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まずはじめに
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平松くんに気づかれないようにチラリと横目で様子を窺うと、スマホの画面を見ながら嬉しそうに笑っている。
何を見ているかまではわからないが、さっきこっそり撮ったばかりの私の写真なら嬉しいのだがな。
食事の支度を終わらせてそっと平松くんに近づいて、どこからか連絡が来る予定だったかと尋ねると、焦っていたがその焦り具合を見てもやはり私の写真だと思いたい。
本当に可愛い子だ。
食事をしようとダイニングに連れていくと、テーブルに並べておいた料理を見ただけで平松くんのお腹から可愛い音が聞こえる。
こんなにも私の食事を楽しみにしてくれている。
それだけでとてつもなく嬉しいんだ。
作り置きのおかずもあったし、名嘉村くんや砂川さん、それに安慶名さんの料理も食べていたはずなのに、目の前の私の食事を見てお腹を鳴らし、キラキラとした表情を見せてくれる。
作りたて、出来立てだからという理由も少しはろるだろうが、その部分を引いても、私の料理だからこんなにもよろこんでくれていると思いたい。
おかずと炊き立てのご飯と続け様に口に運んでは美味しい、美味しいと嬉しい言葉を繰り返してくれる平松くんを見ているだけで、胸がいっぱいになってくる。
ああ、もう本当に可愛すぎる。
「平松くん、おかわり入れようか?」
「ふぁい、んぐがい、ひまふ」
「ふふっ。オッケー」
もぐもぐとおかずを口に入れながらも、お願いしますと茶碗を差し出してくれる平松くんを可愛いと思いながら、湯気の立ち上る茶碗を渡すとまた嬉しそうに、はふはふとご飯を食べてくれた。
やっぱり食事を作って正解だったな。
「ふぅ……もう、お腹いっぱいです」
そう言って可愛いお腹をさするのは、平松くんの可愛いくせ。
私の食事が平松くんを満足させた時にこの仕草を見ることができる。
これが見られるだけで、食事のお礼をもらったも同然だな。
私がいない間、欠食していたとは聞いていないから食べてくれていたとは思うが、とりあえず確認のために尋ねてみると、やはり報告通りしっかりと食べていたようだ。
「安慶名さんのご飯もご馳走になりました。ローストビーフ、すごく美味しかったです」
あのイリゼホテルで料理人としての実力を発揮している彼の料理が美味しいのは認めているが、やはり平松くんが褒めているのを聞くと少し嫉妬めいたものを感じてしまう。
自分がそばにいない時だったから尚更そう感じてしまうのだろう。
元々あれは私が安慶名さんに教えたものだが、きっと砂川さんに食べさせるうちに砂川さん好みの味に変わっているだろう。
平松くんもそっちを気に入ったのなら仕方ないかと思っていたが、平松くんはあのローストビーフは私が安慶名さんに教えたものだと聞いて、私のものが食べたくなったようだった。
平松くんんが西表に来てからというもの、私の料理をたっぷりと食べさせておいたおかげで、私の味を好んでくれるようになったんだ。
そうと分かれば、平松くんが大満足してくれるようなローストビーフを作ってあげないとな。
近々、<綺>から届く肉が届いた日にでも一番いいものを使って作ってやるとしよう。
喜んでくれる顔を見るのが楽しみだな。
お腹がいっぱいで動けなさそうな平松くんにソファーで休むように声をかけ、急いで片付けを終わらせて平松くんの元に戻った。
まずは大事なものから渡しておかないとな。
表参道の時計屋で修理をしてもらったあの時計が入っている巾着袋を取り出し、平松くんに渡した。
「東京で砂川さんと安慶名さんに会ったんだ。それで少しでも早く平松くんに渡してほしいって預かったんだよ」
適当に話を作ってしまったが、彼らならうまく話を合わせてくれるだろう。
倉橋くんが頼んだ調査員兼弁護士の成瀬さんから受け取ったと正直に話してもわけがわからなくなりそうだからな。
「渡してたものなんて何も……」
と巾着袋を見ても何が入っているか想像もつかない様子の平松くんに
「これだよ」
と巾着部袋から取り出して手のひらに乗せて見せると、
「俺の……うそっ……まさか、見つかるなんて!!」
と一気に表情を変え、手を震わせながらその時計を受け取った。
事故で亡くなった父親の形見の時計をあの会社で失くし、諦めていたのだと涙を流して教えてくれた平松くんに、会社の中で見つかったことを告げると、
「もう、諦めてたんです……。まさか、俺の手に戻ってくるなんて……」
信じられないと言った表情で、時計をギュッと抱きしめていた。
こんなにも大事な時計を彼の元に届けられて本当によかった。
「失くなっても戻ってくるものは、自分にとって縁があるものだからこれからも大切にするといいよ。外に出る時はいつでもつけておいた方がいいかな。きっとお父さんが平松くんを守ってくれるよ」
そういうと、素直な彼は嬉しそうにその時計をつけた。
こっそり平松くんの腕のサイズに合わせておいたが、気づいてはいないようだ。
すっかり痩せてしまっていた平松くんにはかなりブカブカになっていたから気づかないでいられるならその方がいい。
それに、あの時計には倉橋くんがつけてくれたGPSがついている。
腕時計が大きすぎてつけないなんてことになると、せっかくつけた意味がないからぴったりのサイズに合わせておいて正解だったな。
何を見ているかまではわからないが、さっきこっそり撮ったばかりの私の写真なら嬉しいのだがな。
食事の支度を終わらせてそっと平松くんに近づいて、どこからか連絡が来る予定だったかと尋ねると、焦っていたがその焦り具合を見てもやはり私の写真だと思いたい。
本当に可愛い子だ。
食事をしようとダイニングに連れていくと、テーブルに並べておいた料理を見ただけで平松くんのお腹から可愛い音が聞こえる。
こんなにも私の食事を楽しみにしてくれている。
それだけでとてつもなく嬉しいんだ。
作り置きのおかずもあったし、名嘉村くんや砂川さん、それに安慶名さんの料理も食べていたはずなのに、目の前の私の食事を見てお腹を鳴らし、キラキラとした表情を見せてくれる。
作りたて、出来立てだからという理由も少しはろるだろうが、その部分を引いても、私の料理だからこんなにもよろこんでくれていると思いたい。
おかずと炊き立てのご飯と続け様に口に運んでは美味しい、美味しいと嬉しい言葉を繰り返してくれる平松くんを見ているだけで、胸がいっぱいになってくる。
ああ、もう本当に可愛すぎる。
「平松くん、おかわり入れようか?」
「ふぁい、んぐがい、ひまふ」
「ふふっ。オッケー」
もぐもぐとおかずを口に入れながらも、お願いしますと茶碗を差し出してくれる平松くんを可愛いと思いながら、湯気の立ち上る茶碗を渡すとまた嬉しそうに、はふはふとご飯を食べてくれた。
やっぱり食事を作って正解だったな。
「ふぅ……もう、お腹いっぱいです」
そう言って可愛いお腹をさするのは、平松くんの可愛いくせ。
私の食事が平松くんを満足させた時にこの仕草を見ることができる。
これが見られるだけで、食事のお礼をもらったも同然だな。
私がいない間、欠食していたとは聞いていないから食べてくれていたとは思うが、とりあえず確認のために尋ねてみると、やはり報告通りしっかりと食べていたようだ。
「安慶名さんのご飯もご馳走になりました。ローストビーフ、すごく美味しかったです」
あのイリゼホテルで料理人としての実力を発揮している彼の料理が美味しいのは認めているが、やはり平松くんが褒めているのを聞くと少し嫉妬めいたものを感じてしまう。
自分がそばにいない時だったから尚更そう感じてしまうのだろう。
元々あれは私が安慶名さんに教えたものだが、きっと砂川さんに食べさせるうちに砂川さん好みの味に変わっているだろう。
平松くんもそっちを気に入ったのなら仕方ないかと思っていたが、平松くんはあのローストビーフは私が安慶名さんに教えたものだと聞いて、私のものが食べたくなったようだった。
平松くんんが西表に来てからというもの、私の料理をたっぷりと食べさせておいたおかげで、私の味を好んでくれるようになったんだ。
そうと分かれば、平松くんが大満足してくれるようなローストビーフを作ってあげないとな。
近々、<綺>から届く肉が届いた日にでも一番いいものを使って作ってやるとしよう。
喜んでくれる顔を見るのが楽しみだな。
お腹がいっぱいで動けなさそうな平松くんにソファーで休むように声をかけ、急いで片付けを終わらせて平松くんの元に戻った。
まずは大事なものから渡しておかないとな。
表参道の時計屋で修理をしてもらったあの時計が入っている巾着袋を取り出し、平松くんに渡した。
「東京で砂川さんと安慶名さんに会ったんだ。それで少しでも早く平松くんに渡してほしいって預かったんだよ」
適当に話を作ってしまったが、彼らならうまく話を合わせてくれるだろう。
倉橋くんが頼んだ調査員兼弁護士の成瀬さんから受け取ったと正直に話してもわけがわからなくなりそうだからな。
「渡してたものなんて何も……」
と巾着袋を見ても何が入っているか想像もつかない様子の平松くんに
「これだよ」
と巾着部袋から取り出して手のひらに乗せて見せると、
「俺の……うそっ……まさか、見つかるなんて!!」
と一気に表情を変え、手を震わせながらその時計を受け取った。
事故で亡くなった父親の形見の時計をあの会社で失くし、諦めていたのだと涙を流して教えてくれた平松くんに、会社の中で見つかったことを告げると、
「もう、諦めてたんです……。まさか、俺の手に戻ってくるなんて……」
信じられないと言った表情で、時計をギュッと抱きしめていた。
こんなにも大事な時計を彼の元に届けられて本当によかった。
「失くなっても戻ってくるものは、自分にとって縁があるものだからこれからも大切にするといいよ。外に出る時はいつでもつけておいた方がいいかな。きっとお父さんが平松くんを守ってくれるよ」
そういうと、素直な彼は嬉しそうにその時計をつけた。
こっそり平松くんの腕のサイズに合わせておいたが、気づいてはいないようだ。
すっかり痩せてしまっていた平松くんにはかなりブカブカになっていたから気づかないでいられるならその方がいい。
それに、あの時計には倉橋くんがつけてくれたGPSがついている。
腕時計が大きすぎてつけないなんてことになると、せっかくつけた意味がないからぴったりのサイズに合わせておいて正解だったな。
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