箱入り御曹司はスーツの意味を知らない

波木真帆

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番外編

テーマパークで遊ぼう! <前編>

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<side欧介>

「わぁ! 可愛い!」

二人っきりでドライブを楽しんで帰宅途中に、渚が突然歩道を歩いている女性を見てそんなことを叫び出した。

渚が私以外のものに目移りするとは思いもしなかったが、渚とて健康な男子。
女性を見てそのような思いを抱くこともあるだろう。
だが、やはり嫉妬してしまうものだ。

渚があの女性とどうにかなろうと思っているわけではないとわかっているし、渚から十分愛されているという自信もある。
ただ、私の狭量すぎる心が渚の言葉を受け入れられないだけだ。

一回りも年上なくせにこんなことで嫉妬するなんて呆れられるだろうがどうしようもない。
それでも渚にだけは焦ったところを見せたくなくて、必死に冷静を装いながら、

「渚はああいうのが好みなのか?」

と尋ねてみた。

冷静になっていたかはわからない。
それでもなんとか言えたと思う。

すると、渚は満面の笑みを私に向けながら、

「はい。あのふさふさのしっぽと耳、すっごく可愛いです」

と言ってきた。

「えっ? しっぽと、耳?」

「はい。ほら、みてください」

渚に言われた通りにもう一度女性に目を向けると、確かに猫のような耳と尻尾をつけているのが見える。
あれはカチューシャか。

ああ、そうか。

「この先にテーマパークがあるからだな。おそらくそこで買ったんだろう」

「テーマパークってもしかして、レーヴランドですか?」

「ああ、確かそのような名前だったな」

「わぁーっ! 僕、一度でいいからそこに行ってみたかったんですよね」

「そうなのか?」

「はい。高校生の時に校外授業で貸切のレーヴランドで遊べる日があったんですけど、その日に限って体調を崩していけなくて……。クラスメイトがあのケモ耳や尻尾をつけて写真を撮っているのを見せてもらって羨ましいなって思ってたんです。それから結局行く暇がなくて行けずじまいだったんですよね」

そんな思い出があったのか……。
だから、渚は彼女たちがつけていたカチューシャと尻尾が気になったんだ。

それなのに、私は……嫉妬などして恥ずかしい。

「それじゃあ、今から行ってみようか?」

「えっ、でもこんな突然いいんですか? お父さまからは貸切じゃないと行ってはいけないって言われてたんですけど……」

「大丈夫、心配はいらないよ。私が一緒だから安心してくれていいよ」

「――っ、そうですね!! 欧介さんが一緒なら楽しいことしかないですよね」

素直にそう喜んでくれるのが可愛い。
それにしても天都さんが渚をしっかりと躾けていてくれたおかげで、渚の初めてのレーヴランド体験を誰にも取られずにすんだな。

後でたっぷりとお礼をしておこう。

隣で楽しそうにしている渚を連れ、私は車を飛ばした。

実はこのレーヴランドがある土地は全て我が桐島コンツェルンの所有地であり、毎年かなりの額の土地使用料がレーヴランドから支払われている。
そのため、私が連絡を入れればすぐに貸切にすることなど造作もないが、渚はそんなことを望まないだろう。
きっとみんなが楽しんでいるテーマパークの雰囲気を楽しみたいのだろうから、私たちに気を遣わないように言っておかないとな。

駐車場に車をとめ、入り口に向かうとすぐに支配人が駆けつけてきた。
駐車場の出入り口にあるチェックモニターで私だとわかり、慌ててやってきたのだということはすぐにわかった。

「渚、ちょっと車の中で待っていてくれ」

「はい」

私の言葉にいつも素直に返事を返してくれる渚を愛らしく思いながら、私は一人、車を降りた。

「桐島さま。わざわざこちらにお越しいただくなんて何かございましたか?」

「いや、私の愛しい伴侶がレーヴランドに行きたいというので遊びに来ただけだ。完全なプライベートだから気にしなくていい」

「えっ、桐島さまがご伴侶さまをお連れくださったのですか?」

先日のシュトルツ大使主催のパーティーで私が渚と入籍し、伴侶を得たことを正式に発表したために日本だけでなく世界中で私の結婚が知られることとなったが、私の愛しい渚を見せるのが勿体無くてあのパーティー以降、二人で目立つ場所に出かけたことはまだなかった。
だから、このレーヴランドが二人で公の場に出る初めてになると言っても過言ではない。

「ああ、そうだ」

「でしたら、一時間ほどお待ちいただきましたら貸切に――」
「いや、私のつまは一般人と同じようにこのレーヴランドで遊ぶのを楽しみにしているからそれを奪わないでほしい」

「ですが……」

「もちろん我々の周りに警備はつけさせてもらうが、一般人の制限は必要ない」

渚は知らないが、私たちが出かけるときにはこっそりと警備をつけている。
渚を守るためには必要なことだ。

「承知しました。ご入場は警備の方達も含めましてチケットなしでもお入りいただけるようになっておりますので、V.I.P用のご入場口からお入りください。それでは何かございましたら何なりとお声掛けください」


「ああ、わかった」

支配人たちが帰っていくのを見送ってから、助手席に回り渚を降ろした。

「お話は終わったんですか?」

「ああ。大丈夫だ。それじゃあ行こうか」

「わー、楽しみです!!」

可愛い渚と手を繋いで入場ゲートに向かうと、いくつかの入場ゲートに分かれていた。

その中でV.I.P用と書かれた入口から中に入ると、

「こんにちはー。レーヴランドへようこそ」

とスタッフが笑顔で話しかけてくる。

私はそのまま素通りしようとしたが、渚は

「こんにちは。今日は初めてなので楽しんで来ますね!」

と笑顔で声をかけていた。
その瞬間、そのスタッフは顔を真っ赤にしてその場に崩れ落ちた。

「えっ、だ、大丈夫ですか?」

慌てて手を差し出そうとする渚の手を取って、

「渚、気にしないでいい。あれはこのテーマパークの挨拶だからな。渚を驚かせているだけだよ」

というと素直な渚はすぐに納得してくれた。

「そうなんですね! ふふっ。入口からもうびっくりが始まってるなんてすごいですね!」

「ああ、そうなんだよ。じゃあ、行こうか。渚はどこから行きたい?」

「僕、まずはあのカチューシャ見に行きたいです!!」

「ああ、そうだったな。あっちに店があるようだ。行ってみよう!」

「はーい」

可愛らしい渚の登場にさっきのスタッフはもちろん、園内にいる者たちもみんな目を奪われている。
これほど人を惹きつけるとはな。
想像以上だが、私が渚についている以上絶対に危険な目には遭わせない。

「欧介さん、ワクワクしますね」

「ああ、そうだな」

渚にとって今日のレーヴランドが楽しい思い出になるように私がしっかりと守るとしよう。
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