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杜撰な計画
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成瀬さんが集めてくれた報告書を目を通す傍らで、成瀬さんが追加で説明をしてくれる。
「玻名崎と八尋さんの父・忠礼さんは中学の先輩後輩の間柄で、玻名崎には昔から頭が上がらなかったようです。長く交流はありませんでしたが、五年ほど前に忠礼さんが八尋さんの母・靖子さんと結婚して八尋家に婿養子に入り、エノーマス商事の社員になったと知ってからは、玻名崎にかなり無謀なことをやらされていたようですね」
「それが資金援助、ですか……」
「はい。最初はポケットマネーでできる範囲でしていたようですが、そのうち夫婦の共有財産に手をつけ、それを補填するために会社のお金に手を出したようです。その時にはエノーマス商事の社長である史秀さんは病気療養中でしたから、忠礼さんが好きにしていたようですね」
「だからあんなのに経理部長なんてやらせるなと祖父には忠告していたのに……」
もうため息しか出ない。
祖父がこんな杜撰なことに気づかなかったわけはないと思うが、病気で頭が回らなくなっていたんだろうか。
――崇史にうちの会社を守って欲しいんだ。そうでなければ、会社が潰れてしまう。
あの必死な声はきっと父の悪行に薄々気づいていたのかもしれない。
それでも手を出せなかったのは、娘を思う気持ちだろうか。
父は最初から金目当ての結婚だった。
不細工で行き遅れていたお前を拾ってやったんだと母の前でも平気で罵っていたし、子どもの私から見ても愛し合っているようには見えなかった。
長年囲っている愛人もいるようで、もうとっくに夫婦としての機能は破綻していた。
だが、母は父を心から愛していた。
なんであんな相手にそこまで愛を捧げられるのかと不思議に思ったほどに母は父を愛していたんだ。
会社を辞め、沖縄に移住する前に母に会った時にいい加減に父を諦めて離婚をしたらと勧めたけれど、離婚したら父はこれ幸いと愛人と籍を入れるだろう。
だからこそ、母は離婚しないのだと笑っていた。
不貞をしている父からは離婚を言い出すことはできない。
だから一生自分のものにしておくんだと笑みを浮かべていたが、長年の心労が祟ったのか、自宅で臥せっていた母はずっと自宅介護をしてくれていた介護士の勧めで病院に入院することになった。
母が入院したことで、父は焦っただろう。
父の計画では、祖父が亡くなり、祖父の遺産を受け取った母の金を自由に使う予定だったのだから。
けれど、祖父よりも先に母が亡くなれば、祖父の遺産は一人娘であった母の子ども、すなわち私が遺産を受け取ることになる。
そうなれば、父は金を自由に使えなくなる。
そう考え、父は母の入院先を自分の意見が通る病院に勝手に変え、入院先に足繁く通い、できる治療を全てやらせていた。
そのおかげで母の病気も持ち直し、そしてそれと対するように祖父の病状は悪くなり、父の計画通りだと思った矢先、祖父から
――遺産も会社も全て崇史に渡す。弁護士を雇って遺言書を作成したからお前に渡す金は鐚一文無い。
と直接言われてしまったのだそうだ。
そこで計画の変更を余儀なくされた父は、私に祖父の会社を名前だけ継がせる形にして、自分は専務として実権を握り、私を西表から出さないように監視役として弟の娘と結婚させ、祖父の遺産を横流しさせることにしたらしいということが調査報告書には書かれていた。
「はぁ……こんな杜撰な計画……うまくいくはずがないでしょう」
「ええ。本当に。もし、八尋さんが名前だけの社長になったとしても、忠礼さんの実力では実権を握ることはできないでしょう。ああ、失礼」
「いえ、本当のことですからお気になさらないでください。しかも従姉妹と結婚って……あり得ないでしょう。彼と出会ってなかったとしても、手なんか出しませんよ」
「でしょうね。ですが、彼女の方は乗り気のようですよ。聞きますか?」
「えっ?」
驚く私をよそに、彼は胸ポケットからボイスレコーダーを取り出してスイッチを押した。
――崇史に睡眠薬を飲ませておくから、その隙に部屋に忍び込んでやることやってくれたら100万。どうだ? 悪くない話だろう。
――えー、めっちゃイケメンじゃん。伯父さんの息子で40過ぎてるって言ってたから絶対キモ親父だと思ってたのにー。
――どうだ? やるか?
――いいよ、こんなイケメンとエッチして100万もらえるならやる! 楽しみー!!
「だそうですよ。八尋さん、女子高生にもモテますね」
「からかわないでください。でもこれをどうやって?」
「ふふっ。調査方法は秘密です」
にこやかな笑顔を見せているが、かなりの腕前だな。
だが、睡眠薬で私を眠らせて部屋に忍び込ませるって……今の私は平松くん以外には反応しないから無理だけどな。
その時点で破綻している計画だが、裸同士で眠っているところを見られるだけでもこちらの状況は悪くなるだろう。
「あちらで出される飲み物には十分気をつけてくださいね」
「ええ、わかりました」
この計画を前もって知っているだけでもかなり心強いな。
「玻名崎と八尋さんの父・忠礼さんは中学の先輩後輩の間柄で、玻名崎には昔から頭が上がらなかったようです。長く交流はありませんでしたが、五年ほど前に忠礼さんが八尋さんの母・靖子さんと結婚して八尋家に婿養子に入り、エノーマス商事の社員になったと知ってからは、玻名崎にかなり無謀なことをやらされていたようですね」
「それが資金援助、ですか……」
「はい。最初はポケットマネーでできる範囲でしていたようですが、そのうち夫婦の共有財産に手をつけ、それを補填するために会社のお金に手を出したようです。その時にはエノーマス商事の社長である史秀さんは病気療養中でしたから、忠礼さんが好きにしていたようですね」
「だからあんなのに経理部長なんてやらせるなと祖父には忠告していたのに……」
もうため息しか出ない。
祖父がこんな杜撰なことに気づかなかったわけはないと思うが、病気で頭が回らなくなっていたんだろうか。
――崇史にうちの会社を守って欲しいんだ。そうでなければ、会社が潰れてしまう。
あの必死な声はきっと父の悪行に薄々気づいていたのかもしれない。
それでも手を出せなかったのは、娘を思う気持ちだろうか。
父は最初から金目当ての結婚だった。
不細工で行き遅れていたお前を拾ってやったんだと母の前でも平気で罵っていたし、子どもの私から見ても愛し合っているようには見えなかった。
長年囲っている愛人もいるようで、もうとっくに夫婦としての機能は破綻していた。
だが、母は父を心から愛していた。
なんであんな相手にそこまで愛を捧げられるのかと不思議に思ったほどに母は父を愛していたんだ。
会社を辞め、沖縄に移住する前に母に会った時にいい加減に父を諦めて離婚をしたらと勧めたけれど、離婚したら父はこれ幸いと愛人と籍を入れるだろう。
だからこそ、母は離婚しないのだと笑っていた。
不貞をしている父からは離婚を言い出すことはできない。
だから一生自分のものにしておくんだと笑みを浮かべていたが、長年の心労が祟ったのか、自宅で臥せっていた母はずっと自宅介護をしてくれていた介護士の勧めで病院に入院することになった。
母が入院したことで、父は焦っただろう。
父の計画では、祖父が亡くなり、祖父の遺産を受け取った母の金を自由に使う予定だったのだから。
けれど、祖父よりも先に母が亡くなれば、祖父の遺産は一人娘であった母の子ども、すなわち私が遺産を受け取ることになる。
そうなれば、父は金を自由に使えなくなる。
そう考え、父は母の入院先を自分の意見が通る病院に勝手に変え、入院先に足繁く通い、できる治療を全てやらせていた。
そのおかげで母の病気も持ち直し、そしてそれと対するように祖父の病状は悪くなり、父の計画通りだと思った矢先、祖父から
――遺産も会社も全て崇史に渡す。弁護士を雇って遺言書を作成したからお前に渡す金は鐚一文無い。
と直接言われてしまったのだそうだ。
そこで計画の変更を余儀なくされた父は、私に祖父の会社を名前だけ継がせる形にして、自分は専務として実権を握り、私を西表から出さないように監視役として弟の娘と結婚させ、祖父の遺産を横流しさせることにしたらしいということが調査報告書には書かれていた。
「はぁ……こんな杜撰な計画……うまくいくはずがないでしょう」
「ええ。本当に。もし、八尋さんが名前だけの社長になったとしても、忠礼さんの実力では実権を握ることはできないでしょう。ああ、失礼」
「いえ、本当のことですからお気になさらないでください。しかも従姉妹と結婚って……あり得ないでしょう。彼と出会ってなかったとしても、手なんか出しませんよ」
「でしょうね。ですが、彼女の方は乗り気のようですよ。聞きますか?」
「えっ?」
驚く私をよそに、彼は胸ポケットからボイスレコーダーを取り出してスイッチを押した。
――崇史に睡眠薬を飲ませておくから、その隙に部屋に忍び込んでやることやってくれたら100万。どうだ? 悪くない話だろう。
――えー、めっちゃイケメンじゃん。伯父さんの息子で40過ぎてるって言ってたから絶対キモ親父だと思ってたのにー。
――どうだ? やるか?
――いいよ、こんなイケメンとエッチして100万もらえるならやる! 楽しみー!!
「だそうですよ。八尋さん、女子高生にもモテますね」
「からかわないでください。でもこれをどうやって?」
「ふふっ。調査方法は秘密です」
にこやかな笑顔を見せているが、かなりの腕前だな。
だが、睡眠薬で私を眠らせて部屋に忍び込ませるって……今の私は平松くん以外には反応しないから無理だけどな。
その時点で破綻している計画だが、裸同士で眠っているところを見られるだけでもこちらの状況は悪くなるだろう。
「あちらで出される飲み物には十分気をつけてくださいね」
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この計画を前もって知っているだけでもかなり心強いな。
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