年下イケメンに甘やかされすぎて困ってます

波木真帆

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番外編

千鶴たちとの対面 5

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<side大智>

長瀬さんの店で、俺たちの好きなあのブレンドコーヒーを淹れてもらう。
透也が淹れてくれるコーヒーはもちろん最高に美味しいけれど、やっぱり目の前で調合し、挽きたての豆で淹れるコーヒーは格別。しかもそれが妹の旦那だというのだから思いもひとしおだ。
あれほど辛い思いをした千鶴がこんなにも笑顔でいられるのは、心から愛し支えてくれる存在がいるからこそだ。
本当に長瀬さんに出会えてよかったと思う。
そんな感慨深い気持ちでコーヒーを飲んでいると、千鶴の飲んでいるものが気になった。

オリジナルブレンドはその人にピッタリ合うものを作っていて、その好みがぴったり同じな人が運命の相手だと聞いていた。俺が透也のために作られたオリジナルブレンドが好みだったように、千鶴もまた長瀬さんのためのオリジナルブレンドを気に入った。

でも本当にそんなにも違うんだろうか? それがずっと気になっていた。
元々コーヒーが得意ではない千鶴が美味しそうに飲むくらいだから味は間違いないのはわかっているけれど、俺の飲んでいるものとそんなに違うのか?
そんな疑問が湧き上がると確かめずにはいられなくて、千鶴が飲んでいるものを一口もらうことにした。
千鶴は喜んでカップを交換し、千鶴もまた興味深そうに俺のコーヒーに口をつけた。
香りは悪くない。いや、いい香りだと感じる。でも、一口飲んでわかった。コレジャナイ、と。

本当に運命の味だったんだなと確認できて満足していると、透也と長瀬さんが俺たちに驚きの表情を向けていたことに気がついた。

どうやら俺たちがカップを交換して飲み合っていたことに驚いたらしい。
兄妹だし、家族だし特に問題はないだろうと思ったけれど、自分の家の常識が他の家で非常識となる場合はよくある。
透也にもお兄さんがいるが、もしかしたら一口ちょうだいなんてことはしない家なのかもしれない。
まぁ、考えてみたら大会社の経営一族だ。俺たちの常識なんて会わないで当然なのだろう。

透也だけでなく長瀬さんも驚いているところを見ると、これが常識ではないのかもしれないし、今日それがわかっただけでもよかった。これから気をつけると言ったけれど、気にしないでいいと返された。
本気で嫌そうならやめようと思ったけれど、そう言ってくれるならいいのかな。

安心して、コーヒーを飲みながら、お土産に買ってきたアップルパイを頬張っていると、千鶴にどうして機嫌が悪かったのかと尋ねられた。
最初に聞かれた以降、何も言ってこなかったからもう聞いてこないかと思ったけど、やっぱり気になっていたのか。
俺だって、普段ならあれくらい我慢できた。でも空港に引き続き電車でもあんなことを言われて、透也の隣が不釣り合いだと言われているみたいでショックだった。透也と初めて出会った時に、大学生に間違えられたからソレからは俺なりに年相応に見られるように気を付けていたはずだったのに……今度は未成年、しかも高校生に間違われたなんて……流石に我慢できなかった。

妹に知られたくなかったけど、言わなければずっと聞いてくるのがわかっているから、仕方なく理由を告げた。
高校生に間違われた、そう言った途端、千鶴だけでなく長瀬さんまでが固まっていた。

「えっ? お兄ちゃんが、高校生に、ってこと?」

「ああ。失礼だよな。空港では警官に家出少年に間違われて危うく補導されそうになってさ。こっちに来る電車の中では女子高生に同級生だと間違われて、透也と社会人と高校生のカップルだと勘違いされて、透也が犯罪者みたいに思われてさ。いい迷惑だよ。ちゃんと見たら高校生に見えるなんてありえないだろう?」

お兄ちゃんが、高校生? 無理無理! もうアラサーだよ。それは流石にありえないよ。

千鶴はそう言って笑い飛ばすと思っていた。でも、俺の予想は大きく外れてしまったようだ。

「ああ……それは、仕方ないね」

「はっ? なんで?」

「だって、ねぇ……理人さん」

千鶴は困ったように長瀬さんに視線を向けると、長瀬さんも困ったように頷いていた。

「大智さんは、その……すごく可愛らしいので、私服だと高校生に見られてもおかしくないと言いますか……。スーツでもおそらく透也さんの後輩に見られるかと……」

「えっ? こう、はい?」

嘘だろ……。それは流石に俺を揶揄ってると思ったけど、長瀬さんも千鶴も本気の表情をしている。

俺ってそんなに若く見えるわけ? しかも、日本で?

突きつけられた現実にがっかりしていると、

「わ、私もよく大学生くらいに見られるし、お兄ちゃんと同じだよ。若く見られていいじゃない! ねっ」

と千鶴が慰めてくれる。
そりゃあ千鶴は長瀬さんより若く見られた方が嬉しいだろうけど、俺は同じ男だし若く見られても嬉しくはない。
しかもそっちは大学生。俺は高校生だぞ! せめて大人に間違われたい……。
でも千鶴や長瀬さんまでそう言ってくるなら、本当にそんな見た目なんだろう。
なんとかできるならそうしたいけどな……。はぁーーっ。もうため息しか出ない。
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