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倉橋くんからの電話

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さて、平松くんはまだ風呂に入っているだろうか?
スマホで映像をチェックしてみると、脱衣所でパジャマを持ったまま下着姿で佇んでいるのが見える。

もう出てきたのか。
と言うことは今日はアレはしていないのだな。

まぁ平松くんが毎日するとは思っていなかったから想定内だが、それにしてもパジャマを抱きしめて何をしているのだろう?
もしやまた私の匂いを?
そんなことをされたら興奮してしまうな。

スマホを切り、急いで自宅に戻ると、タオルで髪を拭きながら脱衣所から出てくる平松くんと遭遇したが、タオルで視界が遮られているのか私の姿は見えていないようだ。

「ああーもうっ、何が正しいのかわからないな」

頭を拭きながら突然そんなことを言い始めたのに驚いてつい何かあったのかと声をかけると、まさか私がもう帰ってきていると思っていなかったのか、タオルの隙間から私の姿を見つけるとあからさまに狼狽えた。

どうやらまだ店にいると思っていたようだ。

「明日食材が届く時間を確認してきただけだから、すぐに戻ってきたよ」

と理由を告げて、何かあるならなんでも言ってくれていいよと言ったのだが、なんでもないですと言われてしまった。

ただの独り言にしては気になるが、ここで追及するのはやめておいた方がいいだろうと判断し、風呂に入ることにした。

平松くんの残り香をたっぷりと堪能しながら、今日の風呂映像を見てたっぷりと欲望を発散する。
それだけでも大量だったが、今日の可愛い平松くんの姿を思い出すだけでまた熱が篭ってくる。

結局数回欲望の蜜を出して、たっぷりと時間をかけて綺麗に欲を洗い流し風呂を出てリビングに向かうと、平松くんがソファーにうつ伏せに倒れ込んでいるのが見えた。

もう眠たくなったのか、それともさっきのことで何か?
心配になって

「平松くん、眠いならベッドに連れて行こうか?」

と声をかけると、平松くんは子猫のようにソファーから飛び上がって

「すみません、違うんです!」

と謝り始めた。
その挙動不審な様子がなんとも気になって何かあったかと尋ねると、

「すみません。まずは謝らないと……」

と言い出し、神妙な顔つきで言葉を続けた。

「あの、八尋さんがお風呂に入っている間にスマホが鳴ってて、八尋さんのところに届けようか悩んでたら、相手が社長だったので、緊急かと思って電話とっちゃったんです」

その言葉にスッと血の気が引いた。

もしかして、倉橋くんに何か言われたのか?
私が平松くんに気があるとか、そのような類のことを聞かされたのではないか?

もしそうだとしたら、さっき、平松くんは

――すみません、違うんです

と私を見て謝った。

私のことを好きでいてくれていると思ったが、あれはまさか<そんなつもりじゃなかった>と言う謝罪なのか?
いや、そんなわけない。

じゃあ、一体?

必死に冷静を装いながら、

「何か言われた?」

と尋ねると、

「えっ? いえ、あの時計のお礼を、言っただけで……」

と言う言葉が返ってきた。
その言葉に嘘はなさそうだ。

なんだ、私の早とちりだったか。
考えてみれば倉橋くんが勝手にそんなことを伝えるわけがないな。
どうも平松くんのことに関しては冷静でいられなくなってしまう。

そんな私の様子に、

「あの、電話……電話、勝手にとっちゃってすみません……」

と平松くんはまた謝ってきた。

なるほど……さっきのすみませんも、この謝罪だったかと胸を撫で下ろし、平松くんなら気にしないよと告げると、

「でも、ちょっと困ってるように見えたので……」

と言われてしまった。

ふふっ。普段鈍感なのに、こんなところは鋭いな。
いや、それほど私の表情がバレバレだったのかもしれない。

砂川さんの名前を出し、平松くんが倉橋くんを怖がっていると聞いたから心配しただけだと言うと、

「社長、すごく優しかったです。つい、あの時怖かったって溢してしまったら、砂川さんにも怒られたって教えてくれて……すごく話しやすかったです」

と笑顔で言われてしまった。

少し倉橋くんに嫉妬してしまうな。
人間というのは最初の印象があまりにも悪いと、少し良くなっただけでかなり好意的に感じてしまうものだ。

まぁ、倉橋くんに好意を持ったところで、最愛のいる倉橋くんがよそに目を向けることはないから安心だが、念のために

「多分あの時は平松くんを恋敵だと思ってたんじゃないかな。今は藤乃くんに愛されてる自信がついたから優しくなったんだよ」

と二人がラブラブだという話を匂わせてみた。

それに対して笑顔が返ってきたから大丈夫だろう。

「そういえば、倉橋くん……他に何か言ってた?」

何か用事があってかけてきたはずだと思い、尋ねると

「あ、えっと……あとでメッセージを送るって伝えて欲しいって仰ってました」

と言いながら、手に持っていた私のスマホを渡してくれた。

ちょうどそのタイミングでスマホにメッセージが入り、目を通して思わず笑みが溢れた。
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