イケメンスパダリ店主は愛する人が鈍感で無防備で可愛すぎて困っています

波木真帆

文字の大きさ
上 下
58 / 99

まずはじめに

しおりを挟む
平松くんに気づかれないようにチラリと横目で様子を窺うと、スマホの画面を見ながら嬉しそうに笑っている。

何を見ているかまではわからないが、さっきこっそり撮ったばかりの私の写真なら嬉しいのだがな。

食事の支度を終わらせてそっと平松くんに近づいて、どこからか連絡が来る予定だったかと尋ねると、焦っていたがその焦り具合を見てもやはり私の写真だと思いたい。

本当に可愛い子だ。

食事をしようとダイニングに連れていくと、テーブルに並べておいた料理を見ただけで平松くんのお腹から可愛い音が聞こえる。
こんなにも私の食事を楽しみにしてくれている。
それだけでとてつもなく嬉しいんだ。

作り置きのおかずもあったし、名嘉村くんや砂川さん、それに安慶名さんの料理も食べていたはずなのに、目の前の私の食事を見てお腹を鳴らし、キラキラとした表情を見せてくれる。
作りたて、出来立てだからという理由も少しはろるだろうが、その部分を引いても、私の料理だからこんなにもよろこんでくれていると思いたい。

おかずと炊き立てのご飯と続け様に口に運んでは美味しい、美味しいと嬉しい言葉を繰り返してくれる平松くんを見ているだけで、胸がいっぱいになってくる。

ああ、もう本当に可愛すぎる。

「平松くん、おかわり入れようか?」

「ふぁい、んぐがい、ひまふ」

「ふふっ。オッケー」

もぐもぐとおかずを口に入れながらも、お願いしますと茶碗を差し出してくれる平松くんを可愛いと思いながら、湯気の立ち上る茶碗を渡すとまた嬉しそうに、はふはふとご飯を食べてくれた。

やっぱり食事を作って正解だったな。

「ふぅ……もう、お腹いっぱいです」

そう言って可愛いお腹をさするのは、平松くんの可愛いくせ。
私の食事が平松くんを満足させた時にこの仕草を見ることができる。
これが見られるだけで、食事のお礼をもらったも同然だな。

私がいない間、欠食していたとは聞いていないから食べてくれていたとは思うが、とりあえず確認のために尋ねてみると、やはり報告通りしっかりと食べていたようだ。

「安慶名さんのご飯もご馳走になりました。ローストビーフ、すごく美味しかったです」

あのイリゼホテルで料理人としての実力を発揮している彼の料理が美味しいのは認めているが、やはり平松くんが褒めているのを聞くと少し嫉妬めいたものを感じてしまう。
自分がそばにいない時だったから尚更そう感じてしまうのだろう。

元々あれは私が安慶名さんに教えたものだが、きっと砂川さんに食べさせるうちに砂川さん好みの味に変わっているだろう。
平松くんもそっちを気に入ったのなら仕方ないかと思っていたが、平松くんはあのローストビーフは私が安慶名さんに教えたものだと聞いて、私のものが食べたくなったようだった。

平松くんんが西表に来てからというもの、私の料理をたっぷりと食べさせておいたおかげで、私の味を好んでくれるようになったんだ。
そうと分かれば、平松くんが大満足してくれるようなローストビーフを作ってあげないとな。
近々、<綺>から届く肉が届いた日にでも一番いいものを使って作ってやるとしよう。

喜んでくれる顔を見るのが楽しみだな。

お腹がいっぱいで動けなさそうな平松くんにソファーで休むように声をかけ、急いで片付けを終わらせて平松くんの元に戻った。

まずは大事なものから渡しておかないとな。

表参道の時計屋で修理をしてもらったあの時計が入っている巾着袋を取り出し、平松くんに渡した。

「東京で砂川さんと安慶名さんに会ったんだ。それで少しでも早く平松くんに渡してほしいって預かったんだよ」

適当に話を作ってしまったが、彼らならうまく話を合わせてくれるだろう。
倉橋くんが頼んだ調査員兼弁護士の成瀬さんから受け取ったと正直に話してもわけがわからなくなりそうだからな。

「渡してたものなんて何も……」

と巾着袋を見ても何が入っているか想像もつかない様子の平松くんに

「これだよ」

と巾着部袋から取り出して手のひらに乗せて見せると、

「俺の……うそっ……まさか、見つかるなんて!!」

と一気に表情を変え、手を震わせながらその時計を受け取った。

事故で亡くなった父親の形見の時計をあの会社で失くし、諦めていたのだと涙を流して教えてくれた平松くんに、会社の中で見つかったことを告げると、

「もう、諦めてたんです……。まさか、俺の手に戻ってくるなんて……」

信じられないと言った表情で、時計をギュッと抱きしめていた。

こんなにも大事な時計を彼の元に届けられて本当によかった。

「失くなっても戻ってくるものは、自分にとって縁があるものだからこれからも大切にするといいよ。外に出る時はいつでもつけておいた方がいいかな。きっとお父さんが平松くんを守ってくれるよ」

そういうと、素直な彼は嬉しそうにその時計をつけた。
こっそり平松くんの腕のサイズに合わせておいたが、気づいてはいないようだ。
すっかり痩せてしまっていた平松くんにはかなりブカブカになっていたから気づかないでいられるならその方がいい。

それに、あの時計には倉橋くんがつけてくれたGPSがついている。
腕時計が大きすぎてつけないなんてことになると、せっかくつけた意味がないからぴったりのサイズに合わせておいて正解だったな。
しおりを挟む
感想 147

あなたにおすすめの小説

有能官吏、料理人になる。〜有能で、皇帝陛下に寵愛されている自分ですが、このたび料理人になりました〜

𦚰阪 リナ
BL
琳国の有能官吏、李 月英は官吏だが食欲のない皇帝、凛秀のため、何かしなくてはならないが、何をしたらいいかさっぱるわからない。 だがある日、美味しい料理を作くれば、少しは気が紛れるのではないかと考え、厨房を見学するという名目で、厨房に来た。 そこで出逢った簫 完陽という料理人に料理を教えてもらうことに。 そのことがきっかけで月英は、料理の腕に目覚めて…?! 料理×BL×官吏のごちゃまぜ中華風お料理物語、ここに開幕! ※、のところはご注意を。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

処理中です...