3 / 14
豪華な宿
しおりを挟む
数十分車に揺られていると、だんだん眠くなってくる。
それもそのはず。夕方の披露宴から酒が入っている。しかも二次会を終えた後にBARでも二杯飲んでいるのだから酒には強い俺でも流石に睡魔が襲ってくる。
「気にしないで眠っていいよ。ほら横になって休むといい」
優しい声をかけられるけれど、そういうわけにはいかない。
大体見覚えがあったと言ってもほぼ知らない人の車で眠るなんてできない。
必死に抗うけれど、睡魔が俺を寝かそうとする。
結局負けてしまい、俺はそのまま眠りこけてしまっていた。
その間、ずっと優しくて大きな手が俺の頭を撫でていた気がする。
それからどれくらい時間が経っただろうか。
でも結構寝た気がする。
「んっ……」
柔らかな感触にここが車の中ではないとすぐにわかった。
慌てて飛び起きようとするとそっと手が握られた。
「急に起き上がると危ないよ」
「えっ、あ、ここは……?」
「覚えていないかな? 私たちが向かっていた場所を」
「えっ……あの、旅館?」
「正解。君が行きたいと選んだ離れのある温泉旅館だ。ほら、露天風呂もあるよ」
指さされた方向にベッドに寝転んだまま視線を向けると、大きな窓の外のテラスに湯気が上がっているのが見える。
「すごい……」
「希望した通りの部屋だったかな?」
「あ。はい。そう、ですね……でも、大晦日にこんな……」
あれから何時間経っているかわからないけれど、確実に日は跨いでいるだろう。
こんな真夜中においそれと入れるような旅館でもなさそうなのにどうしてこんなことができたのか……。
もしかしたら、もともと誰かと泊まる予定でフラれたとか?
だからたまたまBARに居合わせた俺を誘った?
いや、でもあの時
――私はずっと本気だよ。やっと君をこの手にできたんだからね。
俺の記憶が間違えてなければ確かにそう言っていた。
俺は一体どこで彼に会ったんだ?
「何を考えてる?」
「あ。いえ……その、どこで会ったのかなって……」
「そうか、私のことを考えていたのなら良かった」
彼の笑顔に安堵の様子が見える。俺のそんな言葉でこんなに嬉しそうにするなんて……なんだか、可愛い。
そんなふうに思ってしまう自分がいた。
「せっかく温泉に来たことだし、入ろうか」
「そうですね……」
さっきの可愛い表情に引き摺られてよく考えずに返事をしてしまったが、彼は今なんて言った?
温泉に入ろう、そう言わなかったか?
まさか一緒に?
いやいや、男同士で一緒に入るなんてよくあることだし、特別気にすることもないんだが、なんとなく恥ずかしい気がするのは俺の気のせいだろうか?
「あ、あの……それって、一緒に?」
「ああ、せっかく広い温泉に来たんだ。一人ずつ入るのも時間の無駄じゃないか?」
「え、ええ。そう、ですね……」
一緒に入ることに特に意味はない。
ただ、温泉を楽しむだけだ。
ベッドのある寝室の窓からそのままテラスに出ようとすると、そっちは寒いからあっちの脱衣所で着替えてから外に出ようと誘われる。
彼の言う通りに一度寝室を出てリビングを通り、脱衣所に向かう。
その時に目にしたリビングは、俺が今まで泊まったどこの高級ホテルよりも豪華に見えた。
ここって、かなりグレードの高い温泉旅館じゃないか?
本当にどうしてこんなすごい部屋が大晦日に空いていたんだろう……。
疑問ばかりが頭に浮かぶ。
手を引かれて脱衣所に入ると、彼は惜しげもなく服を脱ぎ始めた。
温泉に入るのだから当然だと言えばその通りだが、逞しい肌が少しずつ剥き出しになっていくのを見るのはなんとも照れる。
俺だってそこそこ鍛えてはいるが、体質上ムキムキにはなれない。
せいぜい細マッチョくらいだろう。
腹筋こそシックスパックになっているが、腕なんて彼の半分ほどの太さしかない気がする。
彼のような体型こそ、男がなりたいと望む姿なのかもしれない。
恥ずかしいがここで着替えないのもそれはおかしい。
意を決して急いで服を脱ぎ捨て、目の前にあったタオルで一応前だけを隠して、脱衣所から温泉に繋がる扉を開けた。
「うわっ、さむっ!」
「ははっ。部屋の中が暖かかったから余計寒く感じるな。とりあえず掛け湯をして温泉であったまろうか」
「は、はい」
「滑るから気をつけて」
さっとエスコートされるように温泉に近づき、置いてあった湯桶で温泉のお湯を掬い身体にかける。
かかったところがじわじわと温かい。
二度ほど掛け湯をして足を温めてから温泉に入る。さっとタオルを外して中に入るが、その瞬間彼の視線が俺の身体に向いた気がした。けれど、ここで隠すのも恥ずかしい。俺は覚悟を決めて堂々と振る舞うことにした。
それもそのはず。夕方の披露宴から酒が入っている。しかも二次会を終えた後にBARでも二杯飲んでいるのだから酒には強い俺でも流石に睡魔が襲ってくる。
「気にしないで眠っていいよ。ほら横になって休むといい」
優しい声をかけられるけれど、そういうわけにはいかない。
大体見覚えがあったと言ってもほぼ知らない人の車で眠るなんてできない。
必死に抗うけれど、睡魔が俺を寝かそうとする。
結局負けてしまい、俺はそのまま眠りこけてしまっていた。
その間、ずっと優しくて大きな手が俺の頭を撫でていた気がする。
それからどれくらい時間が経っただろうか。
でも結構寝た気がする。
「んっ……」
柔らかな感触にここが車の中ではないとすぐにわかった。
慌てて飛び起きようとするとそっと手が握られた。
「急に起き上がると危ないよ」
「えっ、あ、ここは……?」
「覚えていないかな? 私たちが向かっていた場所を」
「えっ……あの、旅館?」
「正解。君が行きたいと選んだ離れのある温泉旅館だ。ほら、露天風呂もあるよ」
指さされた方向にベッドに寝転んだまま視線を向けると、大きな窓の外のテラスに湯気が上がっているのが見える。
「すごい……」
「希望した通りの部屋だったかな?」
「あ。はい。そう、ですね……でも、大晦日にこんな……」
あれから何時間経っているかわからないけれど、確実に日は跨いでいるだろう。
こんな真夜中においそれと入れるような旅館でもなさそうなのにどうしてこんなことができたのか……。
もしかしたら、もともと誰かと泊まる予定でフラれたとか?
だからたまたまBARに居合わせた俺を誘った?
いや、でもあの時
――私はずっと本気だよ。やっと君をこの手にできたんだからね。
俺の記憶が間違えてなければ確かにそう言っていた。
俺は一体どこで彼に会ったんだ?
「何を考えてる?」
「あ。いえ……その、どこで会ったのかなって……」
「そうか、私のことを考えていたのなら良かった」
彼の笑顔に安堵の様子が見える。俺のそんな言葉でこんなに嬉しそうにするなんて……なんだか、可愛い。
そんなふうに思ってしまう自分がいた。
「せっかく温泉に来たことだし、入ろうか」
「そうですね……」
さっきの可愛い表情に引き摺られてよく考えずに返事をしてしまったが、彼は今なんて言った?
温泉に入ろう、そう言わなかったか?
まさか一緒に?
いやいや、男同士で一緒に入るなんてよくあることだし、特別気にすることもないんだが、なんとなく恥ずかしい気がするのは俺の気のせいだろうか?
「あ、あの……それって、一緒に?」
「ああ、せっかく広い温泉に来たんだ。一人ずつ入るのも時間の無駄じゃないか?」
「え、ええ。そう、ですね……」
一緒に入ることに特に意味はない。
ただ、温泉を楽しむだけだ。
ベッドのある寝室の窓からそのままテラスに出ようとすると、そっちは寒いからあっちの脱衣所で着替えてから外に出ようと誘われる。
彼の言う通りに一度寝室を出てリビングを通り、脱衣所に向かう。
その時に目にしたリビングは、俺が今まで泊まったどこの高級ホテルよりも豪華に見えた。
ここって、かなりグレードの高い温泉旅館じゃないか?
本当にどうしてこんなすごい部屋が大晦日に空いていたんだろう……。
疑問ばかりが頭に浮かぶ。
手を引かれて脱衣所に入ると、彼は惜しげもなく服を脱ぎ始めた。
温泉に入るのだから当然だと言えばその通りだが、逞しい肌が少しずつ剥き出しになっていくのを見るのはなんとも照れる。
俺だってそこそこ鍛えてはいるが、体質上ムキムキにはなれない。
せいぜい細マッチョくらいだろう。
腹筋こそシックスパックになっているが、腕なんて彼の半分ほどの太さしかない気がする。
彼のような体型こそ、男がなりたいと望む姿なのかもしれない。
恥ずかしいがここで着替えないのもそれはおかしい。
意を決して急いで服を脱ぎ捨て、目の前にあったタオルで一応前だけを隠して、脱衣所から温泉に繋がる扉を開けた。
「うわっ、さむっ!」
「ははっ。部屋の中が暖かかったから余計寒く感じるな。とりあえず掛け湯をして温泉であったまろうか」
「は、はい」
「滑るから気をつけて」
さっとエスコートされるように温泉に近づき、置いてあった湯桶で温泉のお湯を掬い身体にかける。
かかったところがじわじわと温かい。
二度ほど掛け湯をして足を温めてから温泉に入る。さっとタオルを外して中に入るが、その瞬間彼の視線が俺の身体に向いた気がした。けれど、ここで隠すのも恥ずかしい。俺は覚悟を決めて堂々と振る舞うことにした。
514
あなたにおすすめの小説
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる