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ハンカチとネクタイ
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ここがアメリカだということを忘れそうなくらい完璧な和朝食を食べ、今日も大満足だ。
「大智、お茶をどうぞ」
「ありがとう。ああ、美味しいな。会社にいるとコーヒーばっかりだから、お茶飲めると落ち着くよ」
「わかります。やっぱりお茶は欠かせないですよね」
お茶もだけど、透也とのこの空間がなによりも落ち着く。
朝にこんな穏やかな時間を過ごせるって幸せだな。
「今日はお弁当を作りましたから、持っていってくださいね」
「本当に作ってくれたのか?」
「もちろんです。俺のと同じお弁当ですから、俺のことを考えながら食べてくださいね」
「何言ってるんだ」
「ふふっ。じょうだ――」
「透也のことならいつも考えてるよ」
「えっ? ゴホッ、ゴホッ」
「何やってるんだ、大丈夫か?」
急に飲んでいたお茶を吐き出し、苦しそうな透也にさっとハンカチを手渡した。
「すみません、ありがとうございます」
さっと口を拭くと
「あの、あんまり喜ばせないでください」
と言いながら、俺のハンカチをスーツのポケットにしまうのが見えた。
「あ、それ……」
「ああ、今日はこれ借りますね。これ、持ってたら運が上がりそうですから」
「運って……」
「ふふっ。その代わり、大智にはこれを貸します。交換ですね」
反対側のポケットから取り出されたハンカチを受け取ると、ふわりと透也の匂いがした。
思わず顔に当て匂いを嗅ぐと、顔が綻ぶ。
ああ、これいいかも。
ネクタイも良かったけど、これもいいな。
仕事が捗りそうな気がする。
というかネクタイの話、すっかり忘れてたな。
「ふふっ。気に入りました?」
「ああ。あのさ、言うの忘れてたんだけど……」
「んっ? なんですか?」
「昨日、透也のネクタイ締めて行っただろう? あれがかなり評判良くて今日も貸して欲しいなって……」
「えっ?」
「あっ、間違えた。えっと、評判良かったから、今度ネクタイ選んでくれないか?」
ちゃんと考えてたのに、違う方を言っちゃったよ。
ああ、もうバカだな。
「あの、透也?」
「大智、本当はどっちなんですか? 俺のを貸して欲しいんじゃないですか?」
「――っ、やっぱりわかったか? ごめん、実はそうなんだ……。昨日、透也のネクタイ締めてたら、仕事中もずっと透也がそばにいるような気がして……安心したのかな。なんだか仕事もすごく捗ってたから、これからも貸してもらえたらなって思ったんだ。でも流石にそんなの図々しいかもって思って……それなら、一緒に買いに行って透也に選んでもらったらいいかなって思ったんだけど……」
「大智……」
「やっぱり図々しかったか?」
「何言ってるんですか。喜んで貸しますよ。それに一緒に選びにもいきましょう」
「いいのか?」
「もちろんです。恋人にそんな嬉しいお願いされて嫌だなんて思うわけないですよ。じゃあ、着替えに行きましょうか」
そういうと、嬉しそうに俺の手を取って寝室へ向かう。
嬉々としてネクタイを選ぶ透也の横でスーツに着替え、あとはネクタイだけになったと同時に今日のネクタイが決まったようだ。
ネクタイを締めながら、
「一時帰国するときはネクタイもハンカチも置いていきますから、俺のネクタイを毎日締めてくださいね」
と言われてなんだか嬉しくなる。
「じゃあ、透也も俺のを持っていくか?」
「いいんですか? 絶対ですよ」
こんなに喜んでもらえると冗談だとは言えないな。
「ああ。離れている間はお互いのを持っていようか」
「大智……はい。そうですね」
まだまだ先の話なのに、そんな約束をしてしまうのはやっぱり俺も、そして透也も離れるのが寂しいんだろうな。
「今日も帰りは迎えに来ますから、外に出ずに待っていてくださいね」
子どものように何度も声をかけられて、会社まで送ってもらう。
「ああ、わかってる。お弁当、ありがとう」
用意してもらったお弁当袋を掲げ、セキュリティーゲートを通るとようやく安心したように透也はキースの車へと戻っていった。
手作り弁当か……。
ふふっ。昼が楽しみだな。
「支社長。おはようございます」
「ああ、おはよう」
「今日もネクタイ素敵ですね」
「ありがとう」
本当に透也のネクタイだと評判がいい。
会う人、会う人が褒めてくれる。
そんなに俺の趣味悪かったのかと心配になるくらいだ。
まぁ、透也のセンスが良すぎるってことなんだろうな。
よし、今日も頑張るか。
パソコンを開くと、早速宇佐美くんからメールが来ていた。
早いな。
あのメールを見て少しは検討してくれたんだろうか。
ドキドキしながらメールを開くと、思わず笑みが溢れた。
私からのメールを見てアメリカにいきたい気持ちが強まったこと。
婚約したばかりでどうしようか悩んでいたところ、婚約者が行っておいでと背中を押してくれたこと。
少しでも早く返事を返したほうがいいと思って、婚約者と話したすぐ後に私にメールを送ったことなどが書かれていた。
良かった、宇佐美くんが来てくれるならあのプロジェクトの成功は決まったようなものだ。
「高遠くん、宇佐美くんがこっちに来てくれることになったぞ」
「えっ? 本当ですかっ!! さすが、支社長!! ありがとうございます!!」
「宇佐美くんと夕方ビデオ通話で話をするから、必要なものがあれば用意しておいてくれ。高遠くんも同席してもらうからな」
「わかりました!! 支社長、本当にありがとうございます! 俺、頑張りますね!!」
「ふふっ。ああ、頑張ってくれ。期待してるよ」
早速、いいことが舞い込んできたな。
これも透也のおかげかもしれない。
「大智、お茶をどうぞ」
「ありがとう。ああ、美味しいな。会社にいるとコーヒーばっかりだから、お茶飲めると落ち着くよ」
「わかります。やっぱりお茶は欠かせないですよね」
お茶もだけど、透也とのこの空間がなによりも落ち着く。
朝にこんな穏やかな時間を過ごせるって幸せだな。
「今日はお弁当を作りましたから、持っていってくださいね」
「本当に作ってくれたのか?」
「もちろんです。俺のと同じお弁当ですから、俺のことを考えながら食べてくださいね」
「何言ってるんだ」
「ふふっ。じょうだ――」
「透也のことならいつも考えてるよ」
「えっ? ゴホッ、ゴホッ」
「何やってるんだ、大丈夫か?」
急に飲んでいたお茶を吐き出し、苦しそうな透也にさっとハンカチを手渡した。
「すみません、ありがとうございます」
さっと口を拭くと
「あの、あんまり喜ばせないでください」
と言いながら、俺のハンカチをスーツのポケットにしまうのが見えた。
「あ、それ……」
「ああ、今日はこれ借りますね。これ、持ってたら運が上がりそうですから」
「運って……」
「ふふっ。その代わり、大智にはこれを貸します。交換ですね」
反対側のポケットから取り出されたハンカチを受け取ると、ふわりと透也の匂いがした。
思わず顔に当て匂いを嗅ぐと、顔が綻ぶ。
ああ、これいいかも。
ネクタイも良かったけど、これもいいな。
仕事が捗りそうな気がする。
というかネクタイの話、すっかり忘れてたな。
「ふふっ。気に入りました?」
「ああ。あのさ、言うの忘れてたんだけど……」
「んっ? なんですか?」
「昨日、透也のネクタイ締めて行っただろう? あれがかなり評判良くて今日も貸して欲しいなって……」
「えっ?」
「あっ、間違えた。えっと、評判良かったから、今度ネクタイ選んでくれないか?」
ちゃんと考えてたのに、違う方を言っちゃったよ。
ああ、もうバカだな。
「あの、透也?」
「大智、本当はどっちなんですか? 俺のを貸して欲しいんじゃないですか?」
「――っ、やっぱりわかったか? ごめん、実はそうなんだ……。昨日、透也のネクタイ締めてたら、仕事中もずっと透也がそばにいるような気がして……安心したのかな。なんだか仕事もすごく捗ってたから、これからも貸してもらえたらなって思ったんだ。でも流石にそんなの図々しいかもって思って……それなら、一緒に買いに行って透也に選んでもらったらいいかなって思ったんだけど……」
「大智……」
「やっぱり図々しかったか?」
「何言ってるんですか。喜んで貸しますよ。それに一緒に選びにもいきましょう」
「いいのか?」
「もちろんです。恋人にそんな嬉しいお願いされて嫌だなんて思うわけないですよ。じゃあ、着替えに行きましょうか」
そういうと、嬉しそうに俺の手を取って寝室へ向かう。
嬉々としてネクタイを選ぶ透也の横でスーツに着替え、あとはネクタイだけになったと同時に今日のネクタイが決まったようだ。
ネクタイを締めながら、
「一時帰国するときはネクタイもハンカチも置いていきますから、俺のネクタイを毎日締めてくださいね」
と言われてなんだか嬉しくなる。
「じゃあ、透也も俺のを持っていくか?」
「いいんですか? 絶対ですよ」
こんなに喜んでもらえると冗談だとは言えないな。
「ああ。離れている間はお互いのを持っていようか」
「大智……はい。そうですね」
まだまだ先の話なのに、そんな約束をしてしまうのはやっぱり俺も、そして透也も離れるのが寂しいんだろうな。
「今日も帰りは迎えに来ますから、外に出ずに待っていてくださいね」
子どものように何度も声をかけられて、会社まで送ってもらう。
「ああ、わかってる。お弁当、ありがとう」
用意してもらったお弁当袋を掲げ、セキュリティーゲートを通るとようやく安心したように透也はキースの車へと戻っていった。
手作り弁当か……。
ふふっ。昼が楽しみだな。
「支社長。おはようございます」
「ああ、おはよう」
「今日もネクタイ素敵ですね」
「ありがとう」
本当に透也のネクタイだと評判がいい。
会う人、会う人が褒めてくれる。
そんなに俺の趣味悪かったのかと心配になるくらいだ。
まぁ、透也のセンスが良すぎるってことなんだろうな。
よし、今日も頑張るか。
パソコンを開くと、早速宇佐美くんからメールが来ていた。
早いな。
あのメールを見て少しは検討してくれたんだろうか。
ドキドキしながらメールを開くと、思わず笑みが溢れた。
私からのメールを見てアメリカにいきたい気持ちが強まったこと。
婚約したばかりでどうしようか悩んでいたところ、婚約者が行っておいでと背中を押してくれたこと。
少しでも早く返事を返したほうがいいと思って、婚約者と話したすぐ後に私にメールを送ったことなどが書かれていた。
良かった、宇佐美くんが来てくれるならあのプロジェクトの成功は決まったようなものだ。
「高遠くん、宇佐美くんがこっちに来てくれることになったぞ」
「えっ? 本当ですかっ!! さすが、支社長!! ありがとうございます!!」
「宇佐美くんと夕方ビデオ通話で話をするから、必要なものがあれば用意しておいてくれ。高遠くんも同席してもらうからな」
「わかりました!! 支社長、本当にありがとうございます! 俺、頑張りますね!!」
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