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第一章 (出逢い〜両思い編)

フレッド   5※

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ほんの少しだけですがキスシーンがあるので一応※つけておきます。



今朝の目覚めは、今までの人生で一番清々しい。
何せ、昨夜シュウと唇を交わしたのだから。

さすが【伴侶の証】で選ばれただけあって、シュウとの口付けはそれはそれは甘く蕩けるように素晴らしく心地よかった。

突然口付けをしてしまったのに、シュウはそれを嫌ではないと言ってくれた。

それほどの喜びが今までにあっただろうか。

私は幸せに浸りながら朝の支度を始めた。

着替えながら、これからどうやってシュウの心を手に入れようか考えていた。

毎日シュウが喜ぶような贈り物がしたいが、シュウは宝石や物では申し訳なさそうな顔はしても、大喜びはしないだろう。

ならば、どうしようか……。

その時、ふとシュウの話を思い出した。

故郷で食べてみたかったけれど、食べられなかったものがあったと、確かに言っていた。

私にはどのようなものかはわからないが、きっとローリーなら用意できるのではないか?

そう思った私は着替えを終えるとすぐにキッチンへと向かった。

「旦那さま、おはようございます。どうなさったのですか? こんなに朝早くからどちらに?」

私が起きたことに気づいたらしいマクベスが近寄ってきた。

「ああ、マクベス。おはよう。ローリーと話がしたいのだ。彼はもう起きているか?」

「ローリーでございますか? はい。彼ならもうキッチンで朝食の支度を始めている頃かと……」

「よし、急ぐぞ」

私は早足でキッチンへと向かった。

「ローリー、ちょっといいか?」

「だ、旦那さま。朝からこのような場所にお越しだなんてどうなさったのですか?」

「ローリーに作って欲しいものがあるのだが……」

私はシュウが言っていたパンケーキとやらを作れないか聞いてみた。

「ふわふわでケーキのようなケーキでないもの……うーん……あっ、もしかしたらメレンゲを入れればふんわりとしたものが作れるかもしれません」

「やってくれるか?」

「はい。シュウさまのためなら喜んでお作り致します。ただ、朝食ですので、生クリームは乗せられませんが、この前献上されましたフルーツでお作りしましたドライフルーツと胡桃の蜂蜜漬けを乗せてお出ししてもよろしいでしょうか?」

生クリームはデザートにのみ使用すると決まっているのだから仕方ないな。

「ああ、お前に任せる」

シュウが喜んでくれれば良いのだが……。



シュウはいつもより遅く起きたようだ。

顔を見るのが待ち遠しい。
居てもたってもいられず、早々とダイニングルームでシュウが来るのを待っていた。

ああ、やはり部屋に迎えに行けばよかった。

よしっ。今から行くか!

そう思い、立ち上がった瞬間ダイニングルームの入り口に待ち侘びたシュウの姿が私の目に飛び込んできた。

声をかけてくれるシュウの元に急いで向かうと、シュウは『ごめんね』と申し訳なさそうに謝ってきた。

何を謝ることがある。
真っ赤な顔をして私を見つめるその姿を見れば分かる。
大方、私との口付けのことでも思い出して眠れなかったんだろう。
私のことを少なからず気にかけてくれている証拠ではないか。
そんな嬉しい理由なら、ほんの少しの遅れなど大したことではない。

シュウに朝の挨拶の声かけをし、さっとシュウの腰を抱いた。
すぐに顎に指を当て上に向かせると昨日堪能したシュウの唇を掠め取るようにちゅっと口付けをすると、シュウは私からの突然の口付けに驚きの表情を見せた。

ああ、その反応  実に初心うぶで可愛らしい。

今日から挨拶も唇だと教えてやると、シュウは顔を赤らめ恥ずかしそうに声を上げた。

ふふっ。昨夜あんなに深い口付けを交わした仲だというのに、そんなに顔を真っ赤にして……そんな反応をされるとつい揶揄いたくなるな。

昨晩のような深い口付けは、2人だけの時にと耳元で囁いてやると、すでに赤い顔をさらに赤て私を見つめた。

本当ならいつだって深い口づけをしていたい。
しかし、あんな可愛いシュウの姿を誰にも見せる気はないのは本心だ。
あれは私だけの前でのみ見せてくれればいい。

恥ずかしさのあまり、その場で立ち尽くしてしまったシュウの腰を抱き、席へと座らせた。
そんな様子をマクベスは『あまり純心なシュウさまをお揶揄いなさいませんように』と目で注意してくるが仕方ないだろう、シュウが可愛すぎるのだから。



「今日の朝食は特別メニューでございますよ」

マクベスの物言いがシュウに対してだけ、かなり甘くなっている。
あんな笑顔を見せながら話すようなことは今までしなかったのに……。
シュウの存在は私だけでなく屋敷の者たちも良い方向に変えてしまうようだな。

シュウはいつものようにマクベスにも挨拶と料理のお礼を言いかけて、目の前のさらに乗っているパンケーキを見て喜びの声を上げた。

ああ、シュウの目が輝いている。
どうやら、シュウの話したものと合っていたようだ。

ローリー、よくやった!
あとで、褒美をやることにしよう。


「フレッド、これ……」

目を丸くして驚くシュウに、シュウが食べてみたいと言っていたからローリーに相談し作ってもらったことを話すとシュウは嬉しそうに紅茶をひと口飲んでから、ゆっくりとパンケーキにナイフを入れた。
やはり、シュウのフォークとナイフの使い方は綺麗だな。見るたびに感心してしまう。

シュウの小さな口には少し大きそうなサイズのパンケーキが口の中に入っていく。
ああ、食べる姿もなんて美しいんだ。
唇に蜂蜜がついて、なんとなく艶めかしい。
私の舌で綺麗に拭ってやりたい。

「美味しい!」

私がシュウが美味しそうに食べている姿に発情しているとは露ほどにも思っていないのだろう。
幸せそうな顔を私に見せてくれる。

パンケーキが美味しくて幸せだと言ってくれるシュウに、私はシュウの願いならなんでも叶えてあげたいのだと心からの気持ちをシュウに伝えると、シュウは急に席を立ち私に抱きついてきてくれた。

ああ、朝からシュウの食べている姿にいやらしい想像をしてしまうような私に無邪気に抱きついてくるなんて……。

「ありがとう……。夢が叶っちゃった」

そうか。シュウの夢が叶ったか……。
ならば、私もシュウに夢を叶えてもらおうか。

不思議そうに見つめてくるシュウに、お礼の代わりに欲しいものがあるのだがと告げるとシュウは自分があげられるものならなんでもくれると言ってくれた。

お金はないけど……というシュウだが、金や物など何の価値もない。
私が欲しいものは…… 

「シュウからの口付けが欲しい」

ただそれだけだ。

『どこに?』と愚問を投げかけてくるシュウ。

だが、それはもちろん、唇だ。
そして、それはシュウからしてきてくれることに意義があるのだ。

私の言葉にシュウは恥ずかしそうに辺りを見回した。
ああ、そうだな。
せっかくのシュウからの口付けをみんなに見せるのはもったいない。
味わうのは私だけでいい。

「お前たち、下がれ」

そう言うと、マクベスは意味ありげな顔をしつつも、全員速やかに部屋を出て行った。
これでこの部屋には私たちだけだ。

これでいいだろう? とシュウを膝の上に乗せると、シュウは私の胸元に手を置いて、上着をぎゅっと掴み顔を近づけて口付けをしてくれた。

ああ、なんて可愛いんだ。
私の上着を掴むその手すら愛おしい。


何の技術もない、ただ唇が重なり合っただけの子どものような口付けなのに、シュウからの口付けというだけでどんどん興奮が増してくる。

シュウが唇を離そうとしているのに気づき、すぐに頭を押さえて離れないようにした。
せっかくのシュウからの口付けをこんなに早く終わりにしたくない。

シュウの隙をついて、舌をシュウの口内に挿し入れ、舌先を舐めたり吸い付いたりしていると、シュウも私の舌に吸い付いて絡めてくる。

シュウも私との口付けを楽しんでくれている、そう思うだけで胸が高鳴った。

シュウが突然私の首に手を回してきた。
隙間がほとんどなくなるほどに密着して、抱き合っているともうどちらの心臓の音なのかわからなくなってくる。

シュウ、私の命はもうお前のものだ。

口づけに慣れていないシュウにはそろそろ苦しかろうと長い長い口付けを離そうとしたら、シュウが寂しそうな目で私の唇をみてきたのが嬉しくて、離れた唇をもう一度啄んだ。

口付けで火照った顔で『良かった?』と聞いてくる。
良いに決まっているだろう。
もう、シュウ以外とは口付けなどできそうにない。

「ああ、シュウとの口付けは、なによりも幸せになれるな。くせになりそうだ」

「ふふっ。ぼくも」

まさか、『ぼくも』と言ってくれるとは……。

それならば、毎回してもらうことにしよう。

「じゃあ、これから毎回だな」

もちろん、みんなの前では唇を合わせるだけの子どもの口付けだけだが……。

      ◇

今日はフルーツ畑の視察だ。
このところ天候が安定しているから、順調に育っていると報告があった。
フルーツはシュウの好物だから、初めての外出はここに一緒に視察に行くのもいいかもしれない。

朝からあんな口付けを交わしたせいか、どうにも離れがたく今日はシュウに『見送ってくれないか?』と頼んでみると、喜んでついてきてくれた。

シュウと玄関に行くとすでにデュランが待っている。
遅いと目で訴えられてはいるが、シュウとの時間を無くすわけにはいかないのだから仕方ないだろう。

シュウにお昼に矢シクへ戻るから一緒に取ろうというと楽しみにしてると言ってはくれたが、先ほど言った挨拶をしてくれないだろうか……。

シュウを見つめて目で訴えてみるがどうにも通じていないようだ。

なに? という表情でシュウは小首を傾げた。

その上目遣い! ゔぅっ、可愛すぎるだろう。


『うっ、ぐぅぅ』

シュウの可愛い顔に悶絶していると、私の後ろから同じようにやられてしまった声が聞こえた。
私だけ見られるはずのシュウの可愛い顔が見られてしまった。
みるみるうちに私の中に怒りが湧き上がってくる。

『デュラン!
見たのか? 私のシュウの可愛い顔を!
今すぐ忘れろ! 今すぐに!』

シュウに気付かれぬように小声でそう言うと、私があまりにも怖かったのかデュランが震え上がっていた。

すまない、どうもシュウのことに関しては受け流すことができないのだ。



シュウは私が何を待っているのかわからない様子だったから、『これから毎日だと言ったはずだ』と教えてやると、シュウは『ふぅーーっ』と大きく深呼吸をして、シュウが『ちょっと屈んで』と言ってきた。

まぁ、シュウの身長なら私が屈んでやらなければ無理か。ふふっ、本当に可愛らしいな。

私が小さく屈んでやると、たたっと駆け寄ってきて私の両肩に手を置いて思いっきり背伸びをして、口付けをしてくれた。

ほんの一瞬だったけれど、みんなの前で受けるシュウからの口付けは幸せとしか言いようがなかった。

その上、シュウに『お仕事頑張って!』と声をかけられ、私は天にも昇るような心地だった。

もうこれは伴侶そのものだ。
ああ、シュウとの幸せな結婚生活が始まったんだ。
そんな想像が頭を駆け巡る。

これから出かけるときは毎日送り出してくれと頼み、私は意気揚々と馬車に乗り込んだ。


「旦那さま。お顔がにやけています。視察までにいつものお顔にお戻しくださいね」

「デュラン……さっきのを聞いただろう。シュウが『お仕事頑張って! いってらっしゃい』と言ったのを。あんなことを言われて、嬉しくないわけがないだろう」

「はいはい。お気持ちはわかりますが、そんなお顔では支障をきたしますので」

デュラン、失礼だな。
まぁ、でもたしかにニヤケすぎか……。
しっかりしないとシュウに笑われてしまうな。



今の時期は、苺か。
うん、今年もよく出来ている。

そういえば、シュウも苺を美味しそうに食べていたな。
ああ、早くシュウの顔が見たい……。

いつもは静かな視察の時間が何やらざわざわと騒々しい。

「どうした? なにか問題でもあったか?」

「い、いえ、あの……サ、サヴァンスタック公爵さま、どこかお加減でも……お悪いのでは?」

私がこんなにしまりのない顔をしているのが珍しいんだろう。
それでこんなに騒々しいのか。

うーん、領民たちにも私が伴侶を得たことは伝えておいた方がいいな。
その方が、広く伝わるだろう。

「いや、心配かけて申し訳ない。
実はな……この度伴侶を得ることになったのだ。
まだ慣れていない故、今回の視察には連れて来なんだが、屋敷にひとり残しているのがどうも気になって……」

「ええっ? こ、公爵さまに御伴侶さまが??
そ、それはおめでとうございます。
是非次回は御伴侶さまもご一緒にお越しくださいませ」

これは相当驚いているな。
まぁ、私のような見目の悪い男に伴侶など来るわけないと思っていただろうしな。

「ああ、ありがとう。そのように伝えておこう」

その後もいくつかの畑を回り、今年も十分な収穫量を得られそうとの見通しがたち、安心した。

ただひとつの心配を残して……。

「もうそろそろ、フルーツが取れなくなる時期がくるな」

「はい。とりあえずは今の収穫物で生活はできますが、この時期をどう乗り越えていくかは考えなければいけませんね。今年のように豊作であれば、取れない時期を補うことはできますが、もしまた以前のような干ばつなどの異常気象が来てしまった場合にはすぐに生活へのダメージが来ます」

「そうだな……。フルーツの取れない時期がなくなるようにできればいいんだが。そこが課題だな」

そろそろ、昼食時間か……。
シュウが私の帰宅を待っているだろうな。


「よし。デュラン、屋敷へ戻るぞ」

「はい。かしこまりました」


デュランと共に屋敷へと戻ると、何やら屋敷内が騒々しい。

私が帰宅したと言うのに、誰の出迎えもない。
デュランも不思議そうな顔をしている。

「マクベス! マクベス! 」

玄関でマクベスを呼ぶと、マクベスは屋敷の奥から慌てて玄関へとやってきた。

「旦那さま。お帰りに気づきもせず申し訳ございません」

「それは良いが、何かあったのか?」

そう言うとマクベスは顔を曇らせ、言いにくそうに口を開いた。

「実は……シュウさまのお姿がかれこれもう1時間以上も見えないのでございます」

「なんだと!!! どう言うことだ!」

マクベスが言うには、私を玄関で見送った後、図書室へ行くと言うシュウを送って、しばらく経ってから図書室に見に行ったが、屋敷の中を散策してくるという書き置きを残していなくなっていたそうだ。
慌てて、使用人総出で屋敷内をくまなく捜索しているものの、まだ見つからないとのことだった。

私はマクベスの話を聞きながら、身を裂かれるような想いだった。

シュウがいない?

さっき、あんなに幸せな見送りを受けたばかりだと言うのに……?

シュウが私の元から去ってしまったというのか……?

そんなこと、信じられるわけがないだろう。

「そ、外にはでていないのだな?」

「はい。それは間違いございません」

「ならば、どこかで迷っているのかもしれん。もう一度屋敷中をくまなく探すんだ!」

私の言葉にマクベスは使用人たちにもう一度念入りに探すよう指示を出し、マクベスもまたシュウを探しに向かった。

私も早く探しに行かなければ……そう思っても足が震えていうことを聞かない。

シュウが、シュウが……私の元からいなくなってしまったら、私は一体どうしたら良いのだ……。
もうシュウなしでは1分たりとも生きていけないというのに。

私は重い足を引き摺りながら、シュウが最後に居たという図書室へと向かった。

シュウが座っていた席には、シュウが残していった書き置きがそのままに置かれていた。

シュウ……。

シュウらしい綺麗な文字。
たしかにここにシュウはいたはずなのに……。

シュウ、どこにいるのだ。

あの日突然中庭に現れたシュウ。
あの時と同じように突然帰ってしまったのだとしたら……あの愛らしい姿をもう見ることはできなくなってしまうのか……?

私の元から永遠にいなくなってしまうのか?

いやだ、そんなことは考えたくもない。

ああ、無事でいてくれ。
そして、早く私の元に帰ってきてくれ。




そんな願いも裏腹に、全員総出で屋敷内をくまなく探したものの、それから2時間以上経っても、まだシュウは見つからなかった。

はぁ……どこに行ったんだ、シュウ。
早くその顔を私に見せてくれ。

私はシュウを失ってしまったのかもしれないという恐怖に身体の震えが止まらず、探しに入ったシュウの部屋の中央に座り込んだまま動けなくなってしまった。

そこにマクベスが走って部屋に入ってきた。

「だ、旦那さま!!」

「見つかったのか!?」

その場に立ち上がって入口を見ると、マクベスがハウスメイドのルイーズを連れて立っていた。

「いえ、申し訳ございません。ただ、ルイーズが思い出したことがあると申しておりまして、こちらへ連れて参りました。さぁ、ルイーズ、先程の話を旦那さまに申し上げなさい」

「は、はい。あ、あの……旦那さま」

「ああ、なにがあった?」

ハウスメイドと話す機会などほとんどないのだから、怯えられても仕方ないのだが、シュウを探す何かの手がかりなら早く聞きたい。

逸る気持ちを何とか抑えながらルイーズの言葉を待つ。

「あ、あのわたし、午前中に【緋色の間】をお掃除していたんですけど、隣のギャラリーから何か声がしたような気がして、気になってお掃除を終えてからギャラリーを覗いて見たんですが……何もなくて。
だから、声が聞こえたのは勘違いだと思っていたんです。でも、シュウさまがいらっしゃらないって聞いて……もしかしたらあの声はシュウさまだったのかもって……」

ギャラリー?
ああ、そうだ、図書室とギャラリーは同じ通路にある。
もしかしたら、シュウはギャラリーを見に行ったのでは?

あそこにはあれが!!

シュウはそこにいるのかもしれない!

「わかった」

私はルイーズの言葉を聞くや否や、急いでシュウの部屋を飛び出しギャラリーへと向かった。

後ろからついてきたマクベスに、他のところを探すように申し付け、ひとりでギャラリーに入るとカチャリと部屋の鍵を閉めた。


実はここには地下室への入り口がある。
マクベスは地下室の存在を知っているが、その入り口がどこにあるかは知らない。
そう、この屋敷の中でこの入り口を知っているのは私だけだ。

だから、シュウがその入り口を知っていたとは考えにくいが、もしかしたら何かのきっかけで見つけてしまったということは十分考えられる。

なぜそのことに気づかなかったのだ!
自分をそう責めながら、私は床にある地下室への入り口にしゃがみ込んだ。

どうか……ここにいてくれ。

祈るような思いで開閉装置に手を置いた。

パッと地下室への扉が開くと、真っ暗なはずの地下室に煌々と電気が灯っていた。

やはり、シュウは絶対にこの中にいる!

私は急いで階段を下り、地下室へと走った。

そんなに広い地下室でもないのに、今日はとても遠く感じた。

やっと辿り着いた地下室の中央に敷かれた柔らかな絨毯の上にうっすらと何かが倒れているのが見える。

シュウだ!!!

「シュウ! シュウ!」

まさか……。

私は慌てて声を掛けシュウの元に近寄ると、倒れているシュウの心臓に手を当てた。
良かった、ちゃんと動いている。

眠っているのだろうか?

見たところなんの傷もなく、どうやら無事らしい。
私はほっとして全身の力が抜けてしまうような感覚に陥ったが、腕の中に抱くシュウを離すことはしなかった。

ああ、神よ。
私の元にシュウを返してくれてありがとうございます。

ああ、シュウ。シュウ。
本当に良かった!
早く目覚めて私の名前を呼んでくれ!

「シュウ! シュウ! 大丈夫か?」

私はもう一度シュウの名前を叫びながら、目を覚ますのを待った。
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