年下イケメンに甘やかされすぎて困ってます

波木真帆

文字の大きさ
上 下
45 / 125

完全介護生活

しおりを挟む
「ふふっ。大智。落ち着いてください」

「えっ、いや、聞き間違いかな? 高遠くんが……お兄さんの、彼氏とかって……聞こえたんだけど」

「大丈夫、合ってますよ。高遠さんと兄貴、もう結構前から付き合ってるんです」

「ほ、ほんとに?」

「はい。まぁ詳しい馴れ初めなんかは本人の口から聞いたほうがいいと思うんですけど」

それは確かにそうかも。
透也は兄弟だし、いろいろと知ってるんだろうけどそんなふうにベラベラと人に話すことでもないしな。

「でも聞く時は覚悟しておいたほうがいいですよ。惚気が半端ないんで」

「ああ、そうなんだ」

心底嫌そうな顔に今まで相当惚気られてきたんだろうなと思ってしまう。

「あ、もしかして、高遠くんがこっちの支社での配属を希望していたのはもしかしてお兄さんがこっちにいるから?」

「ふふっ。あれはお互いなんですよ」

「お互い?」

「兄貴は高遠さんがアメリカで働くのが夢だったからそれを応援したくてこっちに来たって言ってるし。高遠さんは兄貴が日本料理店をアメリカに出店するのが夢だったからそれを応援したかったって言ってるし。どっちもお互いの夢を叶えるためにここで働くのを決めたみたいですよ」

「へぇー、そうなんだ。それは……いい話だな」

「だから、俺も同じ気持ちです。大智が数年ここを離れられないのなら、俺がこっちに来る。もう決めたことなので変えられないですよ」

実際にそうしている二人が近くにいるだけで、なんだかすごく心強く感じる。

「透也……ありがとう」

「ふふっ。大智と離れたら使い物にならないんで、俺たちはそばにいるほうがメリットが大きいんですよ」

ギュッと抱きしめられる温もりに安心する。

「あ、食事持ってきますね。すぐ取ってきますから少しだけ待っててくださいね」


俺の身体に負担がかからないように優しく抱き起こし、大きなクッションと枕を背当てにしてくれて、もう至れり尽くせりだ。
子どものようにお世話されて申し訳ないけれど、今の俺にはものすごくありがたい。

寝室を出て行ったと思ったら、すぐに戻ってきてベッドテーブルを用意してくれた。

「こんなのいつの間に用意したんだ?」

「俺の部屋の収納に置いてあった気がして持ってきました。多分、大智さんの部屋にも置いてあると思うんで、あとで探してみますね」

俺が寝ていたから部屋を探さずに自分の部屋からわざわざ持ってきたらしい。
別に起こしてくれてよかったのに。
本当に優しすぎる。

テーブルの上に小さな土鍋が置かれる。
これもうちでは見慣れないものだ。

「ああ、これも俺の部屋から持ってきました」

「悪い、最初から俺が透也の部屋で休ませてもらったらよかったな。そこまで気が回らなくて……」

「そんなこと気にしないでいいですよ。さぁ、食事にしましょう」

そう言って土鍋の蓋を開けると、中にはたっぷりとカニの身が入った美味しそうな雑炊。

「わぁー、いい匂いだな」

「ふふっ。ちょうど兄貴から蟹を貰ってたんで雑炊にしたんですよ。これなら消化にもいいし、食べやすいでしょう?」

「ありがとう」

こんなに大きな身が本物。
すごいな……。
見ているだけで涎が出そうだ。

透也はそれを器に装うと、レンゲに乗せてふうふうと冷ましてくれる。

「あ、いいよ。自分で……」

「今日のお世話は俺が全部やりますから。ゆっくりしていてください」

透也がやさしさで言ってくれているのがわかるだけに、そう言われるともうそれ以上断ることもできなくて、

「あーん」

と差し出されたレンゲを口に迎え入れた。

「んんっ!! おいひぃっ!!」

カニの出汁がよく出ていて、ふんわりとした卵とよく合っている。

「ふふっ。いっぱいありますからたくさん食べてください」

そう言いながら、同じレンゲで自分の口にも運び入れる。
一人分にしては土鍋が大きめだと思ったけど、自分の分も入っていたらしい。
同じ鍋をつつくってこれでもそう言うのかはわからないけれど、透也と一緒に食べていると思うだけでとてつもなく美味しく感じて、あっという間に二人で雑炊を平らげた。

「ふぅーっ、お腹いっぱい。すごくおいしかったよ」

「ふふっ。よかったです」

さっきまで眠っていたのに、お腹がいっぱいになると途端に眠くなる。
お世話ばかりされていたから、身体も子どもみたいになってしまっているのかもしれない。

「今日は休みですから、ゆっくりと休養しましょうね。俺も休暇とったんで、たっぷりとお世話しますよ」

「えっ? 透也も休んだのか?」

「当たり前でしょう? 世話する人がいなければ休んでも意味ないじゃないですか。あ、寝る前にトイレに行っておきましょうね」

ますます子どもみたいになってきたなと思いつつ、ふと考えるとかなりの時間トイレに行った記憶がない。

「あのさ、俺っていつ、トイレに……?」

「えっ、そうですね。もう二回は行ってますよ。俺が連れて行って座らせてさせようとしたら嫌がったんで、立って後ろから支えてやらせましたけど」

何も覚えてない……。
ってか、後ろから支えてって……もしかして、アレを持たれてた?

想像しただけで恥ずかしいんだけど……。

「ふふっ。俺たちは恋人ですし、もうそれ以上のこともしてるんですから、トイレくらい気にしないでいいでしょう? 大智が意識失ったあと、身体も洗って着替えもさせたんですから」

トイレだけじゃなくて、お風呂も……。
でもそういえば気づいてなかったけど確かに綺麗になってる。

うわ、俺……もうすでに世話されまくりじゃないか。

戸惑っている間にささっとトイレに連れて行かれて、恥ずかしさで死にそうになっている間にもう終わってしまっていた。

「あの、これからはトイレは自分で……」

「無理してたら、今週はずっと休まないといけなくなりますよ」

「それは困る!」

だって、金曜には宇佐美くんがこっちに着くことになっている。
あの真面目な宇佐美くんのことだから、到着したら支社に挨拶に寄りそうだ。
無理を言って来させたのに、俺がいないなんてそんなことできるはずがない。

「今週、何か大事な用事でもあるんですか?」

「今回大事なプロジェクトを控えてて、先方の要望でその発案者であるうちの社員をこっちに来させて欲しいって言われて、無理言って三ヶ月来てもらうことになってるんだ。彼が挨拶に来るかもしれない日に休むなんてできないだろう?」

「プロジェクトの発案者って……それって、誰ですか?」

「透也より年上だから知らないかもしれないけど、うちのかなり有望な社員だよ」

そういうと、透也は真剣な表情を向けた。
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

処理中です...