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差し入れを届けよう
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仲間さんたちに泡盛といつもの料理をいくつか出すと、
「こっちは適当にやるからいいよ」
と言ってくれた。
お言葉に甘えて、松川くんを平松くんの席ではないカウンター席に座らせて、早速泡盛で乾杯することにした。
「せっかく松川くんがきてるのに、夕食は別々なんて寂しいんじゃないか?」
「いえ、夜は長いですから」
「ああ、なるほど」
今夜はあのローションを使って甘々な夜か。
羨ましい。
「八尋さん、実は安慶名さんから砂川さんに……というか、あの三人に贈り物を預かっているんですよ」
「贈り物?」
「ええ。デザートのチーズケーキです。これから届けに行きませんか?」
そう言って松川くんは持っていた紙袋を掲げてみせた。
「それはいいな。じゃあ、私も黒糖ゼリーを届けよう。用意するからちょっと待っててくれ」
元々届けるつもりで昨夜から仕込んでおいて正解だったな。
松川くんも届け物があるならちょうどいい。
保冷機能付きのケースに入れて松川くんの元に戻ると、松川くんは仲間さんたちのところで楽しそうにおしゃべりをしているようだった。
「待たせたかな?」
「いや、八尋さんの鈍感な子猫ちゃんのことを聞いてたんで楽しかったですよ」
「ああ、そうか。仲間さんたちにはいつもお世話になってるからな」
「いや、俺たちもここにきて、楽しませてもらってるよ。八尋さんの滅多にみられない顔も見られるし、本当に酒が進むよ」
「それは私も見たいものですね」
「大丈夫、あの子と一緒にいるとこ見られたらすぐにわかるよ。表情がまるっきり違うからな」
「そんなに揶揄わないでくださいよ」
「ははっ。悪い、悪い」
こんなふうに笑い合えるのがこんなにも楽しいとは。
仲間さんたち常連さんとの距離も平松くんのおかげでさらに近づいた気がするな。
「どこか行くのかい?」
「ええ、ちょっと私の郁未のところに八尋さんとデザートでも持って行ってやろうかと」
「ああ、それはいいな。八尋さん、店番しながら呑んどくから、行ってきなよ。二人が帰ってきたら我々は帰るよ」
「すみません、じゃあお願いします」
そう言って、彼らに店を任せ、私は松川くんと店を出た。
「仲間さんたち、いつもあんな感じなんですか?」
「ああ、そうだな。彼らのおかげで店をやりながらも平松くんとの時間を過ごせるから感謝してるよ」
「彼、『魂の片割れ』なんですって?」
「それも聞いたのか。そうだよ、平良のおばあちゃんが教えてくれた。だから、少しくらい手間取っても気にしてないんだ。私たちはいずれくっつく運命だってわかっているからね」
「ああ、だからガツガツしてないんですか? 仲間さんたち言ってましたよ。初々しい中学生みたいな恋愛してるって」
「ははっ。この年でそんなのを体験するなんてそうそうできることじゃないからな、楽しんでるんだよ。うちの可愛い子猫を怯えさせるわけにはいかないからな」
「ふふっ。本当に可愛いですね。だから郁未も砂川さんも彼が可愛くて仕方がないんだろうな」
「きっと弟みたいに思ってるんだろう。確か砂川さんのところの弟さんと同じ年のはずだから」
「なるほどね。それは納得です」
そんな話をしている間にあっという間に名嘉村くんの家に到着した。
手慣れた様子で玄関ベルを鳴らす松川くんの隣で少し隠れて立っていると、インターフォンから
「はーい」
と楽しげな名嘉村くんの声が聞こえる。
「差し入れ持ってきたよ」
松川くんのあまりにも甘い声に思わず笑ってしまうが、きっと私も平松くんに対しては同じような声を出しているんだろう。
ガチャリと玄関が開き、笑顔の名嘉村くんが現れた。
やはり松川くんに向ける笑顔は特別なんだな。
「あっ、八尋さんも一緒ですか」
「ああ、平松くんは何してる?」
「すぐに呼びますね」
そういうとすぐに名嘉村くんは部屋の中にいる二人に向かって声をかけた。
砂川さんと一緒に出てきた平松くんに手を振りながら声をかけると、一瞬顔が綻んだのがわかった。
くっ! 可愛い!
この笑顔が私に会えて嬉しいという笑顔なんだと思ったらたまらなく嬉しかった。
「八尋さん、どうしてここに?」
と駆け寄ってきてくれる平松くんはまるで尻尾を振っているかのようだ。
ああ、もう本当に可愛いな。
「彼が君たちに差し入れを持っていくって聞いたから、私も一緒に差し入れを持ってきたんだよ。これ、デザート」
黒糖ゼリーの入った保冷ケースを渡すと目を輝かせて喜んでくれた。
そんな私たちの様子を見て、松川くんが目を細めながら口を開く。
「ふふっ。こんなに喜んでくれるなら作り甲斐があるでしょう、八尋さん」
きっと松川くんも平松くんの可愛さに気づいたのだろう。
もちろん名嘉村くんへの想いとは全く別物だろうけど。
私たちが仲良さそうに会話をしているのを見て、何か言いたげな平松くんの表情が見える。
きっと松川くんがどんな人なのか気になっているのだろう。
すると、名嘉村くんがそっと松川くんのそばに寄り添って
「平松くん、紹介するよ」
と声をかけた。
きっとこうやって本人を前にして紹介したかったのだろう。
名嘉村くんはすごく嬉しそうだ。
平松くんは二人の関係を知ってどんな反応を示すだろうな。
「こっちは適当にやるからいいよ」
と言ってくれた。
お言葉に甘えて、松川くんを平松くんの席ではないカウンター席に座らせて、早速泡盛で乾杯することにした。
「せっかく松川くんがきてるのに、夕食は別々なんて寂しいんじゃないか?」
「いえ、夜は長いですから」
「ああ、なるほど」
今夜はあのローションを使って甘々な夜か。
羨ましい。
「八尋さん、実は安慶名さんから砂川さんに……というか、あの三人に贈り物を預かっているんですよ」
「贈り物?」
「ええ。デザートのチーズケーキです。これから届けに行きませんか?」
そう言って松川くんは持っていた紙袋を掲げてみせた。
「それはいいな。じゃあ、私も黒糖ゼリーを届けよう。用意するからちょっと待っててくれ」
元々届けるつもりで昨夜から仕込んでおいて正解だったな。
松川くんも届け物があるならちょうどいい。
保冷機能付きのケースに入れて松川くんの元に戻ると、松川くんは仲間さんたちのところで楽しそうにおしゃべりをしているようだった。
「待たせたかな?」
「いや、八尋さんの鈍感な子猫ちゃんのことを聞いてたんで楽しかったですよ」
「ああ、そうか。仲間さんたちにはいつもお世話になってるからな」
「いや、俺たちもここにきて、楽しませてもらってるよ。八尋さんの滅多にみられない顔も見られるし、本当に酒が進むよ」
「それは私も見たいものですね」
「大丈夫、あの子と一緒にいるとこ見られたらすぐにわかるよ。表情がまるっきり違うからな」
「そんなに揶揄わないでくださいよ」
「ははっ。悪い、悪い」
こんなふうに笑い合えるのがこんなにも楽しいとは。
仲間さんたち常連さんとの距離も平松くんのおかげでさらに近づいた気がするな。
「どこか行くのかい?」
「ええ、ちょっと私の郁未のところに八尋さんとデザートでも持って行ってやろうかと」
「ああ、それはいいな。八尋さん、店番しながら呑んどくから、行ってきなよ。二人が帰ってきたら我々は帰るよ」
「すみません、じゃあお願いします」
そう言って、彼らに店を任せ、私は松川くんと店を出た。
「仲間さんたち、いつもあんな感じなんですか?」
「ああ、そうだな。彼らのおかげで店をやりながらも平松くんとの時間を過ごせるから感謝してるよ」
「彼、『魂の片割れ』なんですって?」
「それも聞いたのか。そうだよ、平良のおばあちゃんが教えてくれた。だから、少しくらい手間取っても気にしてないんだ。私たちはいずれくっつく運命だってわかっているからね」
「ああ、だからガツガツしてないんですか? 仲間さんたち言ってましたよ。初々しい中学生みたいな恋愛してるって」
「ははっ。この年でそんなのを体験するなんてそうそうできることじゃないからな、楽しんでるんだよ。うちの可愛い子猫を怯えさせるわけにはいかないからな」
「ふふっ。本当に可愛いですね。だから郁未も砂川さんも彼が可愛くて仕方がないんだろうな」
「きっと弟みたいに思ってるんだろう。確か砂川さんのところの弟さんと同じ年のはずだから」
「なるほどね。それは納得です」
そんな話をしている間にあっという間に名嘉村くんの家に到着した。
手慣れた様子で玄関ベルを鳴らす松川くんの隣で少し隠れて立っていると、インターフォンから
「はーい」
と楽しげな名嘉村くんの声が聞こえる。
「差し入れ持ってきたよ」
松川くんのあまりにも甘い声に思わず笑ってしまうが、きっと私も平松くんに対しては同じような声を出しているんだろう。
ガチャリと玄関が開き、笑顔の名嘉村くんが現れた。
やはり松川くんに向ける笑顔は特別なんだな。
「あっ、八尋さんも一緒ですか」
「ああ、平松くんは何してる?」
「すぐに呼びますね」
そういうとすぐに名嘉村くんは部屋の中にいる二人に向かって声をかけた。
砂川さんと一緒に出てきた平松くんに手を振りながら声をかけると、一瞬顔が綻んだのがわかった。
くっ! 可愛い!
この笑顔が私に会えて嬉しいという笑顔なんだと思ったらたまらなく嬉しかった。
「八尋さん、どうしてここに?」
と駆け寄ってきてくれる平松くんはまるで尻尾を振っているかのようだ。
ああ、もう本当に可愛いな。
「彼が君たちに差し入れを持っていくって聞いたから、私も一緒に差し入れを持ってきたんだよ。これ、デザート」
黒糖ゼリーの入った保冷ケースを渡すと目を輝かせて喜んでくれた。
そんな私たちの様子を見て、松川くんが目を細めながら口を開く。
「ふふっ。こんなに喜んでくれるなら作り甲斐があるでしょう、八尋さん」
きっと松川くんも平松くんの可愛さに気づいたのだろう。
もちろん名嘉村くんへの想いとは全く別物だろうけど。
私たちが仲良さそうに会話をしているのを見て、何か言いたげな平松くんの表情が見える。
きっと松川くんがどんな人なのか気になっているのだろう。
すると、名嘉村くんがそっと松川くんのそばに寄り添って
「平松くん、紹介するよ」
と声をかけた。
きっとこうやって本人を前にして紹介したかったのだろう。
名嘉村くんはすごく嬉しそうだ。
平松くんは二人の関係を知ってどんな反応を示すだろうな。
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