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ちょうどいい理由

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そう思っていたのに、厨房に戻りスマホを見ると松川くんと安慶名さんの二人からメッセージが入っていた。

もしかして、今の映像を見て忘れないうちに回避方法を教えてくれようとしているのかもしれない。

さすが友人だな。

喜びを隠し切れずにメッセージアプリを開くと、

<余計なことは考えないほうがいいですよ。流れに任せて寛大な心を持っていた方が株が上がります!>

<南條さんの行動を回避する方法はありません。素直に受けておくのが一番です>

と松川くん、安慶名さんからの諦めろと言わんばかりのメッセージが届いていた。

おそらく、名嘉村くんと砂川さんも藤乃くんと同じように抱きつかれた経験があるのだろう。
ここは私も諦めて一度くらいは好きにさせておくべきか……。

今の平松くんとの状態ならさすがに許し難いが、平松くんと深い仲になれば、南條くんに抱きしめられることくらい寛大に受け止められるかもしれないな

そうだな。
裸で抱き合うわけでもないし、ここは寛大に……。

と思いつつ、

――わぁー、君が平松くんだね! 航くんからいろいろと聞いてるよ! 可愛いっ!!

そういいながら南條くんが抱きつくのを想像するとやはり嫉妬してしまう自分がいる。

だめだな。

きっと松川くんと安慶名さんはスルーできるようになっているんだろう。
そうなるには数年かかるかもしれないな。私も、そして倉橋くんも。

ようやく最愛に出会えたばかりなのだから寛大になれなくても仕方がない。
そうだ、開き直ってもいいか。

大人げないと言われても、抱きつかれそうになったら私の腕に抱き締めようか。
いや、ずっと離れずにいれば大丈夫か。

そんなことを考えていると、もうすっかり料理を食べ尽くしている部屋の様子が見えた。

急いで幾つかの料理と泡盛の追加を持っていくと、三人の飲み会は楽しそうに進んでいた。
砂川さんの顔がほんのりと赤くなっているが、これで酔っ払っていないというのだから本当に不思議なものだ。

初めて倉橋くんに連れられてうちの店で呑んだ時には、真っ赤な顔をして泡盛を呑んでいたから心配になったものの、顔が赤くなるだけで一切酔っ払っていないと言われた時はこんな体質があるのかと驚いてしまったのを覚えている。

平松くんなら砂川さんの三分の一の量を飲めば、記憶を失ってしまうくらい酔ってしまうだろう。
砂川さんも名嘉村くんもそれがわかっているから、平松くんの泡盛はかなり薄く作ってくれているから安心だ。

さて、そろそろかな。

平松くんの食べ具合を見て、黒糖ゼリーを持っていくと嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
ああ、もう可愛くて仕方がない。

仲間さんたちは三人の飲み会に私が集中できるようにと言って泡盛と料理を一通り楽しんでから帰って行ったから、今、店にいるのは私と平松くんたちだけだ。

黒糖ゼリーを美味しそうに頬張る平松くんを眺めながら、私も料理と泡盛を楽しんでいると、お腹いっぱいになって壁にもたれかかっていた平松くんが慌てて起き上がった途端、膝が当たってしまったのかテーブルの上の泡盛のグラスが倒れてしまった。

「ったた! わぁっ、すみませんっ!!」

焦った様子でテーブルを片付けようとしているが、結構な量が溢れたから平松くんのズボンが濡れているようだ。

私は急いで平松くんたちの部屋にタオルを持って駆けつけた。

「平松くん、大丈夫?」

声をかけ部屋に入りタオルを渡すと、平松くんは私がきたことに驚いていた。
さすがにこの部屋の映像を見ていたからとはいえずに、グラスが倒れる音が聞こえたから来たと誤魔化したが、素直な平松くんはすぐに納得してくれて良かった。

それどころかグラスを割ってしまったかもしれないと謝っていたが、グラスなどどうでもいい。

「大丈夫、そんなこと気にしなくていいよ。それより濡れたままだと風邪ひくから上でお風呂に入って行って」

今日はどうやってうちに泊めようかと思っていたからちょうどいい理由ができたことに喜びながら誘うと、平松くんは遠慮していたが、

「平松くん。濡れたままで夜風に当たると風邪を引いてしまうものです。ここは甘えたほうがいいですよ。ほら、藤乃くんが来るのに風邪ひいて会えなくなったら困るでしょう?」

と砂川さんが援護射撃してくれて、平松くんの警戒が緩んできた。

「お風呂いただいてもいいんですか?」

「ふふっ。平松くんならいつでも大丈夫だよ。着替えもあるから入って行って」

「なんだ、着替えもあるなら気にしなくていいじゃない。平松くん、せっかく八尋さんもこう言ってくれてるしお風呂借りたらいいよ」

名嘉村くんの口添えのおかげもあって、平松くんはうちでお風呂に入ってくれることになった。
風呂上がりの状態で帰すわけにもいかないし、もう夜も遅いし、確実に今日も泊まりコースだな。

「じゃあ、私たちもそろそろ帰りますね。八尋さん、平松くんをお願いしますね」

砂川さんはもう何もかもわかってくれているからありがたい。
今日の会計も倉橋くん持ちだからと平松くんを安心させてすぐに二人で帰っていった。

夜も遅いが、あの二人なら大丈夫だろう。

「じゃあ、行こうか」

泡盛を飲んでほんのりと頬を染めた平松くんを連れて自宅に戻った。
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