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一緒に作ろう!

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夕食に何か食べたいものがあるかと尋ねると、

「八尋さんが作ってくださるならなんでも――あっ、あの、少しで大丈夫です」

と言い出した。

少しと言う言葉が気になったが、

――俺がいたら食事作ったりとか仕事を増やしちゃうかな

と言っていたから、私を疲れさせるのではないかと心配してくれているのだろう。

ふふっ。
それで少し、か。
可愛すぎる。

「じゃあ、一緒に作ろうか。それなら大変じゃなくなるよ」

「――っ、はい! 俺、ご飯も炊けるようになったんで他のことも勉強したいって思ってたんです! いつかはあのローストビーフが作れるようになるのが夢です」

一緒に食事を作ろうと言う誘いに、まるで飼い犬が主人に尻尾を振るように、目を輝かせてそんなことを言ってくれる。
計算でもなく、本心でこんなことを言ってくれるのだから、可愛すぎて困るな。

彼の手を取ってキッチンに連れていき、いつか一緒に料理を作ることもあるかもしれないと思って準備しておいたお揃いのエプロン、もちろん平松くんサイズのものを渡し、後ろでリボンを結んであげた。
色違いのエプロンをさっと身につけていると、平松くんの視線を感じる。

どうやら見惚れてくれているらしい視線ににやけそうになるが、平松くんにはいつでもかっこいいと思われたい。
必死に緩んだ表情を見せないようにしないとな。

平松くんに食べさせようと思っていた最高級のステーキ肉を取り出し、常温においておく。
今日の夕食のメニューはステーキピラフとポトフだ。
これならすぐにでも作れる。

手伝わせて! と言わんばかりに私の動きに注目してくれている平松くんには、この前砂川さんから教わったばかりだという炊飯の手伝いをしてもらうことにした。

平松くんの家にある炊飯器と違って、うちでは土鍋で炊いているから火傷すると危ないし、最後まではさせてやれないが、どちらの場合でもご飯を研ぐのは必要なことだ。

白米をザルに入れて渡すと、丁寧に米を研いでくれた。

その手つきはかなりいい。
きっと今まで料理する機会がなかっただけで、しっかりと教えればすぐに上手くなりそうだ。

まぁ、たとえ料理が苦手でも構わない。
私がいつだって平松くんのために料理を作るのだから。

米を浸水させている間に、ポトフを作る。
店で出すなら大きな鍋でじっくりと煮込むのもいいが、今日は二人だけのプライベートなご飯。
圧力鍋でさっと作るとしよう。

ソーセージかベーコンかどちらを入れようかと尋ねると、彼は悩んでベーコンを選択した。
出汁の旨みが出るベーコンの入ったポトフは私の好きなものでもある。
好みが同じなことに少し嬉しくなりながら、冷蔵庫からベーコンを取り出すと、

「ベーコンって、これですか?」

と驚いた様子の声が聞こえる。

平松くんの目の前にあるのは、大きな塊のベーコン。
ああ、そうか。
料理をしないなら、あまりみたことはないかもしれない大きさだ。

スーパーでは使いやすいように薄切りで売られていると教えると、素直に感心してくれる。
その反応が可愛くてたまらないんだ。

少し分厚めにカットして、必要な野菜も切っていく。

その横で何か手伝いたいと尻尾を振っている平松くんに気づいて、玉ねぎの皮を剥くように頼むと目をキラキラ輝かせてむき始めた。
本当に可愛い。

嬉しそうに玉ねぎをむいていた平松くんが突然、

「あれ?」

と不思議そうな声をあげる。
何かあったかと声をかけると、目が痛くならないと不思議そうに尋ねてくる。

ああ、そういうことか。

常温で置きっぱなしになっていた玉ねぎは硫化アリルと言う物質のせいで目が痛くなりやすい。
だから冷やすと目が痛くならないと教えると、尊敬の眼差しで見つめてくれる。
そんなに大したことではないが、平松くんにそう思ってもらえることがたまらなく嬉しい。

彼が剥いてくれた玉ねぎを食べやすい大きさにカットして、にんじんを手に取ると、またもや隣で尻尾を振っているのが見える。

ふふっ。手伝いたくてたまらないみたいだな。本当に可愛い。
だが、慣れないと怪我をしてしまうかもしれない。
心配で平松くんにはしっかりと手袋させた上でピーラーでにんじんの皮を剥いてもらった。

彼が剥いてくれたにんじんもカットして圧力鍋に入れて、コンソメなど必要なものを入れて、最後に平松くんにスイッチを押してもらった。

これですぐに完成だ。

浸水させておいた米を土鍋で炊いていく。
それを隣で興味深そうにみてくれている平松くんに炊き方を教えながら、あっという間にご飯が炊き上がった。

蒸らし時間を終えて、土鍋の蓋を開けるといつも以上にツヤツヤに見える。
きっと平松くんが米を研いでくれたからだろう。

溶かしたバターと一緒に炒めて、皿に盛り付けると、ものすごく感心してくれる。
料理人としてはこんなにも簡単なことで褒められるのも複雑だが、平松くんが心からすごいと思ってくれているのがわかるからちっともいやな気はしない。
むしろ光栄だ。

常温に戻しておいた肉に塩胡椒を振ってもらい、最高にいい状態に焼き上げる。
平松くんはこれまでの食事でミディアムレアが好きだと言うのはわかっていたから、その焼き加減で焼いてさっきのバターライスの上に乗せ、残った肉汁と調味料を合わせてステーキソースを作りかけると、

「わぁ、美味しそう!!」

と料理人にとっての最高の褒め言葉が聞こえてくる。

ちょうどいいタイミングでポトフも出来上がり、盛り付けをした。

お揃いのエプロンをつけたまま、向かい合って食事を摂る。
一口食べるごとに平松くんの美味しくて幸せという表情が見えて最高に嬉しい。

ステーキを食べて、柔らかくて美味しいと言ってくれる彼に、この肉が<綺>で出しているお肉と同じものだと伝えると驚いていた。
早く店に連れて行って好きなだけ食べさせたいものだな。

一緒に作ったポトフもスープを一口飲んで嬉しそうに声をあげる。
ふふっ。こんなに喜んでもらえると嬉しい。

「これなら名嘉村くんたちと食事会をするときにもすぐに作れるよ」

「そっか! いいですね!! 作り方は今日で覚えましたし。あとはこの圧力鍋があれば俺にも作れそうです」

食事持ち寄りの食事会に提案すると乗り気になってくれたが、圧力鍋はうちのを使っていいよと言っておいた。
そもそももう帰らせるつもりなどさらさらないからな。

あっという間に食事を完食すると、いつものように小さなお腹をさすってみせる。
本当に可愛い。

というか、可愛いことしかしない。

そんな姿が見られるのを幸せだと感じながら、さっと片付けを済ませて平松くんの元に戻った。
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