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番外編
千鶴たちとの対面 1
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『自家焙煎珈琲店で出会ったのは自分好みのコーヒーと運命の相手でした』の番外編
<お兄ちゃんたちとの対面>の対になるお話。大智視点です。
大智のテンションが低かった理由がわかるかと思います。楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
<side大智>
ファーストクラスでの移動は快適以外の何ものでもない。
しかも、通常は隣と仕切りがあり、個別で半個室のような席だが、透也がカップルシートというものを予約してくれていたおかげで、俺たちの席の間に仕切りがなく、食事も寝る時もずっと一緒に過ごしていられた。
「こんないい席を知ったら、これ以外に乗れなくなるな」
ぽろっと呟いた俺の言葉に、
「大丈夫です、一人で飛行機には絶対に載せませんからいつもこの席ですよ」
と当然でしょうと言わんばかりの答えが返ってきた。
さらりとそんなことを言われて驚きつつも、喜んでしまっている俺がいた。
そんな幸せな時間はあっという間に過ぎ、日本に到着。必要なものは日本で買えばいいという透也の言葉に従い、俺たちの荷物は大きなキャリーケースが一つだけ。それを受け取って、二人で一緒に到着ゲートから出た。
「ああ、久しぶりだな。耳に日本語しか聞こえてこない」
「確かに。これだけで日本に帰ってきた感はありますね」
「結構人が多かったから、千鶴たちにこっちまできてもらわなくてよかったな」
「ええ。大智と千鶴さんが揃ったら、返って大騒ぎになりそうですし」
「それ、どういう意味だ?」
「大智が可愛すぎるってことですよ」
こそっと耳元で甘い声で囁かれてドキッとしてしまう。
「――っ、そんなことっ」
「あるでしょう? あっちの空港でも大智はかなり注目を浴びてましたよ」
「あれは透也をみてたんだよ。俺じゃない」
「はぁー。もう、本当に、いいかげん大智は自分が魅力的だって気づいてくださいね」
そう言ってくるけど、あれは絶対に透也をみていた。そっちこそ魅力的だってわかったほうがいい。透也ほど優しくて格好いい男はいないんだから……。
「さぁ、まずは荷物を置きにホテルに行きましょうか」
「ああ、そうだな」
今回の宿泊はイリゼホテル銀座。そこに一週間泊まることになっている。
「電車とバス、どっちで行く?」
「そんな危ないものに大智を乗せるわけないでしょう? タクシーを予約してますから」
またもや当然のように言われて、もう反論する気にもなれなかった。ファーストクラスで日本まで連れてきてくれるんだから、タクシーくらい微々たるものなのかもしれない。正直、長時間電車やバスに乗るよりはタクシーの方が楽でいい。ここは甘えておこう。
二人でタクシー乗り場に向かっていると、甘く香ばしい匂いが漂ってくる。
「これ、何の匂いだろう? すごく美味しそう!」
「この匂いは、アップルパイかな? ああ、ほら。あそこに行列ができてますよ。あの店で焼きたてを買えるみたいですね」
「これ、千鶴たちにお土産買って行こうか」
「そうですね。でも結構な行列ですから、このキャリーケースを持ったままでは列の邪魔になりますよ」
「じゃあ、透也はここで荷物と一緒に待っててくれ。俺が並んで買ってくるよ」
「それはダメです! 大智を一人で並ばせるなんて絶対にダメです」
「でもそれじゃどうするんだ?」
「わかりました。じゃあ、大智がここで待っていてください。あの列からなら大智の姿を確認できますし、何かあったらすぐ飛んできますから」
そう言いつつも心配なのか、俺をベンチに座らせると自分の上着を俺にかけて、行列に並びに行った。
意外と回転は早いみたいでどんどん透也が進んでいくのが見える。
これならすぐに買って戻ってきそうだなと思っていると、突然後ろから
「ちょっといいですか?」
と声をかけられた。
「えっ?」
驚いて振り向くと、目の前には警官が二人立っている。
「あ、あの……なんですか?」
「家族旅行中ですか?」
「えっ? まぁ、はい」
「ご家族はどこにいるのかな?」
「ご家族? あの行列に並んでますけど……なんですか?」
「いや、家出少年が成田に向かったって通報があって、声かけさせてもらってるんですよ。これ、お兄さんのキャリーケースですよね? 結構大きいけどどこに行くか聞かせてもらってもいいですか?」
「えっ? 家出少年って……俺は違いますよ」
「はいはい。自分ではそういうんですよね」
「いや、本当にもう30なんで」
「ははっ。30って。それはないでしょ」
俺の言葉に警官二人が顔を見合わせて笑う。確かに今日は私服だから多少若く見えてるかもしれないけど、流石に未成年に間違われるのは違うだろう。
「いや、本当に30歳なんですって」
「じゃあ、身分証明書出してもらえますか?」
「身分証明書って……免許は持ってないし、あっ! パスポート!」
鞄の中を探そうとして思い出した。そういえばパスポートは透也が持ってるんだっけ。
「パスポートあるんですか?」
「いや、ちょっと今、パスポート持っている連れが行列に並んでて……」
「はいはい。じゃあ、ちょっとあっちで詳しく話を聞きましょうか」
「ちょっとま――っ」
「大智。何かあったんですか?」
二人の警官にその場から連れて行かれそうになったところで、透也がやってきてくれて俺にはそれが救いの声に聞こえた。
<お兄ちゃんたちとの対面>の対になるお話。大智視点です。
大智のテンションが低かった理由がわかるかと思います。楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
<side大智>
ファーストクラスでの移動は快適以外の何ものでもない。
しかも、通常は隣と仕切りがあり、個別で半個室のような席だが、透也がカップルシートというものを予約してくれていたおかげで、俺たちの席の間に仕切りがなく、食事も寝る時もずっと一緒に過ごしていられた。
「こんないい席を知ったら、これ以外に乗れなくなるな」
ぽろっと呟いた俺の言葉に、
「大丈夫です、一人で飛行機には絶対に載せませんからいつもこの席ですよ」
と当然でしょうと言わんばかりの答えが返ってきた。
さらりとそんなことを言われて驚きつつも、喜んでしまっている俺がいた。
そんな幸せな時間はあっという間に過ぎ、日本に到着。必要なものは日本で買えばいいという透也の言葉に従い、俺たちの荷物は大きなキャリーケースが一つだけ。それを受け取って、二人で一緒に到着ゲートから出た。
「ああ、久しぶりだな。耳に日本語しか聞こえてこない」
「確かに。これだけで日本に帰ってきた感はありますね」
「結構人が多かったから、千鶴たちにこっちまできてもらわなくてよかったな」
「ええ。大智と千鶴さんが揃ったら、返って大騒ぎになりそうですし」
「それ、どういう意味だ?」
「大智が可愛すぎるってことですよ」
こそっと耳元で甘い声で囁かれてドキッとしてしまう。
「――っ、そんなことっ」
「あるでしょう? あっちの空港でも大智はかなり注目を浴びてましたよ」
「あれは透也をみてたんだよ。俺じゃない」
「はぁー。もう、本当に、いいかげん大智は自分が魅力的だって気づいてくださいね」
そう言ってくるけど、あれは絶対に透也をみていた。そっちこそ魅力的だってわかったほうがいい。透也ほど優しくて格好いい男はいないんだから……。
「さぁ、まずは荷物を置きにホテルに行きましょうか」
「ああ、そうだな」
今回の宿泊はイリゼホテル銀座。そこに一週間泊まることになっている。
「電車とバス、どっちで行く?」
「そんな危ないものに大智を乗せるわけないでしょう? タクシーを予約してますから」
またもや当然のように言われて、もう反論する気にもなれなかった。ファーストクラスで日本まで連れてきてくれるんだから、タクシーくらい微々たるものなのかもしれない。正直、長時間電車やバスに乗るよりはタクシーの方が楽でいい。ここは甘えておこう。
二人でタクシー乗り場に向かっていると、甘く香ばしい匂いが漂ってくる。
「これ、何の匂いだろう? すごく美味しそう!」
「この匂いは、アップルパイかな? ああ、ほら。あそこに行列ができてますよ。あの店で焼きたてを買えるみたいですね」
「これ、千鶴たちにお土産買って行こうか」
「そうですね。でも結構な行列ですから、このキャリーケースを持ったままでは列の邪魔になりますよ」
「じゃあ、透也はここで荷物と一緒に待っててくれ。俺が並んで買ってくるよ」
「それはダメです! 大智を一人で並ばせるなんて絶対にダメです」
「でもそれじゃどうするんだ?」
「わかりました。じゃあ、大智がここで待っていてください。あの列からなら大智の姿を確認できますし、何かあったらすぐ飛んできますから」
そう言いつつも心配なのか、俺をベンチに座らせると自分の上着を俺にかけて、行列に並びに行った。
意外と回転は早いみたいでどんどん透也が進んでいくのが見える。
これならすぐに買って戻ってきそうだなと思っていると、突然後ろから
「ちょっといいですか?」
と声をかけられた。
「えっ?」
驚いて振り向くと、目の前には警官が二人立っている。
「あ、あの……なんですか?」
「家族旅行中ですか?」
「えっ? まぁ、はい」
「ご家族はどこにいるのかな?」
「ご家族? あの行列に並んでますけど……なんですか?」
「いや、家出少年が成田に向かったって通報があって、声かけさせてもらってるんですよ。これ、お兄さんのキャリーケースですよね? 結構大きいけどどこに行くか聞かせてもらってもいいですか?」
「えっ? 家出少年って……俺は違いますよ」
「はいはい。自分ではそういうんですよね」
「いや、本当にもう30なんで」
「ははっ。30って。それはないでしょ」
俺の言葉に警官二人が顔を見合わせて笑う。確かに今日は私服だから多少若く見えてるかもしれないけど、流石に未成年に間違われるのは違うだろう。
「いや、本当に30歳なんですって」
「じゃあ、身分証明書出してもらえますか?」
「身分証明書って……免許は持ってないし、あっ! パスポート!」
鞄の中を探そうとして思い出した。そういえばパスポートは透也が持ってるんだっけ。
「パスポートあるんですか?」
「いや、ちょっと今、パスポート持っている連れが行列に並んでて……」
「はいはい。じゃあ、ちょっとあっちで詳しく話を聞きましょうか」
「ちょっとま――っ」
「大智。何かあったんですか?」
二人の警官にその場から連れて行かれそうになったところで、透也がやってきてくれて俺にはそれが救いの声に聞こえた。
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