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決して誰にも……
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成瀬さんの予想通り、盗聴器とカメラが仕掛けられていた今の部屋の状況を、報告のために写真付きのメッセージを成瀬さんに送ってから、調査報告書をしっかりと読み込んだ後で倉橋くんにも連絡を入れた。
平松くんの時計を受け取ったことを伝えておくことはもちろんだが、先ほどの成瀬さんからの調査報告の中身を見て倉橋くんに謝罪をしなければいけないと思ったからだ。
なんせ、父が玻名崎に援助していた金がGK興業に流れ、その金を受け取っていたGK興業の男に藤乃くんは襲われたのだから。
長い文章になってしまったが、これでも足りないくらいだ。
制裁するのに人手がいるのなら、喜んで手を貸すことも記載してメッセージを送った。
父は玻名崎に言われるがままに資金援助をして、その見返りに取引先を紹介してもらっていた。
しかし、玻名崎が逮捕された今、玻名崎に渡した資金は戻ってこず、収入が入ってくる見込みもない。
だからこそ、祖父の遺産を当てにしているのだろう。
母には悪いが、父をこれ以上野放しにしておくわけにはいかないな。
私の手で、父がもう這い上がって来られないほど叩き潰してやろう。
あんなのを放置していたら、きっといつか平松くんの存在を知って何かをしでかすに決まっているのだから。
平松くんには指一本触れさせない。
決して誰にも……。
しばらくして倉橋くんから返事が来た。
藤乃くんを襲ったGK興業の男と、藤乃くんを殴った上司の男はすでに制裁は完了しているようだ。
本当に仕事が早い。
そして、社長の玻名崎もすでに逮捕された。
残るは父だけということか。
私には悪いが、資金を渡していた父のことはしっかりと制裁してほしいと書かれていた。
倉橋くんの怒りが文章からでもわかる。
大丈夫、私も手加減するつもりはない。
もうとっくに親子の縁も捨てているのだから。
倉橋くんに了承の旨を伝え、部屋を部屋を出た。
祖父の部屋には、代わる代わる弔問客がやってきていた。
私はその人たちの相手をするべく、祖父の眠る傍に座り、彼らに頭を下げていた。
「あなたが、なりくんの息子?」
不意にかけられた声に顔を上げると、祖父の知り合いには思えない30代くらいの女性がそこにいた。
「失礼ですが、祖父のお別れに来ていただいた方ですか?」
「ふふっつ。違うわよー。言うなら、あなたの母親になるのかしら?」
「なるほど、父の愛人の方ですか。そんな人がわざわざここになんの用ですか?」
「なりくんに息子が来たって教えてもらったからわざわざ会いに来てあげたのよ。家族になるんだし、顔合わせは必要でしょう? でも想像していたよりもずっとずっとイケメンだし、母親じゃなくて妻になってあげてもいいわよ」
伸ばされた手で顔を触れられそうになって、さっと躱すと
「あら、恥ずかしがってるの?」
と気味の悪い笑みを見せられた。
「言っている意味がわかりませんが、ここは祖父が寝ている場所です。弔う気がないなら出ていっていただけますか?」
「本当、なりくんの言ってた通り、堅物でつまんなーい。イケメンだけど、こんなんじゃねぇ。まぁ、いいわ。私は遺産さえ手に入ればそれでいいの」
「何を勘違いしているかわかりませんが、父の愛人であるあなたには祖父の遺産は一円も入りませんよ」
「ふふっ。知らないんだぁ。この人はね、なりくんに全てを渡すって遺言書を書いてくれてたんだって。だから、私はずーっとなりくんのそばにいてあげたんだから」
「なるほど。父に騙されていたわけですか」
「どう言う意味?」
「祖父はそんな遺言書など残してませんよ。信じるか信じないかはあなたの自由ですけどね」
「嘘よ! あの人に遺産が入らないなら、私はなんのために一緒にいたのよ! なりくんはこの人の後を継いで社長になるんでしょう? 私を社長夫人にしてやるって言ってたのよ!」
「だから全部嘘ですよ。まぁ、遺言書の開示はまだなので、100%嘘だと決まったわけではありませんが、ほぼ可能性は0ですけどね」
「そんなの嘘よ!! 私は信じないわ!」
そういうと、女は真っ赤な顔をして、父がいるはずのリビングに駆け出していった。
「遺産が入らないって嘘よね? 私を騙したりしてないわよね?」
あの女が父を問い詰める声が聞こえたかと思ったら、
「そんなわけないだろう! 私を信じろ!」
という父の声が聞こえた。
そうして、父は焦ったようにその女を連れて家を出ていった。
今頃、あの女に弁解でもしているのだろう。
父がいない間に食事でもしておくか。
私は急いでキッチンに行き、届いたばかりと飲み物を部屋に運び込んだ。
持ってきたキャリーケースの中から、ピルケースを取り出した。
これは以前倉橋くんからもらったもので、彼が開発した、どんな微量であっても薬物を探知できる試薬だ。
試薬自体には毒性はなく口に入れても問題はないというのだから安心だ。
小さな錠剤を指で潰して砕き、弁当に満遍なく振りかけたが、特になんの反応もなかった。
同様に飲み物にも入れてみたが反応はなく、私は安心してその弁当と飲み物を口に入れ、お腹を満たした。
平松くんの時計を受け取ったことを伝えておくことはもちろんだが、先ほどの成瀬さんからの調査報告の中身を見て倉橋くんに謝罪をしなければいけないと思ったからだ。
なんせ、父が玻名崎に援助していた金がGK興業に流れ、その金を受け取っていたGK興業の男に藤乃くんは襲われたのだから。
長い文章になってしまったが、これでも足りないくらいだ。
制裁するのに人手がいるのなら、喜んで手を貸すことも記載してメッセージを送った。
父は玻名崎に言われるがままに資金援助をして、その見返りに取引先を紹介してもらっていた。
しかし、玻名崎が逮捕された今、玻名崎に渡した資金は戻ってこず、収入が入ってくる見込みもない。
だからこそ、祖父の遺産を当てにしているのだろう。
母には悪いが、父をこれ以上野放しにしておくわけにはいかないな。
私の手で、父がもう這い上がって来られないほど叩き潰してやろう。
あんなのを放置していたら、きっといつか平松くんの存在を知って何かをしでかすに決まっているのだから。
平松くんには指一本触れさせない。
決して誰にも……。
しばらくして倉橋くんから返事が来た。
藤乃くんを襲ったGK興業の男と、藤乃くんを殴った上司の男はすでに制裁は完了しているようだ。
本当に仕事が早い。
そして、社長の玻名崎もすでに逮捕された。
残るは父だけということか。
私には悪いが、資金を渡していた父のことはしっかりと制裁してほしいと書かれていた。
倉橋くんの怒りが文章からでもわかる。
大丈夫、私も手加減するつもりはない。
もうとっくに親子の縁も捨てているのだから。
倉橋くんに了承の旨を伝え、部屋を部屋を出た。
祖父の部屋には、代わる代わる弔問客がやってきていた。
私はその人たちの相手をするべく、祖父の眠る傍に座り、彼らに頭を下げていた。
「あなたが、なりくんの息子?」
不意にかけられた声に顔を上げると、祖父の知り合いには思えない30代くらいの女性がそこにいた。
「失礼ですが、祖父のお別れに来ていただいた方ですか?」
「ふふっつ。違うわよー。言うなら、あなたの母親になるのかしら?」
「なるほど、父の愛人の方ですか。そんな人がわざわざここになんの用ですか?」
「なりくんに息子が来たって教えてもらったからわざわざ会いに来てあげたのよ。家族になるんだし、顔合わせは必要でしょう? でも想像していたよりもずっとずっとイケメンだし、母親じゃなくて妻になってあげてもいいわよ」
伸ばされた手で顔を触れられそうになって、さっと躱すと
「あら、恥ずかしがってるの?」
と気味の悪い笑みを見せられた。
「言っている意味がわかりませんが、ここは祖父が寝ている場所です。弔う気がないなら出ていっていただけますか?」
「本当、なりくんの言ってた通り、堅物でつまんなーい。イケメンだけど、こんなんじゃねぇ。まぁ、いいわ。私は遺産さえ手に入ればそれでいいの」
「何を勘違いしているかわかりませんが、父の愛人であるあなたには祖父の遺産は一円も入りませんよ」
「ふふっ。知らないんだぁ。この人はね、なりくんに全てを渡すって遺言書を書いてくれてたんだって。だから、私はずーっとなりくんのそばにいてあげたんだから」
「なるほど。父に騙されていたわけですか」
「どう言う意味?」
「祖父はそんな遺言書など残してませんよ。信じるか信じないかはあなたの自由ですけどね」
「嘘よ! あの人に遺産が入らないなら、私はなんのために一緒にいたのよ! なりくんはこの人の後を継いで社長になるんでしょう? 私を社長夫人にしてやるって言ってたのよ!」
「だから全部嘘ですよ。まぁ、遺言書の開示はまだなので、100%嘘だと決まったわけではありませんが、ほぼ可能性は0ですけどね」
「そんなの嘘よ!! 私は信じないわ!」
そういうと、女は真っ赤な顔をして、父がいるはずのリビングに駆け出していった。
「遺産が入らないって嘘よね? 私を騙したりしてないわよね?」
あの女が父を問い詰める声が聞こえたかと思ったら、
「そんなわけないだろう! 私を信じろ!」
という父の声が聞こえた。
そうして、父は焦ったようにその女を連れて家を出ていった。
今頃、あの女に弁解でもしているのだろう。
父がいない間に食事でもしておくか。
私は急いでキッチンに行き、届いたばかりと飲み物を部屋に運び込んだ。
持ってきたキャリーケースの中から、ピルケースを取り出した。
これは以前倉橋くんからもらったもので、彼が開発した、どんな微量であっても薬物を探知できる試薬だ。
試薬自体には毒性はなく口に入れても問題はないというのだから安心だ。
小さな錠剤を指で潰して砕き、弁当に満遍なく振りかけたが、特になんの反応もなかった。
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