93 / 125
番外編
奴への報復 <後編>
しおりを挟む
それが合図のように俺たちは甘い時間を過ごした。
リビングで、寝室で、そしてお風呂で……何度も何度も愛を重ねて、大智はさっきのことなど全て忘れて、俺の隣で幸せそうに眠っている。
だが、俺は大智を傷つけたやつを絶対に忘れはしない。
俺は隣に眠る大智の頬にそっとキスをして、ベッドを抜け出し、ある人に電話をかけた。
ーどうなりましたか?
ー透也さんの想像の通り、あのBARに来て盛大に愚痴ってましたよ。隣で相槌打ってやったらこっちが何を聞かなくてもあっちからペラペラと話してきて、それもバッチリ動画と音声データ残してますから。すぐにメールで送りますね。
ーユウさん。さすがですね。これで奴を地獄に落とせますよ。
ー透也さん、言っておきますが直接手を下すのは……
ーわかってますよ、大智を悲しませるようなことはしませんから。それにあんな雑魚、直接手を下すまでもないですよ。
ーふふっ。確かに。
ー今回の調査費用は、この後すぐに振り込んでおきますから確認よろしくお願いします。
ーはい。ありがとうございます。
爽やかな声で電話は切れた。
いや、お礼を言いたいのはこっちの方だ。
あれだけの証拠、ユウさんでなければ集めることはできないだろうからな。
俺はすぐにネットバンキングで料金を振り込み、次に祖父に連絡を入れた。
ーどうした? 珍しいな、大智くんに何かあったのか?
数ヶ月前、アメリカに仕事に来ていた祖父に大智を紹介した。
もちろん、兄貴の店で。
高遠さんも一緒に5人で食事をした。
その席で大智と高遠さんをいたく気に入った祖父は、今では本当の孫以上に二人を可愛がっている。
まぁ、ガタイのいい俺たちより華奢で可愛らしい印象のある敦己を可愛がっていた祖父なら、絶対に二人を気にいると思ってはいたが、あまりにもその通りで俺も兄貴も笑ってしまった。
すでに大智の過去については全て包み隠さずに話をしていて、奴が何か動こうとした時にはすぐに手を下してくれるということで話がついている。
だからだろう。
日本に帰ってきている俺からの電話にすぐに理解してくれたようだ。
さすが、泣く子も黙るベルンシュトルフ ホールディングスの会長だ。
ー奴が動いた。しかも、大智に罵声を浴びせて傷つけたんだ。
ーなんだと? 私の孫を傷つけたのか? わかった。全て任せておけ。もちろん、お前の名前を出してやっておくからな。その方が次期社長としてのお前の力を示すことができるだろう。
ー父さんには?
ーああ、それも大丈夫だ。私から言っておこう。お前は大智くんについててやれ。
ーありがとう。
ーこれが終わったら、雅也にも大智くんを紹介してやれ。私だけ会ったことをまだ拗ねているからな。
ーははっ。わかったよ。父さんとも今回の滞在中に会いに行く予定だったし。
ーそれならいい。
ー必要なデータは全て送るから。
ーわかった。明日には全て終わるはずだよ。ただ、気をつけた方がいい。ああいう輩は逆恨みしてくるものだからな。
ーああ、わかってる。ありがとう。
俺と大智には頼りになる味方が多くて本当にありがたい。
俺は必要なものを全て祖父のパソコンに送り、大智のところに戻った。
祖父はうちの会長という立場だけでなく、経済界の重鎮でもある。
祖父に睨まれたらどこの会社もひとたまりもない。
これで奴は仕事もクビ。
結婚の話も流れるだろう。
まぁ、金遣いの荒いあの婚約者なら遅かれ早かれ破綻していただろうが。
もうどうでもいい。
明日は大智も会社に行く予定だったが、奴が乗り込んでくる恐れがある。
部屋で寝かせておいた方が良さそうだ。
仕事ではなく敦己と北原にお土産を渡しに行くためだったからそれはまた違う日でもいいだろう。
翌日、案の定起き上がることができなかった大智を部屋に残し、俺は一人でベルンシュトルフ ホールディングス本社に向かった。
敦己と北原は俺だけの出勤にわかりやすくがっかりしていて、俺は少しショックを受けた。
「久しぶりに支社長に会えると思っていたのに……どうせ、透也が激しくしたんだろ?」
「なんでわかった?」
「はぁー、やっぱり。そうだと思ったよ。あーあ、今日はたっぷり話せると思ったのに……ケダモノのせいで……」
すごい言われようだな。
だが、それくらい大智に会うのを楽しみにしていたってことか。
「わかったって。明日の休みはお前たちに譲るよ。ホテルのラウンジでケーキでも食べたらいい。俺の奢りだからなんでも好きなのを食え」
「わぁーっ! やった! 暁くん、一緒に行こう!」
「わぁーっ! 嬉しいです!!」
「ちゃんと上田先生と小田切先生の了承はとってくれよ。俺が文句言われるから」
「ふふっ。わかってるって。ねぇ、暁くん」
「智さんは文句なんか言わないと思うけどな」
そんなことを言っているけど、小田切先生も上田先生も俺が北原たちと仲良くしてると目が怖いんだよ。
本当に揃いも揃って鈍感で困る。
そんな話をしていると、
「日下部さん、大変です! 受付で――」
上田くんの声が聞こえてきて、大急ぎでロビーに駆け降りた。
「キャァーッ!」
受付の子の叫び声が聞こえた瞬間、俺は目の前にいる男の腕を捻り上げた。
「何しやがるんだ! 離せよ!」
苦痛に顔を歪めながら凄んできた男が俺の顔を見るなり、さらに怒りの色を強め、お前のせいで仕事をクビになったと声を荒らげた。
それどころか、
「皆さーん、ここの社長は男と付き合ってるキモ野郎ですよー! ゲイの社長の下で働くなんてやめた方がいいですよー!!」
と大声で叫んだが、こいつは本当に無知で大馬鹿野郎だ。
俺と大智はすでにパートナーシップを申請した、この会社では認められた正式な夫夫だ。
元々、祖父がいち早く取り入れた制度のおかげで会社内にも同性カップル率は他の会社よりも群を抜いて多い。
だから、身近にいるせいか、誰も非難などするものはいない。
いや、そんな人は元々採用しないのだ。
俺たちがカミングアウト済みで認められた夫夫だと話すと、奴は顔を青褪めさせこの場から逃げようとしていたが、逃すはずもない。
上田くんがすでに警察に呼んでくれていたおかげですぐに奴は逮捕された。
すぐに刑務所から出てこられたとしても、奴はこれから多額の賠償金を払うことになっている。
堅気の仕事では100年働いても返すことなど不可能な賠償金を払うために、刑務所から出てきたと同時にある店に連れて行かれることになっている。
そこなら、なんとか返せるようになるだろうか。
まぁいずれにしてももう大智と出会うことはない。
ようやく静かな日常が訪れるんだ。
* * *
なんとか報復編終わりました。
せっかくなので、可愛い子猫ちゃんたちのスイーツのお話がおまけで続きます。
お楽しみに♡
リビングで、寝室で、そしてお風呂で……何度も何度も愛を重ねて、大智はさっきのことなど全て忘れて、俺の隣で幸せそうに眠っている。
だが、俺は大智を傷つけたやつを絶対に忘れはしない。
俺は隣に眠る大智の頬にそっとキスをして、ベッドを抜け出し、ある人に電話をかけた。
ーどうなりましたか?
ー透也さんの想像の通り、あのBARに来て盛大に愚痴ってましたよ。隣で相槌打ってやったらこっちが何を聞かなくてもあっちからペラペラと話してきて、それもバッチリ動画と音声データ残してますから。すぐにメールで送りますね。
ーユウさん。さすがですね。これで奴を地獄に落とせますよ。
ー透也さん、言っておきますが直接手を下すのは……
ーわかってますよ、大智を悲しませるようなことはしませんから。それにあんな雑魚、直接手を下すまでもないですよ。
ーふふっ。確かに。
ー今回の調査費用は、この後すぐに振り込んでおきますから確認よろしくお願いします。
ーはい。ありがとうございます。
爽やかな声で電話は切れた。
いや、お礼を言いたいのはこっちの方だ。
あれだけの証拠、ユウさんでなければ集めることはできないだろうからな。
俺はすぐにネットバンキングで料金を振り込み、次に祖父に連絡を入れた。
ーどうした? 珍しいな、大智くんに何かあったのか?
数ヶ月前、アメリカに仕事に来ていた祖父に大智を紹介した。
もちろん、兄貴の店で。
高遠さんも一緒に5人で食事をした。
その席で大智と高遠さんをいたく気に入った祖父は、今では本当の孫以上に二人を可愛がっている。
まぁ、ガタイのいい俺たちより華奢で可愛らしい印象のある敦己を可愛がっていた祖父なら、絶対に二人を気にいると思ってはいたが、あまりにもその通りで俺も兄貴も笑ってしまった。
すでに大智の過去については全て包み隠さずに話をしていて、奴が何か動こうとした時にはすぐに手を下してくれるということで話がついている。
だからだろう。
日本に帰ってきている俺からの電話にすぐに理解してくれたようだ。
さすが、泣く子も黙るベルンシュトルフ ホールディングスの会長だ。
ー奴が動いた。しかも、大智に罵声を浴びせて傷つけたんだ。
ーなんだと? 私の孫を傷つけたのか? わかった。全て任せておけ。もちろん、お前の名前を出してやっておくからな。その方が次期社長としてのお前の力を示すことができるだろう。
ー父さんには?
ーああ、それも大丈夫だ。私から言っておこう。お前は大智くんについててやれ。
ーありがとう。
ーこれが終わったら、雅也にも大智くんを紹介してやれ。私だけ会ったことをまだ拗ねているからな。
ーははっ。わかったよ。父さんとも今回の滞在中に会いに行く予定だったし。
ーそれならいい。
ー必要なデータは全て送るから。
ーわかった。明日には全て終わるはずだよ。ただ、気をつけた方がいい。ああいう輩は逆恨みしてくるものだからな。
ーああ、わかってる。ありがとう。
俺と大智には頼りになる味方が多くて本当にありがたい。
俺は必要なものを全て祖父のパソコンに送り、大智のところに戻った。
祖父はうちの会長という立場だけでなく、経済界の重鎮でもある。
祖父に睨まれたらどこの会社もひとたまりもない。
これで奴は仕事もクビ。
結婚の話も流れるだろう。
まぁ、金遣いの荒いあの婚約者なら遅かれ早かれ破綻していただろうが。
もうどうでもいい。
明日は大智も会社に行く予定だったが、奴が乗り込んでくる恐れがある。
部屋で寝かせておいた方が良さそうだ。
仕事ではなく敦己と北原にお土産を渡しに行くためだったからそれはまた違う日でもいいだろう。
翌日、案の定起き上がることができなかった大智を部屋に残し、俺は一人でベルンシュトルフ ホールディングス本社に向かった。
敦己と北原は俺だけの出勤にわかりやすくがっかりしていて、俺は少しショックを受けた。
「久しぶりに支社長に会えると思っていたのに……どうせ、透也が激しくしたんだろ?」
「なんでわかった?」
「はぁー、やっぱり。そうだと思ったよ。あーあ、今日はたっぷり話せると思ったのに……ケダモノのせいで……」
すごい言われようだな。
だが、それくらい大智に会うのを楽しみにしていたってことか。
「わかったって。明日の休みはお前たちに譲るよ。ホテルのラウンジでケーキでも食べたらいい。俺の奢りだからなんでも好きなのを食え」
「わぁーっ! やった! 暁くん、一緒に行こう!」
「わぁーっ! 嬉しいです!!」
「ちゃんと上田先生と小田切先生の了承はとってくれよ。俺が文句言われるから」
「ふふっ。わかってるって。ねぇ、暁くん」
「智さんは文句なんか言わないと思うけどな」
そんなことを言っているけど、小田切先生も上田先生も俺が北原たちと仲良くしてると目が怖いんだよ。
本当に揃いも揃って鈍感で困る。
そんな話をしていると、
「日下部さん、大変です! 受付で――」
上田くんの声が聞こえてきて、大急ぎでロビーに駆け降りた。
「キャァーッ!」
受付の子の叫び声が聞こえた瞬間、俺は目の前にいる男の腕を捻り上げた。
「何しやがるんだ! 離せよ!」
苦痛に顔を歪めながら凄んできた男が俺の顔を見るなり、さらに怒りの色を強め、お前のせいで仕事をクビになったと声を荒らげた。
それどころか、
「皆さーん、ここの社長は男と付き合ってるキモ野郎ですよー! ゲイの社長の下で働くなんてやめた方がいいですよー!!」
と大声で叫んだが、こいつは本当に無知で大馬鹿野郎だ。
俺と大智はすでにパートナーシップを申請した、この会社では認められた正式な夫夫だ。
元々、祖父がいち早く取り入れた制度のおかげで会社内にも同性カップル率は他の会社よりも群を抜いて多い。
だから、身近にいるせいか、誰も非難などするものはいない。
いや、そんな人は元々採用しないのだ。
俺たちがカミングアウト済みで認められた夫夫だと話すと、奴は顔を青褪めさせこの場から逃げようとしていたが、逃すはずもない。
上田くんがすでに警察に呼んでくれていたおかげですぐに奴は逮捕された。
すぐに刑務所から出てこられたとしても、奴はこれから多額の賠償金を払うことになっている。
堅気の仕事では100年働いても返すことなど不可能な賠償金を払うために、刑務所から出てきたと同時にある店に連れて行かれることになっている。
そこなら、なんとか返せるようになるだろうか。
まぁいずれにしてももう大智と出会うことはない。
ようやく静かな日常が訪れるんだ。
* * *
なんとか報復編終わりました。
せっかくなので、可愛い子猫ちゃんたちのスイーツのお話がおまけで続きます。
お楽しみに♡
287
お気に入りに追加
1,873
あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。


初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる