75 / 125
嬉しい誘い
しおりを挟む
今日は出社した時から社内の雰囲気がなんだかいつもと違う気がする。
なんだろうと思っていると、すぐにわかった。
宇佐美くんだ。
プロジェクトも大詰めになり、今日は内勤業務で書類作りに励んでいるのだがこれがかなり神経を使う業務なのだ。
数字と画面を見比べながらの慎重な作業はできれば避けたいくらいのものだが、宇佐美くんのキーボードを打つ指はかなりリズミカルに動いている。
やけに上機嫌な宇佐美くんの様子に驚いてしまう。
きっとみんなこの宇佐美くんの様子が気になって仕方ないんだろう。
だから、やけに社内の雰囲気がいつもよりふわふわしているんだ。
宇佐美くんは内勤業務も得意だとは聞いていたが、それにしてもあのご機嫌な様子はなんだろう。
横から見てもわかるほどに嬉しそうな表情を浮かべているし、何分かおきにスマホを見てはまた画面に視線を移す。
何か嬉しい予定でも入っているのか……。
そう考えた時に頭に浮かんだのが、あの上田先生の話だった。
――実は、今……宇佐美さんを落とそうと必死なんですよ、私。
そう言っていたが、もしかしたらあの先生とあのままうまくいっているのかも知れない。
ここに残ることも早々と断ってきたし、少しは二人の仲も進展しているのかも知れないな。
傷つけられた分、いい出会いになったのかも。
俺と同じだなんて思っちゃいけないけれど、幸せになるのはいいことだ。
こうなったら本当に千鶴をここに呼ぶのはいいことかもしれないな。
なんてそんなことを考えていると、
「支社長も気づきました? 今日の宇佐美さん、なんだかすごくご機嫌ですよね。もうすぐプロジェクトが終わるから日本に帰れるのが嬉しいんですかね」
なんて高遠くんが声をかけてきたが、高遠くんは逆に寂しそうだ。
きっと今の宇佐美くんとのバディを組んでの仕事が楽しくて仕方がないんだろうな。
「今日浮かれているのは違う理由だと思うよ。宇佐美くんも高遠くんとの仕事、楽しんでいたからね」
「それならいいんですけど……」
「ほら、そんな心配しないで、プロジェクト最後まで気を抜かないように。無事に終わったら、みんなで食事でも行こう」
「はーい。それなら頑張れそうです」
嬉しそうに自分のデスクに戻っていく高遠くんを見守りながら、そっと宇佐美くんに近づいた。
相変わらず上機嫌にキーボードを押している。
浮かれていても仕事が捗っているのはすごいな。
「宇佐美くん、今日はやけに嬉しそうだな」
そういうと、驚いてパッと俺に振り返った。
ほんのりと頬を赤く染めながら、いつもと一緒だと返してくるけれど、その反応がすでにいつもと一緒じゃないんだよな。
特に日本から帰国してからは、心ここにあらずという感じの時間が時々感じられた。
そう言ってみれば、今の俺と同じ状態。
仕事しながらも常に透也のことが頭にある俺と同じだ。
きっと今頃、宇佐美くんの頭の中を占めているのは……。
そんな期待を持ちながら、この後何か楽しいことでもあるのかと尋ねてみると、
「日本から友人というか、知り合いが訪ねてきてくれることになっていて……」
と教えてくれた。
ああ、もう間違いない。
上田先生の魅力に落ちたんだろうな。
傷ついた顔をしているより今の方がよっぽどいい。
宇佐美くんが幸せならそれで。
「今日はやること終わったらすぐに帰っても構わないよ」
そういうと、彼は嬉しそうにお礼を言い、またパソコンに向き直ってひたすらに手を動かしていた。
そんな彼を見て、俺ももう一息頑張ろうと思えたんだ。
「お疲れさまでーす」
定時より少し早く業務を終えた宇佐美くんは嬉しそうにオフィスを出ていった。
もちろん手にはいつでも連絡を取れるようにスマホを持っていた。
「宇佐美さん、本当に今日はずっとご機嫌でしたね」
「ああ、友人が日本から会いにきたみたいだよ」
「そうなんですね、それなら浮かれるのもわかるかも」
「こうやって遠くまで会いにきてくれるなんて嬉しいからな」
「はい。あっ、支社長。今日、夕食一緒に食べにいきませんか?」
「でも、今日は祥也さんのお仕事が休みの日じゃないのか?」
「はい。だからですよ。たまにはゆっくり三人で食事しながらお話ししませんか?」
恋人同士のお邪魔虫にはなりたくないと思ったけれど、
「祥也さんも支社長と話をしたいみたいなんですよ」
と言われたらこれ以上断れなかった。
「高遠くんが嫌じゃなかったら、行かせてもらおうかな」
「ふふっ。嫌だったら最初から誘いませんよ。言ったでしょう? 支社長とたまにはゆっくりお話ししたいって」
「わかった。ありがとう。じゃあ、行かせてもらうよ」
そういうと高遠くんは嬉しそうに笑ってくれた。
急いで帰る支度をして高遠くんとロビーに出ると、
「大夢っ!」
と嬉しそうに高遠くんを呼ぶ声が聞こえた。
なんだろうと思っていると、すぐにわかった。
宇佐美くんだ。
プロジェクトも大詰めになり、今日は内勤業務で書類作りに励んでいるのだがこれがかなり神経を使う業務なのだ。
数字と画面を見比べながらの慎重な作業はできれば避けたいくらいのものだが、宇佐美くんのキーボードを打つ指はかなりリズミカルに動いている。
やけに上機嫌な宇佐美くんの様子に驚いてしまう。
きっとみんなこの宇佐美くんの様子が気になって仕方ないんだろう。
だから、やけに社内の雰囲気がいつもよりふわふわしているんだ。
宇佐美くんは内勤業務も得意だとは聞いていたが、それにしてもあのご機嫌な様子はなんだろう。
横から見てもわかるほどに嬉しそうな表情を浮かべているし、何分かおきにスマホを見てはまた画面に視線を移す。
何か嬉しい予定でも入っているのか……。
そう考えた時に頭に浮かんだのが、あの上田先生の話だった。
――実は、今……宇佐美さんを落とそうと必死なんですよ、私。
そう言っていたが、もしかしたらあの先生とあのままうまくいっているのかも知れない。
ここに残ることも早々と断ってきたし、少しは二人の仲も進展しているのかも知れないな。
傷つけられた分、いい出会いになったのかも。
俺と同じだなんて思っちゃいけないけれど、幸せになるのはいいことだ。
こうなったら本当に千鶴をここに呼ぶのはいいことかもしれないな。
なんてそんなことを考えていると、
「支社長も気づきました? 今日の宇佐美さん、なんだかすごくご機嫌ですよね。もうすぐプロジェクトが終わるから日本に帰れるのが嬉しいんですかね」
なんて高遠くんが声をかけてきたが、高遠くんは逆に寂しそうだ。
きっと今の宇佐美くんとのバディを組んでの仕事が楽しくて仕方がないんだろうな。
「今日浮かれているのは違う理由だと思うよ。宇佐美くんも高遠くんとの仕事、楽しんでいたからね」
「それならいいんですけど……」
「ほら、そんな心配しないで、プロジェクト最後まで気を抜かないように。無事に終わったら、みんなで食事でも行こう」
「はーい。それなら頑張れそうです」
嬉しそうに自分のデスクに戻っていく高遠くんを見守りながら、そっと宇佐美くんに近づいた。
相変わらず上機嫌にキーボードを押している。
浮かれていても仕事が捗っているのはすごいな。
「宇佐美くん、今日はやけに嬉しそうだな」
そういうと、驚いてパッと俺に振り返った。
ほんのりと頬を赤く染めながら、いつもと一緒だと返してくるけれど、その反応がすでにいつもと一緒じゃないんだよな。
特に日本から帰国してからは、心ここにあらずという感じの時間が時々感じられた。
そう言ってみれば、今の俺と同じ状態。
仕事しながらも常に透也のことが頭にある俺と同じだ。
きっと今頃、宇佐美くんの頭の中を占めているのは……。
そんな期待を持ちながら、この後何か楽しいことでもあるのかと尋ねてみると、
「日本から友人というか、知り合いが訪ねてきてくれることになっていて……」
と教えてくれた。
ああ、もう間違いない。
上田先生の魅力に落ちたんだろうな。
傷ついた顔をしているより今の方がよっぽどいい。
宇佐美くんが幸せならそれで。
「今日はやること終わったらすぐに帰っても構わないよ」
そういうと、彼は嬉しそうにお礼を言い、またパソコンに向き直ってひたすらに手を動かしていた。
そんな彼を見て、俺ももう一息頑張ろうと思えたんだ。
「お疲れさまでーす」
定時より少し早く業務を終えた宇佐美くんは嬉しそうにオフィスを出ていった。
もちろん手にはいつでも連絡を取れるようにスマホを持っていた。
「宇佐美さん、本当に今日はずっとご機嫌でしたね」
「ああ、友人が日本から会いにきたみたいだよ」
「そうなんですね、それなら浮かれるのもわかるかも」
「こうやって遠くまで会いにきてくれるなんて嬉しいからな」
「はい。あっ、支社長。今日、夕食一緒に食べにいきませんか?」
「でも、今日は祥也さんのお仕事が休みの日じゃないのか?」
「はい。だからですよ。たまにはゆっくり三人で食事しながらお話ししませんか?」
恋人同士のお邪魔虫にはなりたくないと思ったけれど、
「祥也さんも支社長と話をしたいみたいなんですよ」
と言われたらこれ以上断れなかった。
「高遠くんが嫌じゃなかったら、行かせてもらおうかな」
「ふふっ。嫌だったら最初から誘いませんよ。言ったでしょう? 支社長とたまにはゆっくりお話ししたいって」
「わかった。ありがとう。じゃあ、行かせてもらうよ」
そういうと高遠くんは嬉しそうに笑ってくれた。
急いで帰る支度をして高遠くんとロビーに出ると、
「大夢っ!」
と嬉しそうに高遠くんを呼ぶ声が聞こえた。
265
お気に入りに追加
1,873
あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます
八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」
ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。
でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!
一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。


初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。


別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる