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平松くんのいる場所は……

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咄嗟に寝たふりをして様子を伺っていると、

「あの、お風呂いただき――あっ!」

すぐに私が寝ていることに気づいたようだ。

そっと足音を立てないように近づいた彼は、私の顔が見える位置に腰を下ろした。
どのタイミングで起きようかと考えていると、

「寝顔……どんな向きでもかっこいいなんてずるいな」

とポツリと呟く声が聞こえる。

平松くんの本音が聞こえるのが嬉しくて目を開けるのが勿体無い。

「寝顔の写真……。やっぱり撮っちゃだめ、かな?」

ボソボソと聞こえる声は、きっと心の声が漏れているに違いない。
平松くん自身も声が出ていることには気づいていないかもしれないな。

「ごめんなさい、これで最後にするので……」

そう言ったかと思うと、スッと静かに立ち上がり、私のそばを離れていく気配がする。

写真を取るんじゃなかったのかと思っていると、少し離れた場所からカシャっとシャッターを切る音が聞こえる。

ふふっ。わざわざ私に聞こえないように離れたのか。
本当に可愛いことばっかりする子だな。

そっと薄目を開けて平松くんの様子を覗いてみると、スマホの画面を食い入るように見つめながら真剣な表情をしている。
てっきり喜んで見ていると思ったが……。

すると、平松くんは画面を見ながら、

「もし……藤乃くんが俺のことをどうしても許せないって言って、この島から出なきゃいけないことになっても、八尋さんの写真があったら生きていけそうな気がするな。でも……これがあるから大丈夫。これは俺のお守りだから」

と自分に言い聞かせるようにそんなことを言っていた。

この子はこんなにも藤乃くんへの行動を悔いていたのか……。
藤乃くんは全くそんなふうには思っていないだろうに。
自分から守ろうと思ってやってきただけに責任を感じていたのかもしれないな。

でも大丈夫。この島を出ないといけないなんてそんなこと、この私が絶対にさせないよ。
何よりこの島の人たちがそんなこと許さない。
もう平松くんは、私にとってはもちろん島の人たちにとっても愛すべき存在なのだから。

寝返りを打つ仕草で気づいたように目を開けると、飛び込んできたのは頬をほんのりと染めた可愛い平松くんの顔。

このまま抱きしめたい衝動に駆られながらも必死に抑えて、

「私も風呂に入ってくるから、先に寝ててもいいよ。あっ、ベッドでね。シーツは替えてあるから心配しないで」

と声をかけ、平松くんの返答も聞かずに急いで脱衣所に向かった。

そうすれば優しい平松くんのことだ、言われた通りにベッドで寝てくれているに決まっている。

風呂に入り、さっき欲望の蜜を出したばかりの身体を清めながらも、先ほどここで平松くんが可愛い姿を見せていたと思うと途端に滾ってくる。

何度か欲望を処理して、綺麗に洗ってからリビングに向かうと平松くんの姿はなかった。

ふふっ。やっぱりもう寝室に行ってるな。
思った通りの行動に嬉しくなりながら、寝室に行くと、

「や、ひろさん……いぃ、におい……っ」

と嬉しそうに私の掛け布団にしっかりと包まって寝ている平松くんに出迎えられた。

ああ、本当に全身で私を好きだと言ってくれているのにな。
あの枷が平松くんの心を閉じ込めているんだろうな。

そっとベッドに身体を滑り込ませて、華奢な平松くんを腕の中に抱きしめると、平松くんは私の胸元に顔を擦り寄せて幸せそうな笑顔を見せた。

「大丈夫、誰も君をこの島から追い出したりしないよ。君のいる場所はここなんだから……。だから心配しないでぐっすりおやすみ」

背中を優しく撫でながら耳元でそっと囁くと、平松くんはすーっと深い眠りに落ちていった。

可愛い平松くんを腕に抱きしめていると、私も眠りに誘われる。
イリゼホテルのあのベッドの寝心地は最高だったが、やはり平松くんと一緒の方が熟睡できるな。


すっきりとした気分で目覚めた私の調子は最高によかった。
やはり朝起きて平松くんが腕の中にいる。
それだけで私の気分は最高なのだ。

んっ?
平松くんも起きたか?

どんな行動を起こすか見ていたくてそっと様子を窺っていると、私に抱きしめられていることに気づいた平松くんが、

「えっ、どうなってるの?」

と驚きつつも、離れようとはせずさらに私の胸元に擦り寄ってきた。

くぅ――っ!!!
朝からこんな可愛いことをされたら流石に持たないな。

爆発しそうなほど昂っているが、この幸せな時間と天秤にかけられない。
自分が我慢すればいい。

必死に制御しながら、平松くんを強く抱きしめる。
寝汗だろうか、いつもより少し濃い平松くんの香りを堪能してから目を開けた。

「おはよう、平松くん」

必死に冷静を装いながら挨拶をすると平松くんがきょとんとしているのが見える。

この状況に驚かないのかと尋ねてきたが、驚くわけがない。
だって私がしたんだから。

けれど、まだそれは言えない。

とりあえずリラックスして寝るために平松くんを抱き枕にさせてもらったと話すと、素直な平松くんはすぐに納得したばかりか、

「あの、いつもお世話になってるんで、そんなので役に立てるならいつでも言ってください!」

とまで言ってくれた。

ああ、もう本当に可愛すぎる。
でも私以外にはそんな無防備なことは言わせないようにこれからしっかりと教えておかないといけないな。

「じゃあ、朝食にしようか。先に洗面所使わせてもらうから、平松くんは少しのんびりしてて」

もうすでに昂りが限界を超えている私は、平松くんにそんな言葉をかけて急いで寝室を出てトイレに向かった。
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