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番外編

食事会  <前編>

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「宇佐美! 帰ってきたな」

「あ、ああ。また宜しくな」

久しぶりに本社に出勤した日、エレベーターを待っていた僕の後ろから元気一杯の声をかけてくれたのは、同期の上田。
なんとなく気恥ずかしい感じがするのは、上田が誉さんの弟だからだ。

どこまで話を聞いているんだろう?

「あ、あのさ……」

「ふっ。俺がどこまで知ってるのか気になるか?」

「えっ? なんでわかった?」

「さっきからチラチラ見過ぎなんだよ」

「そ、そうだったか?」

どうやら気にするあまり、上田のことを見まくっていたみたいだ。

「ああ。だけど、安心してくれ。付き合ったのは聞いてるけど、他の詳しいことは何も聞いてないよ。大体同期と兄貴の恋バナとかわざわざ聞きたくないだろ」

「恋バナって……」

「だって、そうだろ?」

「まぁ、そうだけど……」

そうはっきり言われると少し恥ずかしい。

「はいはい。ご馳走さま。一応聞いとくが傷心で絆されたわけじゃないんだよな?」

「それはないよ。そんなんで一生のパートナーにするわけないだろ」

「ふっ。もう、一生のパートナーだと決めてるのか?」

「いや、だって……」

「わかってるよ。お前があの女と婚約した時とは全く表情が違うからな。兄貴もお前を見て一瞬で落ちてたし、同じ運命を感じたんだろう。まぁ良かったよ。兄貴が本気で落としにかかってたからお前が受け入れてくれなかったら、犯罪でも犯しかねなかったからな」

「まさかっ」

そう言ったけれど、上田の表情があまりにも本気っぽくて驚いた。
犯罪を犯しかねないと言っていたけど、まさかな。

「そ、そういえばさ……」

僕と誉さんの話題から変えようと、あることを思い出して尋ねてみた。

「誉さんと一緒の事務所にいる弁護士さんって、上田の友達なんだって?」

「ああ、小田切か? 大学時代の同期だよ。兄貴が事務所を設立した時にちょうど司法修習終わってたから、そのまま兄貴の事務所に就職したんだ。会ったのか?」

「いや、今日誉さんと小田切さんと一緒に食事することになってるんだ」

「えっ? なんで小田切も?」

「えっと、それは僕から言っていいのかわからないんだけど……」

恋人ができて紹介してもらうなんて、かなりのプライベート案件だからな。

「いや、ちょっと待てっ! まさかっ、いや、あいつに限ってそれはないよな。いや、でも兄貴の件があるしな……」

僕の言葉にかなり混乱しているようだけど、何を想像しているんだろう?

「上田? 大丈夫か?」

「あ、ああ。悪い。とりあえず小田切はいい奴だから、楽しんできてくれ。小田切に何か報告することがあるなら俺にも話してくれって言っておいてくれ」

「ああ、わかったよ」

上田の言葉に大体の想像がついているような気がしたけれど、ここは僕が入り込むところじゃない。

「じゃあ、今日も頑張ろうな!」

いつもの笑顔に戻った上田が、自分のデスクに戻っていくのを僕はじっと眺めていた。


今日は残業はなし。
定時ぴったりに出ようとすると、部長が僕の元に近づいてこようとしたのに気づいた上田がさりげなく、部長に声をかけた。
後ろ手で先に帰れと言ってくれているのがわかって、ありがたく思いながらオフィスを出た。

急いでエレベーターを降りて玄関に向かうとすでに誉さんの車が止まっていた。

「敦己っ!!」

助手席に乗り込むと満面の笑みで迎えられた。

「お待たせしましたか?」

「いや、今来たところだったからタイミング良かったよ」

優しく頭を撫でられてホッとする。

「小田切も彼を迎えに行ってそのまま向かうみたいだから、ちょうど同じくらいに着くだろう。ここからの方が店に近いからな」

「なんだか少しドキドキしてきました」

「ふふっ。小田切の相手もそう言っていたみたいだよ。だから心配しないでいい」

そう言いながら、ゆっくりと車は走り始めた。

あっという間に駐車場に着き、連れて行かれたのは不思議なお店。

「ここにこんなお店があるなんて知らなかったです」

「そうなのか? 敦己もてっきり接待か何かで一度くらいは来たことがあると思っていたよ」

「ああ、僕……接待はほとんど行ったことがないんです。それこそ上田から禁止されてて……」

「そうか、私と出会うまでの間、紘が敦己を守ってくれていたんだな。今度、たっぷりとお礼をしておかないとな」

嬉しそうに笑う誉さんに手を引かれ、お店に入りすぐに部屋に案内してもらった。

小田切先生とその恋人さんはまだ来ていないようだったけれど、僕たちが席に着いてすぐに

「お連れさまが来られました」

と部屋の外から声が聞こえた。

わっ! 来た!

誉さんは緊張している僕を横目に、僕の腰を抱いて自分の方にぎゅっと抱き寄せた。

初めて会う人の前でそんなこと……っ。

少し恥ずかしいなと思っていると、二人が部屋の中に入ってきた。


「――っ!!!」

僕たち以上にピッタリと寄り添ったまま入ってきた二人の姿に、僕は驚きすぎて声も出なかった。

「敦己?」

「あ、ああ。ごめんなさい。あまりにもラブラブでびっくりしちゃって……」

そういうと、おそらく恋人さんの方が恥ずかしくなっちゃったのか、真っ赤な顔をして離れようとしていたけれど、小田切先生がぎゅっと抱きしめて離さない様子だった。

「暁、離れることはないよ。恋人というものは寄り添うものなんだから。ねぇ、上田先生」

「ああ、そうだよ。北原くん、うちの敦己もあまりの仲の良さに驚いただけだから気にしないでいい。なぁ、敦己」

「あっ、はい。そうです。大丈夫ですよ」

僕がにっこりと微笑みかけると、真っ赤な彼はようやく落ち着いたように笑顔を見せてくれた。

ああ、この子。可愛い子だな。
小田切先生が落ちちゃったのもわかる気がする。
きっとこういう純粋な子が良かったんだろうな。
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