24 / 125
ネクタイと汗
しおりを挟む
『キース、ここで少し待っていてください』
『はい。承知しました』
支社の前でさっと降ろされるだけだと思っていたのに、なぜか透也くんは一緒に車から降り出した。
「えっ? どこまで行くんだ?」
「心配なので、中に入るのを見届けます」
「心配って……子どもじゃないぞ」
「わかってますよ。俺が離れるのが寂しいだけです」
「――っ!! そ、んなこと……っ」
誰が見ているかもわからない会社の前で言うなんて……。
透也くんは男と付き合ってるなんてバレても気にしないんだろうか?
「お昼に迎えに来ますから、どこにもいかないでくださいね」
「ああ、わかってる」
「じゃあ、大智さん。いってらっしゃい」
笑顔でポンとネクタイに触れられてドキッとする。
そういえば、今日のネクタイは透也くんのだったんだ。
俺がセキュリティーゲートを通るまで見送られて、最後に振り返った時には笑顔で手を振られた。
そして、今度は俺が透也くんがキースの車に戻っていくのをそっと見送っていると、
「支社長、おはようございます」
と声をかけられた。
「えっ、あ、ああ。おはよう」
「あの方、お知り合いですか?」
「ああ。傘下企業の子だよ。短期出張できている間、同じ社宅に住んでいるんだ。だから一緒に車で来たんだよ」
「へぇ、そうなんですね。あれ?」
俺の顔あたりを見ながら、突然不思議な声をあげる彼女に驚いた。
もしかしたら、透也くんとのことがバレるような何かがあったのかと一瞬冷や汗をかきながら、それでも
「どうかした?」
と冷静を装って尋ねた。
「いえ、支社長のそのネクタイ……」
「えっ? ネクタイ?」
「すごくお似合いですね。なんだか、いつもと系統は違いますけど、すごくよくお似合いです。あ、もちろん、今までのも似合ってましたけど、このネクタイは今日のスーツによく合ってて……あっ!」
野崎さんは突然目をキラキラさせたかと思ったら、ニマニマしながら
「もしかして……彼女さん、からの贈り物ですか?」
と言ってきた。
「えっ……」
「ふふっ。やっぱり。支社長、わかりやすすぎですよ」
「いや、ちが――っ」
「はいはい。じゃあ、そういうことにしておきますね。でも、本当にお似合いですよ」
そう言って野崎さんは楽しそうにスキップでもしそうな勢いで、受付に向かっていった。
何がそんなに嬉しかったのかわからずに立ち尽くしていると、
「支社長?」
とセキュリティーゲートを通ってきた部下の子に声をかけられて驚いてしまった。
「あ、ああ。おはよう」
となんでもないふりをして、自分のフロアに向かった。
仕事をしながらも、気になるのはネクタイのことばかり。
なんせ、仕事の話に来るついでにみんながネクタイのことばかり尋ねてくるんだから。
似合っているのは嬉しいけど、そんなに今までのネクタイと違うかな?
そこまで変わらないと思ったんだけどなぁ……。
でも……外したいとは正直言って全然思わない。
なんとなく、透也くんがそばにいてくれているような気がして、安心するんだ。
心なしか仕事もよく捗る気がする。
透也くんのネクタイで仕事がスムーズに行くなら、験担ぎみたいな感じで毎日借りるのもありかもしれないなぁなんて、思ってしまう。
まぁ、今日だけ特別なんだとは思っているんだけど。
でも一度頼んでみようかな。
例えば……
――透也くんのネクタイ、すごく評判がよかったんだ。よかったら、明日からもネクタイ貸してくれないか?
いや、流石にそれは図々しいか……。
なら……
――透也くんのネクタイ、すごく評判が良かったから今度一緒に選んでくれないか?
うん、これならイケるかも!
今日、お昼に会う時早速頼んでみようか。
そんなことを考えているとなんとなく楽しくなってきて、あっという間にお昼近くになっていた。
アメリカの企業ではランチ時間が短かかったり、長かったりそれぞれ違いはあるけれど、こちらは日本企業の支社ということもあって、しっかりとランチタイムをとっている。
ハンバーガーやピザ、タコスなどのデリバリー定番ものもあれば、最近は店の料理をそのまま持ってきてもらうことも多い。
とはいえ、こういう食事が楽しいのは最初の1、2週間くらい。
それ以降は、結構お弁当を作って持ってきている人も多い。
俺も最近、飽きてきていたところだったから、透也くんの料理には本当に感謝している。
その透也くんがおすすめだという店なら、かなり期待が持てる。
どこのランチに連れていってくれるんだろう……。
逸る気持ちを抑えながら、
「ランチに行ってくるよ」
と声をかけてロビーへと向かった。
少し早かったな。
外に出て待っていた方がいいかな……なんて思いながら、セキュリティーゲートを通っていると
「大智さんっ!!」
と透也くんの声が聞こえた。
「あれ? もう来ていたのか?」
「はい。午前中外回りに行っていたので、そのまま来ました」
「ああ、だからか、少し汗をかいてる」
「えっ? すみません、汗臭かったですか?」
「いや、それは全然気にしないよ。むしろいい匂いしかしてない」
「――っ!! 大智、さん……っ」
「んっ? どうかしたか? 顔が赤くなってる。やっぱり暑かったんだろう?」
急に顔を赤らめた透也くんが心配で、ポケットからハンカチを取り出して透也くんの首筋を流れる汗を拭き取った。
「仕事、お疲れさま」
汗を拭きながら、そう声をかけると透也くんはさらに顔を赤らめた。
『はい。承知しました』
支社の前でさっと降ろされるだけだと思っていたのに、なぜか透也くんは一緒に車から降り出した。
「えっ? どこまで行くんだ?」
「心配なので、中に入るのを見届けます」
「心配って……子どもじゃないぞ」
「わかってますよ。俺が離れるのが寂しいだけです」
「――っ!! そ、んなこと……っ」
誰が見ているかもわからない会社の前で言うなんて……。
透也くんは男と付き合ってるなんてバレても気にしないんだろうか?
「お昼に迎えに来ますから、どこにもいかないでくださいね」
「ああ、わかってる」
「じゃあ、大智さん。いってらっしゃい」
笑顔でポンとネクタイに触れられてドキッとする。
そういえば、今日のネクタイは透也くんのだったんだ。
俺がセキュリティーゲートを通るまで見送られて、最後に振り返った時には笑顔で手を振られた。
そして、今度は俺が透也くんがキースの車に戻っていくのをそっと見送っていると、
「支社長、おはようございます」
と声をかけられた。
「えっ、あ、ああ。おはよう」
「あの方、お知り合いですか?」
「ああ。傘下企業の子だよ。短期出張できている間、同じ社宅に住んでいるんだ。だから一緒に車で来たんだよ」
「へぇ、そうなんですね。あれ?」
俺の顔あたりを見ながら、突然不思議な声をあげる彼女に驚いた。
もしかしたら、透也くんとのことがバレるような何かがあったのかと一瞬冷や汗をかきながら、それでも
「どうかした?」
と冷静を装って尋ねた。
「いえ、支社長のそのネクタイ……」
「えっ? ネクタイ?」
「すごくお似合いですね。なんだか、いつもと系統は違いますけど、すごくよくお似合いです。あ、もちろん、今までのも似合ってましたけど、このネクタイは今日のスーツによく合ってて……あっ!」
野崎さんは突然目をキラキラさせたかと思ったら、ニマニマしながら
「もしかして……彼女さん、からの贈り物ですか?」
と言ってきた。
「えっ……」
「ふふっ。やっぱり。支社長、わかりやすすぎですよ」
「いや、ちが――っ」
「はいはい。じゃあ、そういうことにしておきますね。でも、本当にお似合いですよ」
そう言って野崎さんは楽しそうにスキップでもしそうな勢いで、受付に向かっていった。
何がそんなに嬉しかったのかわからずに立ち尽くしていると、
「支社長?」
とセキュリティーゲートを通ってきた部下の子に声をかけられて驚いてしまった。
「あ、ああ。おはよう」
となんでもないふりをして、自分のフロアに向かった。
仕事をしながらも、気になるのはネクタイのことばかり。
なんせ、仕事の話に来るついでにみんながネクタイのことばかり尋ねてくるんだから。
似合っているのは嬉しいけど、そんなに今までのネクタイと違うかな?
そこまで変わらないと思ったんだけどなぁ……。
でも……外したいとは正直言って全然思わない。
なんとなく、透也くんがそばにいてくれているような気がして、安心するんだ。
心なしか仕事もよく捗る気がする。
透也くんのネクタイで仕事がスムーズに行くなら、験担ぎみたいな感じで毎日借りるのもありかもしれないなぁなんて、思ってしまう。
まぁ、今日だけ特別なんだとは思っているんだけど。
でも一度頼んでみようかな。
例えば……
――透也くんのネクタイ、すごく評判がよかったんだ。よかったら、明日からもネクタイ貸してくれないか?
いや、流石にそれは図々しいか……。
なら……
――透也くんのネクタイ、すごく評判が良かったから今度一緒に選んでくれないか?
うん、これならイケるかも!
今日、お昼に会う時早速頼んでみようか。
そんなことを考えているとなんとなく楽しくなってきて、あっという間にお昼近くになっていた。
アメリカの企業ではランチ時間が短かかったり、長かったりそれぞれ違いはあるけれど、こちらは日本企業の支社ということもあって、しっかりとランチタイムをとっている。
ハンバーガーやピザ、タコスなどのデリバリー定番ものもあれば、最近は店の料理をそのまま持ってきてもらうことも多い。
とはいえ、こういう食事が楽しいのは最初の1、2週間くらい。
それ以降は、結構お弁当を作って持ってきている人も多い。
俺も最近、飽きてきていたところだったから、透也くんの料理には本当に感謝している。
その透也くんがおすすめだという店なら、かなり期待が持てる。
どこのランチに連れていってくれるんだろう……。
逸る気持ちを抑えながら、
「ランチに行ってくるよ」
と声をかけてロビーへと向かった。
少し早かったな。
外に出て待っていた方がいいかな……なんて思いながら、セキュリティーゲートを通っていると
「大智さんっ!!」
と透也くんの声が聞こえた。
「あれ? もう来ていたのか?」
「はい。午前中外回りに行っていたので、そのまま来ました」
「ああ、だからか、少し汗をかいてる」
「えっ? すみません、汗臭かったですか?」
「いや、それは全然気にしないよ。むしろいい匂いしかしてない」
「――っ!! 大智、さん……っ」
「んっ? どうかしたか? 顔が赤くなってる。やっぱり暑かったんだろう?」
急に顔を赤らめた透也くんが心配で、ポケットからハンカチを取り出して透也くんの首筋を流れる汗を拭き取った。
「仕事、お疲れさま」
汗を拭きながら、そう声をかけると透也くんはさらに顔を赤らめた。
396
お気に入りに追加
1,873
あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。


初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる