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平松くんのために

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処理を済ませて、顔を洗い、洗面所を出ても平松くんが寝室から出てくる気配がない。
私はぐっすり寝たが、もしかしたらあまり眠れなくて二度寝でもしているのかもしれない。
そっと扉を開け、様子を窺うと、ベッドに寝転んで

「うわーっ、どうしようっ!!」

と言いながらバタバタと悶えている平松くんの姿があった。
それがあまりにも可愛すぎて、さっき鎮めたばかりなのにまた昂ってしまう。
勿体無いと思いつつも、仕方なく扉をノックすると、

「は、はいっ」

と焦った声が聞こえた。

ああ、もう本当にやることなすこと可愛すぎる。

必死に冷静を装って、声をかけるけれど平松くんはほんのりと頬を染めたまま、すぐに準備すると言って洗面所に駆けて行った。
その間に私も着替えを済ませて、朝食の支度を始めた。

今朝は平松くんなら喜んでくれるだろう、和朝食。
まずはご飯を炊き、昨日夕食を作りながら同時進行で作って、冷蔵庫で保存しておいた出汁を使って長ネギと豆腐の味噌汁を作り、冷凍しておいた銀鱈の味醂漬けを取り出して、じっくりと焼いていく。

さっと漬け込んだ浅漬けと卵焼きを添えて、ついでにお弁当も作っておいた。
あとはご飯をよそうだけになった頃、平松くんがダイニングにやってきた。

全ての料理をトレイに乗せて、平松くんの前に並べると銀鱈の味醂漬けを見て、

「あっ、これ……」

と反応した。
これが何かを知っている口ぶりに尋ねてみると、どうやら名嘉村くんの家で食べたことがあったらしい。
そういえば、彼は私と同じように倉橋くんから教えられた店から購入しているんだったな。

初めて食べさせてあげるのが私で無かったことには少し嫉妬したが、まぁ一つくらいは構わない。
これからたっぷりと私の料理を食べてもらうのだから。

美味しそうに食べてくれる平松くんを見ながら、私も久々に満足する朝食を食べ、平松くんが会社に行く着替えを用意した。

もちろん、平松くんのサイズのシャツがないわけじゃない。
だが、今日はしっかりと牽制するためにも私の服を着させて仕事に行かせるのもいいだろう。

そんな策略で平松くんのスーツに私のシャツとネクタイを混ぜて着替えておいでと平松くんを寝室に送り込んだが、着替えて気づくだろうか?
いや、いくら平松くんでも流石に気づくかもしれないと思ったが、平松くんは着替えて寝室から出てきても何も気にする様子が無かった。

これは……気づいていて素知らぬふりをしているのか?
いや、そんな器用な真似ができるわけがないか。
なら、これは……気づいていない?

もしかしたら、何か考え事でもしていたのかもしれないとあたりをつけたが何も言わずにそのままにしておいた。

お弁当を持たせて、ハブが出るからと行って会社まで送り、

「帰り迎えに来るからね」

と出勤してくる他の社員に聞こえるように、わざと聞こえるように告げて店に帰った。

ふふっ。名嘉村くんと砂川さんなら平松くんのあの服の意味にはすぐに気づくだろう。
彼らは平松くんに教えるだろうか?

夕方迎えに行った時が楽しみだな。


自宅に戻り、まずは昨日の平松くんのお宝映像が保存されていることを確認して安心していると、スマホが突然鳴り始めた。
一瞬、私の良からぬ行動を平松くんに気づかれたのかと焦ったが、画面表示を見て一瞬で冷静になった。

ーはい。八尋です。

ー真壁です。今、お時間よろしいですか?

ーはい。例の件ですよね?

ーそうです。とりあえずは久代さんへのストーカー行為で逮捕しましたが、家宅捜索をしたところ、痴漢行為の証拠映像が山のように出てきましてすぐに押収しました。その中に平松友貴也さんと思われる人物が大量に映っておりまして、日付を確認したところ、一番古いもので一年半前でした。

ーそんなに?

ーはい。ただ幸いと言っていいのかはわかりませんが、他の被害者の方たちはハサミやカッターナイフで服を切られて服の中まで撮影されているものもありましたが、平松さんに関しては服の上からのみのようでした。

ーそう、ですか……。

とはいえ、他の被害者に比べればまだマシだったというだけで痴漢されていたことに代わりはないから、それでよかったとは到底思えないが、犯人が捕まったことだけはよかったと言えるだろう。

ーそれで、そいつはどれくらいの罪になるんですか?

ー今のところは久代さんからの被害届があったものだけになりますので、平松さんが被害届を出していただければそれも併せて罪に問えます。どうされますか?

ー平松くんにはこのことを思い出させたくないですから、私が代わって告発します。成瀬弁護士か安慶名さんに代理人をお願いしようと思います。

ーわかりました、それでは私の方から二人に連絡を取ってみますね。

ー警察の立場から大丈夫ですか?

ーそういう時は友人としての立場に変えますから大丈夫です。今回は証拠もしっかりと映っていますからどちらに頼んでもすぐに解決すると思いますよ。

ーそうですか、助かります。また何かありましたらいつでも連絡ください。

ーはい。わかりました。

ーあ、それから久代さんの様子はいかがですか?

ーええ。ご心配には及びません。

ーそう、ですか……それならよかったです、それでは失礼します。

電話を切ったあと、しばらくスマホを見つめてしまったのは、久代さんの様子を尋ねた瞬間に少し空気が変わったのを感じたからだ。
何かあまり聞いてはいけないような、そんな気がしてすぐに電話を切ったが、何か牽制のようなものを感じた。
まるで私と久代さんの仲を疑っているような……いや、まさかな。

とりあえず気にしないでおこう。
それが良さそうだ。
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