年下イケメンに甘やかされすぎて困ってます

波木真帆

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居心地が良すぎる

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「大智さん、この映画観ましたか?」

出してもらったアイスコーヒーに口をつけた俺に見せてくれたタブレットの画面には、有名なアクション映画のタイトルが表示されていた。

「あっ! これ、シリーズ最新作じゃないか。もう配信されてるのか?」

「そうなんですよ。ちょうど昨日から配信が始まったんですけど、よかったら一緒に観ませんか?」

「いいのか?」

「もちろんですよ。ちょうどポテチも買いましたし、摘みながら映画でも観ましょう。映画、好きなんですけどなかなか映画館まで足を運ぶ時間が取れなくて、映画が充実している動画配信サービスに入ったんですよ。そのおかげでこっちにきてから夜は映画三昧です」

そう言いながら、プロジェクターをセッティングして、壁にかけられたスクリーンを下ろし始めた。
ここの社宅は夜間外出を禁止している分、部屋の中の設備はかなり充実しているから助かる。
俺もどこかの動画配信サービスに加入しようと思いながら、まだ決めかねていた。

「確かに大画面で観るのも迫力があっていいけど、自分の好きなときに観られるのは魅力的だからな」

「そうなんですよね。最近は映画館の席ガチャの当たり外れも大きいって言いますから」

「ハハッ。席ガチャか。言い得て妙だな。確かに隣で上映中にスマホ見てたりされたら集中できないからな」

「そうそう、ここだとゆっくり集中できますよ」

パチンとウィンクされてドキッとする。
なんで透也くんはこんなにも俺をドキドキさせるんだろう

「や、やっぱり私も動画配信サービスに入ろうかな」

「慌てて入ることはないですよ。それぞれメリット・デメリットもありますからゆっくり吟味してから入っても遅くないでしょう? どうせ夜は外に出られないんですし、ここで好きに観ていってください。食事しながら映画観るのもなかなか楽しいものですよ」

そんなに畳み掛けるように言われるとそれ以上反論なんてできなかった。
なんと言っても透也くんは、笹川コーポレーションでも一二を争う営業マン。
交渉なんてお手の物だろうし。

それに、正直言ってこの部屋は自分の部屋よりも落ち着くんだ。
なんでだろう?
この温かな空気感がなんとなく実家を思い起こさせる。

透也くんと会うまでは自分の部屋が一番だったはずなのに。

「隣、座りますね」

「あ、ああ。狭くないか?」

ゆったりと座っていたから端に寄ろうとすると、

「そのままで大丈夫ですよ」

と言って、リモコンを取りピッと部屋の電気を落とした。
スクリーンからの光だけが部屋に溢れ、ここだけ映画館そのものだ。

なぜか身体がピッタリとくっついたまま、映画が始まった。
身体の右側に透也くんの温もりを感じて、映画に集中出来そうにない。
でも、ここで動くのは意識しすぎか。

ゲイの俺と違って、透也くんは隣に男が座ったってなんの興味も持たないんだから。

顔を動かさずに目だけで隣を窺えば、楽しそうに画面を追っているのがわかる。

やっぱりそうか……。
俺の気にしすぎだな。

なら、このままでいいか。
集中しているところを邪魔したくないし、何よりこの温もりが心地良い。
ああ、こんな感覚いつぶりだろう……。

考えたら宏樹とはこうやってピッタリと寄り添って並んで座ったことなんて、電車やバス以外ではなかったかも。
家では俺の顔を見ていたいからって、いつも向かい合わせに座ってたし。

それがちょうど良い距離感だと思っていたのに。
今はこの距離感のなさがいい。

さっきからずっとなんでだろうと思っていたけど、やっとわかった。
年下で、懐いてくれる透也くんにいつの間にか心を開いていたんだな。

ああ、本当にずっとこのままでいられたら良いのに。



「う、ん……」

「ふふっ。目が覚めましたか?」

「えっ?」

目を開けると、隣いたはずの透也くんの顔が上に見える。

「な――っ、えっ?」

この状況がどうなっているのかを知りたくてキョロキョロと辺りを見回すと、なぜか透也くんの膝に頭を乗せてソファーに横になっていた。
いわゆる膝枕の状態に慌てて起きあがろうとすると、

「急に起き上がったら危ないですよ」

と言いながら、ゆっくり抱き起こしてくれる。

「あ、あの……私、は……」

「疲れていたみたいですね。途中で私の肩に寄りかかって眠っていたので、膝に寝かせたんです」

「――っ!! ご、ごめんっ! 迷惑かけてしまったな。起こしてくれてよかったのに」

「いいえ、私もゆっくり過ごしたんで気にしないで大丈夫ですよ。久しぶりにゆっくり本を読めましたし。それに……」

「んっ?」

「大智さんの寝顔が可愛くて見ているの楽しかったですから」

「――っ!!! か、可愛いって……」

目を見つめられながらそんなことを言われて、顔が真っ赤になっていくのが自分でもよくわかる。
そんな俺を嬉しそうにみる透也くんに、俺はもう何も言えなかった。
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