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出迎えてくれた人は……
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羽田空港に到着してスマホを確認すると、倉橋くんから時計の受け渡しについて連絡が来ていた。
<到着口にいる綺麗な茶色の髪をした長身男性に時計を預けているので彼から受け取ってくれ。目を惹く美形だからすぐにわかるはずだよ>
広い空港だ。
茶髪の長身男性なんて星の数ほどいそうだが、倉橋くんがこれだけの情報しか伝えてこないところを見ると、そんなにもわかりやすいということか?
目を惹く美形、ね……。
倉橋くんこそが美形だと思うが、その彼が言う美形とはどれほどのものかな。
少し興味を持ちながら、到着口へ向かうと扉を出て辺りを見回した途端、目に飛び込んできた美形がいた。
長身で茶髪の美形。
彼に間違いない。
私は少し離れた位置にいた彼に一直線に向かうと、彼はすでに私のことを知っていたように口角を上げた。
「あの――」
「八尋、崇史さんですね」
私が尋ねるよりも先に名前を言われて、
「はい。そうです」
と答えるしかなかった。
「倉橋さんからの依頼で時計をお届けに上がりました」
「わざわざ空港までお越しいただきありがとうございます」
手渡された時計を確認して、ポケットに入れながらお礼をいうと
「いえ、要件はこれだけではありませんから」
と笑顔で微笑まれた。
「というと?」
「ふふっ。私、こういうものです」
流れるような手つきで、胸ポケットから名刺入れを取り出して、スッと一枚抜き取り私に手渡した。
営業マンだったらこれだけで優秀だとわかる。
「えっ――!!」
名刺の名前を理解した瞬間、私の口から驚きの声が漏れた。
それもそのはず。
そこには<成瀬優一>と書かれていたのだから。
「あ、あの……成瀬さん? 私が先ほどメッセージを送ったのは、あなたですか?」
「ふふっ。ええ。そうです。安慶名の友人で、義弟でもある成瀬です」
「えっ、でもここに来たのは倉橋さんからの依頼ですよね?」
「ええ、私も驚きましたよ。同時進行で倉橋さんと安慶名と二人からあなたへの依頼を受けたんですから」
「同時進行で、依頼を?」
「ふふっ。話せば長くなりますから、後は車内で話しましょう。目的地までお送りしますよ」
「あ、ありがとうございます」
なんだろう。
人当たりの良さそうな笑顔なのに、どこにも隙がない。
そういえば安慶名さんが、成瀬さんは調査員の仕事もしていると言っていたな。
話を聞いた時は弁護士の傍でやっているくらいだからそこまでとは思わなかったが、倉橋くんの依頼を受けているのが彼だとしたら、かなりの腕前ということだ。
隙がないのも納得だな。
「あっ、そういえば……」
「はい。何かありましたか?」
「いえ、安慶名さんから成瀬さんの恋人が、あの……真琴くんだと伺ったのですが……」
「ええ、そうですよ。だから、安慶名と私は義兄弟になりますね」
「あの、そうではなくて……こんな時間に真琴くんを一人にして大丈夫なんですか? 私のためにわざわざ申し訳ないと思いまして……」
もう夜の9時半になろうとしている。
砂川さんからは、真琴くんは恋人にかなり溺愛されていると聞いていた。
それが本当なら、こんな時間に家に一人になんてさせないはずだ。
「ああ、それなら問題はありません。今は安慶名の実家にお願いしているんです」
「えっ? 安慶名さんのご実家に?」
「ええ。仕事柄、夜出歩くことがあるのでその時は安慶名の実家や、もう一人の友人の家に真琴を預かってもらっているんです。安慶名の義両親は真琴のことをかなり気に入っているので、預けると喜んでくれるんですよ。だから大丈夫です」
「なるほど……それなら安心ですね」
とりあえずは真琴くんが一人でないなら安心だ。
そんな話をしているうちに駐車場に着いた。
「荷物はトランクへどうぞ。入れたら助手席に乗ってください」
そういうと、彼は颯爽と運転席に乗り込んだ。
私は急いで荷物をトランクに乗せ、助手席に座った。
「シートベルトをしたら、こちらをどうぞ」
彼は大きな封筒を手渡してきて、私が受け取ると車は動き出した。
「倉橋さんの依頼で、あなたのご実家の件を調査していました。それは調査報告書です」
「えっ? もうこんなに?」
倉橋くんには以前から祖父の会社と父親の件について相談はしていたが、今回祖父が亡くなったのは病気療養中とはいえかなり突発的なことで、その話もついさっきしたばかりだというのに動きが早すぎる。
「実は、倉橋さんの恋人の藤乃航くんと、八尋さんの大事な方である平松友貴也さんが以前勤めていた会社と繋がりを持っていた人物が八尋さんのお身内にいることがわかったんです。それで後々役に立つことがあるだろうと少し前に倉橋さんから調査依頼を受けました」
「な――っ、それは本当ですか?」
「ええ。玻名崎商会の元社長・玻名崎と八尋さん……あなたの父親に繋がりがありました」
私の身内にと聞いてもしかして……と思っていたが、やはりそうか……。
これは全てまとめて終わらせるしかないな。
<到着口にいる綺麗な茶色の髪をした長身男性に時計を預けているので彼から受け取ってくれ。目を惹く美形だからすぐにわかるはずだよ>
広い空港だ。
茶髪の長身男性なんて星の数ほどいそうだが、倉橋くんがこれだけの情報しか伝えてこないところを見ると、そんなにもわかりやすいということか?
目を惹く美形、ね……。
倉橋くんこそが美形だと思うが、その彼が言う美形とはどれほどのものかな。
少し興味を持ちながら、到着口へ向かうと扉を出て辺りを見回した途端、目に飛び込んできた美形がいた。
長身で茶髪の美形。
彼に間違いない。
私は少し離れた位置にいた彼に一直線に向かうと、彼はすでに私のことを知っていたように口角を上げた。
「あの――」
「八尋、崇史さんですね」
私が尋ねるよりも先に名前を言われて、
「はい。そうです」
と答えるしかなかった。
「倉橋さんからの依頼で時計をお届けに上がりました」
「わざわざ空港までお越しいただきありがとうございます」
手渡された時計を確認して、ポケットに入れながらお礼をいうと
「いえ、要件はこれだけではありませんから」
と笑顔で微笑まれた。
「というと?」
「ふふっ。私、こういうものです」
流れるような手つきで、胸ポケットから名刺入れを取り出して、スッと一枚抜き取り私に手渡した。
営業マンだったらこれだけで優秀だとわかる。
「えっ――!!」
名刺の名前を理解した瞬間、私の口から驚きの声が漏れた。
それもそのはず。
そこには<成瀬優一>と書かれていたのだから。
「あ、あの……成瀬さん? 私が先ほどメッセージを送ったのは、あなたですか?」
「ふふっ。ええ。そうです。安慶名の友人で、義弟でもある成瀬です」
「えっ、でもここに来たのは倉橋さんからの依頼ですよね?」
「ええ、私も驚きましたよ。同時進行で倉橋さんと安慶名と二人からあなたへの依頼を受けたんですから」
「同時進行で、依頼を?」
「ふふっ。話せば長くなりますから、後は車内で話しましょう。目的地までお送りしますよ」
「あ、ありがとうございます」
なんだろう。
人当たりの良さそうな笑顔なのに、どこにも隙がない。
そういえば安慶名さんが、成瀬さんは調査員の仕事もしていると言っていたな。
話を聞いた時は弁護士の傍でやっているくらいだからそこまでとは思わなかったが、倉橋くんの依頼を受けているのが彼だとしたら、かなりの腕前ということだ。
隙がないのも納得だな。
「あっ、そういえば……」
「はい。何かありましたか?」
「いえ、安慶名さんから成瀬さんの恋人が、あの……真琴くんだと伺ったのですが……」
「ええ、そうですよ。だから、安慶名と私は義兄弟になりますね」
「あの、そうではなくて……こんな時間に真琴くんを一人にして大丈夫なんですか? 私のためにわざわざ申し訳ないと思いまして……」
もう夜の9時半になろうとしている。
砂川さんからは、真琴くんは恋人にかなり溺愛されていると聞いていた。
それが本当なら、こんな時間に家に一人になんてさせないはずだ。
「ああ、それなら問題はありません。今は安慶名の実家にお願いしているんです」
「えっ? 安慶名さんのご実家に?」
「ええ。仕事柄、夜出歩くことがあるのでその時は安慶名の実家や、もう一人の友人の家に真琴を預かってもらっているんです。安慶名の義両親は真琴のことをかなり気に入っているので、預けると喜んでくれるんですよ。だから大丈夫です」
「なるほど……それなら安心ですね」
とりあえずは真琴くんが一人でないなら安心だ。
そんな話をしているうちに駐車場に着いた。
「荷物はトランクへどうぞ。入れたら助手席に乗ってください」
そういうと、彼は颯爽と運転席に乗り込んだ。
私は急いで荷物をトランクに乗せ、助手席に座った。
「シートベルトをしたら、こちらをどうぞ」
彼は大きな封筒を手渡してきて、私が受け取ると車は動き出した。
「倉橋さんの依頼で、あなたのご実家の件を調査していました。それは調査報告書です」
「えっ? もうこんなに?」
倉橋くんには以前から祖父の会社と父親の件について相談はしていたが、今回祖父が亡くなったのは病気療養中とはいえかなり突発的なことで、その話もついさっきしたばかりだというのに動きが早すぎる。
「実は、倉橋さんの恋人の藤乃航くんと、八尋さんの大事な方である平松友貴也さんが以前勤めていた会社と繋がりを持っていた人物が八尋さんのお身内にいることがわかったんです。それで後々役に立つことがあるだろうと少し前に倉橋さんから調査依頼を受けました」
「な――っ、それは本当ですか?」
「ええ。玻名崎商会の元社長・玻名崎と八尋さん……あなたの父親に繋がりがありました」
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これは全てまとめて終わらせるしかないな。
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