婚約者に裏切られたのに幸せすぎて怖いんですけど……

波木真帆

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番外編

会いに行こう! <後編>

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「ははっ。敦己。よくわかったな」

「えっ? なに? どういうこと? どうして父さんがここに?」

思いがけない状況に表情を青褪めさせパニックを起こす敦己を落ち着かせようと抱きしめていると、さっきの女が近づいてくる。アラビアンマスクの上からでも笑顔を浮かべているのがわかるが、先ほどの表情とはまるで別人だ。

「ごめんなさい、ちょっとからかったの」

さっとマスクとフード付きのマントを脱ぎ捨てると、そこには一度画面越しに会ったことのある敦己のお母さんが現れた。その姿を見て、敦己は今度は一気に顔を真っ赤にして怒り始めた。

「母さん! からかったってなに? こんなところまで連れてきて冗談にしてはひどすぎるよ! 誉さんにだってあんな失礼なことをして!」

「あ、敦己、落ち着け。俺は大丈夫だから」

今まで見たことがないくらい感情を露わにしている敦己の姿に驚きつつ、俺は必死に宥めた。

「本当にごめんなさい。でも、普段遠く離れている分、二人の思いの強さをしっかりと知っておきたかったの。敦己は特に辛い思いをしたからもう二度と同じような思いはさせたくなかったのよ。誉さん、ごめんなさいね。あなたのことは信用していたんだけど、どうしても一度この目ではっきりと確かめておきたかったの」

「母さんを怒らないでやってくれ。私も心配で賛成したんだ。だが、そのおかげで彼の敦己への思いもしっかりと聞けたし、敦己の気持ちもよくわかった」

「それにしたって、人を騙すようなこと――」
「いいよ。敦己。俺は怒ってない」

「誉さんは優しすぎますよ! こんなひどいことをする両親とは絶縁したって――」
「敦己、そんなことを言っちゃいけない。それに、最初から俺は何かあるって思っていたからな」

「えっ? どういうことですか?」

俺の言葉に一気に怒りを霧散させ、キョトンとした表情を向ける敦己が可愛い。

「この占いの店だよ。透也くんが行ったって聞いた時からおかしいなって思ってたよ」

「そう、なんですか?」

「ああ。彼は占いなんて信じるような人じゃないからな。だから、絶対何かあるって思っていたよ。もちろん、お二人が関わっているとは思ってなかったけどな。でも、さっき言ったことに嘘偽りはないよ。あれは全て俺の本心だ。敦己を一生大切にするし、絶対に裏切ったりしない。ご両親の前で改めて誓うよ。約束する、俺は敦己と一生をともに幸せに暮らす」

「誉さん……」

敦己の綺麗な瞳から涙が溢れてくる。

「俺のために怒ったり泣いたり感情豊かな敦己を俺は愛しているよ」

「うっ、ほ、まれ、さん……っ」

俺は涙でいっぱいの敦己を抱きしめながら、ご両親に視線を向けた。
すると、二人は驚きの表情を敦己に向けていた。

「どうかされましたか?」

「敦己が、人前で泣くなんて……本当に、誉さんは特別みたいね。ねぇ、あなた」

「ああ。こんな試すようなことをして本当に申し訳なかった」

「私も謝るわ。本当にごめんなさい」

心からの謝罪を受け、俺にはもうわだかまりはなかった。

「敦己、ご両親も謝ってくださっているから。な」

ハンカチで敦己の涙を拭いながら優しく声をかけると、敦己は小さく頷いた。

「わ、わかりました……でも、お父さんも、お母さんも、これで最後だからね!」

「ええ。本当にわかったわ」

「敦己、誉くん。許してくれてありがとう」

敦己もようやく納得したのか、最後には二人の言葉に笑顔を見せていた。

「それにしても、このお店……一体なんなの?」

「ここは、利樹としきさんのアトリエのために借りた部屋なの。個展をやっている間も作業したいっていうから、せっかくだから香港っぽい場所の方がアイディアが浮かぶと思って」

なるほど。だから不思議な感じがしたんだ。営業をしてそうには見えなかったからな。

「じゃあ、透也が行ったっていうのは?」

「透也くんにはちょっと協力してもらったのよ。でも、透也くんの言った通りだったけどね」

「透也が何を言っていたの?」

「誉さんは逆に怪しがりそうだって」

ふっ。さすがだな。やっぱり俺たちは同類なんだろう。

「二人ともお腹空いたでしょう? 地元の人に聞いておいた美味しい店があるから、一緒に行きましょう」

その言葉に敦己のお腹から可愛い音が聞こえた。相変わらず正直なお腹だ。

着替えを済ませたご両親と少し離れた場所にあるレストランにタクシーで向かい、ようやく楽しい顔合わせとなった。

画面越しでは芸術家気質で少し話しにくそうだと思っていた父上も、実際には愉快な人で笑いが絶えない食事の時間だった。

「誉くん。君のような頼り甲斐のある男が敦己の伴侶になってくれて嬉しいよ」

「ありがとうございます」

「敦己のことをよろしく頼むよ」

「はい。お任せください」

最後まで笑顔のまま食事会は終わり、俺たちは二人でホテルへ向かった。

「誉さん……今日は本当にごめんなさい」

「気にしないでいいと言ったろう? それよりもこの美しい香港の夜景を見ながら敦己と愛し合いたい……いいか?」

「はい……。いっぱい愛して……」

甘いキスを合図に、俺たちはそれからたっぷりと愛し合った。

俺たちが離れることは一生ない。それを実感できた旅になったな。
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