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番外編
千鶴たちとの対面 10
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<side大智>
透也に見せて終わりだと思っていたのに、なぜか外で食事まですることになってしまった。
確かに千鶴たちのように、日本で透也と手を繋いで、腕を組んで歩けたら……とは思っていたけれど、この姿がもし女装だと知られたら俺だけじゃなく透也まで恥をかかせてしまう。
それだけが嫌だったけれど、なぜか自信満々な透也をみて了承した。
どうせ数日しか日本にいないんだ。バレて騒ぎになってしまったとしても次に来た時には誰の記憶にも残ってない。
それならいい。
覚悟を決めたところで、食事の前に靴を買いに行くことになってしまった。
透也に抱きかかえられたまま、長瀬さんの車の後部座席に乗せられ、あっという間に靴屋に到着した。
「えっ? ここ?」
俺の想像していた靴屋とはかなり様子が違う。明らかに高そうな佇まいに怖気付いてしまう。
「あの……俺、車の中で待ってるってわけにはいかないよな?」
「お兄ちゃんの靴買いに来たんだからそれは無理でしょ。お兄ちゃん、今のサイズはわからないでしょう?」
「そう、だな……」
「大丈夫よ、お兄ちゃん。ここのお店、私も初めて連れて行ってもらった時は緊張したけど、靴の種類は多いし、気にいるものが必ず見つかるよ」
「あ、うん……」
そう返事しつつも、とりあえずなんでもいいから選ぼう。そんな気持ちしかなかった。
「大智、行きましょうか」
透也は俺を抱きかかえたまま、車を降りた。
公衆の面前でいわゆる姫抱きをされている俺に周りからの視線がとてつもなく注がれる。
「わっ! ちょっ――!」
「大人しくしててください。大智は今、裸足なんですから一人で歩けないんですよ」
そう言われて自分が靴を履いてなかったことを思い出す。
この服に似合ってなくても靴を買うまでの間、とりあえずなんでも履いてきたらよかったと後悔してももう遅い。
あまりにも周りから見られすぎて恥ずかしくて透也の胸に顔を隠すと、
「いいですよ、そのまま顔を隠しててください」
となぜか嬉しそうな透也の声が聞こえる。
もしかしたら男だとバレかけているのかもしれないと思ったけれど、
「大智の照れて可愛い顔は俺だけのなんで」
と言われてさらに顔が赤くなる。
こんな時にそんな独占欲を見せられて嬉しくないわけがない。
「ばかっ!」
そう言ったけれど、いつでも俺しか見えてない。透也のそんなところが嬉しかった。
千鶴と長瀬さんが入って行った店に、透也に抱きかかえられたまま俺たちも入ると、
「いらっしゃいませ」
笑顔で出迎えられる。
どうやら千鶴たちの担当らしい人がやってきて、話をしている。
俺と透也は店に並べられた靴に目を向けていた。
「サンダルとミュールはあちらのようですね」
「俺、わからないから透也が決めてくれ」
「いいんですか?」
「ああ、頼むよ」
いつも俺に似合うものを選んでくれる透也なら、女性物の靴でも大丈夫だろう。
透也は俺を抱きかかえたままサンダルコーナーをさっと見ると、あるサンダルを見て近くにいたスタッフに声をかけた。
「このサンダル、お願いします」
「はい。サイズはおいくつでいらっしゃいますか?」
「そうだな……とりあえず24cmで」
「承知しました。すぐにお持ちいたします」
スタッフはすぐにサンダルの箱を持って戻ってきた。
透也は俺を、鏡の前にある一人掛け用のソファーに座らせるとスタッフから箱を受け取った。
透也は俺の前に片膝をつくと、箱から手際よくサンダルを取り出し、俺の足をとって履かせてくれる。
まるで王子さまがシンデレラにガラスの靴を履かせるようなそのポーズに驚いてしまう。
「わっ! 自分で履けるって」
「しっ。静かに。大声出すとバレますよ」
「あっ!」
慌てて口を押さえて周りを見ると、少し離れた場所にいる長瀬さんと千鶴の周りにスタッフが集まっているのが見える。
どうやら俺の声は聞こえていなかったみたいでホッとする。
「さぁ、履けましたよ」
「あ、ありがとう」
「ヒールが低めのものにしておいたので歩きやすいと思いますよ」
そう言いながら手を差し出されてその手を取った。
透也の大きな手に包み込まれて立ち上がると、この靴の履きやすさに驚く。
「あ、これ。いいな。全然痛くない」
「じゃあ、これにしましょうか」
透也は手を挙げてスタッフを呼ぶとこのサンダルを購入することと、このまま履いて帰ることを告げた。
支払いに俺の財布を出そうとして持ってくるのを忘れたことに気づいたけれど、その前にさっさと透也が支払いのカードをスタッフに渡していた。
「ごめん、後で返すから」
「いいんですよ。俺に買わせてください」
「でも……」
「そんな可愛い姿を見せてもらえただけでお釣りが来ますよ」
嬉しそうにそんなことを言われたらそれ以上何も言えなかった。
「あ、そのサンダル素敵! よく似合ってるよ」
「ありがとう」
俺たちのところにやってきた千鶴がすぐに褒めてくれて嬉しい。
腕を組んで店を出る千鶴たちの真似をするように、俺たちもピッタリと寄り添って腕を組んで店を出た。
ああ、本当に幸せだ。
透也に見せて終わりだと思っていたのに、なぜか外で食事まですることになってしまった。
確かに千鶴たちのように、日本で透也と手を繋いで、腕を組んで歩けたら……とは思っていたけれど、この姿がもし女装だと知られたら俺だけじゃなく透也まで恥をかかせてしまう。
それだけが嫌だったけれど、なぜか自信満々な透也をみて了承した。
どうせ数日しか日本にいないんだ。バレて騒ぎになってしまったとしても次に来た時には誰の記憶にも残ってない。
それならいい。
覚悟を決めたところで、食事の前に靴を買いに行くことになってしまった。
透也に抱きかかえられたまま、長瀬さんの車の後部座席に乗せられ、あっという間に靴屋に到着した。
「えっ? ここ?」
俺の想像していた靴屋とはかなり様子が違う。明らかに高そうな佇まいに怖気付いてしまう。
「あの……俺、車の中で待ってるってわけにはいかないよな?」
「お兄ちゃんの靴買いに来たんだからそれは無理でしょ。お兄ちゃん、今のサイズはわからないでしょう?」
「そう、だな……」
「大丈夫よ、お兄ちゃん。ここのお店、私も初めて連れて行ってもらった時は緊張したけど、靴の種類は多いし、気にいるものが必ず見つかるよ」
「あ、うん……」
そう返事しつつも、とりあえずなんでもいいから選ぼう。そんな気持ちしかなかった。
「大智、行きましょうか」
透也は俺を抱きかかえたまま、車を降りた。
公衆の面前でいわゆる姫抱きをされている俺に周りからの視線がとてつもなく注がれる。
「わっ! ちょっ――!」
「大人しくしててください。大智は今、裸足なんですから一人で歩けないんですよ」
そう言われて自分が靴を履いてなかったことを思い出す。
この服に似合ってなくても靴を買うまでの間、とりあえずなんでも履いてきたらよかったと後悔してももう遅い。
あまりにも周りから見られすぎて恥ずかしくて透也の胸に顔を隠すと、
「いいですよ、そのまま顔を隠しててください」
となぜか嬉しそうな透也の声が聞こえる。
もしかしたら男だとバレかけているのかもしれないと思ったけれど、
「大智の照れて可愛い顔は俺だけのなんで」
と言われてさらに顔が赤くなる。
こんな時にそんな独占欲を見せられて嬉しくないわけがない。
「ばかっ!」
そう言ったけれど、いつでも俺しか見えてない。透也のそんなところが嬉しかった。
千鶴と長瀬さんが入って行った店に、透也に抱きかかえられたまま俺たちも入ると、
「いらっしゃいませ」
笑顔で出迎えられる。
どうやら千鶴たちの担当らしい人がやってきて、話をしている。
俺と透也は店に並べられた靴に目を向けていた。
「サンダルとミュールはあちらのようですね」
「俺、わからないから透也が決めてくれ」
「いいんですか?」
「ああ、頼むよ」
いつも俺に似合うものを選んでくれる透也なら、女性物の靴でも大丈夫だろう。
透也は俺を抱きかかえたままサンダルコーナーをさっと見ると、あるサンダルを見て近くにいたスタッフに声をかけた。
「このサンダル、お願いします」
「はい。サイズはおいくつでいらっしゃいますか?」
「そうだな……とりあえず24cmで」
「承知しました。すぐにお持ちいたします」
スタッフはすぐにサンダルの箱を持って戻ってきた。
透也は俺を、鏡の前にある一人掛け用のソファーに座らせるとスタッフから箱を受け取った。
透也は俺の前に片膝をつくと、箱から手際よくサンダルを取り出し、俺の足をとって履かせてくれる。
まるで王子さまがシンデレラにガラスの靴を履かせるようなそのポーズに驚いてしまう。
「わっ! 自分で履けるって」
「しっ。静かに。大声出すとバレますよ」
「あっ!」
慌てて口を押さえて周りを見ると、少し離れた場所にいる長瀬さんと千鶴の周りにスタッフが集まっているのが見える。
どうやら俺の声は聞こえていなかったみたいでホッとする。
「さぁ、履けましたよ」
「あ、ありがとう」
「ヒールが低めのものにしておいたので歩きやすいと思いますよ」
そう言いながら手を差し出されてその手を取った。
透也の大きな手に包み込まれて立ち上がると、この靴の履きやすさに驚く。
「あ、これ。いいな。全然痛くない」
「じゃあ、これにしましょうか」
透也は手を挙げてスタッフを呼ぶとこのサンダルを購入することと、このまま履いて帰ることを告げた。
支払いに俺の財布を出そうとして持ってくるのを忘れたことに気づいたけれど、その前にさっさと透也が支払いのカードをスタッフに渡していた。
「ごめん、後で返すから」
「いいんですよ。俺に買わせてください」
「でも……」
「そんな可愛い姿を見せてもらえただけでお釣りが来ますよ」
嬉しそうにそんなことを言われたらそれ以上何も言えなかった。
「あ、そのサンダル素敵! よく似合ってるよ」
「ありがとう」
俺たちのところにやってきた千鶴がすぐに褒めてくれて嬉しい。
腕を組んで店を出る千鶴たちの真似をするように、俺たちもピッタリと寄り添って腕を組んで店を出た。
ああ、本当に幸せだ。
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