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みんなの優しさ

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真っ赤な顔をした平松くんの姿に思わず頬が緩む。
自分がどれだけ呑んでも顔にもでらず、酔いもしないタイプだから、こうして見てすぐに酔っ払っているとわかる姿は可愛らしく見える。

だが、こんなに可愛い姿を無防備に晒して……。
相手が名嘉村くんじゃなかったら、そのまま寝室に連れ込まれてもおかしくない。
本当に危ない子だ。

可愛いと思いつつもその無防備な姿に心配もしてしまう。
そんな中、画面の外から名嘉村くんの声が入ってくる。

「平松くんも今、幸せでしょう?」

その言葉になんと返すだろうかと思っていると、平松くんは悲しげな顔で、

「幸せじゃないですよー」

と少し呂律の回らない声をあげる。
平松くんが幸せじゃない……まだ、私は幸せにしてあげられていないのかと胸を痛めたその時、

「だって、八尋さんがいないんですよー。それって不幸じゃないですかー。俺は、一人の家に帰りたくないんですよーー」

と平松くんの心の声が漏れ出てしまっていた。

私がいないから、不幸だと思う。
ああ、もうこれが平松くんの本音じゃないか。

この数日、離れて過ごすのは本当に辛いものがあったが、それ以上に彼の中で私への想いが膨らんでくれたようだ。
もしかしたら、お祖父さんは私たちの未来のために、この時期に私を呼んでくれたのではないか。
そんなことまで考えてしまっていた。

そのまま机に突っ伏してしまった平松くんに、名嘉村くんはさらに質問を浴びせている。

「ねぇ、平松くん、じゃあ一人にならずに済むにはどうしたらいい?」

「やひろさんと、くらすーっ!」

「ふふっ。そうだね。でも、一緒に暮らすだけじゃずっと一緒にはいられないよ。どうしよっか」

「ええ……やひろさんと、いっしょにいられないの? えー、どうしたらいい?」

「じゃあ、結婚する、っていうのはどう?」

「えー、でも……おとこどうしだからできないよー」

「ふふっ。大丈夫。同じ名前になれるよ」

「ほんとぅ?」

「うん! 僕も浩輔さんと一緒に暮らし始めたら、同じ名前になろうって約束してるんだよ」

「じゃあ、おれもーっ!! やひろゆきやになるーっ!! なりたいーっ!!」

「大丈夫、きっと願いは叶うよ」

そんな言葉で映像は終わっていた。

だから、あの質問だったのか……。
私とずっと一緒にいるために、八尋友貴也になりたいと言ってくれた。

あの酔い方なら、きっと何を言ったのかは覚えていないだろう。
けれど、あの言葉は平松くんの本心だ。

八尋の家を捨てた私だが、ここで平松くんと夫夫として、新しい八尋家を作るのもいいかもしれない。
残りの人生を平松くんと共に歩むために……。


素晴らしい映像を送ってくれた名嘉村くんに今度必ずお礼をするから考えていてほしいと、松川くんにメッセージを送り、朝一の飛行機に乗り遅れないために急いで眠りについた。

あまりにも幸せな出来事に興奮してすぐには寝付けなかったが、疲れと飲酒もあいまって、いつの間にか深い眠りについていた。

レストランに朝食を食べに行く時間ももったいなくて、そのまま部屋を出ようと思っていたが、それがお見通しだったと言わんばかりに浅香さんからサンドイッチとスープが届いた。

本当は少しでも腹に入れたかったから、この軽食には助かった。
浅香さんのご厚意に感謝しながらさっと食事を済ませ、チェックアウトのためにフロントに向かうと料金の代わりにオーナーからだという手紙を受け取った。


<八尋さん、おはようございます。かなりの過密スケジュールでの滞在でお疲れになった身体を、当ホテルで少しは癒すことができたでしょうか。今回は八尋さんの素敵な出会いのお祝いに宿泊料は無料となっております。次は是非石垣島イリゼホテルにて、お連れさまとのご宿泊をお待ちしております。素敵な旅の思い出の一ページとなりますように心を込めてお世話させていただきます。お気をつけてお帰りくださいませ。イリゼホテル&リゾートオーナー・浅香敬介>

浅香さん……。
彼の優しさに胸が熱くなる。

「お気をつけてお帰りくださいませ」

フロントスタッフの青山くんに丁重に礼を言って、私は用意されていたタクシーに飛び乗り急いで空港に向かった。

ああ、出発までの時間が待ちどおしくてたまらない。
西表に着いたらすぐに平松くんを迎えに行こう。
そして、そのまま連れ帰れたら最高だが……。

この上ないほど緊張と興奮に包まれながら、飛行機に乗り込んだ。
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