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第二章 (恋人編)

花村 柊   7−1※

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それからどれくらい抱きしめ合っていたんだろう。
フレッドがゆっくり腕の力を緩めた。

「シュウ、今日はいろいろあって疲れただろう。風呂に入ってゆっくり温まろう」

「ふふっ。そうだね。ねぇ、今日はフレッドの髪、ぼくに洗わせてくれる?」

フレッドは驚きながらも『ああ、頼む』と了承してくれた。
やった! フレッドの綺麗な髪、洗ってみたかったんだよね。

ふと、パールを見るとパールもデザートに苺を出してもらってよほど美味しかったようで、お皿が洗ったように綺麗になっていた。

「ふふっ。パールもぼくと同じで苺好きなんだ。今日の苺、甘くて美味しかったね」

「私も苺は好きだ! シュウとお揃いだな」

ぼくがパールに何か言うたびにフレッドが張り合うのがすごく可愛い。
今までは格好いいばかりだったけれど、だんだんと素のフレッドが見られて嬉しい……そう思えるのはぼくがフレッドを大好きだっていう証なのかな。

一度部屋に戻り、パールをベビーベッドに下ろしてからフレッドとお風呂へと向かった。

「あっ、着替え忘れちゃった! シンシアさんー!」

慌ててシンシアさんを呼ぶと、どこでほくの声が聞こえているんだろうと思うくらいのスピードで、ぼくの着替えと一緒にフレッドのものもバスルームへと持ってきてくれた。

「あ、ありがとうございます」

着替えを受け取ってお礼を言うと、シンシアさんは静かにお辞儀をして、またさっとバスルームから出て行った。

ここの使用人さんたちって、ほんとすごいよね。
さすがだなぁ。

「シュウ、早く風呂に入ろう」

フレッドはなんだかいつもよりもすごく楽しそうに見える。
ぼくが髪を洗うって言ったからかな?
ふふっ。そうだといいのだけれど。

フレッドを待たせないようにパッと服を脱ぎ、フレッドの隣に立って一緒に中へと入っていく。
この時、初めて一緒に入った時と同じようにいつもフレッドと手を繋いで入るのもお約束。

でも、今日はぼくもなんだかウキウキしてしまう。
初めてフレッドの髪を洗うんだもん。

「フレッドから髪洗う?」

「そうだな。頼む」

「はーい」

ぼくは差し出された艶と潤いを持たせる泡…シャンプーってことだよね?…を手にたっぷりと取って、
フレッドのキラキラ輝く金色の髪に指を通した。

その瞬間、フレッドの身体がピクっと震えた気がしたけれど、ぼくはフレッドの艶々した髪に夢中になっていた。

うわぁ……すごく指通りが良い!
ずっと触っていたいくらい。

「ねぇ、気持ちいい?」

「ああ……最高だ」

フレッドのリラックスした声音が、ぼくに気を許しているようですごく嬉しい。

ぼくにずっと髪を触らせてくれなかったのは、多分心が通じ合っていなかったからなんだとぼくは思っている。

着替えを手伝ってくれるシンシアさんやメリルさんもぼくの髪には一切触れることはなかった。

理由を聞いたことはなかったけれど、髪色にこだわるこの国の人にとって、髪を触るということは特別なことなんだろう。

だからこそ、今日フレッドに頼んでみたんだ。
ぼくが思った通りなら今日こそ触らせて貰えるんじゃないかって。

当然のようにどころか、浮き足だった様子で髪を洗わせてくれたフレッドが可愛くて可愛くてもうたまらない。

フレッドの髪を洗う権利はぼくだけなんだという優越感でいっぱいになる。

ああ、もっと触っていたいけど、そろそろ流さなきゃね。

顔にかからないようにゆっくりシャワーをかけ、念入りに泡を流していく。
元々キラキラだったフレッドの髪はより一層光輝いて見えた。

「シュウ、ありがとう。これから毎日頼んでいいか?」

「もちろん! フレッド、次はぼくだよ」

そう言うと、フレッドは上機嫌に目を細め、ぼくの髪を洗ってくれた。

ふぅ……。
やっぱりフレッドの手は気持ちが良い。

これに慣れると自分じゃ洗いたくなくなっちゃうよね。

「さぁ、流すぞ」

鏡越しにフレッドが慈しむような眼差しでぼくの泡を綺麗に流してくれるのが見えた。
ぼくの髪を流す時、こんな表情してくれているんだと思うと、嬉しすぎてなんとも言えないむず痒さのようなものを感じていた。

一緒に湯船に入り、今日はフレッドの膝の上に向かい合わせになって座らせてもらった。

「ねぇ、フルーツの視察っていつ行くの?」

「あ、ああ……そうだな。いつにしようか。シュウを連れていくとしたら、警備も強化しないといけないからルーカスに相談しないといけないな」

ぼくがフレッドに付いていくと、そんな大がかりなことになるんだ……。
まずはゆっくりと町を見たいんだけどな。

「ねえ、フレッド。2人だけでは外に行けないの?」

「ええっ? 2人だけ? いや、それは無理だろう」

やっぱりダメなのかな……。
初めはそんなに仰々しいものじゃなくて、領民さんたちがどんな生活をしているかを直に見てみたいんだけど。
難しいかな……。

「シュウ? どうした?」

ぼくが俯いて、いろいろ考えていたから気にさせちゃったのかな。

「ううん。ごめんね。でも、まずはフレッドと一緒にここの領民さんたちがどんな生活をしているのか、どんな町に住んでいるのかを直に見てみたかったんだ……」

「そうか……」

フレッドも俯いて何やら考え始めた。

「フレッド、無理言ってごめん」

「いや、いいんだ。ちょっと考えさせてくれないか。シュウの気持ちもちゃんと組み込めるように検討するから」

フレッドがぼくの話を聞いて真剣に考えてくれようとした気持ちが嬉しかった。

そもそも公爵さまであるフレッドが護衛も付けずに1人で外に出かけるなんてことがあるはずがないのだから、ぼくと2人っきりなんてもっと無理に決まっているのに……。

それを頭ごなしに否定しないで検討するとまで言ってくれる、それがフレッドの優しさなんだろうな。

「フレッド……」

ぼくはフレッドの唇にそっと自分のそれを重ねた。
フレッドは急なぼくの行動に驚きながらも、スイッチが入ったらしく、ぼくの唇を何度も啄み、下唇を柔らかく噛んで、熱い舌をそっと挿し込んできた。

「……ふぅ……っ、あ……」

フレッドの熱い舌を感じたくて、ぼくも舌を絡ませる。
拙い動きなのに、フレッドの興奮が高まってきたようで、キスをしながらフレッドの指先がぼくの胸の尖りを弄ってくる。

「ひや……ぁん、あ……っ、フレ……ッ、ド」

舌に吸いつかれ、絡められ、口腔内を舐め回される、その激しい動きに合わせるように胸の尖りを弄られる。
その2つの快感にぼくの中心に熱が集まっていくのがわかった。

「シュウ…あいし、てる……」

「ん……っ、ぼくも……」

フレッドの愛の言葉に返事をしながら、ぼくはフレッドの膝に乗せられた両脚を擦り合わせていく。

そんな淫らになってしまったぼくをフレッドはそれでもまだ愛してると言ってくれるだろうか……。

お願い、フレッド気づかないで!

そんな願いも虚しく、フレッドが与える快感に我慢できずにぼくのモノが勃ちあがってしまっていることにフレッドはどうやら気づいてしまったらしい。

深い深いキスをしながら、フレッドの口角が少し上がったのがわかった。

フレッドはぼくを膝に乗せたまま、立ち上がると湯船の縁に腰を掛け、舌の動きも胸の弄りも止めることなく、ぼくの後頭部を支えていた手でぼくのモノにそっと触れてきた。

「ああ……っん、やぁ……っ」

本当にイヤならフレッドの首に回している両手でフレッドの手を止めればいい、ただそれだけなのにフレッドの与えてくれる快感をなくしたくなくて、ぼくはされるがまま、フレッドに身を委ねてしまっていた。

フレッドはぼくの気持ちに気付いているようで、ぼくのモノを上下に動かすスピードを速めていく。
巧みな動きにぼくはみるみるうちに絶頂へと導かれていく。

そもそも、ぼくは自分ではほとんどしたことがなかった。
毎日が忙しくて身体が疲れて悲鳴をあげていたから、そんな気になることなどほとんどなかった。

それが……この世界に来て、初めてこんな場所を人に触られて、しかも大好きなフレッドにこんなイヤらしい姿を見せてしまって恥ずかしいのに、フレッドから与えられる快楽を拒むことなどもう出来なくなっていた。

「ああ……っ、フレ…ッ、ド……もぅ、イッちゃ…う……っ」

「シュウ、私も一緒に……」

ぼくはフレッドの言葉はもう聞き取れなくなっていたが、フレッドが突然身体を動かしたと思ったら突然ぼくのモノに熱くて硬くて、とてつもなく大きなモノが重なり合った。

「え…っ? な、に……」

「いいんだ、見なくていい。シュウは私との口付けに集中して感じてくれていれば良い」

そう言うと、フレッドの大きな手がぼくのモノと巨大な何かを一緒に擦り上げていく。

ぼくははじめての感覚に知らない間に自分で腰を動かしてしまっていた。

「シュウ、可愛い。はぁっ、お前の可愛いイキ顔を見せてくれ」

フレッドの擦る手が、乳首を弄る手がどんどん勢いを増していく。

「ああ……っん」

「ああっ、シュウ……」

ドクンと身体に電流が走ったようなとんでもない快感に襲われたと同時にぼくのモノから、
『ビュル、ビュク……ビュク』
と白濁が飛び散り、フレッドの鍛え上げられた腹筋を汚したと同時に、
ぼくのお腹にも熱い飛沫が飛び散ったのがわかった。

「は……ぁっ、はぁ」

ぼくはすっかり力が抜けてしまい、フレッドの厚い胸板に身体をよりかからせた。

気がついた時には、バスローブを羽織って脱衣所の椅子に座っていた。

ぼくの出したものだろう……記憶の中で自分の身体にも熱い飛沫が飛び散った気がしていたけれど、身体は綺麗に清められていた。
恐らく、フレッドが洗ってくれたんだろうな。優しい。

「フレッド……」

「ああ、シュウ。悪い、無理させたな。レモン水飲むか?」

「飲む。ありがとう」

ぼくはレモン水をクピっとひと口飲んでから、

「フレッド、謝らないで。ぼく……嬉しかったんだから」

と言うと、フレッドは優しく抱きしめてくれた。

「私も嬉しい。シュウ……愛してるよ」

ぼくはフレッドの長い腕の中で愛を感じながら、幸せに浸っていた。 

それにしても、ぼくのに重なり合ってたあの熱いやつ、何だったんだろ?
あれ、すごく気持ちよかったな……。

お風呂から上がり、今日は疲れているだろうから夜の語らいはまた明日にしようということになり、ぼくはフレッドと共に部屋へと向かった。
いつもなら部屋の前でおやすみの挨拶をして自室に戻るフレッドが、今日はなぜか一緒に部屋の中までついてきた。

えっ? あっ、もしかして一緒に寝るって本気だった?

「あ、あのフレッド? もしかして……」

「ああ、もちろん。シュウとパールを2人っきりで寝かせるなど出来ないからな。大丈夫だ、この部屋のベッドは広いから私が一緒に寝たとて問題はない」

いやいや、狭いとか広いとかそう言う問題じゃないんだけど……。

ドキドキしながら、寝室へと入るとパールは既にブランケットに包まりながら、スヤスヤと夢の世界へと旅立っているようだった。

パールがいる右側からベッドにぼくが入ると、フレッドは反対方向から布団の中へと滑り込んできた。

ふわっとフレッドのあのレモンとシトラスを混ぜたような爽やかな匂いが香ってくる。

その匂いでフレッドが傍にいると実感してしまい、
先程のお風呂での出来事が脳裏に浮かんでくる。

ああ、あんな痴態をフレッドに見せちゃった……。
恥ずかしさで顔がどんどん赤らんでいく。

そんなぼくの様子に気づいたのか、フレッドは微笑んで頭を優しく撫でてくれた。

「シュウ、緊張するな。もう今日は何もしない。私はシュウと一緒に眠れるだけで幸せなのだ。安心してゆっくり眠ると良い」

「うん。ありがとう。フレッド」

ぼくはフレッドの優しさが嬉しくて、もぞもぞとフレッドに近づくと、横向きになっているフレッドの腕の間に身体を入れ、胸元に顔を擦り寄せた。

「この場所、安心する……。おやすみ、フレッド」

ぼくはそう言うと上を見上げ、フレッドの唇にそっとキスをした。

「あ、ああ……おやすみ」

お風呂から上がった後なのに、フレッドからはシャンプーや泡の匂いは微かに香る程度にしか感じなかった。

やっぱりあのレモンとシトラスを混ぜたような爽やかな香りはフレッドの体臭なんだと思いながら、ぼくは心地良い温もりとフレッドの穏やかな心音と爽やかな香りに包まれて、夢の世界へと旅立った。



『クゥーン、クゥーン』

んっ? どこかで犬が鳴いている。
あれっ? ぼく、犬とか飼ってなかったよね?
夢の中で一生懸命記憶を手繰り寄せる。

そんな最中、

「ふふっ。くすぐったい」

頬に不思議な感触がして、ぼくは目を覚ますと、
目の前には、朝からキラキラした顔で眠っているフレッドがいた。

カーテンから零れ落ちた朝の光がフレッドの金色の髪に当たって、すごく神々しい。

ぼくはそっとフレッドの髪に手を伸ばした。

絡まることなどあり得ない指通り滑らかなその髪は艶々と美しい。

この髪、昨日ぼくが洗ったんだよね……
ぼくだけが触れることを許されているんだ。

そう考えるだけで、嬉しくてぼくは何度も何度も滑らかな指通りを楽しんでしまっていた。


うわぁ、まつげ長ーい!

こんなに近くで見たことがなかったからついつい見入ってしまう。

目線を下げれば昨日お風呂場で重ね合わせた、形の綺麗な唇も今は閉じたまま。

この唇、触りたいな……無性にそんな思いに駆られて腕を上げようとすると、身体にガッチリと何かが巻きついていることに気づいた。

あっ、フレッドに抱きしめられてる……。

もう! ぼくは抱き枕じゃないよ……なんて思いながらも嬉しさが込み上げてくる。

背中に回ったフレッドの腕が、心地良い強さで安心する。
フレッドは本当にぼくが好きなんだ……。

あまりの嬉しさにぼくはフレッドの胸元に顔を摺り寄せようと身体を少し動かしたところで、頬を何かに舐められている、そんな感触がした。

そういえば、さっきもこんな感触がした……
でも、フレッドじゃないよね?

だれ?

恐る恐る顔を後ろに向けると、真っ白なもふもふがベッドに乗っていた。

んっ?  ああっ!!

パールのこと忘れてた!!!

ごめーーん。

そっか!
さっき起こしてくれたのパールだったんだね。

「ごめん、パールおはよう」

フレッドを起こさないように小声でパールに挨拶すると、パールは嬉しそうに
『キャンキャン』と鳴き声をあげた。

「ふふっ。パール可愛いね」

パールにそう話しかけた時、背中に回っているフレッドの腕の力が急に強まった。

驚いて振り向くと、

「私より先にパールと朝の挨拶か?」

さっきのキリッとした寝顔イケメンから一転、子どものように拗ねた顔が可愛い。

「ふふっ。フレッド、おはよう」

「ああ。シュウ、おはよう」

そういって、フレッドの唇がぼくに近づいてくる。

一瞬頬っぺたかなと思ったけれど、やっぱりフレッドは唇にキスしてくれた。

「起きてすぐにシュウと口付けできるのは幸せだな」

さっき拗ねていたのにもう機嫌が直ったみたい。
こういうとこ、やっぱり子どもみたいで可愛いな。

フレッドが『起きるか』といって一緒に身体を起こすと、ぼくとフレッドの間にパールがトコトコと入ってきた。

「ふふっ。パールがぼくたちの子どもみたいだね」

フレッドに抱きしめられたぼくの腕の中に入ろうとするその仕草がなんだか家族みたいで、つい口をついて出てしまった。

フレッドは茫然とした表情でぼくを見つめていたかと思うと、パールを腕の中に抱いたままのぼくをぎゅっと抱きしめた。

「シュウ、朝からそんな煽るようなことを言ったりして……私の理性を試しているのか?」

えっ? ぼく何か悪いこと言ったっけ? 

『キュウーン』

ああ、ぼくの腕とフレッドの厚い胸板に挟まれてしまって苦しいのかな?

「フ、フレッド?」

「ああ、もうシュウは可愛すぎて困るな」

そう言って、ぼくの前髪をさっと上げて、おでこに優しくキスをする。

ぼくは何のことやらわからなくなっているうちに、フレッドはそろそろ起きて着替えをしようと言い出した。

「ああ、シュウの服を選んでこないといけないな。あのクローゼットはここに運び入れることにしよう」

フレッドのことだから、マクベスさんを呼んですぐに運び込むのかと思いきや、今日はぼくの寝起きの姿を誰にも見られたくないからといってフレッドはそそくさと部屋を出て自室へぼくの服を取りに行った。

その間にぼくは顔を洗ったあと、パールとリビングのソファーでフレッドが戻ってくるのを待っていた。

そういえば、ぼくが起きたのにシンシアさんもメリルさんも来ない。

フレッドが一緒だったから遠慮したのかな?

そんなこと昨夜のうちにとっくにバレてるんだろうけど、知られてると思うだけでなんだか居た堪れない気持ちになるのはなぜだろう……。

ぼくの着替えを持って戻ってきたフレッドはすでに自分の着替えも済ませていて、ピシっとしたどこからどう見ても  THE公爵さまスタイルといった感じだ。

この格好も好きなんだけど、夜着ローブ姿のフレッドもドキドキして好きなんだよね。

今日フレッドが選んでくれた服は何となくフレッドの服とよく似ている。
お揃いに見えるのを選んできてくれたのかな。

ぼくが着替え終わったのを確認して、フレッドはマクベスさんを呼び、フレッドの部屋からぼくの衣装が入ったクローゼットをぼくの寝室へと移動させていた。

こういうところ、行動が早くて驚いてしまう。

このクローゼットがここに運ばれても多分、いや絶対にぼくが服を自分で選ぶことはないんだろうな……そう思いながら、運び込まれている様子をぼくはただただ見守っていた。

あれからしばらく外の視察はなく、フレッドは忙しそうに執務室で仕事をこなしていて、
ぼくは相変わらず、朝は図書室、午後はスペンサー先生との勉強の日々を過ごしていた。

そんな日が続いて1週間。

その日も朝から執務室へと向かうフレッドに、今日はシュウも一緒にと誘われて部屋へと入った。

この部屋にはあまり入ったことはないけれど、ぎっしりと資料や本が詰まった壁一面の本棚にアンティーク調のどっしりとした机とソファーが置かれていて、何となく緊張感が漂っている。

キョロキョロと部屋を見渡していたら、フレッドに促され、おずおずと豪華なソファーに腰を下ろす。

うわぁ、このソファー初めて座ったけれどすごく座り心地が良い。

フレッドは当然のようにぼくの隣に腰を下ろし、膝の上に置いていたぼくの手をフレッドの大きな手で包み込み、自分の膝の上に乗せ、指と指の間に指を絡ませる……いわゆる恋人繋ぎというものをされていた。
その一連の行動があまりにもさりげなくて、恋愛初心者のぼくはただただ驚くばかりだ。

フレッドはこんなに格好良いんだもんね。

元カノさんとか、もしかしたら元カレさんとかいっぱいいたのかも……うーん、ちょっとモヤモヤする……。

「シュウ? どうした?」

ぼくの様子が少しおかしくなったことに気づいたのか、フレッドが心配そうに声をかけてくれた。

バカバカ!
フレッドに心配かけてどうするの。
こんな格好良い人に今まで恋人が誰もいなかったわけないんだから……!
でも今はぼくの傍にいてくれて愛してるって言ってくれてるんだから、余計なこと思っちゃダメだよね!

「う、ううん。なんでもないよ」

フレッドは怪訝そうな表情をしながらも
『そうか?』と納得してくれたようだった。


トントントントン

フレッドが入室を許可すると、入ってきたのは警備長のルーカスさんとマクベスさんだった。

「旦那さま。準備整いましてございます」

「そうか。じゃあ、頼む」

「かしこまりました」

そう会話を交わすと、2人は執務室に何やら大きなトランクケースを3個ほど運び込んだ。

なに、これ? 
またフレッドが服でも買ったのかな?

「フレッド? ねぇ、何が始まるの?」

「ああ、ちゃんと説明するよ」

そう話している間に、ソファーの前に置かれたセンターテーブルの上はトランクケースが綺麗に並べられていた。

「シュウ、お前……私と2人で町に行きたいと言っていただろう? それでルーカスと話したんだが、シュウの見た目はこの国では珍しすぎるんだ。
だから、そのままではこの屋敷を出た途端、みんなの注目を浴びて町を散策するどころではなくなる。
まだ、私の伴侶としてのお披露目もしていない今の現状では、警備もいない状況でシュウのありのままの姿で外に出すことは難しい……」

「そっか……」

フレッドの言葉に少し落ち込んでしまう。
まあ、仕方ないよね。

「そこでだ! 瞳の色はともかく髪色を変えてみればどうかということになってな」

「えっ??」

フレッドの合図と共にマクベスさんがカチャリとトランクケースのロックを外し開けると、色とりどりのウィッグが現れた。

「うわっ! すごーい!」

「本来のシュウを隠すことになって申し訳ないが……シュウ、どうだ? 試してみないか?」

ぼくが『うん』と返事すると同時に、フレッドは嬉しそうにウィッグをぼくに合わせていく。

衣装ケースの中には、この国に一番多いと言われている青色、緑色、赤色、ピンク色のウィッグが並んでいた。そして、ピンク色の影に隠れるように置かれていたのが、フレッドより少し濃い、黄色に近い金色のウィッグだった。
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