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特別な存在
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「じゃあ……絶対に、離れないでくれ……」
「大智さんっ! はい、絶対に。約束します」
こんなに嬉しそうに笑ってくれるのか……。
ならもういい。
いつか傷つくかもしれないなんて、あるかどうかもわからないことに怯えるのはやめよう。
今はただ透也くんを信じよう。
「大智さん……キス、しても?」
「――っ、そんなこと、聞かないで……」
「ふふっ。そうですね。もう伺いなんて立てなくても、私たち恋人ですからね」
嬉しそうな声に見上げれば、チュッと柔らかな唇が重なってきた。
「んっ……ふぅ……んっ、ん……」
何度も角度を変え、唇を啄まれるのが心地良い。
こんなに気持ちいいキス……初めてかも。
このまま舌を入れられたら、どうなってしまうんだろう……。
そう思っていると、ゆっくりと唇が離れてしまった。
「あっ――!」
透也くんの唇を未練がましく追いかけてしまうと、
「ふふっ。もっとキス、したかったですか?」
と耳元で甘く囁かれる。
「だって、気持ちよかったから……」
素直な言葉を口にすると、透也くんがハッと息を呑んだ。
調子に乗って恥ずかしいことを言ってしまっただろうか?
「あ、あの……透也、くん――わっ!!」
ドキドキしながら彼を見ると、突然ぎゅっと抱きしめられてしまった。
「必死に抑えてるのに、そんなことを……。このまま襲ってしまいますよ」
「――っ!! 透也くん……我慢しなくて、いいのに……」
「ああっ、もう! 私がどれだけ……っ、大智さん、忘れてるでしょう? 今日はこれから仕事ですよ」
「えっ? あっ! そう、だったっ!!」
今、何時かもわからないけど、そういえば昨日は日曜日。
今日は仕事だったんだ……。
「もしかして、遅刻とか……」
支社長の立場にいるくせに、遅刻とかかなりやばすぎる。
「安心してください。今はまだ6時半です。昨日、酔って寝てしまったので、時間の感覚がわからなくなっていたでしょう? お風呂沸かしてますから、ゆっくり入ってきてください。もう痛みはないですか?」
「あ、そういえば……痛くない、かも……」
「それはよかったです。一応薬飲ませておいたんですよ」
「そうなんだ、ありがとう…って、どう、やって……?」
「ふふっ。そこ、聞きたいですか?」
ニヤリと不敵な笑みで見つめられて、これは聞かないほうがいいかもしれないと本能的に思ってしまった。
「い、いや。いい」
「ふふっ」
透也くんは笑いながら、ベッドから立ち上がるとクローゼットを開け、小さな箱を取り出した。
「これ、使ってください」
箱の中身は入浴剤のようだ。
まんまるのボールみたいな形でなんだか可愛い。
「いい匂い」
「柑橘系の香りみたいですよ」
「これ……」
「餞別に同僚たちからもらったんです。一人だと湯を張ることもあまりなくて使えずにいたんですけど、よかったです」
「そうなんだ、ありがとう。ちょっと一度部屋に戻って着替えをとってくるよ」
そう普通に言っただけなのに、
「ダメです! そんな色っぽい顔で外に出るなんて!」
突然大きな声で止められてびっくりしてしまった。
「えっ? いろ、っぽい?」
「はい。着替えなら、私が用意しておきます。大智さんの部屋からスーツを持ってきてもいいですか?」
「それは、構わないけど……」
「大丈夫です。スーツ以外のものは触ったりしませんから」
「――っ、別に、透也くんならいいけど……」
「えっ?」
「お風呂、入ってくる」
透也くんが驚いている間に、俺はバスルームに駆け込んだ。
でもなんであんなこと言ってしまったんだろう……。
今までなら、自分の部屋に人を入れるなんて絶対にしなかったし、ましてや自分がいない時に入れるなんて、絶対考えられなかったのに……。
やっぱり……透也くんは特別ってことなんだろうな……。
納得しながら服を脱いで浴室に入ると、ふわりと透也くんの匂いを感じる。
ああ、シャンプーか。
それともボディーソープかな。
そういえば、これ借りたら同じ匂いになれるかも……。
そう思ったけど、入浴剤入れたら一緒の匂いになれないかな。
入浴剤、入れるのやめようか……。
あ、でも俺の後に入るかもな。
それなら同じ匂いになれるんじゃ……。
って、30にもなって恋人と同じ匂いになりたいなんて、そんな高校生男子みたいな考え……恥ずかしい。
俺、なんだかすっかり恋愛脳になっているみたいだ。
シャンプーとボディーソープを借りて髪と身体を洗い、入浴剤を入れたお湯に浸かると
「ああーーっ」
と声が出る。
もうすっかりおじさんになってきてるのかもしれない。
透也くんはまだまだ『ああーーっ』なんて出ないんだろうな。
何かするごとに透也くんのことばかり考えてしまう。
やっぱり俺はちょっと浮かれすぎているのかもしれない。
「大智さーん」
「わっ!」
ずっと透也くんのことばかり考えていたから、突然声をかけられて思わず声が出てしまった。
「すみません、驚かせてしまいましたか?」
浴室の扉一枚向こうに透也くんがいるというだけでドキドキしてしまう。
「い、いや。大丈夫。悪い、声なんか出して」
「いえ。着替えとタオル。ここに置いておきますから。スーツは寝室に置いておきますね」
「ああ、ありがとう」
流石に風呂上がりにすぐスーツは着ないからな。
それにしても風呂場で透也くんの声を聞くだけでこんなになっちゃってるなんて……どうしたらいいんだろう。
入浴剤のおかげで見えなくても、自分のモノがどんな状態になっているかくらいはわかる。
流石に人の家の風呂場で処理するなんてことできるはずもないけど……このままの状態で出るわけにもいかない。
どうしよう……。
あまり長時間もいられないしな。
そもそも、ここ最近こんな状態になったこともなかったのに。
こんな姿見られて幻滅されたらどうしよう……。
少し不安に思っていると、昂ったモノが萎えてきた。
それにはホッとしつつも、透也くんの反応を考えるとよかったとは思えなかった。
「大智さんっ! はい、絶対に。約束します」
こんなに嬉しそうに笑ってくれるのか……。
ならもういい。
いつか傷つくかもしれないなんて、あるかどうかもわからないことに怯えるのはやめよう。
今はただ透也くんを信じよう。
「大智さん……キス、しても?」
「――っ、そんなこと、聞かないで……」
「ふふっ。そうですね。もう伺いなんて立てなくても、私たち恋人ですからね」
嬉しそうな声に見上げれば、チュッと柔らかな唇が重なってきた。
「んっ……ふぅ……んっ、ん……」
何度も角度を変え、唇を啄まれるのが心地良い。
こんなに気持ちいいキス……初めてかも。
このまま舌を入れられたら、どうなってしまうんだろう……。
そう思っていると、ゆっくりと唇が離れてしまった。
「あっ――!」
透也くんの唇を未練がましく追いかけてしまうと、
「ふふっ。もっとキス、したかったですか?」
と耳元で甘く囁かれる。
「だって、気持ちよかったから……」
素直な言葉を口にすると、透也くんがハッと息を呑んだ。
調子に乗って恥ずかしいことを言ってしまっただろうか?
「あ、あの……透也、くん――わっ!!」
ドキドキしながら彼を見ると、突然ぎゅっと抱きしめられてしまった。
「必死に抑えてるのに、そんなことを……。このまま襲ってしまいますよ」
「――っ!! 透也くん……我慢しなくて、いいのに……」
「ああっ、もう! 私がどれだけ……っ、大智さん、忘れてるでしょう? 今日はこれから仕事ですよ」
「えっ? あっ! そう、だったっ!!」
今、何時かもわからないけど、そういえば昨日は日曜日。
今日は仕事だったんだ……。
「もしかして、遅刻とか……」
支社長の立場にいるくせに、遅刻とかかなりやばすぎる。
「安心してください。今はまだ6時半です。昨日、酔って寝てしまったので、時間の感覚がわからなくなっていたでしょう? お風呂沸かしてますから、ゆっくり入ってきてください。もう痛みはないですか?」
「あ、そういえば……痛くない、かも……」
「それはよかったです。一応薬飲ませておいたんですよ」
「そうなんだ、ありがとう…って、どう、やって……?」
「ふふっ。そこ、聞きたいですか?」
ニヤリと不敵な笑みで見つめられて、これは聞かないほうがいいかもしれないと本能的に思ってしまった。
「い、いや。いい」
「ふふっ」
透也くんは笑いながら、ベッドから立ち上がるとクローゼットを開け、小さな箱を取り出した。
「これ、使ってください」
箱の中身は入浴剤のようだ。
まんまるのボールみたいな形でなんだか可愛い。
「いい匂い」
「柑橘系の香りみたいですよ」
「これ……」
「餞別に同僚たちからもらったんです。一人だと湯を張ることもあまりなくて使えずにいたんですけど、よかったです」
「そうなんだ、ありがとう。ちょっと一度部屋に戻って着替えをとってくるよ」
そう普通に言っただけなのに、
「ダメです! そんな色っぽい顔で外に出るなんて!」
突然大きな声で止められてびっくりしてしまった。
「えっ? いろ、っぽい?」
「はい。着替えなら、私が用意しておきます。大智さんの部屋からスーツを持ってきてもいいですか?」
「それは、構わないけど……」
「大丈夫です。スーツ以外のものは触ったりしませんから」
「――っ、別に、透也くんならいいけど……」
「えっ?」
「お風呂、入ってくる」
透也くんが驚いている間に、俺はバスルームに駆け込んだ。
でもなんであんなこと言ってしまったんだろう……。
今までなら、自分の部屋に人を入れるなんて絶対にしなかったし、ましてや自分がいない時に入れるなんて、絶対考えられなかったのに……。
やっぱり……透也くんは特別ってことなんだろうな……。
納得しながら服を脱いで浴室に入ると、ふわりと透也くんの匂いを感じる。
ああ、シャンプーか。
それともボディーソープかな。
そういえば、これ借りたら同じ匂いになれるかも……。
そう思ったけど、入浴剤入れたら一緒の匂いになれないかな。
入浴剤、入れるのやめようか……。
あ、でも俺の後に入るかもな。
それなら同じ匂いになれるんじゃ……。
って、30にもなって恋人と同じ匂いになりたいなんて、そんな高校生男子みたいな考え……恥ずかしい。
俺、なんだかすっかり恋愛脳になっているみたいだ。
シャンプーとボディーソープを借りて髪と身体を洗い、入浴剤を入れたお湯に浸かると
「ああーーっ」
と声が出る。
もうすっかりおじさんになってきてるのかもしれない。
透也くんはまだまだ『ああーーっ』なんて出ないんだろうな。
何かするごとに透也くんのことばかり考えてしまう。
やっぱり俺はちょっと浮かれすぎているのかもしれない。
「大智さーん」
「わっ!」
ずっと透也くんのことばかり考えていたから、突然声をかけられて思わず声が出てしまった。
「すみません、驚かせてしまいましたか?」
浴室の扉一枚向こうに透也くんがいるというだけでドキドキしてしまう。
「い、いや。大丈夫。悪い、声なんか出して」
「いえ。着替えとタオル。ここに置いておきますから。スーツは寝室に置いておきますね」
「ああ、ありがとう」
流石に風呂上がりにすぐスーツは着ないからな。
それにしても風呂場で透也くんの声を聞くだけでこんなになっちゃってるなんて……どうしたらいいんだろう。
入浴剤のおかげで見えなくても、自分のモノがどんな状態になっているかくらいはわかる。
流石に人の家の風呂場で処理するなんてことできるはずもないけど……このままの状態で出るわけにもいかない。
どうしよう……。
あまり長時間もいられないしな。
そもそも、ここ最近こんな状態になったこともなかったのに。
こんな姿見られて幻滅されたらどうしよう……。
少し不安に思っていると、昂ったモノが萎えてきた。
それにはホッとしつつも、透也くんの反応を考えるとよかったとは思えなかった。
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