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番外編
千鶴たちとの対面 4
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改稿に行き詰まってちょっと違うのが書きたくなってこちらの続きを書いてみました。
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
もうそろそろですよ。そう声をかけようとした時、千鶴さんが同じように大智に声をかけた。
「あれか」
嬉しそうに窓の外を眺める大智が可愛くてそっと近づいた。
長瀬さんの珈琲店に足を運ぶのは久しぶりだ。あの建物と緑の調和が美しい店は大智も気に入るだろう。
思ったとおり、大智は目を輝かせながら窓の外に見入っている。ワクワクが止まらないとでもいうような表情は誰がみても30歳には見えないだろう。あれだけ拗ねていたのに、すぐに機嫌を直すのも本当に可愛い。
「わぁ、まるで絵画の世界だな。あのテラスでコーヒーを飲みながら本を読めたら最高の贅沢だよ」
車が店の正面を通った時に大智がそんな感想を漏らす。確かにあのテラスは真夏以外なら心地良さそうな空間だ。
そんな大智の言葉に長瀬さんが笑顔を浮かべたのは千鶴さんも初めて来た時に同じような感想を言ったからだそうだ。でも実際にはこの二人をテラスに案内してコーヒーを飲ませることはないだろう。なんと言っても美人で目立つ二人だ。ここにくる客がみんな二人に興味を持ってしまうから本当に危ない。
店の裏側にある駐車場で降り、正面までわざわざ戻ったのはこの店に初めてきた大智のためだろう。
正面からじっくりと見るのは俺も久しぶりだが、相変わらずここは癒される。
興味深そうに店の周りを見回している大智の手を握り、一緒に店に入った。
長瀬さんは、もうすっかりお店に慣れているらしい千鶴さんに俺たちの案内を任せ、カウンターの中に入っていく。
千鶴さんは俺たちにどこの席がいいかと言ってくれるが、俺は大智の好きな席でいいし、きっと大智が選ぶのはあの席だろう。
「あ、俺……長瀬さんがコーヒーを淹れるところを見たいんだけどいいかな?」
ああ、やっぱりそうだったな。大智が気に入っているコーヒーを淹れるのを目の前で見たいと言い出すだろうと思ったんだ。
長瀬さんも快く了承してくれて、大智と一緒にカウンターに座る。
「透也さん、いつものブレンドでいいですか?」
長瀬さんに尋ねられて、大智の意見を聞くけれど、
「ああ、それがいい。長瀬さん、お願いします」
と当然のように言ってくれた。
あれが俺たちのためのコーヒーだとわかってくれているからだ。
俺たちのコーヒーが落ちる間、心地よい香りが鼻腔をくすぐる。
いつも長瀬さんのブレンドしてくれたものを買っているが、やっぱり挽きたての香りは格別だ。
その香りに大智がホッとすると言ってくれるのが何よりも嬉しい。
だって、これは俺たちが運命の相手だという証なのだから。
コーヒーの香りに癒されていると、お土産のことを思い出した大智が俺の持っていた袋を千鶴さんに渡した。
キャラメルサンドとさっき買ったアップルパイ。どちらもコーヒーにはピッタリのスイーツだ。
「わぁー! これ、ニュースで話題になってたやつだよ!! 食べてみたいなって思ってたんだ」
アップルパイを見て大喜びする千鶴さんを見て、大智が嬉しそうに笑う。やっぱりこういうところは兄なんだな。
「理人さん、これを切ってコーヒーと一緒に食べましょうか」
早速切ってくれるようで大智も嬉しそうだ。アップルパイ、たべたがってたからな。
千鶴さんがお皿とフォークを人数分用意している間に、ささっと長瀬さんがアップルパイを切り分ける。
千鶴さんに包丁を使わせないようにしているんだろう。でも千鶴さんは大智と違って料理上手だから包丁を使っても危険はなさそうだけど、長瀬さん的には心配なんだろうな。
「さぁ、どうぞ」
長瀬さんがコーヒーを置いてくれるのと同時に、千鶴さんがアップルパイを置いてくれる。
「いただきます」
まずはコーヒーからと思ったら、大智もやっぱりコーヒーからで嬉しくなる。
「ん! やっぱりこのコーヒー、美味しい!」
「ありがとうございます。そんなに気に入っていただけると嬉しいですよ」
「あの、千鶴と長瀬さんのコーヒーも同じブレンドですか?」
「はい。そうですよ」
「千鶴、一口ちょうだい」
「うん、いいよ。お兄ちゃんのも一口ちょうだい」
そういうが早いか、二人でカップを交換して飲み始める。その素早い行動に俺も長瀬さんもびっくりしてしまった。兄妹だから、家族だから別に悪いことではないけれど、当然のように一口もらう姿に特別な仲の良さを感じる。
「ん! 美味しいけど、やっぱりなんか違う気がするな。千鶴はどう?」
「うん。私もそう思う」
「だよな。あれ? 透也、どうした?」
「えっ、あ、いえ」
なんでもないと言おうとして、やっぱり驚いたことは伝えておくべきかと思い返した。
「あの、千鶴さんとコーヒーを飲み合っているのにびっくりしたんです」
「えっ? びっくりした? 家族だぞ?」
「そうですね……でも、ちょっとびっくりしました」
「そうか……じゃあ、これから気をつけるよ」
「いえ。気にしないでいいですよ。多分、大智も千鶴さんもここが家族だけだと思ったからそうしたんでしょうし」
「ああ、確かにそうかも」
それくらい、大智にとってはこの四人での空間が居心地がいいと思ったんだろう。
千鶴さんも長瀬さんと話をしているみたいだし気にすることはないか。
「ねぇ、それでお兄ちゃんはどうして機嫌が悪かったの?」
アップルパイを半分ほどたべたところで、千鶴さんがど直球に質問を投げかけてきた。
途端に大智の機嫌が悪くなる。
「別になんでもないよ」
「なんでもないわけないでしょう? ちゃんと教えて」
「はぁー。もう、わかったよ。間違われたんだよ」
「間違われた? って誰に?」
「高校生にだよ」
「えっ?」
よっぽど驚いたのか、大智の言葉に千鶴さんはそのまま固まってしまっていた。
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
もうそろそろですよ。そう声をかけようとした時、千鶴さんが同じように大智に声をかけた。
「あれか」
嬉しそうに窓の外を眺める大智が可愛くてそっと近づいた。
長瀬さんの珈琲店に足を運ぶのは久しぶりだ。あの建物と緑の調和が美しい店は大智も気に入るだろう。
思ったとおり、大智は目を輝かせながら窓の外に見入っている。ワクワクが止まらないとでもいうような表情は誰がみても30歳には見えないだろう。あれだけ拗ねていたのに、すぐに機嫌を直すのも本当に可愛い。
「わぁ、まるで絵画の世界だな。あのテラスでコーヒーを飲みながら本を読めたら最高の贅沢だよ」
車が店の正面を通った時に大智がそんな感想を漏らす。確かにあのテラスは真夏以外なら心地良さそうな空間だ。
そんな大智の言葉に長瀬さんが笑顔を浮かべたのは千鶴さんも初めて来た時に同じような感想を言ったからだそうだ。でも実際にはこの二人をテラスに案内してコーヒーを飲ませることはないだろう。なんと言っても美人で目立つ二人だ。ここにくる客がみんな二人に興味を持ってしまうから本当に危ない。
店の裏側にある駐車場で降り、正面までわざわざ戻ったのはこの店に初めてきた大智のためだろう。
正面からじっくりと見るのは俺も久しぶりだが、相変わらずここは癒される。
興味深そうに店の周りを見回している大智の手を握り、一緒に店に入った。
長瀬さんは、もうすっかりお店に慣れているらしい千鶴さんに俺たちの案内を任せ、カウンターの中に入っていく。
千鶴さんは俺たちにどこの席がいいかと言ってくれるが、俺は大智の好きな席でいいし、きっと大智が選ぶのはあの席だろう。
「あ、俺……長瀬さんがコーヒーを淹れるところを見たいんだけどいいかな?」
ああ、やっぱりそうだったな。大智が気に入っているコーヒーを淹れるのを目の前で見たいと言い出すだろうと思ったんだ。
長瀬さんも快く了承してくれて、大智と一緒にカウンターに座る。
「透也さん、いつものブレンドでいいですか?」
長瀬さんに尋ねられて、大智の意見を聞くけれど、
「ああ、それがいい。長瀬さん、お願いします」
と当然のように言ってくれた。
あれが俺たちのためのコーヒーだとわかってくれているからだ。
俺たちのコーヒーが落ちる間、心地よい香りが鼻腔をくすぐる。
いつも長瀬さんのブレンドしてくれたものを買っているが、やっぱり挽きたての香りは格別だ。
その香りに大智がホッとすると言ってくれるのが何よりも嬉しい。
だって、これは俺たちが運命の相手だという証なのだから。
コーヒーの香りに癒されていると、お土産のことを思い出した大智が俺の持っていた袋を千鶴さんに渡した。
キャラメルサンドとさっき買ったアップルパイ。どちらもコーヒーにはピッタリのスイーツだ。
「わぁー! これ、ニュースで話題になってたやつだよ!! 食べてみたいなって思ってたんだ」
アップルパイを見て大喜びする千鶴さんを見て、大智が嬉しそうに笑う。やっぱりこういうところは兄なんだな。
「理人さん、これを切ってコーヒーと一緒に食べましょうか」
早速切ってくれるようで大智も嬉しそうだ。アップルパイ、たべたがってたからな。
千鶴さんがお皿とフォークを人数分用意している間に、ささっと長瀬さんがアップルパイを切り分ける。
千鶴さんに包丁を使わせないようにしているんだろう。でも千鶴さんは大智と違って料理上手だから包丁を使っても危険はなさそうだけど、長瀬さん的には心配なんだろうな。
「さぁ、どうぞ」
長瀬さんがコーヒーを置いてくれるのと同時に、千鶴さんがアップルパイを置いてくれる。
「いただきます」
まずはコーヒーからと思ったら、大智もやっぱりコーヒーからで嬉しくなる。
「ん! やっぱりこのコーヒー、美味しい!」
「ありがとうございます。そんなに気に入っていただけると嬉しいですよ」
「あの、千鶴と長瀬さんのコーヒーも同じブレンドですか?」
「はい。そうですよ」
「千鶴、一口ちょうだい」
「うん、いいよ。お兄ちゃんのも一口ちょうだい」
そういうが早いか、二人でカップを交換して飲み始める。その素早い行動に俺も長瀬さんもびっくりしてしまった。兄妹だから、家族だから別に悪いことではないけれど、当然のように一口もらう姿に特別な仲の良さを感じる。
「ん! 美味しいけど、やっぱりなんか違う気がするな。千鶴はどう?」
「うん。私もそう思う」
「だよな。あれ? 透也、どうした?」
「えっ、あ、いえ」
なんでもないと言おうとして、やっぱり驚いたことは伝えておくべきかと思い返した。
「あの、千鶴さんとコーヒーを飲み合っているのにびっくりしたんです」
「えっ? びっくりした? 家族だぞ?」
「そうですね……でも、ちょっとびっくりしました」
「そうか……じゃあ、これから気をつけるよ」
「いえ。気にしないでいいですよ。多分、大智も千鶴さんもここが家族だけだと思ったからそうしたんでしょうし」
「ああ、確かにそうかも」
それくらい、大智にとってはこの四人での空間が居心地がいいと思ったんだろう。
千鶴さんも長瀬さんと話をしているみたいだし気にすることはないか。
「ねぇ、それでお兄ちゃんはどうして機嫌が悪かったの?」
アップルパイを半分ほどたべたところで、千鶴さんがど直球に質問を投げかけてきた。
途端に大智の機嫌が悪くなる。
「別になんでもないよ」
「なんでもないわけないでしょう? ちゃんと教えて」
「はぁー。もう、わかったよ。間違われたんだよ」
「間違われた? って誰に?」
「高校生にだよ」
「えっ?」
よっぽど驚いたのか、大智の言葉に千鶴さんはそのまま固まってしまっていた。
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