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番外編
小田切の大事な子 前編 <side誉>
しおりを挟む<side誉>
「おはよう、小田切くん」
「おはようございます、上田先生。時差ぼけはありませんか?」
「ああ、昨日一日ゆっくり過ごさせてもらったからな。それより、私がいない間に来ていた早急の案件、数日で解決とはさすがだな」
「いえ、安慶名先生にもご尽力いただいたおかげです。先生には事後報告になって申し訳ありませんでした」
「いや、解決したなら問題ないよ。後で私の方からも安慶名先生にはお礼の連絡をしておこう」
たった数日の間に全て解決とは……安慶名先生にもお手伝いいただいたとはいえ、さすがだな。
よっぽど早く片付けたかったんだろう。
とすると、やはり私の想像通りだろうか?
「あの、ロサンゼルスの方はいかがでしたか?」
「ああ、良い天気だったし、ほとんど観光に行ったようなものだからリフレッシュできたよ」
「それなら良かったです。先生、出発されるまで殺人的に大忙しでしたからね」
「小田切くんに全て任せてしまったが、おかげで全てがうまく行ったよ」
「何やら良いことがあったようですね。先生の表情が見たこともないくらいに輝いてますよ」
「そうか? だがそれは小田切くんも同じだろう?」
ニヤリと笑っていうと、ハッとした表情で私を見た。
「えっ……いつからご存じだったんですか? 安慶名先生から何かお聞きになりましたか?」
「いや、いくら私が相手でも安慶名先生は勝手にお話になるようなことはしないとわかっているだろう? 別に私も詳しいことは何も知らないが、私がいない間に来たというさっきの案件が関係あるんだろうなと思っている。あの時、電話口で小田切くんの入れ込みようが凄かったからきっと何か理由があると思っていただけだ」
「そうなんですね……いや、あの電話だけで先生に気づかれているとは思っても見ませんでした」
「いや、小田切くんに任せてここを出た日と今じゃ、まるっきり表情が違うからあの電話がなくても何かあったのはすぐに気づいたと思うぞ」
そういうと、小田切は少し恥ずかしそうに自分の顔を触っていた。
いつものポーカーフェイスができなくなっているのも、そのせいだろう。
「それで、どんな相手なんだ?」
「そのことなんですが、今日の夜、少しお時間をいただけないでしょうか? 私の大事な子をぜひ先生に紹介したいんです。詳しいことは会ってからお話ししたいんですが……」
敦己が日本に帰ってきたら、小田切と紘には紹介しようと思っていたが、先に小田切の大事な子を紹介されるとは思ってもなかったな。
「わかった。今日は特に予定もないからちょうど良かったよ。というか、それを見越して今日と言ったんだろう?」
「はい。さすが先生ですね」
「店はどこか決まっているのか?」
「はい。あのいつもの……」
「ああ、あそこか、あの店ならゆっくり話せるからな」
「そこに18時半で予約していますので、先生は先に向かってください。私は迎えに行ってから一緒に行きますので」
「ああ、わかったよ」
そう話をしたところで、胸に入れていたスマホがブルブルと震えるのを感じた。
慌てて取り出して画面を見るとやっぱり敦己。
思わず笑みを浮かべると
「ふふっ。先生の表情も今までと全然違いますね」
と小田切に笑われてしまった。
「まぁな。わざわざロサンゼルスまで行って手に入れてきた大事な相手だからな。私の恋人も来週末帰国予定なんだそうだ。帰国したら、小田切くんにも紹介したいと思っているからぜひ会ってくれ」
「はい。先生のお相手に紹介していただくの初めてですね」
「それを言うならこっちもだが……」
「ははっ。確かに。あ、ほら。恋人さん、先生からのお返事を待っていらっしゃるんじゃないですか?」
「ああ、そうだな。ありがとう。とりあえず、今日の夜楽しみにしているから」
そう言って、私はその場を離れた。
デスクに着き、敦己からのメッセージを見る。
<今日はいつもより早く終わりました。今、キースの車に乗って帰っています。帰ったら、誉さんの作ってくれた料理を温めて食べるのが楽しみです。誉さんは久々のお仕事頑張ってくださいね>
ああ、もうなんて可愛いんだろうな。
来週末まで耐えられるか心配になってきた。
「じゃあ、先生。私は迎えに行ってから直接お店に向かいます」
「ああ、わかってる。焦って事故を起こさないように気をつけるんだぞ」
「はい。ありがとうございます」
今日はずっと心ここにあらずといった様子だったな。
あの小田切が……本当に珍しい。
というより、あんな小田切は初めてだ。
恋は盲目というが、あいつにもそれが当てはまるとは思ってもなかったな。
そういう私も人のことは言えないが。
さて、そろそろ戸締りをして店に向かうとしよう。
二人を迎えてやらないといけないからな。
全室個室になっているその店は安慶名先生から紹介していただいた一見さんお断りの店だ。
弁護士という仕事柄、外では大っぴらに話すことのできない話も多いが、その店で話したことは決して世に出回ることはない。
その信頼のもとに成り立っている店だ。
店に着くと名前を出さずともすぐに部屋に案内してくれる。
「本日はこちらのお部屋でございます」
いつもよりは少し広めの部屋に案内される。
小田切の奴、かなり相手に気遣っているようだな。
まぁ、私も小田切に敦己を紹介する時はこの部屋かと思っていたから、似た者同士というわけか。
「お連れ様がお越しになりました」
しばらくして声がかけられ、小田切とその相手が中に入ってくる。
「お待たせしました」
「――っ!!」
私は小田切が連れてきた人を見て、驚きのあまり声が出なかった。
ま、まさか……小田切の相手も男性だなんて……。
二人を茫然と見つめていると、
「暁、心配しなくていい。私が何も言わなかったから驚いていらっしゃるだけなんだ」
と小田切が必死に隣にいる彼に話しかけている。
不安げな彼の目にうっすらと涙が溜まっているのが見えて、私はまずい対応をしてしまったことに気づいた。
いくら驚いたからと言って、何も声をあげないのは失敗だ。
それは彼も不安になるだろう。
その姿に敦己が重なって見えて、とてつもなく悪いことをしてしまった気になる。
「申し訳ない! ただ、あまりにもタイムリーで本当に驚いただけなんだ」
「上田先生……タイムリーとはどういう意味ですか?」
「実は、私がロサンゼルスまで追いかけて行ったのは、彼と同じ歳くらいの男性なんだよ。私の恋人も男性なんだ」
「えっ――!!!」
「それ、本当なんですか?」
「ああ、本当だ、だから小田切の相手が男性だとわかって、あまりにも同じタイミングで驚いただけだ」
「そう、だったんですか……」
小田切の相手はよほど驚いたんだろう。
大きな目をぱちくりさせ、溜まっていた涙をぽろっと溢しながら私を見つめていた。
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