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不安に駆られる
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とりあえずそのまま、キースには明日から宇佐美くんの送迎をお願いすることにして、今日は俺たち三人を社宅まで送ってもらうことにした。
二人を後部座席に座らせて、俺はキースの隣に座ろうとしたんだけど
「私が助手席に行きますよ」
と言って、俺と宇佐美くんを後部座席にささっと座らせてしまった。
まぁ、来たばかりの宇佐美くんを助手席に座らせるわけにもいかないし、透也なりに気を遣ってくれたのかもしれない。
透也の優しさに感謝しながら、宇佐美くんに話しかけた。
「婚約が決まったばかりだったのに、申し訳なかったな。でも決断してくれてこちらとしては助かったよ」
「僕も少し悩んだんですが、彼女が背中を押してくれたので助かりました。元々、そんなにベッタリするタイプの女性ではないので、僕が急な仕事でデートをドタキャンすることがあっても、文句一つ言わないどころか、笑顔で頑張ってきてって応援してくれるんですよ。それに本を読んだり、長風呂に入ったり、一人で過ごすことが苦にならないらしくて、今時の子にしては珍しく、スマホに依存していないんですよ」
「へぇー、そうなのか。本当に珍しいな。でも急遽連絡をとりたくなった時は困るんじゃないか?」
「そうですね。それで連絡が取れないこともよくあるんですけど、そこまで緊急性のある連絡はほとんどないですからね。あらかじめ時間を伝えておけば、僕からの連絡は取ってくれるので今のところ、困ったことはないですよ。今回の出張も時差の関係でなかなか電話はできないけど、メッセージだけは送るからと伝えてるんで、彼女からも送られてくると思います。それで大丈夫です」
「そうか……今時恋愛は結構ドライなんだな」
「まぁ、そういう性格なのかもしれないですね」
彼女のことを相当信用しているんだろう。
宇佐美くんからは彼女への不信感は全く見えない。
でも……なんとなく心配だと思ってしまったのは、彼女の様子があの宏樹のそれとよく似ていたから。
――お互いの一人の時間を尊重できるって、信頼感があるからできるんだよな。
そう言ってたっけ。
でも、本当は俺と連絡を絶っていた時間は、他のやつと遊んでいたんだろう。
いやいや、自分が裏切られたからって、よその彼女を捕まえて何考えてるんだ。
宇佐美くんが選んだ相手が、宏樹みたいなことをするわけがないじゃないか。
本当に失礼だな、俺は。
「彼女はもちろん君の……あのことは、話しているんだろう?」
正式な婚約者なのだから当然だと思いつつも、とりあえず聞いてみたのは、今回のプロジェクトが成功したら、社内でもそろそろ発表してもいいんじゃないかと話をしてみる足掛かりにしようと思ったからだ。
けれど、宇佐美くんの口からは意外な言葉が返ってきた。
「実は、まだ彼女には話せていなくて……」
「そうなのか? 何か理由でも?」
「いえ、その……まだ親族からの許可が下りなくて……」
親族からの許可?
ああ、そういえば……
――敦己に関して言えば今ちょっと調査中なので……
って透也が話していたっけ。
ベルンシュトルフ ホールディングスほどの会社の親類筋だと、自分の一存ではいろいろと決められないこともあるんだろうな。
「そうか、でも宇佐美くんが選んだ相手なら、大丈夫だろう。帰国するときにはもう話ができるんじゃないか?」
「そうですね。そうなれるようにこちらの仕事を頑張ります」
「ああ、でも無理はしなくていいから。こっちは残業も基本的には認めていないんだ。残ったとしても19時半まで。それから先は禁止しているからね」
「わぁ! それはすごいですね。本社では考えられないですよね? 以前、L.A支社に来たときは確かそんなルールはなかった気がするんですけど……」
「あの時は同期の上田くんも一緒で、しかも一週間の短期だったろう? 会社の上の宿泊所でほぼ泊まり込みだったからそんなルールを聞く暇もなかったんじゃないか?」
「ああ、確かに。あの時は忙しかった記憶しかないですね」
「今回は三ヶ月間だからね、じっくり進めていってくれ。大事なプロジェクトを焦って失敗でもしたら大変だからな」
「はい、ゆっくり丁寧に進めていきます」
宇佐美くんの表情がなんとなく明るくなった気がする。
きっと本社では毎日忙殺されていたんだろう。
定時上がりで残業しても午後7時半までなんて……俺もこっちの支社に来て一番嬉しかったルールだったからな。
前任の支社長がルールを作ってくれたんだろうか。
本当に助かるな。
「ああ。でもこっちに来てそれに慣れたら、自然と定時で帰りたくなるよ」
「ふふっ。仕事人間の杉山さん……じゃなかった、支社長もそう思うんですね」
「ここは職場じゃないから、役職名はいらないよ。自分でもまだ支社長と呼ばれるのに慣れていないんだ」
「わかります。僕もまだ杉山さんを支社長と呼ぶのに慣れてなくて、意識していないと杉山さんって呼んでしまいそうです」
「別にそれも間違いではないから気にしなくてもいいよ」
そういうと宇佐美くんはほっとしたように笑っていた。
透也は俺が宇佐美くんと話をしている間、キースと何やら話をしていたけれど、何を話していたのかまでは聞こえなかった。
「じゃあ、週明け月曜日から頑張ってくれ。それまではのんびり身体を休めるように」
「はい。わかりました」
宇佐美くんの部屋は俺と透也の部屋からは少し離れている。
急なことだったから、そこしか空いていなかったらしい。
「じゃあ、大智。明日から休みですし、大智の部屋でいいですか? そのほうが、のんびりできますし」
「――っ、そ、そうだな」
耳元で甘く囁かれてドキッとしてしまう。
あの週末の約束が生きているなら、きっと今夜は俺の部屋で……。
うわぁ、なんか緊張してきちゃったな。
二人を後部座席に座らせて、俺はキースの隣に座ろうとしたんだけど
「私が助手席に行きますよ」
と言って、俺と宇佐美くんを後部座席にささっと座らせてしまった。
まぁ、来たばかりの宇佐美くんを助手席に座らせるわけにもいかないし、透也なりに気を遣ってくれたのかもしれない。
透也の優しさに感謝しながら、宇佐美くんに話しかけた。
「婚約が決まったばかりだったのに、申し訳なかったな。でも決断してくれてこちらとしては助かったよ」
「僕も少し悩んだんですが、彼女が背中を押してくれたので助かりました。元々、そんなにベッタリするタイプの女性ではないので、僕が急な仕事でデートをドタキャンすることがあっても、文句一つ言わないどころか、笑顔で頑張ってきてって応援してくれるんですよ。それに本を読んだり、長風呂に入ったり、一人で過ごすことが苦にならないらしくて、今時の子にしては珍しく、スマホに依存していないんですよ」
「へぇー、そうなのか。本当に珍しいな。でも急遽連絡をとりたくなった時は困るんじゃないか?」
「そうですね。それで連絡が取れないこともよくあるんですけど、そこまで緊急性のある連絡はほとんどないですからね。あらかじめ時間を伝えておけば、僕からの連絡は取ってくれるので今のところ、困ったことはないですよ。今回の出張も時差の関係でなかなか電話はできないけど、メッセージだけは送るからと伝えてるんで、彼女からも送られてくると思います。それで大丈夫です」
「そうか……今時恋愛は結構ドライなんだな」
「まぁ、そういう性格なのかもしれないですね」
彼女のことを相当信用しているんだろう。
宇佐美くんからは彼女への不信感は全く見えない。
でも……なんとなく心配だと思ってしまったのは、彼女の様子があの宏樹のそれとよく似ていたから。
――お互いの一人の時間を尊重できるって、信頼感があるからできるんだよな。
そう言ってたっけ。
でも、本当は俺と連絡を絶っていた時間は、他のやつと遊んでいたんだろう。
いやいや、自分が裏切られたからって、よその彼女を捕まえて何考えてるんだ。
宇佐美くんが選んだ相手が、宏樹みたいなことをするわけがないじゃないか。
本当に失礼だな、俺は。
「彼女はもちろん君の……あのことは、話しているんだろう?」
正式な婚約者なのだから当然だと思いつつも、とりあえず聞いてみたのは、今回のプロジェクトが成功したら、社内でもそろそろ発表してもいいんじゃないかと話をしてみる足掛かりにしようと思ったからだ。
けれど、宇佐美くんの口からは意外な言葉が返ってきた。
「実は、まだ彼女には話せていなくて……」
「そうなのか? 何か理由でも?」
「いえ、その……まだ親族からの許可が下りなくて……」
親族からの許可?
ああ、そういえば……
――敦己に関して言えば今ちょっと調査中なので……
って透也が話していたっけ。
ベルンシュトルフ ホールディングスほどの会社の親類筋だと、自分の一存ではいろいろと決められないこともあるんだろうな。
「そうか、でも宇佐美くんが選んだ相手なら、大丈夫だろう。帰国するときにはもう話ができるんじゃないか?」
「そうですね。そうなれるようにこちらの仕事を頑張ります」
「ああ、でも無理はしなくていいから。こっちは残業も基本的には認めていないんだ。残ったとしても19時半まで。それから先は禁止しているからね」
「わぁ! それはすごいですね。本社では考えられないですよね? 以前、L.A支社に来たときは確かそんなルールはなかった気がするんですけど……」
「あの時は同期の上田くんも一緒で、しかも一週間の短期だったろう? 会社の上の宿泊所でほぼ泊まり込みだったからそんなルールを聞く暇もなかったんじゃないか?」
「ああ、確かに。あの時は忙しかった記憶しかないですね」
「今回は三ヶ月間だからね、じっくり進めていってくれ。大事なプロジェクトを焦って失敗でもしたら大変だからな」
「はい、ゆっくり丁寧に進めていきます」
宇佐美くんの表情がなんとなく明るくなった気がする。
きっと本社では毎日忙殺されていたんだろう。
定時上がりで残業しても午後7時半までなんて……俺もこっちの支社に来て一番嬉しかったルールだったからな。
前任の支社長がルールを作ってくれたんだろうか。
本当に助かるな。
「ああ。でもこっちに来てそれに慣れたら、自然と定時で帰りたくなるよ」
「ふふっ。仕事人間の杉山さん……じゃなかった、支社長もそう思うんですね」
「ここは職場じゃないから、役職名はいらないよ。自分でもまだ支社長と呼ばれるのに慣れていないんだ」
「わかります。僕もまだ杉山さんを支社長と呼ぶのに慣れてなくて、意識していないと杉山さんって呼んでしまいそうです」
「別にそれも間違いではないから気にしなくてもいいよ」
そういうと宇佐美くんはほっとしたように笑っていた。
透也は俺が宇佐美くんと話をしている間、キースと何やら話をしていたけれど、何を話していたのかまでは聞こえなかった。
「じゃあ、週明け月曜日から頑張ってくれ。それまではのんびり身体を休めるように」
「はい。わかりました」
宇佐美くんの部屋は俺と透也の部屋からは少し離れている。
急なことだったから、そこしか空いていなかったらしい。
「じゃあ、大智。明日から休みですし、大智の部屋でいいですか? そのほうが、のんびりできますし」
「――っ、そ、そうだな」
耳元で甘く囁かれてドキッとしてしまう。
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