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緊急帰国
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重要な案件で海外出張をしている人に帰ってきて欲しいと頼むくらいだ。
本社にいる者たちではどうしようもできないという結論に至ったが故のこの電話なのだろう。
こちらとしても宇佐美くんに今抜けられるのは正直厳しいが、高遠くんもいるし俺も宇佐美くんの代わりとまではいかなくても、手助けをして急を凌ぐことはできるだろう。
あちらほどの切羽詰まった状況にないのなら、なんとかしてやれないことはない。
ただし、最終的な決断は宇佐美くん自身だ。
数日間だけとは言っているが、アメリカと日本を往復するだけでもかなりの体力を消費する。
帰国したら、またこちらでもプロジェクトの一員として動いてもらわないといけないんだ。
本人がそれでも帰国すると言うなら俺は止めない。
それほどに宇佐美くんの力を必要としているのだろうから。
宇佐美くんと同期の上田くんはいつも営業成績を争っていたはずだ。
同期であり、一番のライバルでもある宇佐美くんに協力を要請するのは苦渋の決断だったに違いない。
ここはもう二人の話し合いで決めてもらうとしよう。
ーとりあえず、私の方はわかった。宇佐美くんに話をして、彼の決断を尊重することにしよう。
ーありがとうございます、支社長! では、宇佐美が帰ってきたらすぐに連絡をくれるように伝えていただけますか? 私の方はいつでも取れるようにしておきますので。
ーわかった。そう伝えるよ。
そう言って一旦電話を切るとそこから5分ほど経って宇佐美くんが帰ってきた。
「ただいま、帰りました。すみません、少し話し込んでしまって……」
「いや、それは構わないよ。プロジェクトがうまくいっているなら問題ない。それよりも宇佐美くんに大事な話があるんだ」
「えっ? 何かありましたか?」
何事かと驚く宇佐美くんに先程の上田くんからの電話を伝えた。
「――詳しい話は彼から聞くと思うが、とりあえず今すぐに帰国して欲しいという要請だった。宇佐美くんはどうしたい? 数日とは言っていたが、短期間での日本との往復は君自身の体調もかかってくるし、考えたほうがいい。けれど、私は宇佐美くんの決断を支持するよ。君が帰国するなら精一杯サポートさせてもらうし、帰国しないなら、私が間に入ろう」
「ありがとうございます、支社長。僕のことをそんなにも考えてくださって……支社長のお気持ちはとても嬉しいです。ですが、私は帰国します」
「そうか、相手が上田くんだからか?」
「ふふっ。さすが支社長ですね。上田にはいつも世話になってますから、あいつが困っているときはどこにいたって駆けつけてあげたいんですよ。同期でずっと切磋琢磨しあってきましたから……きっと上田がいなかったら、こんなに人から望まれるような仕事はできてなかったかもしれません」
「最高の同期・仲間だな。じゃあ、すぐに電話してやるといい。こっちまで伝わってくるような悲壮感たっぷりに電話してきていたから、帰国すると伝えてやったら安心するんじゃないか」
「はい。じゃあ、電話してきます」
そういうと宇佐美くんは自分のデスクから本社の上田くんに電話をかけた。
上田くんがよほど嬉しそうな声をあげたのか、宇佐美くんの表情まで柔らかくなっている。
電話を切って早々に宇佐美くんは俺の元にやってきた。
「すみません、支社長。もう飛行機チケットをとっているみたいで、明日の早朝便なんです」
「明日の早朝? じゃあ、すぐに帰ったほうがいい。準備して空港のホテルに泊まったほうがいいんじゃないか?」
「はい。そうさせるつもりで、空港内のホテルもすでに上田が予約してくれているらしくて……」
「ははっ。上田くんらしいな。宇佐美くんが引き受けるとわかっていたんだろう。じゃあ、すぐに帰って準備して向かったほうがいいよ。こちらのことは気にしないでいい。帰りの便が決まったら連絡をくれたらいいから」
「はい。わかりました。ありがとうございます」
宇佐美くんが嵐のように去っていったのを見送りながら、俺は慌てて透也にメッセージを送った。
<帰り際にバタバタしたけれど、とりあえずもう帰れそう。ちょっと話があるから帰ったら聞いてほしい>
宇佐美くんのことも会社のトラブルのことももしかしたら透也にも連絡は来てそうだけど、とりあえず共有しておいたほうがいいよな。
そう思ってメッセージに入れておいたんだけど、透也は何か勘違いしたようで慌てた様子で迎えにきてくれた。
宇佐美くんが緊急帰国することになったと伝えると、大きなため息を吐きながらその場にしゃがみ込んだ。
「ごめん、何か心配させたのか?」
「はぁーっ。もう焦らせないでください。何事かと思いました」
ギュッと抱きしめられてドキドキする。
もうほとんど帰ってしまったとはいえ、一応会社なんだけど……。
でも心配させちゃったのは俺だし、離してとはいえないな。
それに……我を忘れて抱きしめられるって、なんだか嬉しいんだよな。
本社にいる者たちではどうしようもできないという結論に至ったが故のこの電話なのだろう。
こちらとしても宇佐美くんに今抜けられるのは正直厳しいが、高遠くんもいるし俺も宇佐美くんの代わりとまではいかなくても、手助けをして急を凌ぐことはできるだろう。
あちらほどの切羽詰まった状況にないのなら、なんとかしてやれないことはない。
ただし、最終的な決断は宇佐美くん自身だ。
数日間だけとは言っているが、アメリカと日本を往復するだけでもかなりの体力を消費する。
帰国したら、またこちらでもプロジェクトの一員として動いてもらわないといけないんだ。
本人がそれでも帰国すると言うなら俺は止めない。
それほどに宇佐美くんの力を必要としているのだろうから。
宇佐美くんと同期の上田くんはいつも営業成績を争っていたはずだ。
同期であり、一番のライバルでもある宇佐美くんに協力を要請するのは苦渋の決断だったに違いない。
ここはもう二人の話し合いで決めてもらうとしよう。
ーとりあえず、私の方はわかった。宇佐美くんに話をして、彼の決断を尊重することにしよう。
ーありがとうございます、支社長! では、宇佐美が帰ってきたらすぐに連絡をくれるように伝えていただけますか? 私の方はいつでも取れるようにしておきますので。
ーわかった。そう伝えるよ。
そう言って一旦電話を切るとそこから5分ほど経って宇佐美くんが帰ってきた。
「ただいま、帰りました。すみません、少し話し込んでしまって……」
「いや、それは構わないよ。プロジェクトがうまくいっているなら問題ない。それよりも宇佐美くんに大事な話があるんだ」
「えっ? 何かありましたか?」
何事かと驚く宇佐美くんに先程の上田くんからの電話を伝えた。
「――詳しい話は彼から聞くと思うが、とりあえず今すぐに帰国して欲しいという要請だった。宇佐美くんはどうしたい? 数日とは言っていたが、短期間での日本との往復は君自身の体調もかかってくるし、考えたほうがいい。けれど、私は宇佐美くんの決断を支持するよ。君が帰国するなら精一杯サポートさせてもらうし、帰国しないなら、私が間に入ろう」
「ありがとうございます、支社長。僕のことをそんなにも考えてくださって……支社長のお気持ちはとても嬉しいです。ですが、私は帰国します」
「そうか、相手が上田くんだからか?」
「ふふっ。さすが支社長ですね。上田にはいつも世話になってますから、あいつが困っているときはどこにいたって駆けつけてあげたいんですよ。同期でずっと切磋琢磨しあってきましたから……きっと上田がいなかったら、こんなに人から望まれるような仕事はできてなかったかもしれません」
「最高の同期・仲間だな。じゃあ、すぐに電話してやるといい。こっちまで伝わってくるような悲壮感たっぷりに電話してきていたから、帰国すると伝えてやったら安心するんじゃないか」
「はい。じゃあ、電話してきます」
そういうと宇佐美くんは自分のデスクから本社の上田くんに電話をかけた。
上田くんがよほど嬉しそうな声をあげたのか、宇佐美くんの表情まで柔らかくなっている。
電話を切って早々に宇佐美くんは俺の元にやってきた。
「すみません、支社長。もう飛行機チケットをとっているみたいで、明日の早朝便なんです」
「明日の早朝? じゃあ、すぐに帰ったほうがいい。準備して空港のホテルに泊まったほうがいいんじゃないか?」
「はい。そうさせるつもりで、空港内のホテルもすでに上田が予約してくれているらしくて……」
「ははっ。上田くんらしいな。宇佐美くんが引き受けるとわかっていたんだろう。じゃあ、すぐに帰って準備して向かったほうがいいよ。こちらのことは気にしないでいい。帰りの便が決まったら連絡をくれたらいいから」
「はい。わかりました。ありがとうございます」
宇佐美くんが嵐のように去っていったのを見送りながら、俺は慌てて透也にメッセージを送った。
<帰り際にバタバタしたけれど、とりあえずもう帰れそう。ちょっと話があるから帰ったら聞いてほしい>
宇佐美くんのことも会社のトラブルのことももしかしたら透也にも連絡は来てそうだけど、とりあえず共有しておいたほうがいいよな。
そう思ってメッセージに入れておいたんだけど、透也は何か勘違いしたようで慌てた様子で迎えにきてくれた。
宇佐美くんが緊急帰国することになったと伝えると、大きなため息を吐きながらその場にしゃがみ込んだ。
「ごめん、何か心配させたのか?」
「はぁーっ。もう焦らせないでください。何事かと思いました」
ギュッと抱きしめられてドキドキする。
もうほとんど帰ってしまったとはいえ、一応会社なんだけど……。
でも心配させちゃったのは俺だし、離してとはいえないな。
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