イケメンスパダリ店主は愛する人が鈍感で無防備で可愛すぎて困っています

波木真帆

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永遠にさようなら

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ーあ、あの……八尋さん、いつ頃こっちに戻れそうですか?

私が帰るのを心待ちにしてくれているようなその表情に胸が痛くなる。
本当ならすぐにでも飛んで帰りたい。
だが、明日はまだ帰れそうにない。
それでも明後日には帰れるだろうと思って告げると、平松くんは寂しそうにしながらも納得してくれた。

ーあの、お祖父さんとは最期にゆっくりと話せましたか?

ああ、やっぱり平松くんだな。
こんな心配をしてくれるのは彼だけだ。
父も親戚もみんな私が祖父と最期の話ができたかなんて気にも留めていない。

それほどご両親との別れが辛かったのだろう。
まだ高校生だったのだからそれも当然だろうな。

悲しげな表情をしたまま黙ってしまった平松くんに呼びかけると、

ーあっ、すみません。つい、昔のことを思い出してしまって……。八尋さんに頼ってほしいとか言いながら、心配かけたら意味ないですね。

と笑顔見せてくれる。
その笑顔が辛そうでたまらない。
すぐにでも抱きしめてやりたいのにできないのがもどかしい。

ー明後日、会えるのを楽しみにしているよ。いろいろ聞いてほしい話もあるから、その日はうちに泊まってくれるかな?

さらりと誘うと悩むことなく了承してくれた。
しかも喜んでと言ってくれた。
その事実が私を高揚させていた。

翌朝、早々に目を覚ました私はさっさと身支度を整え、荷物を持って階下に向かった。

彼らはまだ眠っているだろうか?

大広間の畳の上で野々花の両親と祖父の弟が倒れるように寝ているのを発見した。

久代さんはどこだろう?
そう考えた時に、あそこしか思いつかなかった。

そっと障子を開けるとそこに彼の姿があった。

やはりここか……。

祖父のお骨を休ませている仏間。
骨になってもなお祖父のことを気にかけてくれるのは彼だけだな。

あのいざこざに巻き込まずに祖父との時間を過ごせて良かったのかもしれない。

「久代さん、久代さん。起きてください」

「んっ……」

「目が覚めましたか?」

「えっ? あっ、崇史さん……おはようございます」

「大丈夫ですか? 頭痛などはありませんか?」

「えっ? は、はい。大丈夫です。特には何も……」

「そうですか、とりあえずは安心しました」

ホッとしてそういうと、彼は顔を真っ赤にして

「――っ、あの……何かあったんでしょうか?」

と尋ねてきた。

「ええ。昨夜、実は――」

父と従姉妹の野々花が共謀して私を貶めようとして、警察に捕まったこと。
その計画に邪魔な野々花の両親と祖父の弟、そして久代さんに父が睡眠薬を盛ったことを伝えた。
話を聞いていくうちに久代さんの表情がどんどん青褪めていく。

「そんなことが……っ。申し訳ありません、私は何も知らなくて……」

「いえ、いいんですよ。それよりも父が薬を盛ったことのほうが悪いんです。今は何もなくても後で後遺症が出る場合もあります。今日は病院に行って診察を受けてくださいね」

「わ、わかりました。あの崇史さんは、どちらに行かれるのですか?」

「私は帰ります。もうこの家に戻ることはありません」

「本当にもう終わりなのですか?」

「ええ。私は八尋の家とは縁を切りますから。あなたも区切りをつけたほうがいいですよ」

そう告げたと同時に、玄関のチャイムが聞こえた。
野々花の両親の事情聴取のために警察の方が来たのだろう。

「それでは失礼します」

私が荷物を持って玄関に向かうと、

「ちょっと待ってください」

と少しふらつきながら久代さんがついてきた。

「まだ無理して起きないほうがいいですよ。ここで待っていてください」

「はい……」

玄関前に久代さんを残して、扉を開けると

「おはようございます、崇史さん」

と爽やかな笑顔の真壁警視正の姿があった。

「えっ、わざわざ真壁さんが来てくださったんですか?」

「ええ。そのほうが話もスムーズですから」

「そうですか。彼らは奥の座敷でまだ寝ていると思いますので、どうぞ中に入ってください」

「はい。失礼します。あっ、崇史さん。あの方は?」

「ああ、彼は祖父の秘書をなさっていた方で、久代要さんです。彼も睡眠薬を飲まされていたようなので、病院を受診するように話をしました」

「そうですか、それは心配ですね。では彼も含めてこの後のことは私にお任せください」

「えっ? あ、はい。久代さん、後のことはこの真壁警視正にお任せしていますので、安心してください」

「は、はい」

さっと久代さんの方に向かっていく真壁さんの姿に、なんとなく感じるものがあったが私の気にすることではないだろう。

私は全てを真壁さんに任せて早々に祖父の家を出た。
ここに来るのももう最後かと思うとやはり一抹の寂しさは込み上げてきたが、もう二度と足を踏み入れるつもりはない。

本当にさよならだ。

私は気を引き締めて、母の入院する病院に向かった。
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