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完璧な彼氏
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「ふぅーっ、お腹いっぱいっ」
「あっ、大智さん」
「んっ?」
満腹になったお腹をさすりながら、透也くんを見上げた瞬間、透也くんの指が俺の唇に触れた。
「ご飯粒、ついてましたよ」
「あ、ありが――っ!!」
嬉しそうに指で摘んだ俺のごはん粒を見せたと思ったら、そのままパクリと口の中に入れてしまった。
「い、今……」
「ふふっ。ご馳走さまです。大智さんがたくさん食べてくれて嬉しいですよ」
今、確かに俺の唇についていたご飯粒を……食べた、よな?
それって、普通なのか?
――奥さんとして当然のことですよ。
そう言われたことが頭の中に甦る。
本当に、本気なんじゃ……?
そう思ったら、一気に顔に熱が集まっていく。
それを隠すように、
「――っ、か、片付けは私がするよ」
と言って立ち上がったものの、
「いえ、準備も手伝ってもらったんですから大丈夫ですよ」
とにこやかに交わされる。
でもそういうわけにはいかない。
「あんなの切っただけだし、美味しいの食べさせてもらったからするよ」
「ふふっ。じゃあ、一緒にしましょうか」
強めに言うと、透也くんは嬉しそうに俺の手を引いて二人でキッチンに並んだ。
「大智さん、これをお願いします」
「ああ、任せてくれ」
手際よく綺麗に洗った、野菜を切って入れていた盛り付け皿をタオルと共に最初に手渡され、意気揚々とそれを拭いている間に全ての食器が食洗機にかけられて、するべきことが全て終わってしまっていた。
「えっ? もう終わったのか?」
「大智さんが大物を拭いてくれていたおかげですよ。あれが意外と手間がかかるんです」
結局あれだけを拭いて終わって、手伝えたのかどうなのかもわからないけれど、にっこりと笑って言われれば、そうなのかと納得してしまう。
「食後のデザートに桃を剥きましょうか」
「あっ、そうだった!」
今頃冷えひえになっているだろう桃を冷蔵庫から取り出すと、透也くんは潰さないようにゆっくりと片手で持った。
「これはどうやって剥くのが正しいんだ?」
「色々剥き方はあるんですけど、私の場合は……」
そう言いながら、透也くんは桃の窪んだところを一周包丁を入れた。
でも中に大きな種があるから流石にこのまま切ることはできないだろうし、どうするんだろう?
そう思っていると、透也くんは包丁を置き、徐に両手で桃を捻り始めた。
「えっ?」
「ふふっ。みててください」
思いがけないやり方に驚いていると、ねじった桃が二つに分かれた。
片側に種がついている状態だ。
「わっ、すごっ」
そして、種のついていない方を櫛形に切り、さっと皮を器用に外していくとまるで切ったリンゴのような桃が現れた。
「えっ? 何、すごっ!」
種の付いている方も櫛形に切り、最後に種がぼろっと取れた。
「わっ、すごっ!」
もはやすごいとしか言いようがない技に驚きが止まらない。
「ふふっ。そんなに良い反応してくれるとやり甲斐がありますね」
「いや、ほんとすごいよ。こんな剥き方? というか、切り方、初めて見たし」
「学生のころ、ホテルのレストランでアルバイトしていた時にシェフに教えてもらったんですよ」
「もしかして厨房にいたのか?」
「いえ、ギャルソンです。英語だけでなく、一応フランス語も日常会話なら話せるので採用にしてもらえてラッキーでした。その時から料理に興味があったので、シェフと仲良くなっていろいろ教えてもらったんですよ」
「すごい経歴だな」
英語もネイティブ並みに話していたし、その上フランス語まで?
コミュニケーション能力は高いし、聞き上手で話し上手だし、料理も上手で、痒い所にまで手が届くくらいあれこれやってくれるし……学生時代の彼の恋人とやらは、本当にもったいないことしたな。
こんな完璧な彼氏なんてそうそういないのに……。
「あの時、桃の剥き方を聞いておいてよかったですよ、こうやって大智さんに喜んでもらえたんですから」
「――っ!!」
俺のために覚えてくれたわけじゃないけれど、なんだかそんなふうに言われたみたいで胸がときめいてしまうのは、さっきの
――奥さんとして当然のことですよ
と笑顔で言われたことを思い出してしまうからだ。
「大智さん、あっちで桃を食べましょう」
ソファーの前にあるテーブルに桃が入った器を置くと、透也くんはソファーの隣にあるキャビネットを開け、そこからワイングラスを取り出し、
「甘い桃に合う白ワインがあるんですよ」
と、いつの間に冷やしていたのか、ワインクーラーに入った白ワインをキッチンから持ってきた。
「これは、甘い桃との相性が抜群なんですよ」
手際よくワインを開け、グラスに注いでくれる姿はまるでソムリエのよう。
「これもレストランで学んだんですよ。やっぱり学生時代のバイトってその後の糧になりますよね」
そう簡単なことのように言うけれど、ここまで習得するにはかなり真剣に向き合わない限り、無理だろう
本当に好きなことには一直線なんだろうな。
「あっ、大智さん」
「んっ?」
満腹になったお腹をさすりながら、透也くんを見上げた瞬間、透也くんの指が俺の唇に触れた。
「ご飯粒、ついてましたよ」
「あ、ありが――っ!!」
嬉しそうに指で摘んだ俺のごはん粒を見せたと思ったら、そのままパクリと口の中に入れてしまった。
「い、今……」
「ふふっ。ご馳走さまです。大智さんがたくさん食べてくれて嬉しいですよ」
今、確かに俺の唇についていたご飯粒を……食べた、よな?
それって、普通なのか?
――奥さんとして当然のことですよ。
そう言われたことが頭の中に甦る。
本当に、本気なんじゃ……?
そう思ったら、一気に顔に熱が集まっていく。
それを隠すように、
「――っ、か、片付けは私がするよ」
と言って立ち上がったものの、
「いえ、準備も手伝ってもらったんですから大丈夫ですよ」
とにこやかに交わされる。
でもそういうわけにはいかない。
「あんなの切っただけだし、美味しいの食べさせてもらったからするよ」
「ふふっ。じゃあ、一緒にしましょうか」
強めに言うと、透也くんは嬉しそうに俺の手を引いて二人でキッチンに並んだ。
「大智さん、これをお願いします」
「ああ、任せてくれ」
手際よく綺麗に洗った、野菜を切って入れていた盛り付け皿をタオルと共に最初に手渡され、意気揚々とそれを拭いている間に全ての食器が食洗機にかけられて、するべきことが全て終わってしまっていた。
「えっ? もう終わったのか?」
「大智さんが大物を拭いてくれていたおかげですよ。あれが意外と手間がかかるんです」
結局あれだけを拭いて終わって、手伝えたのかどうなのかもわからないけれど、にっこりと笑って言われれば、そうなのかと納得してしまう。
「食後のデザートに桃を剥きましょうか」
「あっ、そうだった!」
今頃冷えひえになっているだろう桃を冷蔵庫から取り出すと、透也くんは潰さないようにゆっくりと片手で持った。
「これはどうやって剥くのが正しいんだ?」
「色々剥き方はあるんですけど、私の場合は……」
そう言いながら、透也くんは桃の窪んだところを一周包丁を入れた。
でも中に大きな種があるから流石にこのまま切ることはできないだろうし、どうするんだろう?
そう思っていると、透也くんは包丁を置き、徐に両手で桃を捻り始めた。
「えっ?」
「ふふっ。みててください」
思いがけないやり方に驚いていると、ねじった桃が二つに分かれた。
片側に種がついている状態だ。
「わっ、すごっ」
そして、種のついていない方を櫛形に切り、さっと皮を器用に外していくとまるで切ったリンゴのような桃が現れた。
「えっ? 何、すごっ!」
種の付いている方も櫛形に切り、最後に種がぼろっと取れた。
「わっ、すごっ!」
もはやすごいとしか言いようがない技に驚きが止まらない。
「ふふっ。そんなに良い反応してくれるとやり甲斐がありますね」
「いや、ほんとすごいよ。こんな剥き方? というか、切り方、初めて見たし」
「学生のころ、ホテルのレストランでアルバイトしていた時にシェフに教えてもらったんですよ」
「もしかして厨房にいたのか?」
「いえ、ギャルソンです。英語だけでなく、一応フランス語も日常会話なら話せるので採用にしてもらえてラッキーでした。その時から料理に興味があったので、シェフと仲良くなっていろいろ教えてもらったんですよ」
「すごい経歴だな」
英語もネイティブ並みに話していたし、その上フランス語まで?
コミュニケーション能力は高いし、聞き上手で話し上手だし、料理も上手で、痒い所にまで手が届くくらいあれこれやってくれるし……学生時代の彼の恋人とやらは、本当にもったいないことしたな。
こんな完璧な彼氏なんてそうそういないのに……。
「あの時、桃の剥き方を聞いておいてよかったですよ、こうやって大智さんに喜んでもらえたんですから」
「――っ!!」
俺のために覚えてくれたわけじゃないけれど、なんだかそんなふうに言われたみたいで胸がときめいてしまうのは、さっきの
――奥さんとして当然のことですよ
と笑顔で言われたことを思い出してしまうからだ。
「大智さん、あっちで桃を食べましょう」
ソファーの前にあるテーブルに桃が入った器を置くと、透也くんはソファーの隣にあるキャビネットを開け、そこからワイングラスを取り出し、
「甘い桃に合う白ワインがあるんですよ」
と、いつの間に冷やしていたのか、ワインクーラーに入った白ワインをキッチンから持ってきた。
「これは、甘い桃との相性が抜群なんですよ」
手際よくワインを開け、グラスに注いでくれる姿はまるでソムリエのよう。
「これもレストランで学んだんですよ。やっぱり学生時代のバイトってその後の糧になりますよね」
そう簡単なことのように言うけれど、ここまで習得するにはかなり真剣に向き合わない限り、無理だろう
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