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閑話 絶対に助けて見せる 中編  <side透也>

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前後編で終わるはずが毎度の如く長くなってしまいました。
おそらく明日で終わるはず……。
伸びるようならタイトル数字表記に変更します。

  *   *   *

朝の6時にロサンゼルス空港を旅立った飛行機は日付変更線を超えて、翌日朝10時に羽田空港に到着した。
飛行機の中から送っていたメッセージへの返信が安慶名弁護士から届いていたため、俺はその足で安慶名法律事務所に向かった。

「安慶名先生。突然ご連絡差し上げてご迷惑をおかけしましたのに、お時間を作っていただきありがとうございます」

「そんな、日下部さん。どうぞお気になさらず。私もぜひお力になりたいと思っていますから、まずはメッセージに書かれいたことの詳細をお教えいただけますか?」

安慶名先生の優しい笑顔にホッとする。
安慶名先生は、長年ベルンシュトルフ ホールディングスの顧問弁護士をしてくださっている磯山弁護士の事務所に勤めていた縁で、成り手のなかった笹川コーポレーションの顧問弁護士を引き受けてくださっていた。

最近は本業以外でもお忙しそうにしているが、ちょうど東京にいてくださったのは運命だといえよう。

俺は大智の妹の千鶴さんの件とこれまでのことも踏まえて全てを安慶名先生にお話しした。
話がややこしくなると思いとりあえず知人の妹ということにしておいたが、安慶名先生は話をじっくりと聞いてくれた後で、大きく頷いた。

「なるほど。話を聞いているだけでとんでもない男ですね。ずっと様子を伺っていたのでしょうが、日下部さんがいない間がチャンスと思ったのでしょうね。私の予想では、おそらく千鶴さん以外にも被害者はたくさんいると思います。そんな男がたった一人だけで満足できるわけもありませんし、やり口が手慣れてますから」

「それは私も考えていました。ですが、性的な被害はなかなか公にしたがらないでしょう。人に知られるよりはマシだと泣き寝入りされる方が多いと聞きますが……」

「確かにその通りです。だから、安田もそこにつけ込んで動画や写真で脅して言うことをきかせているのでしょう。ですから、今信頼のおけるものに調査を依頼しています。彼なら、他の人に悟られることなく、全ての被害者を探してきてくれるでしょう。彼のことですから一両日中には全ての調査を終えて資料を送ってくれると思います」

「えっ? そんなに早く?」

「はい。ですから、ご安心ください」

「ありがとうございます。本当に安慶名先生にお願いして良かったです」

「ふふっ。日下部さん、以前会った時よりも表情が豊かになりましたね。その知人の彼のおかげですか?」

微笑みを浮かべる安慶名先生の顔はもう全てをお見通しだと、そう告げていた。

「いや……やっぱり、安慶名先生には敵いませんね。そうです、彼のおかげですね。大学生の時にベルンシュトルフ ホールディングスの営業部にものすごく有能で素晴らしい社員がいると話を聞いてから、ずっと気になっていたんです。あれから何年経っても彼の名前だけは忘れたことはありませんでした。顔も知らないのに、不思議ですよね。その彼と今回のL.A出張で奇跡的に出会ったんです。彼がずっと思い続けていたあの杉山大智だと知った時は驚きましたよ。童顔で穏やかでそして、笑顔が可愛くて……惹かれるべくして惹かれたんだと思いました」

「ふふっ。いい表情ですね。私が愛しい悠真と出会った時と同じですね。私も奇跡だと思いました。出会いは偶然でしたけど、私が彼と出会ったのは必然だと思っています。今では彼を半身だと思ってますから」

「半身、ですか?」

「ええ。彼と一心同体で常に彼を感じています。だから、離れていても頑張れているのかもしれませんね」

「安慶名先生はお強いですね。私なんて少しでも離れていたくなくて、L.A支社に転属願いを出してしまいました」

「ふふっ。若いうちはそれくらい行動的な方がいいですよ。私たちは普段離れている分、あえば濃密な時間を過ごしますからそれでいいんです」

「それは……ご馳走さまです」

まさか安慶名先生とこんな話で盛り上がれる日が来るとは思っていなかったな。
だけど、なんだか心地いい。
社長秘書をなさっている安慶名先生の恋人さんとは大智は仲良くなれそうな気がするな。

今回の件が無事に終わったら、お礼がてら食事に誘うのもいいかもしれない。

そんな和やかな雰囲気の中、安慶名先生との話を終え自宅に向かった。

買ってきた弁当と飲み物をテーブルに乗せ、時計を見れば昼の2時を回ったところだ。
この時間ならまだ大智は起きているだろうか。

とりあえずメッセージを送ると、すぐに電話が鳴った。

ーもしもし。

ー透也! 無事に着いたのか?

ーあっ、すみません。急いでいたので連絡を忘れてましたね。心配しましたか?

ーあたりまえだ! おかげで今日一日仕事が手につかなくて、何度宇佐美くんと高遠くんに注意されたか……。

ー心配かけてしまってすみません。

ーいや、俺もごめん。俺の代わりに日本にまで行ってくれているのに。

ー大智が責任を感じることはないですよ。今日空港から直接知り合いの弁護士さんのところに行ってきたんです。

ーえっ? もう?

ーはい。飛行機の中から連絡しておいたので、時間を作ってくれたんですよ。今、いろいろと調査をしてもらっていますから、一両日中には大智にも詳しい話ができると思います。

ーそうか……さすが透也だな。やっぱり透也に任せて良かったよ。俺だったらまだ何もできていなかったはずだ。

ー大智には千鶴さんをケアする大切な役目があるでしょう? これも役割分担ですから、気にしないでなんでも頼ってください。

ーありがとう。あれ? そこに見えてるのってお弁当? もしかして今から食事か?

ーああ、そうなんです。作る時間がもったいなくてお弁当買ってきてしまいましたけど、大智はちゃんと俺が作ったものを食べてくださいね。冷蔵庫と冷凍庫に作り置きを置いてますから。

ーああ。ありがとう。今日のお昼は高遠くんがいつもの倍以上のお弁当を持ってきてくれて、宇佐美くんと分けて食べたよ。夜は冷凍してくれていたビーフシチュー食べた。おいしかったよ。

ーそれなら良かったです。兄貴にはこれからしばらくお願いすると言っておいたんで、昼食は任せていたらいいですよ。

ーありがとう。後で俺からもお礼を言っておくよ。

ー気にしないでいいですよ。

ーそうもいかないよ。迷惑かけているんだから。

大智のそんな生真面目なところに思わず笑ってしまう。

ー帰国したばかりで疲れているだろうから、そろそろ電話を切るよ。

ーわかりました。大智も夜更かししないで早く寝てくださいね。

ーああ、わかってる。透也、気をつけて……。

ーはい。大智、愛してますよ。

ー――っ!! 

笑顔で愛の言葉を告げたけれど、真っ赤になって言葉が止まってしまった。
やっぱり恥ずかしがりやだからな。
流石に返してこないか。
真っ赤な顔の大智が見られただけで十分だな。

そう思っていると、

ー俺も、透也を愛しているよ。おやすみ!

とはずかしそうに、でもはっきりと愛の言葉を返してくれた。

ああ、もう……。
なんでこんなに可愛いんだろうな。
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