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裏切り女の末路 <前編>
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<side伊山由依>
「あいつ、なんだって?」
「電話取らないのよ、大事な時ほんと使えないんだから」
「じゃあ、どうするんだ? せっかく俺たちの部屋にピッタリなソファー見つけたのに。これ一点物だぞ。ぐずぐずしてたら他の奴らに取られちまう」
「大丈夫だって、あいつは私のおねだりなんでも聞いてくれるから、メッセージ入れといたし、先に買っといても平気。あっ、すみませーん! これ、買いまーす!」
近くに立っていた店員を大声で呼ぶとこの店にそぐわない客とでも思われたのか、怪訝そうな顔をされたけれど、カードを渡したら急に低姿勢になった。
ふん、所詮店員は店員。
お客さまの言うことを素直に聞いてりゃいいのよ、
カードを渡して高い買い物する瞬間、この店で一番偉い気分になった気がして幸せなんだよね。
50万なんて敦己から見れば、全然大した買い物じゃない。
新生活だから広いマンションに住みたいって言ったらポンと頭金で500万も出してくれたし、ローンだってすんなり通ったくらいの高給取り。
あいつは私たちの新居に揃えたいんだって言えば、なんでも言うこと聞いてくれるんだから。
ほんと、いいATM見つけたわぁ~。
しかも、今は海外行ってるから何してても平気だし、ケンちゃんとも一足早く新婚生活満喫中。
ああ、ほんとさいっこうっ!!
「でも、前のソファーもついこの前買ったばっかりだったんだろう? 言い訳大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫、大丈夫。間違ってコーヒー溢したって言ってるから。あいつ、私の言うことならなんでも信じるし。だって、流石にアレで汚れたまま置いとくわけにはいかないでしょ? さっさと処分しとかないとね」
「あんなに汚れるもんだとは思わなかったよな」
「何言ってるの! 生理中って言ってるのにケンちゃんがソファーでサカってくるからあんなになっちゃったんだよ」
「あんな出るなんて知らねえし。でも意外と燃えたな。女は生理中に性欲が増すってほんとなのな。中出しし放題だし、結構良かったよ。まぁでも片付けも面倒だったし、次は風呂場にすっか。今夜もいいだろ?」
「ふふっ。ケンちゃんったらえっちなんだから。ほんとあいつとは大違いっ」
「性欲強いお前には俺しかいないんだよ。今日もゴリゴリ奥を擦ってやるからな」
耳元でそんなことを言われるだけで身体の奥が疼く。
「ねぇ、ケンちゃん。夜まで待てなくなっちゃった。ちょっとだけ休憩してこうよ。外回り中だからバレないって」
「仕方ねぇな。少しだけだぞ」
ケンちゃんも結局私の言うことはなんでも聞いてくれる。
なんでも買ってくれるATMと私をいつでも楽しませてくれる恋人。
やっぱりこの二人は一生手放せない。
「わぁーっ、やばいっ! ケンちゃんっ、会社に遅れちゃう!!」
「くそっ、目覚ましどうしたんだよっ!」
昨日仕事帰りに居酒屋で飲みすぎた私たちは、翌日も仕事だというのにベロベロに酔っ払ったまま、朝方近くまで愛し合ってしまった。
寝室でけたたましくいつもの時間に目覚ましが鳴ったはずなのに、リビングで倒れるように二人で眠っていたせいか気づかなかった。
頭はガンガンするし、やりすぎたせいか身体もふらつくけど、今日は月に一度の社長朝礼がある。
流石にこの日は二日酔いなんかで遅刻するわけにはいかない。
頭痛薬を飲み、急いで着替えを済ませ二人でマンションを飛び出した。
「あっ、伊山さま。重要なお手紙が――」
「今急いでるんで――っ!」
マンションロビーにいるコンシェルジュに話しかけられたけれど、構ってる暇はない。
大体、こっちが急いでるの見えるでしょうがっ!!
もうほんと使えないコンシェルジュよ!
ギリギリ電車に乗り込んでホッと一息つく。
これに乗れたから遅刻はなんとか免そう
「由依、さっき、マンションのコンシェルジュがなんか叫んでたろう? 手紙がどうたらこうたらって……」
「ああ、あれどうせ大したことないって。そこまで急を要する手紙なんてそうそう来ないでしょ」
「まぁ、確かにそうだな」
いつも通りケンちゃんとは駅で別れて時間差で会社に向かう。
大丈夫だとは思ってるけど、一応ね。
そういうところ、抜かりないのよ私。
「おはよーござい、ま……」
いつも通りに声を出しながら入ったのに、なんだかいつもと違う視線を感じる。
いつもなら、武井さんと前野さんとかが今日もかわいいねって声かけてくれるのに、やけに冷ややかでなんか異様な雰囲気が漂っている。
なに? 何かあったわけ?
まさかうちの会社、業績悪化で倒産とかないよね?
先に部署に入ったはずのケンちゃんなら理由がわかるかもとキョロキョロと見回してみたけれど姿がどこにも見えない。
なんで?
すると、後ろから
「伊山くん。やっと来たか。社長がお待ちかねだ。ついてきなさい」
と部長の声がする。
「えっ……あの、社長直々のお呼び出しなんて、何事ですか?」
「行けばわかるよ」
「あっ! もしかしてあのショッピングモールのプロジェクトの件ですか? 私、メンバーに入れるとか?」
そう尋ねたけれど、部長は何も言わず黙々と社長室へ進んでいく。
一体なんなのよ。
あっ、そうか、サプライズか。
そうでもなきゃ社長室に呼び出しなんてあるわけない。
それなら目一杯乗ってやらないと!
ああ、でも私もようやくプロジェクトのメンバーに入れるのか。
ケンちゃんとプロジェクトまで一緒だなんてやっぱり運命だわ。
必死に抑えようとしても笑みが溢れる。
結局、にやけ顔を抑えられないまま社長室に到着した。
「失礼します。伊山を連れてきました」
「入れ」
社長の声に扉が開かれ意気揚々と中に入ると、そこにケンちゃんの姿があった。
ああ、ほら、やっぱりプロジェクトだ。
私もこれで勝ち組ね。
「君が伊山くんか」
「はい。社長。伊山由依です」
いつも天使の微笑みと喜ばれる満面の笑みで見つめるけれど、社長はなぜか無表情というよりなんだかひどく冷たい目をして私をみる。
まるで虫ケラでも見るようなそんな視線を初めて受けて、身体が震える。
「あの――」
「早速だが、君には婚約者がいるようだね。ベルンシュトルフ ホールディングスの宇佐美くん、だったかな」
私の言葉を遮るように質問が投げかけられる。
なんでここであいつの話が?
「は、はい。あの、それが何か?」
「君が彼に対して結婚詐欺を働いたという話が出ているが、それは本当か?」
「はっ? な――っ、結婚、詐欺? どういうことですか? そんなこと私知りませんっ!」
「ほお、そうか……知らないのか。ならば、婚約者を騙してそこにいる新島くんと不貞を犯しているというのはどうだ? それは本当か?」
「な――っ、えっ、そ、れは……あの、事実無根です。私は彼を裏切るような行為なんか一切してません! きっと誰かが幸せな私を陥れようとしてるんです! 信じてくださいっ社長!!」
「なるほど。あくまでもシラをきるつもりか」
「そんなっ! シラをきるも何も全く身に覚えがないものを認めるなんてできません。一体なんなんですか? 出社してすぐにわけわからない話で呼び出しを受けるなんて、それこそ名誉毀損ですよ。あらぬ疑いをかけられて新島さんにも迷惑じゃないですか!」
今まで誰にもバレずにやってきた。
失態なんか犯してるわけない。
堂々としてればいいんだ。
絶対ここを切り抜けられる。
私は必死に反論するけれど、私の右斜め前に立っているケンちゃんは今までみたことがないくらい青白い顔をして俯いたまま、何も言ってくれない。
なんでよ、私の味方になってくれたっていいのに!
「あの、新島さんも言ってくださいよ! 事実無根だって!」
「やめろ! 伊山くん、少し黙ってろ!」
「ちょ――っ、な、んでっ、新島さんっ!」
なんで?
なんで私が怒鳴られるわけ?
「もういい! 君たちの話は結構だ。川端くん、すぐに彼らを呼んで来てくれ」
と私の後に立っていた部長に声をかけた。
すぐに部長は外に出て行き、その間社長室には不気味な静寂が訪れている。
「あの、今度は誰が来られるんですか?」
まさか……敦己とかないよね?
いや、あいつは何も知らないはず。
「何も身に覚えがないという君のことを、誰よりも知っている人だ」
「私のことをって……それ、どういう意味ですか?」
私の問いかけに社長が答える前にかちゃりと扉が開かれ入ってきた人と目があった途端、バシーンと頬に途轍もない衝撃を感じて、私は後方に弾き飛ばされた。
「あいつ、なんだって?」
「電話取らないのよ、大事な時ほんと使えないんだから」
「じゃあ、どうするんだ? せっかく俺たちの部屋にピッタリなソファー見つけたのに。これ一点物だぞ。ぐずぐずしてたら他の奴らに取られちまう」
「大丈夫だって、あいつは私のおねだりなんでも聞いてくれるから、メッセージ入れといたし、先に買っといても平気。あっ、すみませーん! これ、買いまーす!」
近くに立っていた店員を大声で呼ぶとこの店にそぐわない客とでも思われたのか、怪訝そうな顔をされたけれど、カードを渡したら急に低姿勢になった。
ふん、所詮店員は店員。
お客さまの言うことを素直に聞いてりゃいいのよ、
カードを渡して高い買い物する瞬間、この店で一番偉い気分になった気がして幸せなんだよね。
50万なんて敦己から見れば、全然大した買い物じゃない。
新生活だから広いマンションに住みたいって言ったらポンと頭金で500万も出してくれたし、ローンだってすんなり通ったくらいの高給取り。
あいつは私たちの新居に揃えたいんだって言えば、なんでも言うこと聞いてくれるんだから。
ほんと、いいATM見つけたわぁ~。
しかも、今は海外行ってるから何してても平気だし、ケンちゃんとも一足早く新婚生活満喫中。
ああ、ほんとさいっこうっ!!
「でも、前のソファーもついこの前買ったばっかりだったんだろう? 言い訳大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫、大丈夫。間違ってコーヒー溢したって言ってるから。あいつ、私の言うことならなんでも信じるし。だって、流石にアレで汚れたまま置いとくわけにはいかないでしょ? さっさと処分しとかないとね」
「あんなに汚れるもんだとは思わなかったよな」
「何言ってるの! 生理中って言ってるのにケンちゃんがソファーでサカってくるからあんなになっちゃったんだよ」
「あんな出るなんて知らねえし。でも意外と燃えたな。女は生理中に性欲が増すってほんとなのな。中出しし放題だし、結構良かったよ。まぁでも片付けも面倒だったし、次は風呂場にすっか。今夜もいいだろ?」
「ふふっ。ケンちゃんったらえっちなんだから。ほんとあいつとは大違いっ」
「性欲強いお前には俺しかいないんだよ。今日もゴリゴリ奥を擦ってやるからな」
耳元でそんなことを言われるだけで身体の奥が疼く。
「ねぇ、ケンちゃん。夜まで待てなくなっちゃった。ちょっとだけ休憩してこうよ。外回り中だからバレないって」
「仕方ねぇな。少しだけだぞ」
ケンちゃんも結局私の言うことはなんでも聞いてくれる。
なんでも買ってくれるATMと私をいつでも楽しませてくれる恋人。
やっぱりこの二人は一生手放せない。
「わぁーっ、やばいっ! ケンちゃんっ、会社に遅れちゃう!!」
「くそっ、目覚ましどうしたんだよっ!」
昨日仕事帰りに居酒屋で飲みすぎた私たちは、翌日も仕事だというのにベロベロに酔っ払ったまま、朝方近くまで愛し合ってしまった。
寝室でけたたましくいつもの時間に目覚ましが鳴ったはずなのに、リビングで倒れるように二人で眠っていたせいか気づかなかった。
頭はガンガンするし、やりすぎたせいか身体もふらつくけど、今日は月に一度の社長朝礼がある。
流石にこの日は二日酔いなんかで遅刻するわけにはいかない。
頭痛薬を飲み、急いで着替えを済ませ二人でマンションを飛び出した。
「あっ、伊山さま。重要なお手紙が――」
「今急いでるんで――っ!」
マンションロビーにいるコンシェルジュに話しかけられたけれど、構ってる暇はない。
大体、こっちが急いでるの見えるでしょうがっ!!
もうほんと使えないコンシェルジュよ!
ギリギリ電車に乗り込んでホッと一息つく。
これに乗れたから遅刻はなんとか免そう
「由依、さっき、マンションのコンシェルジュがなんか叫んでたろう? 手紙がどうたらこうたらって……」
「ああ、あれどうせ大したことないって。そこまで急を要する手紙なんてそうそう来ないでしょ」
「まぁ、確かにそうだな」
いつも通りケンちゃんとは駅で別れて時間差で会社に向かう。
大丈夫だとは思ってるけど、一応ね。
そういうところ、抜かりないのよ私。
「おはよーござい、ま……」
いつも通りに声を出しながら入ったのに、なんだかいつもと違う視線を感じる。
いつもなら、武井さんと前野さんとかが今日もかわいいねって声かけてくれるのに、やけに冷ややかでなんか異様な雰囲気が漂っている。
なに? 何かあったわけ?
まさかうちの会社、業績悪化で倒産とかないよね?
先に部署に入ったはずのケンちゃんなら理由がわかるかもとキョロキョロと見回してみたけれど姿がどこにも見えない。
なんで?
すると、後ろから
「伊山くん。やっと来たか。社長がお待ちかねだ。ついてきなさい」
と部長の声がする。
「えっ……あの、社長直々のお呼び出しなんて、何事ですか?」
「行けばわかるよ」
「あっ! もしかしてあのショッピングモールのプロジェクトの件ですか? 私、メンバーに入れるとか?」
そう尋ねたけれど、部長は何も言わず黙々と社長室へ進んでいく。
一体なんなのよ。
あっ、そうか、サプライズか。
そうでもなきゃ社長室に呼び出しなんてあるわけない。
それなら目一杯乗ってやらないと!
ああ、でも私もようやくプロジェクトのメンバーに入れるのか。
ケンちゃんとプロジェクトまで一緒だなんてやっぱり運命だわ。
必死に抑えようとしても笑みが溢れる。
結局、にやけ顔を抑えられないまま社長室に到着した。
「失礼します。伊山を連れてきました」
「入れ」
社長の声に扉が開かれ意気揚々と中に入ると、そこにケンちゃんの姿があった。
ああ、ほら、やっぱりプロジェクトだ。
私もこれで勝ち組ね。
「君が伊山くんか」
「はい。社長。伊山由依です」
いつも天使の微笑みと喜ばれる満面の笑みで見つめるけれど、社長はなぜか無表情というよりなんだかひどく冷たい目をして私をみる。
まるで虫ケラでも見るようなそんな視線を初めて受けて、身体が震える。
「あの――」
「早速だが、君には婚約者がいるようだね。ベルンシュトルフ ホールディングスの宇佐美くん、だったかな」
私の言葉を遮るように質問が投げかけられる。
なんでここであいつの話が?
「は、はい。あの、それが何か?」
「君が彼に対して結婚詐欺を働いたという話が出ているが、それは本当か?」
「はっ? な――っ、結婚、詐欺? どういうことですか? そんなこと私知りませんっ!」
「ほお、そうか……知らないのか。ならば、婚約者を騙してそこにいる新島くんと不貞を犯しているというのはどうだ? それは本当か?」
「な――っ、えっ、そ、れは……あの、事実無根です。私は彼を裏切るような行為なんか一切してません! きっと誰かが幸せな私を陥れようとしてるんです! 信じてくださいっ社長!!」
「なるほど。あくまでもシラをきるつもりか」
「そんなっ! シラをきるも何も全く身に覚えがないものを認めるなんてできません。一体なんなんですか? 出社してすぐにわけわからない話で呼び出しを受けるなんて、それこそ名誉毀損ですよ。あらぬ疑いをかけられて新島さんにも迷惑じゃないですか!」
今まで誰にもバレずにやってきた。
失態なんか犯してるわけない。
堂々としてればいいんだ。
絶対ここを切り抜けられる。
私は必死に反論するけれど、私の右斜め前に立っているケンちゃんは今までみたことがないくらい青白い顔をして俯いたまま、何も言ってくれない。
なんでよ、私の味方になってくれたっていいのに!
「あの、新島さんも言ってくださいよ! 事実無根だって!」
「やめろ! 伊山くん、少し黙ってろ!」
「ちょ――っ、な、んでっ、新島さんっ!」
なんで?
なんで私が怒鳴られるわけ?
「もういい! 君たちの話は結構だ。川端くん、すぐに彼らを呼んで来てくれ」
と私の後に立っていた部長に声をかけた。
すぐに部長は外に出て行き、その間社長室には不気味な静寂が訪れている。
「あの、今度は誰が来られるんですか?」
まさか……敦己とかないよね?
いや、あいつは何も知らないはず。
「何も身に覚えがないという君のことを、誰よりも知っている人だ」
「私のことをって……それ、どういう意味ですか?」
私の問いかけに社長が答える前にかちゃりと扉が開かれ入ってきた人と目があった途端、バシーンと頬に途轍もない衝撃を感じて、私は後方に弾き飛ばされた。
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