっ」

悲しそうに泣き始めた。
私のせいであの漆黒の瞳が涙で濡れてしまうだなんて許されないことだ!
しかし……、いや、私も男だ! 覚悟を決めよう!

「そ、そんなことある訳がないだろう! シュウの色を身につけられるならそれはこの上ない幸せだ! ああ、シュウ……泣かないでくれ」

「ふふっ。なら、つけてくれるよね?」

シュウはさっきの涙はどこへやら、満面の笑みを私に向けた。

やっぱりシュウは小悪魔なのだなと思いつつ、シュウに笑顔が戻ったことに『ああ、良かった……』と私は安堵の表情を浮かべた。

そして、

「ああ。王城に着いたら、信頼のおける腕利きの宝石彫刻師を呼ぼう。そして、お互いの色を身に纏おう」

と提案すると、

「わぁーい、フレッド大好きだよ」

と言って『ちゅっ』と頬に口付けをしてくれた。

『えへへ』と可愛らしい笑顔を見せるシュウに、
ムクムクと悪戯心が芽生え、
『ここにも頼む』と自分の唇を指でトントンと叩き、強請ってみた。

恥じらいを見せるシュウに
「シュウからして貰えるのが嬉しいんだ」
と言うと、シュウは『もう、仕方ないなぁ』と言いながら、目を瞑り唇を合わせてくれた。

シュウがだいぶ口付けに慣れてきたことに喜びを感じながら、私はシュウとの甘くて深い口付けを堪能した。
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