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自分から気づくように……
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「今日は夕食をうちで食べて帰るだろう?」
そう誘うと平松くんは定休日だからと遠慮しようとしたが、食材は豊富にあるし、それどころか最初から食べさせるつもりで準備もしている。
帰すつもりなんてさらさらない。
断らせないように理由をつけて誘えば、
「それじゃあ、お言葉に甘えて……」
と誘いに乗ってくれた。
「ああ、いっぱい甘えてくれていいよ」
もうそろそろ私の思いにも気づいてもらっても良いかと胸の内を少し出してみたのだが、彼がその言葉に反応すると同時にまたもやそれを遮るものが現れた。
今度はイリオモテヤマネコではない。
少し先で手を振る見慣れた姿。
ああ、平良のおばあちゃんか。
彼女はこの島のユタと言える存在だ。
ユタというのは沖縄では霊的能力のある人という意味で、稀に男性もいるがそのほとんどは女性とされている。
平良のおばあちゃんの場合は、人の持つ心の美しさが特に際立って見えるようで安慶名さんも初めて会った時に褒められたと砂川さんが教えてくれた。
砂川さんに良い相手が現れたと平良のおばあちゃんが認めてくれたことで、安慶名さんは砂川さんの恋人として島民に受け入れられたということだろう。
言うなれば、平良のおばあちゃんに気に入られることは、この島民全てから付き合いを祝福されるようなものだ。
平良のおばあちゃんに平松くんが気に入られれば、この島で暮らし続けてもいうことはないが、もし、平松くんが認められないことがあれば、私は平松くんを連れてこの島から出よう。
もちろん、平良のおばあちゃんの持つ能力を信じていないわけではないが、私も私自身の持つ直感を大切にしたい。
私は平松くんを生涯愛すると心に決めているのだから。
緊張しつつ、平良のおばあちゃんの近くに車を止め、声をかけながら降りた。
「あいっ、八尋さん。ちょうど良かったさぁ。この野菜と果物、『チムガナサン』に持っていこうと思っていたんだよ。これ、持っていってぇ」
平松くんが一緒なのはわかっているはずなのに、その声に訝しさは微塵もない。
ということは平松くんは平良のおばあちゃんに気に入られたということか。
嬉しくなりながら、荷物を受け取ると中には希少なピーチパインが入っていた。
そのことに気づいておばあちゃんに声をかけると、
「新しくこの島に来てくれた彼に食べて欲しくてねぇ」
と助手席に座る平松くんに視線を向けて笑顔を見せた。
その視線に気づいた平松くんは急いで車から降り、私と平良のおばあちゃんのそばに駆け寄った。
「ふふっ。いい子だねぇ。そんないい子にうちのパイン、食べて欲しいんだよ」
平良のおばあちゃんはまるで孫を愛でるかのような優しい視線を向け、嬉しそうに箱からまだ硬い葉と棘がついたままのパイナップルを取り出して見せた。
「わっ! 原型のままのパイナップル、初めて実物見ました! わぁー、本当にすごいな」
そんな可愛らしい反応に私も、平良のおばあちゃんも思わず笑みが溢れる。
「ふふっ。八尋さん、良い子が現れたね。この子は本当に魂の綺麗な子だよ。絶対に手放してはいけないさ」
平松くんに柔らかな視線を向けたまま、私だけに聞こえる声でそう囁く。
「ええ。そのつもりです」
「ふふっ。この子はイリオモテヤマネコと一緒。怯えさせると自分を隠してしまうから、自分から気づくようにしてあげないとね」
平良のおばあちゃんがここまで言葉をかけてくれるのは珍しい。
それほど平松くんが手強いということなのかもしれない。
「じっくり囲い込んでからにしますよ」
そういうと、平良のおばあちゃんは楽しそうに笑っていた。
「匂いを嗅いでごらん」
平良のおばあちゃんが差し出したパイナップルに少し緊張した様子で鼻を近づける平松くんを見ると、本当にイリオモテヤマネコに見えてくる。
ふふっ。可愛いな。
パイナップルの甘い香りを感じたのか、一気に顔を綻ばせる平松くんを見るだけで幸せな気持ちになる。
『八尋さん、頑張りなさいよ。この子は八尋さんの魂の片割れだからね』
平良のおばあちゃんが方言でそう伝えてくれる。
おばあちゃんの言う魂の片割れというのは、運命の相手だということだ。
そう言われて納得しかない。
なんせ、平松くんにしかこんな気持ちを抱いたことがないのだから。
もう本当に手放すわけにはいかないな。
今夜にでも私から思いを告げようと思っていたが、平松くんが私を求めてくれるようになるまでじっくりたっぷり甘やかすとするか。
まだまだたっぷり時間はある。
焦る必要などどこにもないな。
平良のおばあちゃんにお礼を言い、私は平松くんを連れて車に戻った。
「あの、お裾分けってなんですか?」
車が進み出してすぐに平松くんがそんなことを聞いてくる。
私が平良のおばあちゃんと別れる時に今度お裾分けを持っていくと言っていたのが聞こえたのだろう。
食材をもらう代わりに料理を作って持っていくと伝えると、私が島民のみんなから慕われていてすごいと言ってくれるが、私以上に受け入れられているのは平松くんの方だろう。
今はまだ知らない人がいたとしても平良のおばあちゃんの言葉で今日中に島内全域に平松くんの存在は知れ渡るだろう。
「K.Yリゾートに可愛い新人さんが入ったって評判になってるよ」
そういうと、平松くんはほんのり頬を染める。
その表情がすでに可愛い。
早く平松くんが私の思いに気づいてくれたら良いのだがな。
そう誘うと平松くんは定休日だからと遠慮しようとしたが、食材は豊富にあるし、それどころか最初から食べさせるつもりで準備もしている。
帰すつもりなんてさらさらない。
断らせないように理由をつけて誘えば、
「それじゃあ、お言葉に甘えて……」
と誘いに乗ってくれた。
「ああ、いっぱい甘えてくれていいよ」
もうそろそろ私の思いにも気づいてもらっても良いかと胸の内を少し出してみたのだが、彼がその言葉に反応すると同時にまたもやそれを遮るものが現れた。
今度はイリオモテヤマネコではない。
少し先で手を振る見慣れた姿。
ああ、平良のおばあちゃんか。
彼女はこの島のユタと言える存在だ。
ユタというのは沖縄では霊的能力のある人という意味で、稀に男性もいるがそのほとんどは女性とされている。
平良のおばあちゃんの場合は、人の持つ心の美しさが特に際立って見えるようで安慶名さんも初めて会った時に褒められたと砂川さんが教えてくれた。
砂川さんに良い相手が現れたと平良のおばあちゃんが認めてくれたことで、安慶名さんは砂川さんの恋人として島民に受け入れられたということだろう。
言うなれば、平良のおばあちゃんに気に入られることは、この島民全てから付き合いを祝福されるようなものだ。
平良のおばあちゃんに平松くんが気に入られれば、この島で暮らし続けてもいうことはないが、もし、平松くんが認められないことがあれば、私は平松くんを連れてこの島から出よう。
もちろん、平良のおばあちゃんの持つ能力を信じていないわけではないが、私も私自身の持つ直感を大切にしたい。
私は平松くんを生涯愛すると心に決めているのだから。
緊張しつつ、平良のおばあちゃんの近くに車を止め、声をかけながら降りた。
「あいっ、八尋さん。ちょうど良かったさぁ。この野菜と果物、『チムガナサン』に持っていこうと思っていたんだよ。これ、持っていってぇ」
平松くんが一緒なのはわかっているはずなのに、その声に訝しさは微塵もない。
ということは平松くんは平良のおばあちゃんに気に入られたということか。
嬉しくなりながら、荷物を受け取ると中には希少なピーチパインが入っていた。
そのことに気づいておばあちゃんに声をかけると、
「新しくこの島に来てくれた彼に食べて欲しくてねぇ」
と助手席に座る平松くんに視線を向けて笑顔を見せた。
その視線に気づいた平松くんは急いで車から降り、私と平良のおばあちゃんのそばに駆け寄った。
「ふふっ。いい子だねぇ。そんないい子にうちのパイン、食べて欲しいんだよ」
平良のおばあちゃんはまるで孫を愛でるかのような優しい視線を向け、嬉しそうに箱からまだ硬い葉と棘がついたままのパイナップルを取り出して見せた。
「わっ! 原型のままのパイナップル、初めて実物見ました! わぁー、本当にすごいな」
そんな可愛らしい反応に私も、平良のおばあちゃんも思わず笑みが溢れる。
「ふふっ。八尋さん、良い子が現れたね。この子は本当に魂の綺麗な子だよ。絶対に手放してはいけないさ」
平松くんに柔らかな視線を向けたまま、私だけに聞こえる声でそう囁く。
「ええ。そのつもりです」
「ふふっ。この子はイリオモテヤマネコと一緒。怯えさせると自分を隠してしまうから、自分から気づくようにしてあげないとね」
平良のおばあちゃんがここまで言葉をかけてくれるのは珍しい。
それほど平松くんが手強いということなのかもしれない。
「じっくり囲い込んでからにしますよ」
そういうと、平良のおばあちゃんは楽しそうに笑っていた。
「匂いを嗅いでごらん」
平良のおばあちゃんが差し出したパイナップルに少し緊張した様子で鼻を近づける平松くんを見ると、本当にイリオモテヤマネコに見えてくる。
ふふっ。可愛いな。
パイナップルの甘い香りを感じたのか、一気に顔を綻ばせる平松くんを見るだけで幸せな気持ちになる。
『八尋さん、頑張りなさいよ。この子は八尋さんの魂の片割れだからね』
平良のおばあちゃんが方言でそう伝えてくれる。
おばあちゃんの言う魂の片割れというのは、運命の相手だということだ。
そう言われて納得しかない。
なんせ、平松くんにしかこんな気持ちを抱いたことがないのだから。
もう本当に手放すわけにはいかないな。
今夜にでも私から思いを告げようと思っていたが、平松くんが私を求めてくれるようになるまでじっくりたっぷり甘やかすとするか。
まだまだたっぷり時間はある。
焦る必要などどこにもないな。
平良のおばあちゃんにお礼を言い、私は平松くんを連れて車に戻った。
「あの、お裾分けってなんですか?」
車が進み出してすぐに平松くんがそんなことを聞いてくる。
私が平良のおばあちゃんと別れる時に今度お裾分けを持っていくと言っていたのが聞こえたのだろう。
食材をもらう代わりに料理を作って持っていくと伝えると、私が島民のみんなから慕われていてすごいと言ってくれるが、私以上に受け入れられているのは平松くんの方だろう。
今はまだ知らない人がいたとしても平良のおばあちゃんの言葉で今日中に島内全域に平松くんの存在は知れ渡るだろう。
「K.Yリゾートに可愛い新人さんが入ったって評判になってるよ」
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早く平松くんが私の思いに気づいてくれたら良いのだがな。
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