年下イケメンに甘やかされすぎて困ってます

波木真帆

文字の大きさ
上 下
56 / 125

不安に駆られる

しおりを挟む
とりあえずそのまま、キースには明日から宇佐美くんの送迎をお願いすることにして、今日は俺たち三人を社宅まで送ってもらうことにした。

二人を後部座席に座らせて、俺はキースの隣に座ろうとしたんだけど

「私が助手席に行きますよ」

と言って、俺と宇佐美くんを後部座席にささっと座らせてしまった。

まぁ、来たばかりの宇佐美くんを助手席に座らせるわけにもいかないし、透也なりに気を遣ってくれたのかもしれない。

透也の優しさに感謝しながら、宇佐美くんに話しかけた。

「婚約が決まったばかりだったのに、申し訳なかったな。でも決断してくれてこちらとしては助かったよ」

「僕も少し悩んだんですが、彼女が背中を押してくれたので助かりました。元々、そんなにベッタリするタイプの女性ではないので、僕が急な仕事でデートをドタキャンすることがあっても、文句一つ言わないどころか、笑顔で頑張ってきてって応援してくれるんですよ。それに本を読んだり、長風呂に入ったり、一人で過ごすことが苦にならないらしくて、今時の子にしては珍しく、スマホに依存していないんですよ」

「へぇー、そうなのか。本当に珍しいな。でも急遽連絡をとりたくなった時は困るんじゃないか?」

「そうですね。それで連絡が取れないこともよくあるんですけど、そこまで緊急性のある連絡はほとんどないですからね。あらかじめ時間を伝えておけば、僕からの連絡は取ってくれるので今のところ、困ったことはないですよ。今回の出張も時差の関係でなかなか電話はできないけど、メッセージだけは送るからと伝えてるんで、彼女からも送られてくると思います。それで大丈夫です」

「そうか……今時恋愛は結構ドライなんだな」

「まぁ、そういう性格なのかもしれないですね」

彼女のことを相当信用しているんだろう。
宇佐美くんからは彼女への不信感は全く見えない。

でも……なんとなく心配だと思ってしまったのは、彼女の様子があの宏樹のそれとよく似ていたから。

――お互いの一人の時間を尊重できるって、信頼感があるからできるんだよな。

そう言ってたっけ。
でも、本当は俺と連絡を絶っていた時間は、他のやつと遊んでいたんだろう。

いやいや、自分が裏切られたからって、よその彼女を捕まえて何考えてるんだ。
宇佐美くんが選んだ相手が、宏樹みたいなことをするわけがないじゃないか。

本当に失礼だな、俺は。

「彼女はもちろん君の……あのことは、話しているんだろう?」

正式な婚約者なのだから当然だと思いつつも、とりあえず聞いてみたのは、今回のプロジェクトが成功したら、社内でもそろそろ発表してもいいんじゃないかと話をしてみる足掛かりにしようと思ったからだ。

けれど、宇佐美くんの口からは意外な言葉が返ってきた。

「実は、まだ彼女には話せていなくて……」

「そうなのか? 何か理由でも?」

「いえ、その……まだ親族からの許可が下りなくて……」

親族からの許可?

ああ、そういえば……

――敦己に関して言えば今ちょっと調査中なので……

って透也が話していたっけ。

ベルンシュトルフ ホールディングスほどの会社の親類筋だと、自分の一存ではいろいろと決められないこともあるんだろうな。

「そうか、でも宇佐美くんが選んだ相手なら、大丈夫だろう。帰国するときにはもう話ができるんじゃないか?」

「そうですね。そうなれるようにこちらの仕事を頑張ります」

「ああ、でも無理はしなくていいから。こっちは残業も基本的には認めていないんだ。残ったとしても19時半まで。それから先は禁止しているからね」

「わぁ! それはすごいですね。本社では考えられないですよね? 以前、L.A支社に来たときは確かそんなルールはなかった気がするんですけど……」

「あの時は同期の上田くんも一緒で、しかも一週間の短期だったろう? 会社の上の宿泊所でほぼ泊まり込みだったからそんなルールを聞く暇もなかったんじゃないか?」

「ああ、確かに。あの時は忙しかった記憶しかないですね」

「今回は三ヶ月間だからね、じっくり進めていってくれ。大事なプロジェクトを焦って失敗でもしたら大変だからな」

「はい、ゆっくり丁寧に進めていきます」

宇佐美くんの表情がなんとなく明るくなった気がする。
きっと本社では毎日忙殺されていたんだろう。
定時上がりで残業しても午後7時半までなんて……俺もこっちの支社に来て一番嬉しかったルールだったからな。
前任の支社長がルールを作ってくれたんだろうか。
本当に助かるな。

「ああ。でもこっちに来てそれに慣れたら、自然と定時で帰りたくなるよ」

「ふふっ。仕事人間の杉山さん……じゃなかった、支社長もそう思うんですね」

「ここは職場じゃないから、役職名はいらないよ。自分でもまだ支社長と呼ばれるのに慣れていないんだ」

「わかります。僕もまだ杉山さんを支社長と呼ぶのに慣れてなくて、意識していないと杉山さんって呼んでしまいそうです」

「別にそれも間違いではないから気にしなくてもいいよ」

そういうと宇佐美くんはほっとしたように笑っていた。

透也は俺が宇佐美くんと話をしている間、キースと何やら話をしていたけれど、何を話していたのかまでは聞こえなかった。


「じゃあ、週明け月曜日から頑張ってくれ。それまではのんびり身体を休めるように」

「はい。わかりました」

宇佐美くんの部屋は俺と透也の部屋からは少し離れている。
急なことだったから、そこしか空いていなかったらしい。

「じゃあ、大智。明日から休みですし、大智の部屋でいいですか? そのほうが、のんびり・・・・できますし」

「――っ、そ、そうだな」

耳元で甘く囁かれてドキッとしてしまう。
あの週末の約束が生きているなら、きっと今夜は俺の部屋で……。

うわぁ、なんか緊張してきちゃったな。
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

処理中です...